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「こんなものいらない」FAと育成ドラフト
もう10年前、いやそれ以前でしょう。「巨泉のこんなものいらない」というタイトルの、TVの人気番組がありました。人気司会者として一世を風びした大橋巨泉が、社会一般には重要のものと考えられていた対象を、一般常識とは違った切り口でそ上にあげ、「こんなものいらない」となで切りする番組でした。
巨泉流でいえば、現在のプロ野球には、「こんなものいらない」ものが少なくとも2つはあります。実態的には機能していないFA(フリーエージェント)制度と、泥縄式に今年から導入された「育成ドラフト」です。
■FAをまともに行使したのはプロ野球を離れる城島捕手だけ
今年のプロ野球シーズン終了後にコミッショナーから公示されたFA有資格者は69人いました。しかし、実際にFA権を行使した選手は5人だけです。
そのうち中日の谷繁元信捕手、阪神の矢野輝弘捕手は権利を行使したうえ球団に残留しました。谷繁、矢野にとっては、FA権行使は球団との年棒交渉の材料でしかなかったわけです。
残る3人のうち西武の豊田清投手、中日の野口茂樹投手は読売巨人軍と契約しました。今シーズン、人気、成績とも低迷した読売が、またいつものように高額年棒の選手を買いあさっただけ、ということです。
残る1人がソフトバンクの城島健司捕手です。城島はマリナーズと契約して、日本人捕手としては初めてMLB選手となりました。しかも正捕手獲得が確実な契約内容になっています。
こう見てみると、FA権をまともに行使したのは、何とも皮肉なことに、プロ野球を離れる城島だけということになります。
FA制度は、ドラフト制度によって、入団時に球団選択の自由のない選手に、ある一定期間実績を積めば移籍の自由を認める制度です。球団や球界全体にとっても、一流選手が移籍することで、球団間の戦力を調整できるというメリットがあります。
しかし、実態はそうなってはいません。移籍先の球団が移籍元の球団に多額の移籍料を支払うという条件があることで、実際にFA権を行使できるのは、人気と実力を兼ね備えた極めて一部の「スター」選手に限られてしまいます。また、高額の移籍料を支払うことができる球団もまた一部の金持ち球団に限られますから、戦力の均衡どころか、戦力の不均衡を誘発する制度になっています。
こんないびつな制度のままであるならば、FA制度は即刻廃止すべきです。もちろん、FA制度をドラフト制度と併せて本来の趣旨に変えるというならば、話は別になります。FA制度とドラフト制度は裏表の関係にあるからです。
FA制度のいびつさは、以下の問題に象徴的に表れています。ドラフト時に希望球団を選択する自由のない高校生や一般のドラフト対象の大学生、社会人も、ドラフト時に球団選択権のある希望入団枠(昨年までは自由獲得枠)で入団した選手も、FA権を取得する条件は同じだということです。
■泥縄、噴飯ものだった初回の育成ドラフト
プロ野球は今年、支配下選手(1球団70人以内)以外に選手を確保できる「育成選手」「研修生」制度を導入し、育成ドラフトを行いました。しかし、この制度の導入、ドラフトの実施とも泥縄式、噴飯ものになりました。
プロ野球実行委員会は12月1日、この制度の導入を正式決定し、その日のうちに育成ドラフトを行いました。ドラフトはメディアにも現場を公開しませんでした。
育成ドラフトに参加したのはプロ野球の12球団のうち、中日、読売、広島、ソフトバンクの4球団だけでした。日本ハムはこの日、1人を指名する予定で翌2日に届け出るとしていましたが、相手サイドとの調整がつかなかったとして、結局指名を見送りました。
日本ハムが指名を予定していたのは大学生外野手でしたが、この選手の就職が内定していた企業の了解を得られなかったためでした。仮に、日本ハムが指名を強行していたならば、改善し始めた社会人野球との関係を悪化させることになったでしょう。
プロ野球選手を目指す若者の将来を決定づける制度の正式決定と実際のドラフトを同じ日に、しかも秘密裏に行い、しかも指名予定者の1人は内定先企業の得られずに取りやめたというのですから、信じられないほどの呆れた話です。
育成ドラフトには野球の裾野拡大、プロ野球選手を目指す選手へのチャンス拡大が前提にあるということですが、はたしてそうでしょうか。単に球団の人件費削減の目的に使われることはないのでしょうか。球団側の「青田買い」の場にはならないという保証はあるのでしょうか。日本ハムの場合のように、社会人野球界などとの摩擦も元になる可能性もあります。
育成選手、研修生制度の導入は、二軍選手の「差別」を生む土壌にはならないのでしょうか。二軍の選手は支配下選手とそれ以外の育成選手、研修生という3つの階層が生まれることになります。この3つの階層がうまく機能するのでしょうか。
育成選手・研修生制度、育成ドラフトはプロ野球界できちんと論議された上で導入されたのでしょうか。日本ハムの指名回避のケースを見ただけでも、そうは思えません。制度そのものをもう一度論議して整備し直し、一般にも公開したうえで導入すべきではないでしょうか。
現行のFAや今年から導入した育成ドラフトは、巨泉流にいえば、「こんまものいらない」制度です。プロ野球が、社会一般の常識が通用するまともな組織になる道のりはまだまだ遠いようです。(2005年12月6日記)
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