成田好三のスポーツコラム・オフサイド

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 イチローは今シーズン、ジョージ・シスラーのもつ年間最多安打のメジャーリーグ記録、257本を84年ぶりに更新、262本まで記録を伸ばした。世界的なトップアスリートであるイチローは、驚くべきことに自閉症児と同じ動作をしている。その目的もまた、同じである。

 トップアスリートは、どの競技でも例外なく、本番前に同じ準備動作を繰り返している。

 大相撲の横綱、朝青龍が立ち合い直前の仕切りに入る際、大きく左腕をスイングさせる動作はいつも同じである。朝青龍のあの動作は、モンゴルの象徴である鷲をイメージしたものである。ただ、優勝などのかかった大一番では、スイングがより大きくなる。

 団体競技でありながらも、投手と打者との一対一の勝負が原点である野球では、準備動作が他の団体競技よりもはっきりと表れる。

 メジャーリーグでは、ノマー・ガルシアパーラ(メジャーリーグを代表する遊撃手、今季途中でレッドソックスからカブスに移籍)の準備動作はとてもユニークである。

 彼は、打席に入ると、絶え間なく小刻みにステップを踏み続ける。そして1球ごとに打席をはずし、両手の手袋の手首を締める部分を何度も締めたり緩めたりする動作を繰り返す。何ともせわしない動作である。彼が打席でこの一連の動作を省略することは、けしてない。しかし、彼の動作も打席ごとに微妙に違いがでてくる。

 ■寸分の狂いもないイチローの準備動作

 ガルシアパーラほど派手ではないが、イチローも打席ごとに同様の準備動作を繰り返している。イチローの特徴は、準備動作が他の誰よりも綿密で手順が多く、しかも動作にかける時間が長いことである。しかもどの打席でも動作に寸分の狂いもない。TV画面を分割して、イチローの打席に入る動作を比較しても、動作とそれに要する時間はまったく変わらないだろう。

 イチローの準備動作は、その手順が多すぎて、簡単には書ききれないが、大まかに書けばこんな具合である。

準備動作はベンチ内から始まっている。手袋をはめて両手でヘルメットをかぶり、右肘に肘当てをあてる。グラウンドに出ると、マスコットバットを振りながら上半身のストレッチをした後、大きく股割りをする。試合用のバットに持ち替えて打席に歩み出す。打席の前で一度身を縮める。打席に入ると、狙い定めるようにバットを投手側に向け、左手でユニホームの右袖を首側に送り込む。これで準備動作が完了する。

 イチローの、何度見ても完ぺきなまでに変わらない準備動作は、自閉症児の「こだわり」と呼ばれる動作にひどく似ている。自閉症児の動作もまた、完ぺきなまでに変わらないからである。

 筆者の身近にいるA君の例を挙げてみる。A君はいま電卓に強い興味をもっている。家にいるときは、風呂以外はこの電卓を手から離さないか、体のそばに置いている。

 彼の家にはもう一つの電卓がある。この小さな電卓は机の上のいつも同じ位置にある。外出の際は、この電卓に必ず「タッチ」する。けして忘れることはない。

 外出から戻った際にも、必ず行う動作がある。廊下の隅に並べた「ミニカーの群れ」の並びを調整することである。

 家人がミニカーの群れに意図的に触れることはない。それでも時々、誤って足で踏みつけたり、掃除機をぶつけたりすることがある。A君は外出から戻ると、ミニカーの群れをチェックする。そして、彼にとって最良の状態にミニカーの群れを並べ替える。群れがどう変化したのか、どの並びが最良の状況なのか誰も分からない。

 イチローの準備動作と同様にA君のこだわりによる動作は、完ぺきなまでに正確である。変わり様のない動作である。

 ■「荒野」に立ち向かうために必要な動作

 自閉症児は、彼が生きるこの世界に強い違和感を覚えている。この世界と素直に「同調」できず、絶えず緊張を強いられている。彼らにとってこの世界は、いわば危険で何が起きるか分からない「荒野」である。その荒野に出ていく(生きて他者と接触する)ためには、彼らを安心させる「儀式」が必要になる。それがこだわりの動作として表れてくる。

 イチローの完ぺきなまでの準備動作もまた、荒野に立ち向かうための儀式である。

 野球は危険なスポーツである。メッジャーリーグであれば、150キロ軽く超える速球が体のすぐそばを通り抜ける。死球の恐怖もある。当たり所が悪ければ、よけ方が下手だったりすれば、選手生命はもちろん、生命そのものが危険になる。

 どんな大打者であれ、これからはもう1本もヒットが打てなくなるという、不安もある。何度も賞賛され、大記録を残した大打者でさえ、もう打てなくなるのではないかという不安につきまとわれる。彼らは常に恐怖と不安の中で戦っている。

 こうした恐怖や不安を心の中から取り除くためには、自閉症児と同様の儀式が野球選手にも必要になる。それが準備動作である。

 多くの選手がこの準備動作を行っている。しかし、この儀式を完ぺきなまでに仕上げた選手は、イチローの他にはいない。逆説的な言い方になるが、イチローは彼の準備動作を、自閉症児がほとんど無意識に行う、こだわりと呼ばれる動作にまで高めたのである。その結果が、誰もができないと考えていた、シスラーの年間最多安打の更新だった。(2004年10月11日)

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イチロー選手の大ファンですが なるほど!!!と感心しました。

2005/3/4(金) 午後 11:21 izumicyancyako

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