成田好三のスポーツコラム・オフサイド

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04年のコラム

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 イラクでの日本人人質事件は、新聞・TVなど日本の主要メディアが抱える致命的欠陥をあらわにさらす結果になった。特に、犯行グループが中東のTV局を通して予告した幻の「解放日」と実際に人質3人が解放された日(新聞は翌日付)の報道では、メディアの欠陥が鮮明に表れた。

 メディアは、人質の家族と帰国後の高遠菜穂子さんら3人を執拗に追いかけた。メディアにとっての大事件発生時に見られるメディアスクラムが今回も起きた。しかし、ここで取り上げるのは、入り口(取材現場)でのメディアスクラムではない。出口(TV映像や新聞紙面)でのメディアスクラムである。出口のメディアスクラムとは、極めて少量の刺激的な、しかも政治的意図をもった情報を、その意味が理解できない段階で、無責任なコメントとともに繰り返し流し続けることである。

 4月16日夜。NHKや民放キー局は、カタールの衛星TV局・アルジャジーラが放送した、人質解放時の短い映像を何百回となく流し続けた。そしてニュースキャスターや中東専門家とされるコメンテイターらが、アルジャジーラが伝える映像以外に何一つ確かな情報のない段階で、想像と推測にしか基づかないで、様々なコメントを垂れ流していた。

 メディアのこうした報道姿勢・スタイルは、制御不能な世論形成を生み出す危険性をはらんでいる。人質3人に対して巻き起こった自己責任論は、TVのこうした責任をもたない繰り返し報道がもたらしたある傾向が、インターネット上でさらに無責任な書き込み情報によって増幅されたものである。そして、こうした傾向を首相官邸、政府・与党が意図的に利用した。

 朝日、毎日、読売の主要3紙は12日付で、人質事件で前代未聞の号外を発行した。11日は新聞休刊日だった。3紙の号外は、人質事件が何も進展しないことを伝えるものだった。3紙はそろって、犯行グループの「行動」ではなく、伝聞による「言葉」を信じて、号外を準備し、発行した。

 人質事件は、イラク情勢の急激な変化の中で起きた。実質的に米軍要員である米国の民間警備員を殺害し黒焦げの遺体を引き回して橋に吊り下た事件と、その報復作戦として米軍が敢行したファルージャでの市街戦が人質事件の背景にあることは明らかだった。しかし、日本のメディアは民間警備員の殺害も、700人ものイラク人を殺害した市街戦も視野に入れなかった。ただひたすら人質解放にだけ焦点をあて続けた。あるいは、ほとんど唯一の情報源であるアルジャジーラのチェックをしていただけである。

 日本の主要メディアは、戦後社会特有のものである終身雇用を前提にした正社員記者体制に、今もしがみついている。しかし、戦争報道では既に正社員記者撤退後の現地取材をフリーに依存する状況になってきた。人質解放後に、読売など一部メディアがフリー記者を批判する自己責任論を展開したのも、異様な光景だった。(岩波書店「世界」7月号に掲載したバージョンです)


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