成田好三のスポーツコラム・オフサイド

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01年のコラム

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 日本のプロ野球から大リーグに挑戦したイチローの一年間を追ったNHKのドキュメンタリー番組の冒頭に印象的な場面が二つあった。一つはマーク・マグワイアとの対面シーンだ。NHKがお膳立てしたのだろう。約束の時間を過ぎても姿を見せないマグワイアを不安そうに待つイチロー。対面がかなって素直に喜ぶイチローとマグワイアが同じ画面に映り、ポパイのようなマグワイアの腕とイチローの細い腕が重なり握手を交わす。イチローは、こんなとんでもない大男たちと真剣勝負をするために米国にやって来た。そう直感できる印象的なシーンだ。

 もう一つは、ボストン・フェンウェイパークでのイチロー。ボストン・レッドソックスの本拠地で、レフトに巨大な壁・グリーンモンスターがあるフェンウェイパークは、現在使用されている球場としては最古の施設だ。イチローはここで、スコアボード裏に入る。この球場ではまだチーム名やスコアを手作業で張り出す。古色蒼然と形容するより、一言で汚いと言った方がいい作業場の壁は選手たちの落書きでいっぱいだ。その壁にイチローのサインも加わった。この冒頭の二つの場面は、大リーグがもつ長い伝統と、もうひとつはここ数年のパワー野球を象徴するものだったのだろう。

 大リーグはいま、伝統に回帰しようとしている。球場の形態も昔に戻ろうといている。日本で主流のドーム球場と人工芝のセットはもうはやらない。ドームも開閉式が多くなり、天然芝に張り替えられた。球 場はそれぞれ個性的な形態をしており、テレビ中継で見ても、少し慣れてくればどの球場かすぐ分かる。球場は左右対称とは限らない。外野席のあるはずのゾーンの一部が、巨大な岩石を積み上げた石庭のようになっている球場もある。ある球場などは、バックスクリーンがホームに正対していない。フェンウェイパークのような個性を主張する球場が増えている。

 野球の中身も実は変わってきている。ここ数年は豪快な本塁打が注目を集めてきた。何十年と破られなかった記録をマグワイアやサミー・ソーサが毎年のように更新してきた。今年はバリー・ボンズがまた彼らの記録を塗り替えた。しかし、華々しい「アーチ合戦」の裏で、大リーグ野球は確実に変化してきた。
その例を少しだけ挙げよう。大リーグを代表する選手は本塁打を量産するマグワイアたちではない。いま最も「旬」の選手は遊撃手たちだ。大リーグでも少し前までは、遊撃手は打撃には目をつぶっても守備のいい選手を使うのが一般的だった。「オズの魔法使い」と称されたオジー・スミスがその代表的な選手だった。しかし、いまは違う。走攻守ともずば抜けた能力をもち、かつスター性の強い「スーパー遊撃手」の時代になった。

 今年、四連覇達成をアリゾナ・ダイヤモンドバックスに最後の最後に阻止されたニューヨーク・ヤンキースを代表する選手は、四番打者のバーニー・ウイリアムスではなく、二番打者のデレク・ジーターだ。そしてジーターの最大のライバルはレッドソックスのノーマ・ガルシアパーラであり、テキサス、レインジャーズのアレックス・ロドリゲスだ。彼らはいずれも遊撃手であり、守備はもちろん打撃も走塁も跳びぬけた才能を発揮する。

 もう一つは、大投手の時代だということだ。今年のワールドシリーズ。ヤンキースは、ある一点を除いてはほとんどあらゆる面でダイヤモンドバックスを上回っていた。その一点とは、試合を託せる絶対的な大投手がヤンキースには一人しかいなかったのに対し、ダイヤモンドバックスには二人いたことだ。ロジャー・クレメンスとランディ・ジョンソン、カート・シリングのことを言っている。ダイヤモンドバックスが勝つためにはジョンソンとシリングで2勝ずつ挙げるしかないと思っていた。記録上はジョンソン3勝1セーブ、シリング1勝だったが、実質的には二人で2勝ずつ挙げたと言える。クレメンス、ジョンソン、シリング、それにレッドソックスのペドロ・マルチネス。彼らはたった一人でゲームの展開を決めてしまう。言い換えれば、彼らは自分だけの力でゲームを「創造」してしまうのだ。

 ワールドシリーズ最終戦(第7戦)の最後の場面は暗示的だ。クレメンス、シリングの壮絶な投手戦となったこの試合、ヤンキースはいま最高のクローザー、マリアーノ・リベラへ、ダイヤモンドバックスはジョンソンへつないだ。神様が描いた「最高のシナリオ」だろう。9回裏、1点差を追うダイヤモンドバックスは満塁で強打のルイス・ゴンザレスが打席に立つ。リベラのくせ球にかろうじてバットを合わせたゴンザレスの打球は、勢いのない小飛球になった。その小飛球が前進守備のジーターの後ろに落ちて、世紀の決戦の幕は降りた。ゴンザレスに強打者の誇りなどといったつまらない感情はない。その瞬間、喜びを爆発させていた。

 今年のワールドシリーズに本塁打を量産する長距離打者の出番はなかった。ヤンキースはもともとそうしたチーム構成ではないし、唯一その役割を期待されたデイビッド・ジャステスはまったく機能しなかった。ダイヤモンドバックスも長距離打者の一振りが試合を決めるチームではなかった。試合を決めたのは、ゴンザレスの何とも情けない一振りだった。

 イチローのアメリカンリーグ・新人王が決まった。首位打者、盗塁王、ゴールデングラブ賞、新人史上最多安打―。本塁打王、打点王など長距離打者部門を除き、ほとんどすべてのタイトルを獲得したイチローに、新たな勲章が加わった。イチローは今年、大リーグに「スピード」と「スリル」、そしてそれらを生み出す「技」の価値を再認識させた。イチローは外野手だが、ジーターやガルシアパーラたちと同じく、「驚くべき遊撃手」たちの係累に属する選手だ。あるいは、その「発展系」かもしれない。クレメンスやジョンソンら大投手と、ジーター、ガルシアパーラ、ロドリゲス、そしてイチローらが対決する。それが大リーグの最大の「売り物」になっていくのだろう。

 イチローの新人王獲得と前後してマグワイアの引退報道が流れた。時代は変わる。ワールドシリーズが暗示したものとともに、この二つのニュースは大リーグの新しい流れを象徴しているのではないだろうか。(2001年11月13日)

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