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何故福田首相を怒らせない―内閣記者会の怠慢
日本の新聞記者は随分と大人しい、紳士的な存在になってしまった。なかでも、在京各社の政治部エリート記者が集まる内閣記者会のメンバーがそうである。
福田康夫首相が臨時国会召集直前になって、9月1日午後9時半から突然辞任会見を行った。
首相の辞任を彼らは、読み取ることができなかった。政治記者としては重大な失態を演じたことになる彼らにとって、首相の辞任会見は最後の失地回復の場になるはずであった。彼らにとって、この会見ほど「質問力」を問われるケースはない。
しかし、である。筆者はこの会見をTVで見ていて、二重の意味で情けなくなった。
一つ目の情けなさは、福田首相に対してである。自民・公明の連立政権としては、安倍晋三首相に次いで、2年間で2度目の政権放り出しである。
もう一つの情けなさは、政治記者たちの「質問力」のなさである。
福田首相は、政権放り出しの理由をこの会見では何も語っていない。ほとんど繰り言で始まった冒頭部分から、用意されたペーパーを読むだけの、通りいっぺんの言葉を並べるだけである。
であればこそ、内閣記者会の出番である。首相の辞任を察知できなかった彼らでも、それまでの取材に基づいて、厳しく首相に辞任の理由を問いただしてくれるだろう。TVやラジオの前でそう思った国民は多かったのではないか。
しかし、そうした期待はあっさりと裏切られてしまう。彼らもまた通りいっぺんの型通りの質問を大人しく紳士的に繰り返すだけである。
彼らは突然の辞任会見を行った首相からほとんど何一つとして本音を引き出すことができなかった。
こうした会見の場合、質問する側の常とう手段は、相手を怒らせて感情的にすることである。福田首相のように、本音を語ることが極めて少ない政治家の場合は特にそうである。
同じ趣旨の質問でも、言葉を変えるべきである。「政権投げ出し、放り出しではないか」「内閣改造から1か月、臨時国会開会前の辞任は無責任ではないか」「森喜朗元首相が麻生太郎幹事長への政権禅譲を示唆していたが、事実だったのか」「麻生幹事長との表にはでていない約束はあったのか」「公明党に見放された末の辞任なのか」−等々である。
会見の最後の質問にあった、「一般に、総理の会見が他人事のように聞こえるというふうな話がよく聞かれておりました。きょうの退陣会見を聞いても、やはり率直にそのように印象をもつのです」対して、福田首相は初めてむきになって答えていた。
「他人事のようにというふうにあなたはおっしゃったけれども、私は私自身を客観的に見ることはできるんです。あなたとは違うんです」
この答弁で初めて福田首相の本音と人間性がでたのである。特に「あなたとは違うんです」の部分に首相の異質な人間性が表れていた。
「あなたとは違うんです」と言われた質問者や内閣記者会の皆さん。福田首相は初めて本音を語りだした。ここからが会見の始まりではないのですか。ここから遠慮会釈なしに、本音の質問をぶつけて、本音の答弁を引き出すべきではなかったのではないでしょうか。
福田首相の辞任会見は17分か18分で終わってしまった。こうした日本の政治史上に残るであろう異例で異常な辞任会見を、官邸の意向のままに20分足らずで終わらせてしまう。その事実は、内閣記者会のメンバー、有力新聞の政治記者の怠慢を示しているのはもちろん、彼らの資質を厳しく問うている。(2008年9月2日記)
【注】かっこ内のコメント部分は首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/)から引用しました。
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