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小沢一郎さん、今は「身を捨ててこそ−」のときではないですか
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり」
昔からある、言い古された格言です。ある辞書によると、「一身を犠牲にする覚悟で当たってこそ、窮地を脱し、物事を成就することができる」とあります。しかし、この格言にはそうした理屈以上に、もっと 具体的、身体的に理にかなった「真実」があります。
水泳の初心者や苦手の人は、「身を捨てる」ことができないので、「浮かぶ瀬」にたどりつくことができません。
彼らの水の中での恐怖は、「水の中では息ができない」ということに尽きます。ですから、彼らは背の立たないほどの水の中に入ると、必死で顔を水面に上げようとします。
顔は頭の一部です。息をしようとして頭を水面に出せば、頭の体積とその比重の大きさによって、その必然として体全体が水の中に沈み込むことになります。
彼らとは逆に、水を怖がらない人は、まったく逆の行動を取ります。体を浮かせるには、どうすればいいのか。生まれたばかりの赤ん坊は、そのことをよく知っています。彼らは生まれる直前まで水(母親の羊水)の中にいたのですから、それは当然のことです。
水を怖がらない人は、浮くために体を水の中に沈み込ませます。人間の体は、肺に空気が入っている限り、水より比重が軽いのですから、沈み込めば必ず、体は水面に浮き上がります。
水面上で、人間が最もエネルギーを使わないで生きながらえる方法は、立ち泳ぎをするでも平泳ぎをすることでもありません。ただ、浮いたり沈んだりしていることです。
このことから引き出される、最も大事な「教訓」とは、ある状況では常識とはまったく逆の行為こそ、最も正しい行為だということです。
戦後、永久政権のごとく続いてきた自民党を崖っぷちまで追い込んだ民主党が、一転して強烈な逆風にさらされています。小沢一郎党首の公設第一秘書で、小沢氏の資金管理団体「陸山会」の会計責任者である大久保隆規氏が、政治資金規正法違反の疑いで、東京地検特捜部に逮捕されました。
小沢さん、あなたは大久保氏の逮捕当日はメディアに対しては沈黙を通しましたが、翌日の記者会見では、検察に対して。「国策捜査」と言わんばかりの、強烈な挑戦状をたたきつけました。
あなたの師である田中角栄氏、あなたを引き立ててくれた金丸信氏に続いて、今度はあなた自身が刑事罰を受ける瀬戸際に追い込まれています。
小沢さん、あなたの公設第1秘書逮捕に関して、作家で外務省元主任分析官の佐藤優氏がコメントを出しています。共同通信が配信したコメントを以下に紹介します。他の凡百のコメントとは違って、極めてユニークなものなので、佐藤氏のコメントをここに書き写します。
「官邸が指示した国策捜査というよりは、現場の検察官の本性が出たように見える。彼らは青年将校のように、民主党に政権が移って政治が混乱するのは国益を害すると信じて一生懸命捜査したのだろう。だが内閣支持率が10%前後まで落ちたこの時期に手をつければ『検察は政治的』と必ず言われる。逮捕容疑が事実なら、半年待って総選挙後に淡々と立件すればいい。そう言って止めるのが検察幹部の仕事なのに、統率力が落ちたのではないか。検察は常に正しく、逮捕すれば国民は拍手喝采(かっさい)すると彼らは信じているのだろうが、最近は決してそうではなく、ギャップは大きい」
自ら「国策捜査」と主張する案件で逮捕、起訴され、現在も公判中の佐藤氏らしいコメントです。そういった点を差し引いても、このコメントには含蓄があります。高級官僚と自民党政権は、戦後半世紀以上も持ちつ持たれつの関係でもたれあってきました。検事も高級官僚であることには変わりはありません。
主要メディアとの関係もそうです。小沢さん、あなたの公設第1秘書逮捕後、東京地検特捜部の「リーク」による、「関係者」を主語とする情報が垂れ流され続けています。この情報リークは、1990年代のゼネコン汚職事件を思い起こさせます。
情報をほしがるメディアと、意図的、恣意的に情報を流出させる「関係者」との相互作用によって、ある方向に世論が形成されていきます。
一政治家としては、検察と真っ向対決することも是であるかもしれません。しかしです。あなたは政権奪取を目の前にした民主党の党首です。あなたには、もうひとつの選択肢があるのではないでしょうか。
小沢さん、あなたは田中角栄氏に薫陶を受けた古いタイプの政治家です。そんなあなたが、政治生命を賭けて、自民党政治を終わらせようと考えているならば、検察との真っ向対決とは違った選択肢があるのではないでしょうか。
冒頭の水泳の話は、浮き上がろうとするほど沈み込み、沈み込めは浮き上がるということでした。
小沢さん、あなたが本気で日本の政治を根本から変えようと考えているのならば、ここはいっぺん、思い切って沈み込んでみてはいかがですか。
水泳の話とは違って、沈み込んだままになるかもしれません。しかし、水から這い上がろうともがいた挙句に、民主党を巻き添えにして、民主党を沈みっぱなしするよりは、よっぽどましな選択ではないでしょうか。(2009年3月7日記)
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