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NHKのある「ミス」が大きなニュースになった。看板番組である、朝のテレビ小説「さくら」で、総合テレビが一話飛ばして翌日分を放送してしまった。担当者がテープを取り違えたのが原因だという。NHKには、その日夕までに7000件もの苦情や問い合わせが殺到したそうだ。
その日の午前中、仕事場でテレビをつけたら、NHKの男性アナウンサーが何やら深刻な表情で「おわび」のメッセージを伝えていた。毎朝、「さくら」を見る習慣はない。最初は彼が何を言っているのか分からなかった。
別の時間帯にも「おわび」が流れていたので、注意して聞き直した。同じアナウンサーだった。彼はNHKの全責任を一身に背負ったような表情、仕草で前述の放送ミスをわびていた。官僚的とも言っていいほど強固に組織化されたNHKでも、こんな単純ミスを犯すこともあるのか。そう思うと、何故か笑い出したくなった。
夜、家に帰ってこのことをかみさんに話した。かみさんにも「さくら」を毎朝見る習慣はない。同じNHKの「ロッカーのハナ子さん」を毎週末の朝、BS放送で1週分まとめて見るのを楽しみにしている。そんなかみさんがこう答えた。「いいんじゃないの。何ひとつ間違いなく物ごとが進むなんてかえって変じゃないの。一話飛ばしたくらいで大騒ぎするマスコミの方がおかしいのよ」
かみさんの言う通りなのかもしれないと思った。電車やバスは定刻に必ずやって来る。会社や学校は定時に始まり定時に終わる。銀行の現金預払機が定刻に動き出さないと騒ぎ出す。そん風に、何ごとも決められた通りに動いている。そう信じている方が間違っているのかもしれない。かみさんの言う通り、NHKはこのミスによって信用を失墜させたわけではない。2、3日すれば誰もが忘れてしまう話だ。好事家だけが密かに記録に残す。それだけの話である。
同じ放送ミスでも「おわび」では済まないミスがある。ある民放キー局のことを言っている。この民法キー局は週末のスポーツ生中継番組で、2週連続で致命的とも言えるミスを犯した。そればかりか、二度とも「おわび」の放送さえしない。自らのミスをミスとさえ認めてはいない態度を取っている。
それ以上に問題なのは、こうした放送局としては致命的なミスを他のメディアが論評しないまばかりか事実関係さえ伝えないことだ。他の民放キー局は完全に無視する。新聞も一切、事実関係も伝えず、論評もしない。この国では、メディア間の相互批評はいまだに存在しないのだ。
2週連続で致命的な放送ミスを犯したのはTBSである。TBSは、9月16日(敬老の日の振替休日)、横浜国際総合競技場で開かれた「スーパー陸上」を生中継した。トラックに水が浮いてしまうほどの強い雨の中で、競技は続けられた。今回のスーパー陸上は「気の抜けたビール」のような大会だった。大会前々日の9月14日には、今季の陸上界最高のイベント、国際グランプリファイナルがパリで開かれたからだ。この日程では海外の超一流選手が来日するはずもない。
国際グランプリファイナルを欠場したモーリス・グリーン(米国)は男子100メートルに出場したが、朝原宣治にも及ばない走りだった。スポンサーや大会主催者との契約からの、「顔見せ」出場だったのだろう。M・グリーンはパリの国際グランプリファイナルをけがのため欠場、そのレースで自身のもつ世界記録、9秒79をティム・モンゴメリ(米国)に100分の1秒塗り変えられたばかりだ。圧倒的な走りなど望めない状態だった。
国際グランプリファイナルで日本人初の種目優勝を果たした、男子ハンマー投げの室伏広治も出場したが、体調不良で3投目以降を棄権した。余談になるが、最近の室伏の強行日程はどうしたことか。今回もパリからとんぼ帰りした。6月の日本選手権でも、欧州転戦から直前に帰国、時差ぼけの直らないままで出場、優勝した。室伏はいま、世界でベスト3に入る実力者だろう。しかし、こんな強行日程を続けていたのでは、2004年のアテネ五輪までもつのだろうか。強行日程がプロ化のためならば、それは見逃しにはできない問題だ。
世界のトップ選手の強烈なパフォーマンスも望めず、強雨のため好記録も期待出来ない。そんな状況下で開かれた今回のスーパー陸上のハイライトは女子5000メートルだった。大会最後の種目になったこのレースでは、今季、長距離の日本記録を次々と塗り替えてきた新星・福士加代子が外国選手に挑んだ。トラックをたたきつける雨の中で、福士はいつものように積極的なレース運びをしていた。
そして、福士も先頭グループに入った状態でラスト1周の鐘が鳴ったとき、生中継していたTBSのアナウンサーが突然、とんでもないことを言い出した。――大変残念ですが、レースを最後までお伝えできません――。あと1周というところで中継は途切れてしまった。そのまま中継は終わってしまった。
スーパー陸上は強い雨の中で行われていたから、大会運営の時間設定もずれ込んだのだろう。あと1週で中継を打ち切った全責任がTBSにあるかどうかは分からない。しかし、こんな中途半端な終わり方をして、「おわび」もしないTBSの姿勢には腹が立った。
それだけだったらまだいい。翌週末、9月21日(土曜)の午後、TBSはJリーグ、鹿島アントラーズ―柏レイソル戦を生中継した。極度の不振に苦しみ、4月20日のヴィセル神戸戦以来勝ち星のない柏と、第2ステージで既にジュビロ磐田に敗れ、優勝するためにはもう負けられない鹿島との対戦は、選手がピッチ上で激しい接触を繰り返す「ガチンコ」ゲームの展開になった。柏が後半早々に挙げた1点を守りきれるか。13試合ぶりの勝利に執念を燃やす柏ディフェンスを鹿島が突き破れるか。
ゲームは白熱したまま最終盤に突入した。「ロスタイム3分」が表示された後だ。TBSはまたも中継を突然打ち切ってしまった。ゲームの結果は後続のニュース番組で確認しろと、アナウンサーは冷静な声で視聴者に伝達する。中継が終わった後は、延々とCMが続き、ニュース番組はいつまでたっても始まらない。もうチャンネルを切り替えるしかない。
サッカー中継の打ち切り方は、スーパー陸上の場合よりひどい。サッカーは前後半合わせて90分間で行われる。ロスタイムも3−6分間あるのは常識の範囲だ。その枠内で進行しているゲームを最後まで中継できない放送局、あるいは最後まで中継する意思のないテレビ局の姿勢は厳しく問わなければならない。
民放のスポーツ中継は、いつもゲームの途中で始まり途中で終わるプロ野球中継の「悪しき習慣」がしみついてしまったのだろう。ゲームがいつ始まりいつ終わろうが彼らの知ったことではない。テレビ局は自らが設定した時間枠内だけ放送すればいいと考えているのだろう。たまに延長する場合は、スポンサーの『厚意』によるものだという。視聴者を無視するテレビ局はスポーツ中継の場から撤退すべきだ。(2002年9月22日)
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