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浅田真央、スター誕生の瞬間も疑似生中継だった
「スターは一夜にして誕生する」という言葉がありますが、12月17日夜、テレビ朝日のフィギュアスケート、グランプリ・ファイナルを見た多くの人たちは、この言葉の正しさを改めて実感したのではないでしょうか。
今シーズンからグランプリに出場を果たしたばかりの15歳の少女、浅田真央が、11月のグランプリ・フランス杯での初優勝に続き、世界の選りすぐりの名手だけが出場したグランプリ・ファイナルで優勝したからです。
しかも、この少女は抜群の技術や演技力に加えて、まだあどけないルックスや、あのあぶらっこさが持ち味の松岡修造(テレビ朝日のキャスター)と軽妙なやりとりまでこなす、抜群のコミュニケーション能力までもっています。
さらに加えて、世界一のスケーターの座を手にしながらも、国際スケート連盟が定めた年齢制限によって、トリノ五輪に出場できないという、悲劇性まで兼ね備えています。
これだけの魅力的なファクターをもったスターの誕生は、スケート界、いやスポーツ界全体で見ても極めて希有なケースといえるでしょう。
■まだ消えていない五輪出場の可能性
筆者は、現段階では浅田の五輪出場の可能性はまったくない、とは考えていません。FIFAと並ぶ世界最大のスポーツ興行主であるIOCの判断によっては、五輪出場の可能性がでてくるからです。
フィギュアスケートは、欧米では絶大な人気を誇る競技です。しかも、今回の五輪は欧州で開かれます。五輪の興行主であるIOCが浅田の興行的価値を極めて高く評価するならば、特例出場の可能性があります。
しかし、それも肝心の日本スケート連盟やJOCが動かなければ、IOCとしても手の打ちようがありません。特例出場要請に及び腰の日本スケート連盟やJOCの現段階での対応では、五輪出場は難しくなるでしょう。
前置きと横道がだいぶ長くなってしまいました。そろそろ本題に入ります。
新聞各紙によると、この夜、テレビ朝日で中継されたグランプリ・ファイナルの平均視聴率は26・0パーセント(関東地区)、瞬間最大視聴率は浅田が初優勝を決めた場面の35・7パーセントでした。(ビデオリサーチ社調べ)
何年に一度、いや十年に一度あるかどうかという、スター誕生の瞬間をTV中継したのですから、平均26・0パーセント、最大35・7パーセントという高視聴率は当然のことといえるでしょう。
■疑似生中継での高視聴率だった
だがしかしです。筆者はこの高視聴率に釈然としないものを感じています。それは、この中継が、本当は録画中継なのに、生中継もどき、疑似生中継として放送されたことです。
グランプリ・ファイナルの女子フリーの時間帯は夕方でした。午後6時半には演技が終了しています。テレビ朝日の中継は午後7時から9時の時間帯でした。大会日程を見ると、中継が始まった午後7時は表彰式の時間でした。それを、テレビ朝日はあたかも生中継であるかのような構成で放送しました。
番組内では録画中継とはコメントしません。もちろん生中継とも言いません。画面でも「ライブ」「録画」などのテロップは流れません。しかし、放送関係者など以外の一般の視聴者には生中継と思わせる構成になっています。
■いまや当たり前になった疑似生中継
こうした疑似生中継の手法は、民放のスポーツ中継ではいまや当たり前になっています。毎週のゴルフ中継も、バレーボールなど国内で開催される国際大会も、世界陸上や世界水泳なども、ほとんどすべてのスポーツ中継は疑似生中継です。
民放がライブで放送するスポーツ中継は、プロ野球とサッカー日本代表の試合くらいしかない、といってもいいでしょう。
筆者は、疑似生中継は絶対だめだとは考えていません。民放の場合は、スポンサーとの関係やゴールデンアワーに放送して視聴率を稼ぎたい、番組を一定の時間枠に収めなければならないなど、幾つかの理由があることは理解できます。
■視聴者に一切説明しない民放
だがしかしです。民放は一切、そうした手法を取って放送していることを、またなぜそうした手法を取っているのかを、番組内でも、その他の枠でも視聴者に対して説明をしていません。結果的には、放送界内部の事情を知らない視聴者をだましていることになります。
スポーツ観戦において最も魅力的な場面である、スター誕生の瞬間さえ、一般の視聴者は生中継で見られないばかりか、生中継と無理やりに思わされて見なければならない、ということになります。
こうした視聴者への告知なしの疑似生中継を続けていると、民放はいつの日か視聴者から手ひどいしっぺ返しをくらうことになるでしょう。(2005年12月24日記)
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