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イチロー 勝負に弱い天才打者
イチローの珍記録が話題になっています。MLB9年目でMLB通算1953安打目が初のサヨナラ安打という、あの記録です。
日本のメディアは、これはいつものことですが、この珍記録を極めて好意的に扱っています。しかし、それでいいのでしょうか。並みの打者だって、MLBで9年間もレギュラーを張っていれば、サヨナラ安打の数本くらいは打っているものです。
ひざのけがに苦しみながらもDHで出場している松井秀喜が先日の試合でサヨナラ本塁打を打ちました。ここ数年、不本意なシーズンを送っている松井ですが、サヨナラ本塁打は03年にも放っています。
イチローは今年春のWBC決勝でアメリカ代表相手に決勝打を放つなど、一見、勝負強い打者のようなイメージがあります。しかし、実はそうではありません。
ベンチやファンがここで売ってほしいと願う場面で、必ずと言っていいほど結果を残す勝負強い打者は「クラッチヒッター」と賞賛されます。しかし、クラッチヒッターとはまったく逆の立場にいる打者が、イチローなのです。
イチローは誰もが認める天才的な野球選手です。打撃はもちろん、守備や走塁面でも抜群の才能を発揮しています。投手も務まるほどの強肩とコントロールの持ち主で、ライトからの返球は「レーザービーム」という称号が与えられています。
野球選手として何一つ欠点のなさそうなイチローですが、チームの首脳陣や同僚にとっては、以下の2つ理由から、「困った選手」であるということができます。
その1つは、イチローが四球を選びたがらない選手だということです。四球で出塁するくらいなら、悪球に手を出して凡打した方がましと、考えているのではないかと思われるくらいです。悪球でも抜群のバットコントロールで安打にしてしまう。そんなイチローだから許される四球嫌いだと言えるでしょう。
ですから、イチローの出塁率は打率に比べさして高くはありません。昨年までのMLB8年間で、出塁率が4割を超えたのは、シスラーのMLB年間安打記録を塗り替えた04年だけです。
松井秀喜の同僚だったジェイソン・ジオンビーは、打率は2割5、6分程度でしたが、出塁率はいつも4割近くか4割を超えていました。相手投手が本塁打を警戒して、結果として歩かせる。ジオンビーもそれを当然として受け入れていました。
日本のプロ野球は、出塁率をあまり重要視していません。しかし、出塁率は選手の能力や貢献度を測る物差しとしてもっと評価すべきでしょう。
イチローはもうひとつ、困った問題を抱えた選手です。出塁率はさておくとしても、安打数、得点数に比べて、打点数が極端に少ない選手なのです。イチローは昨年までのMLB8年間で469点しか打点を稼いでいません。年平均にすれば58点ほどです。年間200本以上の安打を打ち続ける選手としては、少なすぎる数字です。
同じリードオフマンタイプの選手と比較してみましょう。昨年、イチローとアメリカン・リーグの最多安打を競った(結果は同数)、ダスティン・ペドロアの成績は、打率3割2分6厘、得点118、打点83、出塁率3割7分6厘でした。対するイチローは打率3割1分0厘、得点103、打点42、出塁率3割6分1厘でした。
同じリードオフマンの立場で、ほぼ同じ安打数を記録した2人ですが、チームへの貢献度はどちらが高いかは、この数字だけ見ても明らかでしょう。
MLB9年目、通算1953安打目の初のサヨナラ安打は、そもそも珍記録として正当に評価すべきでしょう。(2009年7月31日)
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