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トリノ冬季五輪、最大の勝者はXゲーム
トリノ冬季五輪で最大の勝者は誰だったのでしょうか。
アルベルト・トンバのような、世界中の誰もが認めるスーパースターは生まれませんでしたから、最大の勝者は、金メダルを獲得した競技者ではありません。
五輪を主催したIOCや開催国のイタリア、最多11個の金メダルを獲得したドイツだったでしょうか。いや、彼らでもありません。彼らは五輪に変革をもたらしたわけではありません。
最大の勝者はこの五輪に参加も参画もしていません。最大の勝者は、米国のスポーツ専門TVであるESPNとESPNが主催するXゲームでした。
米国(カナダも含む北米)には、Xゲームの他にも類似の大会がありますから、正確に言えばXゲーム系の大会とその主催者ということになります。このコラムでは、それらも含めてXゲームと表記することにします。
トリノ冬季五輪はスノーボード、スキー・フリースタイルなど米国生まれのニュースポーツ系の競技・種目が増えました。これらの競技・種目では、欧州を中心としてW杯を転戦する競技者を、北米のXゲームを主戦場とする競技者が圧倒しました。
そのあおりをまともにくらったのが日本です。W杯で優勝を重ねてきた複数の競技者をメダル候補に挙げていましたが、五輪本番ではXゲームの競技者に、まったくと言っていいほど歯がたちませんでした。
スノーボード・ハーフパイプでの高さと技の差は、ルールさえ知らないTV観戦者にとっても明らかなことでした。
トリノ五輪で証明された事実がひとつあります。ニュースポーツ系の競技・種目では、W杯は2級のステージであり、超1級のステージはXゲームであったということです。
W杯とXゲームとの実力差が誰の目にも明らかになれば、競技者は本能的にXゲームに活動の舞台を移すことになります。そうなれば、北米の若者の間では圧倒的な人気をを誇るXゲームの大会の規模、質ともさらに向上することになります。
優秀な競技者の参加が増えれば、観客も増えます。スポンサーもより多く集まり、TV視聴率も高まります。
日本では、XゲームはNHK・BSが不定期に放送しているだけで、他のTVメディアも活字メディアもほとんど取り上げてきませんでした。夏のXゲームで、インライン・スケートやスケートボードで活躍する日本人の10代の少年、「YASUTOKO」兄弟は、米国の若者の間では実力と人気を兼ね備えたヒーローですが、日本で彼らを知っているのは、一部のマニアックなファンだけでしょう。
しかし、トリノ五輪の結果、日本でもXゲームの魅力に気がついた若者が多くいたのではないでしょうか。
W杯の競技者とXゲームの競技者の競技に臨む態度は明らかに違っていました。
Xゲームの競技者は、高度な技を披露することは当然ですが、それ以前にスポーツを自ら楽しむこと、それ以上に観客を楽しませることを前提にしています。スポーツが本来もつ「遊び」感覚が全面に出ていました。欧州の貴族が生み出した従来のスポーツのもつ「禁欲性」とは明らかな違いがあります。
スノーボード・クロスではこんな場面がありました。終盤独走態勢を取った選手が最後のこぶでのジャンプでひねりを入れたため転倒し、金メダルを逃しました。
「なんて馬鹿なことをしたんだ」というのが従来のスポーツの考え方でしょう。しかし、観客を楽しませた上で高度な技を披露するというXゲームの感覚では、あのひねりは自然に出てきたものでしょう。
不必要なひねりを入れたために優勝を逃した競技者は、金メダルを逃がしたこと自体は後悔しているでしょうが、それによって、観客を楽しませた上で勝つという自分のスタイルを変えることはないでしょう。
ソルトレイク・シティからトリノへと冬季五輪は、ニュースポーツ系の競技・種目を増やしてきました。この傾向が今後も続くでしょう。IOCにとって五輪の最大の収入源はTVの放送権料です。その半分程度は米国のTV局が支払っています。
五輪は回を重ねるごとにTV映りのいい競技・種目を採用しています。TV映りがよく、かつ米国の若者に人気があるのは、Xゲームの要素を取り込んだニュースポーツ系の競技・種目となります。そうなれば、五輪は大きく変わっていく可能性があります。(2006年3月2日記)
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