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正月恒例の箱根駅伝(2、3日、東京―箱根間で開催)は、もはやスポーツの枠を超えて巨大な社会的イベントになった。怪物・箱根駅伝の前では、その前日(元日)に行われる日本スポーツ界の超一級イベントでさえ、すっかり色あせてしまう。 色あせてしまうのは、サッカーの天皇杯決勝と全日本実業団駅伝だ。プロ野球に次ぐ人気スポーツに成長したサッカーで、高校生の年代(高校とクラブチーム)からJリーグまで参加する、日本では唯一のほぼ完全にオープン化された大会の決勝も、箱根駅伝の前では形無しだ。
オープン参加制度のない駅伝では、全日本実業団駅伝が実質的に日本一を決める大会だ。だが、そんなステータスの高い大会でさえ、箱根駅伝の「前座」扱いにされてしまう。
■夏の高校野球にもない「理不尽さ
こんなに特別扱いされるスポーツイベントは、ほかには夏の全国高校野球・甲子園大会があるだけだ。――同じ高校野球でも、春のセンバツ大会はそんな特別扱いは受けていない――
特別なスポーツイベントである箱根駅伝には、夏の高校野球にもない、ある種の「理不尽さ」をもつ。以下、そのことについて書いてみる。
箱根駅伝が近づくにつれ、この駅伝を後援し、協力に後押しするメディアグループは、長期的かつ綿密な一大キャンペーンを張る。新聞では前年秋頃から何度も特集紙面を組み、スポーツ面でいわゆる展望記事や有力校、有力選手紹介を繰り返す。テレビはもっと一般受けする話題をニュースやワイドショーで提供し続ける。
その圧倒的人気から、他のメディアも箱根駅伝を無視できない。それでほぼ全メディアグループが膨大な量の事前キャンペーンを展開することになる。
■出雲、全日本は箱根の『前哨戦』
箱根駅伝を後援するメディアグループの事前キャンペーンの中で繰り返し使われる、ある「言葉」にひっかかってしまった。そのメディアグループは事前キャンペーンで、ある常套句を繰り返す。「箱根駅伝の前哨戦である出雲、全日本で有力○○校は―」「箱根駅伝の優勝候補・○○校は、箱根の前哨戦である出雲、全日本で―」。このメディアグループが言うように、出雲駅伝、全日本駅伝は箱根駅伝の『前哨戦』なのだろうか。
出雲、全日本、箱根は大学三大駅伝と呼ばれている。しかし、出雲、全日本と、箱根駅伝とでは決定的違いがある。出雲、全日本は全国どこの地域の大学でも出場可能なオールジャパンの大会だが、箱根は山梨を含む関東の大学にしか出場資格がない。いわば、「関東ローカル」の大会だ。
■ローカル大会がオールジャパンをのみ込む
論理的に言えば、このメディアグループの言う、「出雲、全日本は箱根の前哨戦―」は間違いだ。スポーツ、特に団体競技は下位のステージから上位のステージ上がるにつれ、実力も人気もついてくる。各チームとも実力をつけてより上位のステージに駆け上がろうとする。そうした動きによってスポーツは活性化し、実力も人気も高まってくる。
サッカーで言えば、まったく新しいチームが誕生したとする。このチームがJ1リーグに参加しようとしても下位リーグからのステップを踏まなければならない。都道府県リーグ(大概1部、2部リーグがある)から関東、関西などのブロックリーグを勝ち上がり、アマチュアリーグのトップであるJFLリーグに上がる。ここで実力とチームの組織力(財務力)を蓄え、J2・J1リーグと昇格する。チームを買収しないかぎり、いきなりトップリーグに参加することはできない。当然のことだが、下位リーグやそこに所属するチームが、上位リーグや上位リーグ所属チームより実力、人気が高いということはありえない。それが通常の姿だ。
しかし、大学駅伝の世界では、通常では起こりえない、「逆転」あるいは「倒立」現象が起きている。それが長く続いており、しかも最近ではその傾向がより強まっている。しかも、それを異常な現象だという指摘はだれもしない。「箱根は他の二大駅伝の上に君臨する、特別、別格の大会だ」。だれもがそう思っているようだ。
■箱根スパイラルから東京一極集中へ
箱根駅伝はもともと人気のあるスポーツイベントだった。しかし、その人気に異常なまでの拍車をかけたのは、駅伝を後援するメディアグループの強力な後押しだ。特に全国ネットのテレビ局が往復2日間の完全生中継を実現してからだ。
そこから箱根スパイラルともいうべき動きが出てきた。箱根の異常なまでの人気のため、全国の高校生は箱根に出場可能な関東の有力校への進学傾向を強める。関東の大学も、箱根の人気を利用しようとする。少子化が進み大学経営は年々厳しくなってきている。国民の大半が休みを取る正月2,3日の2日間、延べ15時間にも及ぶ生中継がある箱根駅伝に出場することは、事前キャンペーンも含め膨大な宣伝効果を生む。しかも、上位に進出し優勝でもすればその効果は計りしれないものになる。大学を挙げての「箱根作戦」が始まるわけだ。
一方、箱根への出場資格のない関東以外の大学は、箱根スパイラルに対し指をくわえてながめるだけの存在となる。大学を最も効果的に宣伝する場に参加する資格はないし、有力選手も続々と関東に流れてしまう。箱根によって、大学の地域間格差が拡大してしまう。それは駅伝や大学スポーツに限ったことではない。大学そのものの地域間格差につながる。
それは「甲子園」をめぐる全国の私立高校の構図と同じだともいえる。しかい、決定的違いがある。
■オールジャパンを「箱根組」が制す
2001―2002年の大学駅伝シーズン。その傾向は数字にはっきりと表れている。2001年の出雲、全日本の上位校をみると、出雲のベスト10は優勝した順天堂大をはじめ関東の大学がほぼ独占、関東以外では京都産業大が9位に入っているだけだ。同年の全日本では関東の大学が、優勝の駒沢大はじめベスト10を独占、関東以外は京都産業大の11位が最高順位だ。
しかも、箱根駅伝の出場資格は関東だといっても、それは制度面だけの話で、実質は東京とその周辺、つまり首都圏に所属する大学にほぼ限られている。関東といっても、実質は首都圏、広義でいう東京の大学だけだ争われる。唯一の例外は山梨学院大だろう。関東でも北関東の大学が出場権をえることはまずない。
極論すれば、箱根駅伝は広義で言う「東京の大学」だけで争われる大会だ。東京ローカル大会が、メディアのつくりだした「設定」の中で、その異常な人気ゆえに全国大会を呑み込んでしまう。このゆがんだ構図はさまざまな問題を派生させることになる。以下は、次回に譲ることにする。(2002年3月1日)
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