全体表示

[ リスト ]

イメージ 1

                               『かくれんぼ』


12.遠距離恋愛風味



 昼休みになり澄香と同僚のチサは、給湯室横の小会議室で昼食を取っていた。

 昼食タイムはニ交代制で、12時から1時と1時15分から2時15分に分かれて組まれている。

 そのせいもあって部署内で弁当を広げるのは暗黙の了解でご法度になっていて、この小会議室が簡易食堂に早変りするというわけだ。

「ねえねえ澄香。昨日吉山君と食事したってホントなの?」

 ペンギンのイラストのついた細長い2段の弁当箱から卵焼きをつまみながら、チサが話を切り出す。

「う、うん。……誰に聞いたの?」

「彼本人よ。なんか嬉しさ半分、寂しさ半分って顔してた。で、結局またフッたってわけ?」

「振ったとか振らないとかそんなんじゃなくて、もうこれで誘うの最後にするって言うからさ。なら一度くらい食事したっていいかなって……そう思って」

「最後……か。だよね。もうそろそろあきらめもついたってことかな? あっ、でもね、前にも言ったけど、あたしに気を遣ってるんならそれ辞めてよね。もちろん彼のこと好きだけど、澄香が付き合うって言うなら応援するよ。なんていうのかな? 彼ってちょっとアイドルみたいなところあるじゃない? 他のみんなもきっと同じように思ってるんだよね。で、心の中では澄香を落とそうと頑張ってる姿にエールを送ってる。なんか彼ってそういうところ母性本能くすぐられるっていうか、かわいいっていうか……ムフフ」

 応援するといいながらも目をハートマークにさせて吉山を語るチサを見て、澄香はため息をつく。

「はぁ……。よく言うよ。ホントにチサって自分のことわかってないよね。それはこっちの言うセリフ。あたしに気を遣ってるんじゃないわよ。チサには悪いけど、あたし吉山君のこと、これっぽっちもそんな風に思ったことないから。あたしは仕事に生きるのよ。男はその次! 面倒くさいことはもうこりごりなの!」

 大学時代も何度かそれなりな経験を積んだ澄香は、それらを教訓に、かなり毅然とした態度を取るようになり、それまでの煮え切らない自分の過去を封印することに成功したのだ。

 それがいいのか悪いのか……。あまりに強烈なバリアのため、せっかくの新しい出会いもいつの間にか澄香の目の前を音もなく通り過ぎてしまう。

「澄香……。あんたさあ、このままでいいの? そんなこと言ってたら、一生、一人かもしれないよ? それにそのご熱心なメールの御相手。彼には、何の義理立てする必要もないんだし、それはそれで置いといて、リアルな恋愛も楽しむべきよ。吉山君でなくてもいいからさ……。ね? 誰かと付き合ってみれば?」

 そんなチサのアドバイスも一切耳に入っていない様子で、さっさと弁当を食べ終えた澄香は、ひたすらメールを打ち込んでいた。

「出来た! 送信! ……で、何? チサ、今何か言ってなかった?」

「はいはい、言いましたとも。こんなに澄香のこと心配してるのに、あんたったらのん気に送信! だもんね。ちょっとそれ貸して……」

「な、何するのよ! 辞めてよ。チサ! 返して!」

 澄香の携帯を取り上げたチサは、着信履歴を表示させる。そして……。

「……何? これ……」

「見たきゃ、見れば? 何……って。メールじゃない……」

 澄香はあきらめたように捨て台詞を吐く。

 去年まで付き合っていたチサの相手からのお熱いメールも何度か見せてもらっていた手前、この程度のメールくらい見られたところで別に痛くも痒くもないというのが澄香の出した結論。

「HIDEHIKO……。これだよね。ねえねえ、澄香。嘘はなしって誓ってくれる?」

「嘘? どういうこと? あたしは何にも嘘なんかついてませんが?」

「……だよね。でも、彼ってかなり澄香に傾倒してるね。これで付き合ってないとか信じられない……」

 澄香は、チサの言ってることの真意を測りかねていた。

 秀彦が澄香に傾倒してるなんてことは、どう考えてもありえないことだと思っているのだから。

「めちゃくちゃ愛にあふれてると思いますけど……。彼の出張前なんて、真夜中までやり取りしてるし……。ねえねえ、こんなのまどろっこしくない? 電話の方が早いじゃん」

「だから、ただのメルトモだって言ってるでしょ? 電話はしないの。もちろん向こうからもかかって来ないよ」

「一度も?」

「そう。一度も!」

 チサはますます驚きの表情を露わにして、澄香に食ってかかる。

「じゃあ、あんたからかけなさい! わかった? そして会う約束するの。いいわね!」

 澄香はやれやれという顔をして、首を横に振る。

「そうしたいのは山々なんだけど。いろいろあってさ……。彼とはメールだけって決めてるんだ。あのね、あたし高校時代、彼の親友とちょっとゴタゴタしたことがあって、今更付き合うとかそんなこと出来る立場じゃないの。それに彼にも多分、彼女がいると思うんだ。だってさあ、彼ってすっごいかっこいいの。吉山君どころの騒ぎじゃないんだから。きっと、周りが黙っていないって……」

 そう言って澄香は、マキに転送してもらったとっておきの1枚の画像を表示させて、チサの顔面に突きつける。

「うわ〜〜。これはすごい! 完全に吉山君、アウトだね。にしてもなんでツーショットなのさ?」

「ああ、それ? 卒業式の後のどさくさってやつ。あたしはもちろん嬉しかったけど、向こうは帰国子女だからね。慣れてるのよ、そんなことも」

「ふ〜〜ん。そんなものなのかな……。でもね、澄香が他に彼氏を作らない理由、わかった気がする。だってそのメール、まるで遠距離恋愛の二人みたいだよ。そんな恋愛もありかな? って、そう思ってしまうくらい……」


 澄香は、随分前から秀彦がどんなつもりで自分のメールに付き合ってくれているのか、ずっと知りたいと思っていたのだ。

 だから正直、今のチサの言葉は嬉しかった。まるで遠距離恋愛の二人みたい……と胸の中で反芻しながらこっそり頬を赤らめる。

 卒業の日に手に入れた秀彦のメールアドレスを一度も使うことなく大学の入学式を迎えた澄香は、大学構内の桜があまりにもきれいなので記念にと何枚か写真を撮ったのだった。

 そして、それを添付してマキに近況を知らせたところ、思いの他、大絶賛された。

 気分を良くした澄香は、その時思い出したのだ。

 ──何かあったらすぐに連絡しろよな……という秀彦の一言を。

『加賀屋君、元気ですか? K大の桜があまりにもきれいだったのでメールしました。もし迷惑だったらすぐに削除してね。』

 勢いで送ったそのメールが皮切りになって、6年近くも毎日続いているメール。

『K大の桜きれいだね。メール嬉しかったよ。ちっとも迷惑なんかじゃない。いつでも大歓迎。で、バイトは決まった?……』

 そうやって途切れることなく交わすやり取り。

 大学のこと、バイトのこと、友人のこと……。

 大抵のことなら何でも情報を交換し合った。

 小、中、高の同窓会の時には、神戸に帰ってきた秀彦と顔も合わす。

 特別何も話さなくても、秀彦が前日までサークルの旅行に行っていたことも、ゼミの教授が盲腸になったことも、英会話スクールのバイト講師をしていて、生徒のマダムに言い寄られたことも、就職先のユニークな同期のことも……みんな知っている。

 なのに彼のぬくもりは、卒業式のあの日以来、確かめるすべもない。


 澄香は、久しぶりの高校のクラス同窓会を明日に控え、京都から駆けつける秀彦に会えるのを心待ちにしているのだった。





   ♪ネット小説ランキング♪にも登録中です。こちらから現在の順位が確認できます。
   いきなり投票にはなりませんので安心してごらん下さいね。 
 

開く トラックバック(1)


.
まゆり
まゆり
女性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

ブログバナー

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事