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鯉12
こいは、真琴に横になるように勧めた、長い話になる。
真琴は、掛け布団の中に入り、横になると介護用ベットのスイッチを押し、
背もたれを起すと(さあ、準備はいいわよ)という姿勢をとった。
それを確認すると、「長くなるよ」と 前置きして話し出した。
「君が行ってしまってから、私は無気力になり、毎日が意味も無く過ぎていった。
大学も辞めて、旅に出たんだ。
旅先で小説家の先生と、ひょんなことから知り合ってね。
その先生を手伝うようになった。手伝うって言ったって随分長い事
電話番やら雑用をやらされたよ、それから接待の時には必ずお供をさせられた。
酒の席で“ほらばなし”をすると結構うけてさ。
その時期に、あちこちに顔を売る事が出来た、先生は地盤固めのチャンスを
作ってくださったんだね。
ペンで食えるまでに育ててくださった。
その頃、一人の女性と知り合ったんだ、編集の仕事をしていた洋子だ。
自然と一緒に住むようになった、しかし半年後姿を消してしまったんだ。
行き先も、理由さえわからないまま。
私は、書くことに没頭した・・・童話の世界はいい、神にでもなった気分さ
生かしたり変身させたり・・・・。未来へも過去にも、宇宙にだって自由自在だ。
20年の後、一人の若い女性から“洋子”の事で話をしたいので会いたいと
連絡を貰った・・・待ち合わせの場所に、洋子にそっくりな若い女性が来た。
それが由紀だ、洋子は私が知らない所で由紀を産んでいたんだ。
あの頃、私はまだ“君を卒業できない”でいた、それを洋子は察したんだ
そして一人で由紀を育てていたんだ。
由紀にも、洋子にも済まない事をした・・・・。
そこまで話すと、真琴が備え付けの冷蔵庫を指差して、飲み物を勧めた
こいは、2本のボルビックを取り出し1本を真琴に渡すと、自分でもごくごくと
飲んで、また静かに話し始めた。
由紀は,
( 最近になって、母が全部、話してくれました。
今は母がどうして一人で私を育てる道を選んだのか理解できません。
母は今、入院なんですが、医師に “合わせたい人”が居るなら、
早い方が良いと言われて・・・合ってくれますか?)と・・・。
躊躇している暇は無いと思った、もう後悔はしたくない・・・
合わせる顔が無いにも拘らず行ったよ。
ほら吹きのくせに、気の利いた見舞いの言葉も言えず、とっさにでたのが
(今からでも遅くない、籍を入れよう)だった。」
洋子は、にこりと笑って「貴方から凄いお宝を頂いたの、それで充分」と言った。
それからたった半月後、逝ってしまった。
それから由紀には、合っていない。
だが半年後、住所も差出人の名前も無い1枚の写真葉書が事務所に届いた
幸せそうに笑う由紀と男性の間に、利発そうな男の子がいた。
「涼 4歳の誕生日」とあるだけだった。
つづく
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