小説 「追ってくる」

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追ってくる・・・・いわく付の”あれ”が・・・。
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その7 (約束)

「結衣姉さんと母さんは、若い頃東京で和裁の仕事してたのよ。

若いのにいい腕でね、料亭の女将さんやら、芸者さんの着物なんかも

縫わせて貰えるようになって、

ある時、両国のおおきな料亭のお嬢さんの、振袖を仕立てて届けた時、

調度そこに遊びに来ていた、小説家の卵(森川 清一、ペンネーム村山誠太郎)

と知り合ったのね。」

(森川・・・あの子・・・確かあの子の名前も森川だ。)


「そして若い二人は、恋に落ちた。


二人の事は、清さんのご両親の知るところになって、「後継ぎでひとり息子」の清さんは

無理やりつれもどされたの、・・・・それが、節分の日だった。」

母が言ってた(心の命日)の訳がはっきりした。

「清さんのお家は代々土地の名主でね、でもお父さんには随分借金も多かったらしいわよ、

それから間もなく、清さんは結婚した、政略結婚ね。

風邪のうわさは残酷ね、見ていられなかったわ、姉さんのこと。」

母は、振り返って、私の顔をみて続けた。


「清さんが後を継ぐ決心をして間もなく、お父様が亡くなって・・・皮肉なもんよね、

その事が息子が小説家に戻るきっかけになったのよ。」

清さんの奥さんの妊娠が分かったのは、葬儀の日だった。



「実はね、その時姉さんも妊娠していたの。でも姉さんは奥さんの妊娠を知って黙って身を引いたの、

そんな姉さんを、見かねた弟が迎えにきて、ここへ連れて帰った・・。」

「へぇ〜、そこで母さんと父さんは知り合うのか?」ちゃかすように、

母の顔を覗き込んだ。

「違うの、母さんと父さんはその前から知り合いだったのよ、姉さんの所に

何回も来ていたし・・・」

母は、遠くを見るように言った。

「姉さんと清さんは、それから逢う事は一度もなかった。」

「お腹の子はどうなったの?」

「うん、死産だった。」

「そう」言葉も無く、若い叔母の姿を想像した。


「でもね、(死んだら一緒の墓に入ろう)って約束していたらしいわ、

それで、姉さんはこの了念寺に墓地を買って・・・。でも先に逝っちゃったわね。

かあさんね、姉さんに訊いた事があるのよ、清さんが死んでも、

お骨はいただけないでしょうって

そうしたら、必ず、代わりの物を届けるようにするからって言ったんだって。」


「それが何なのか、分かったわ、ホ・ンよ本。姉さんところで書いていた本、

なんにでも(念)は入るものなのね。

さっきテレビで 「小説家 村山 誠太郎」危篤ってニュ−スを見たわ、


さっきからそこに立っているの、清さん、姉さんが縫った大島を着てる。」

母は礼子の後ろに目をやると言った。


「・・・・・やっと逢えましたね。」


私には幸か不幸か、何も見えなかった。


「ご住職をよんできてくれる?清さんにお経を上げて貰わないとね。」

私は、本堂に向かおうとしたが振り返り訊いた。

「さっきのおばあさん・・・」

「うん、清一さんの叔母さん、何か思うところがあったんだろうね、

時々お参りして下さるのよ」



頭の中で霧が晴れた。

「ここに、来たかったのね、この本を持って・・・清一さん。」



なんだか、ほっと暖かい気持ちになっていた。


そのころ、みよは墓石の枯れ葉を指で払いながら

「今日は親子三人そろったわね、姉さん清さん、礼子元気ですよ見守ってくださいね。

それにあの子が、森川のお屋敷のある町に転勤して来たのも、何かの因縁かしらね、

清さん、それとも呼んだんですか?」



礼子は、結衣と清一との子供である。

育ての父である、結衣の弟、克巳と妻みよには子が出来なかった為、

礼子を実子として育てていた。そのことを知る人は隣町の産婆、川田米子と、

母みよだけになった。


みよは「この事は、お墓まで持っていきますから」と手を合わせた。



その夜、TVでは、(小説家 村山 誠太郎)の訃報がながれた。

写真の誠太郎は、青い大島紬を着ていた。



美希が言った、

「ママ、この人(ゆいちゃん)ちのおじいちゃんなんだって!」 

「・・・・・」





                 
                          終

   この物語は、フィクションです。

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二人並んで歩くのは、久しぶりだった。

マフラーを直しながら母が言った、「あんたの叔母さんよ、お父さんの姉さんの命日!!」

「えっ、叔母さんの命日は6月のはずじゃ」

「そう本当に亡くなったのは6月、でも(心の命日)は2月の3日なの・・・」

「意味深ですねー、(心の命日)って」

ダラダラ坂を登って参道の入り口にさしかかった時、奥のほうから着物姿の女性が

歩いて来るのが目に入った。

玉砂利を歩いてくるその人は、90才をすこし越えたくらいだろうか・・・

しっかりした足取りで、どこか凛としていた。

私たちに気がつくと、伏せ目がちに参道の入り口を目指している。


その時、後ろから声がして、

「お客さん、お客さんのだろう?これ・・・本!忘れもんだよ!ほら、あの後さ

昼飯に入った食堂のテレビでやってたのよこの人。

一休みするんでシート倒したら、これが見えてさ、見たら「村山誠太郎」だろ?!

なんかの縁だと思ってよぉ、一人送った帰りに、寄ったよ、お宅に・・・。」

運転手は本を渡しながら続けた。

「そしたら、玄関の前で、男の人が、ここに居るから届けてくれって・・・。

お客さんを迎えに来るついでだから。・・・じゃあーオレは、これで・・・。」


背筋に冷たいものが走った。別れ際のあの子の顔と、(逃げられないのね)が、

交互に浮かんだ、指先が冷たく震えている。


「あのぉ、男の人って、どんな人です?」母が訊いた。

「んん・・そうさなぁ〜どっかで見たことあるような気がするけど、

この辺の人じゃないよなあ〜紺色の羽織で・・ありゃ、大島紬だよ。

青の花を持ってたな〜リンドウそうリンドウだ。」


運転手は、先ほどの老女に向かって軽く頭を下げ「門の外でお待ちしてますんで」と、

走って戻っていった。

母は、運転手の話に、幾度かうなずくと、


「やっとお着きになりましたね、ご一緒に参りましょうか・・・。」

誰に言うでもなくささやくと歩き出した。

母にはまた、何か見えているのだろうか?時々、なにか見えてはいけない物が

見えるらしい。

自殺の名所ともなれば、「時々」では、ないかもしれないが、

はっきりと、「それ」を口に出した事は、今日までは無かった。


老女とすれ違う時、軽く会釈を交わす・・・老女の目が、「本」を捕らえると、一瞬

(寂しそうな、それでいてほっとしたような表情)になった・・・。

「母さん知ってる人なの?」

「昔ちょっとね知ってた事もあったかな・・・」

「なんなの今日は、変よ・・・それに母さんその本・・・。」

「いいの、こうなるのは分かっていたの、約束なのよ、後で話すわね、

さあ、お参りしましょう。」


母は、墓の前まで来ると、なれた手つきで線香に火を点け、「本」を供えるとこう言った。

もう綺麗なお花とお線香が供えられていたが、その事には触れず


「姉さん、約束どおり来ててくだすったわよ、(清さん)。」

「母さんせいさんって今のおばあさんのこと?・・・」

その時、叔母さんの名前が無意識に口からでた・・「結衣」」

なんで気が付かなかったろう、叔母の名前は「ゆい」だ。


若い頃東京で、「仕立て」の仕事をしていたが、私が生まれた翌年に亡くなっているので

写真でしか見た事はない。

母は、お墓に語るように話し始めた。

いつもはバスに乗るのだが、

「頭がすっきりしないのと、雨なので、タクシーに乗った。」

白いカバーが掛かった座席に「本」を置く、何気なしにその上に花束を置いた。

いや、うそだ。

もう「その本」は見たくなかったので花で隠したが正解だ。


「お客さんも、墓参りかね?」

「ここに実家があるんです。今日は母のところへ・・・」

どっちとも取らずの返事をした。

「いやね!ほらそこの了念寺に一人、送ったばかりでね。帰りも呼んでくださいよ」

そう言って簡単な名紙をよこした。

海沿いの道を走る。

「あの、そこ!右です・・・・はい、ここで・・」

門の前で、タクシーは止まった。


小銭が無い、「すいません1万円しかない・・・です」

「困ったな、俺もないんですよ、おつり・・・」

「ちょっと待ってもらえますか?母に借りてきますここ実家なんです。」

バックだけ持って、急いで実家に駆け込んだ、

「お母さん、小銭かして、大きいのしかなくてタクシー待たせてるの」


奥から出てきた母は、前掛けで手を拭きながら、私の後ろにチラッと目をやる。

「私一人よ」言いかけたとき、タクシーのクラクションが鳴った。

あわてて戻って、料金を払い、後ろのシートから花束を取ろうとした時、

「本」が目に入った・・・・が、良からぬ考えが過ぎった。


( 見なかった・・・事にしょう。古本1冊くらい何の事は無い、捨ててくれるわ。)


 軽い考えだった。

タクシーは、走りだし左に曲がって見えなくなった。



なんだか(ほっとしている自分がいた)頭の痛いのも、忘れていた。


眼鏡なしで縫い物が出来ると自慢していた母が、眼鏡をかけていた。

「伊達眼鏡よ、似合う?」TVのリモコンのOFFを押しながら母がおどけた。

「母さんその伊達眼鏡!世間様では、(老眼鏡)って呼んでますけど!」

「お付き合いよ!ほら!あたしだけ若いと皆が焼餅やくしね!」

年のわりにはユーモアを解す、粋なばあちゃんだ。

孫のうけもいい。

最近では、インターネットで、仕立ての注文を受けているらしい。

美希とも時々、メールでやり取りしている。


簡単なお昼ご飯の後、母に今日のことを順を追って話した。

明るく冗談を言っていた母の顔色が暗くなった・・・

「どうりでね、それでその「本」は、どこにあるの?」

「それがね、なんだか気味悪くなって・・・タクシーにわざと忘れたの!?」


しばらく間があって「しようのない子だよっ!!まあいいわ、追って着くでしょうから、

出かけましょう」

「お墓?追って着くって誰か来るの?待ってなくてもいいの?ねェ母さん・・・。」

母は、「何処にいても、同じよ!・・・」と、支度を始めた。


雨はすっかりあがって、晴れ間が見えてきた。


                                    つづく

その4 (題名)

  何か「もやっとした すっきりしない」気分なのは、昨日からの頭痛のせいばかりではな

い事はわかっている。

別れ際にゆいの表情が気になっていたのだ。

内心、本を処分することを引き受けたことを、すこし後悔していた。


「ホラーは嫌いなの」言ってはみたものの乗車時間はまだ20分はある。

読んでみようかと思っていると、どんよりとした空から、雨が落ちてきた。

洗濯物を取り込んで貰おうと、携帯電話を探した。

「忘れたのかしら」・・・と思った時バイブが振動した。

「充電してください」の表示の後に、待ちうけ画面の「猫」が消えた。

「これじゃ持ってる意味ないわね」

溜め息をつきながら、本に目をやる、村山誠太郎か・・・・・。

(しおり)は短編の4と5の間に挟まったままだ。

5話・・・・(逃げられない)

6話・・・・(追いかけて)

頭の奥の方で「偶然」の文字が薄くなって消えた。


「いいわ任せて」と言ったものの、このまま網棚に置いて行くのも気が引ける・・

考えているうちに、実家のある駅に着いた。



「母に電話だけしておこう、お昼も一緒に食べたいし・・・」そう思って携帯を探した。

「充電が切れていたんだ。」

公衆電話は・・・・自動販売機の横に2台隠れるようにあった。

1台は故障中、小銭を探すのに手に持っていた「本」を、受話器の下に置いた。


「もしもし・・・母さん?・・あたし!」

「あたしって人は知りませんね!お名前をおっしゃって下さい!」

「もしもし!私、山岡 礼子と申しまして、貴方の可愛い娘でございますが・・・」

「はい!良く出来ました、」


母は海の見えるこの町で和裁の仕事をしながら、暮らしている、

自殺の名所という汚名を除けば本当にいい所だ。


「そう!じゃあ、悪いけど、お花買ってきてくれる?お仏壇とお墓ようにね、・・・

リンドウがあればいいんだけど、この季節じゃ無理ね。」


「今日これから?・・・雨よ・・うん・・はい、じゃあとで・・・」


電話を切ろうとした時、後ろに若い営業マンらしい男が立っているのに気が着いた。

この人も充電切れかしら、名刺を片手に手袋を前歯で引っ張っている。

受話器を戻した時、ちらっと「本」が目に入ったがそのまま歩き出した、

(責任もって・・・)の言葉が追いかけてくる・・・何かにじっと見られているような

気がして胃のあたりが、きゅっと痛くなった。


「あれ」が見ている?・・・気のせいよ・・・。そんなバカな事・・・

言い聞かせるように歩きながら自動改札に切符をいれた。


その時、「あの!すいませーん おくさーん」

・・・・えっ私?

さっきの営業マンだ。


あの?これ、忘れもんすよっ、電話ンとこに・・・!」

渡すが早いが、タクシー乗り場へ走っていった。

頭のおく−のほうで・・「忘れないで・・・!」と聞こえたような気がした。


駅前の花屋で仏壇に供える花束を買う。

「はい、¥1800円です。」

・・・・「すいません、これ捨ててもらえます?」

「いいですよ」受け取って、店員が言った。

「あれぇ。これ(村山 誠太郎)じゃないですか!良いんですか?捨てちゃって

それにほら、サイン入りですよ、・・・あれこの人 危篤状態だって・さっきTVで・・・。

ねぇ、アッちゃん、はい¥200のお返し。」

店員は、奥に居た店主らしき人に目をやると、押し返すように、

花とバックと財布で塞がった手にむりやり返してよこして、

後ろのお客に声を掛け、愛想よく笑った。


私は・・・・・ 黙って店を出た。



                            つづく

その3 (理由・わけ)

 ゆいは、半分べそをかくように言った。

「あったんです。バックの中に・・・・、部活で学校に行った時、譜面に隠すように入っ

てたんです。

私、すぐ兄の仕業だと思いました。

それで兄にメールしたんですよっ。

  ≪ムカツク!おにいちゃん!いたずらはやめてよ!≫

 > んなヒマじゃねえの、オレはっ!

 二浪できねぇだろーよ。お前の感違いだし!!ぜってー!!

 お前 からかっても、何の得にもなんねーし ≫って。



兄じゃないと思ったら本当に気味悪くなって・・・今度は音楽室のゴミ箱に捨てたんです。

そしたら、次の日の朝、用務のおじさんに呼び止められて・・・

(これあんたのだろう?本を捨てちゃいけないよ)って、・・・。

私、訊いたんです、(でもどうして私のだとわかったんですか?)って。

そしたら「名前が書いてあるよ、(森川 ゆい)ってよぉ。

森川の旦那んとこの子だろう?・・・あんた」


「私、書いた覚えないです、本当です。」下を向いた女の子の目に涙が浮かんだ。

それで、用務のおじさんに「どこに書いてあります?森川なんて・・」って聞いたんです。


もうほとんど、泣き声である。

乗客の一人と目が合った。

(きっと説教している母親と、泣いている娘に見えているんだろな。)

ポケットティッシュを渡しながら聞いた。

「それで・・・・」

ゆいは軽く頷きながら、それを受け取り続けた。

「私の名前はどこを探しても書いてありません。ただ・・・「ゆい」としか。

おじさんは、確かに書いてあったと言い張るんです。

(書いてなけりゃ、あんたのかどうやって分かるかい?)とか言って・・・。」

ゆいは、思い切り良く鼻をかんだ。


「それでどうしたの?でも・・・・本くらい持っていてもいいじゃない、

1冊くらい邪魔にはなら無いでしょう?」

「はい、でも・・・この本の主人公は漢字ですけど「結衣」なんです。

「結衣」は、海に飛び込むんです・・・心中です、私、気味悪いし、持っているのいやだ・・・。」


大粒の涙が、本の上に落ちた、3粒・・・4粒・・・本は、吸い取るように涙の粒を、受けた。


「ゆい」は鼻をすすり、ハンカチを探した。

「夏からいい事何もないし・・・もう5回めです、戻って来たの・・・

それで今日バスに置いて来たんです。そしたらおばさんが、拾って・・・届けた。」


「届けた」を2人同時に言ったので、思わず顔を見合った。

ゆいは落ち着いたようで、すこしにっこりした・・・。

「それで、(お願い貰って!)になった訳だ?・・・・いいわ貰ってあげる」

きょとんとした女の子は可愛かった。

「任せて、責任もって引き受けるわ・・・」

「ありがとうおばさん、あっ!次の駅で降ります。ありがとうございます、ほんとすみません。」


駅に着くと、ゆいは逃げるように電車から降り、今度は1度も振り返らず人の波に消えた。

(あんなに急がなくてもいいのに)・・ゆいの後ろ姿を目で追いながら思った。

その時、本が手からすべり落ちた・・・・(置いていかないで)とでも言うように。


降り際、ゆいの唇がほんのすこし歪んだ気がした・・・。





                                つづく

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