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その17
ビワは聡明な美しい姫に育っている。
今は父”ジン”の下、船のスタッフの一人として働いていた。
弟の”キナル”は好奇心の塊で、気が付けばジンがビワに教えている数々の
事を、そのまま吸収している。
船の皆は、「ジン様の幼いときに瓜二つ」と言い、
また大御所様は 「わしにそっくりじゃ」と吼えた。
大御所様と言えば、あいも変わらず「おお狐」に姿を変えては、大きなしっぽを
抱えて、山奥の小さな村に出かけていた。
そうそう・・・キナルだ。
この子が生まれる少し前、地球人特有の「恐竜脳」の破壊は成功していた。
ここで生まれ育つ初めての”男児”が”キナル”なのである。
元気に育つ子等を見ながら
母であるタエは、その複雑な胸中を明かすことなく、勉強を続けていた
誰かに手伝ってもらうことなど出来ない。
その目的を知られてはならない。
ある日のこと、見よう見まねでスクリーンを操作し始めて間もなく、
セキュリティが作動してしまった。
早く何とかしないと誰か来る・・・・。(しかしどこをどうしてよいものやら・・・・)
玉砂利を踏む足音が近づいて来る。
振り向くと戸が開き、入って来たのは・・・・
他でもないチイとビワだった。
「母様、何をなさっているのです?」セキュリティを操作しながらビワがいう。
心配そうな顔でチイが言った。
「ここ数年、タエ様が何をお考えなのか薄々は分かっておりました、チイには本当のことを
お打ち明けくださいまし。口は堅とうございます。
タエ様は お里の様子がお知りになりたいのでございましょう?」
タエはとっさにうそを言った。
「そうです・・・里の母や祖母はどうしているのでしょう、この壁(スクリーン)をどうにかすれば
様子が分かるのでしょう・・・・使い方を教えてください。チイ、お願いです。」
「タエ様それは、禁じられております・・・タエさまとてご存知のはず。」チイは、下を向き小声で囁いた。
それは、この船の中と外の世界とは時空が違う、一日は24時間ではない。
すでにタエの母やばぁばはもうこの世にはいないのだった。
ジンは、そんな信じがたいこの事実を外から来た嫁様たちには「理解不能」と考え
スクリーン越しに外の世界を見ることを禁じた。
柱の影にいたキナルが言った
「父様には言わないで・・・チイ、 母様が叱られると可愛そうだから。」
キナルの言葉に、自分やタエと同じ耳をもった男の子の優しさが、いとおしいと思った。
「キナルさま、分かっております。ジンさまにはご報告はいたしませんよ。」
実際、ジンはタエを叱ったことは一度もないのだが。
その日ジンと二人で見た船の天井には夕焼けが映し出され、
風は心地よい5月のそれだった。
ジンが言った。
「何を考えている?」
「いえ、なにも・・・」
「会いたいか・・・レンに・・・」
「・・・・レン?・・・・そう、レンです。赤子の名はレン・・・・ああなんと言うこと・・・・・。」
タエは思い出した。
自分が初めて産み落とした長男の名前を・・・・。
夜も日もなく乳を含ませ、抱いてあやした我が子の名を・・・・。
「会いたいと申しましたら、会えるのでございますか?」
遠くを見ていたジンの顔がくもった。
続く
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