Way back to...

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1.first contact

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first contact 5

「ああそうそう、ひとつ言っとかなきゃいけない事がある」
 
急に真面目な顔になって重々しく宣言するシヌに、ユファはおもわず背筋を伸ばした。
きょろきょろとあたりを見回してから、シヌは身を乗り出してユファの耳に口を寄せると小声で囁く。
 
「俺がA.N.JELLのシヌだってこと――シヌと知り合いだってことは人に言わないって約束して」
「…え、あの…」
「俺にとっても君にとってもリスクが大きいからだ。わかるね?」
「なんとなくは」
「うん。じゃあ約束してくれるね?」
「ハイ」
 
ユファが素直にこくっと頷くのを確認すると、シヌは笑って頭をなでた。
 
 
そこから先は、たわいもない話に延々と花が咲いた。
 
基本的に仕事で忙しく、世間話をするような相手もいない――テギョンもジェルミもミナムも、忙しいという点では同じだったし、どうしても顔を合わせれば音楽の話になってしまっていた――シヌにとって、ユファの話はとても生き生きとしていて、面白かった。退屈に飽きたシヌの目には、ユファがとても魅力的に映った。
 
ユファにとってもそれは同じで、勉強ばかりしていた自分とはまったく違う世界に生きるシヌという存在がとてもまぶしかった。そして、出会ったばかりのまぶしい人が、自分の話を楽しそうに聴いてくれるのが嬉しかった。
生まれて初めてやってきた韓国という地、これから始まる新生活に覚えていた不安が、しゅるしゅるとほどけていくような気さえする。
 
全く違う世界に住む2人の話は弾み、ふと外を見れば空は鮮やかなオレンジ色に染まっていた。
 
 
 
「あ、もうこんな時間・・・」
「ホントだ。じゃあそろそろ帰ろうか」
 
予想外に長いこと話しこんでいたことに気付き、あわてて席を立つ。
でもその前にやっておくことを思い出してシヌがユファに声をかける。
 
「ね、携帯かして」
 
きょとんとしているユファに向かって右手を差し出し、左手にある自分の黒い携帯を振って見せる。
 
「アドレス。交換しないと、もう連絡つかなくなっちゃうよ?」
「ああ、なるほど」
 
ごそごそとカバンをあさって白い携帯を引っ張り出し、シヌに渡す。
シヌは背面を合わせて赤外線通信をしてアドレスを交換すると、ユファの携帯に自分の名前を打ち込んだ。
 
「…シヌオッパ?」
 
はい、と返された携帯のアドレス帳を確認してユファは小首をかしげた。
 
「あの…」
「ん?」
「なんで『オッパ』なんですか?」
「『オッパ』の意味は知ってる?」
「えと、old brotherですよね」
「あ、そこ英語なんだ」
「だって日本語言ってもシヌさんわかんないでしょう?」
 
それもそうだ、と笑う。
 
「これからはさ、『シヌさん』じゃなくて『シヌオッパ』って呼んでよ」
「兄妹じゃないのに?」
「うん。そういうもんだから、いいんだよ」
「ふうん…わかりました、シヌオッパ」
 
納得したのかしていないのか、微妙な表情で頷くと、ユファは携帯をカバンにしまった。
 
そのまま店を出て、駅でわかれる。
 
(――シヌオッパ、か)
 
オッパという響きは耳に心地よい。
本当はミニョに呼んでもらいたくて――でもそれは結局かなわなくて。
けれど、いつまでもミニョにこだわっていては先に進めない事もシヌには痛いほどよくわかっていた。
どうしたってミニョは、自分のものにはならないから。
 
だから、先に進むために、ユファにオッパと呼んでもらった。
半ば強制的に呼ばせたようなものだったけど、自分をオッパと呼んでくれる人ができたことが素直に嬉しい。
メトロに揺られながら満足げに微笑むと、シヌは座席に体を沈めて目を閉じた。
 
 

first contact 4

シヌの笑いがおさまると、今度はユファが尋ねる番だった。
 
「じゃあ次は、シヌさんのこと、教えてください」
「うーん、何が知りたい?」
「そうだなぁ…ではまず…何歳ですか?」
「23だよ」
「あれ、そんなに若いんですか?私と大して変わらないじゃないですか」
「君こそ、失礼だぞ」
「ゴメンナサイ」
 
正直な感想に苦笑しながらコーヒーカップを傾ける。
俺ってそんなにふけてるか?と少々心配になったりもしたが、あえて聞くのはやめておく。
 
「あ、じゃあ大学生だったり?」
「いや。もう立派な社会人だ」
「へーぇ。何のお仕事されてるんですか?」
「音楽関係、っていえばいいかな」
「音楽関係…歌手?」
「うーん…」
 
実のところ、シヌは迷っていた。
A.N.JELLのメンバーであることを言うべきか、黙っておくべきか?
せっかく「普通の人」同士として知り合えたのだから、できれば『ただのカン・シヌ』として接してもらいたい。
だが…そのために嘘をつくのも心苦しい。
どうしたものか。
 
そういえば…ユファは帰国子女だと言っていた。
だとすれば、A.N.JELLの事を知っている可能性は低い。
ましてや彼女がいたのはアメリカで、自分たちはまだアジアでしか活動していないのだ。
 
それにユファは、たとえ知っていても、人気絶頂のアイドルというフィルターは今更かけたりしないような気もする。根拠はないけれど。
シヌはその可能性に賭けることにした。
 
「うん、まぁそんなところ。A.N.JELLというバンドで、ベースを弾いてる」
「えーんじぇる?」
「そう。A、N、J、E、L、Lって書いて、A.N.JELL」
「うわぁ…かっこいいです」
「それはどうも」
「聴いてみたいなあ…A.N.JELLの曲」
 
そう言って無邪気に笑う彼女は、案の定A.N.JELLを知らないらしかった。
読みが間違っていなかったことに安堵する。
 
「ねぇシヌさん。A.N.JELLはテレビにでたりもするの?」
「あぁ…うん。それなりにね」
「ってことは実はシヌさんって有名人だったり?」
 
いたずらっぽくそう言うと、ユファはじっとシヌを見つめた。
 
「…だったらどうする?」
 
黒い大きな瞳に射抜かれるようで、柄にもなく鼓動が速くなるのがわかる。
動揺している自分を悟られないように、努めて平静を装って、ニヤッと笑ってみる。
 
「だったら…テレビ観てたらシヌさんの、A.N.JELLの歌が聴けるってことですよね」
「あぁ」
 
そうきたか。
一瞬カマをかけられているような気もしたけれど、それは思い過ごしなんだろう。
 
 

first contact 3

「仲良くなったしるしに、君のこと教えて?」
 
元来どちらかと言えば冷淡で、他人に興味を示すことが少なかったシヌだが、なぜだか目の前にいる少女のことは気にかかる。
 
ミニョに似ているから?
 
確かに…短めの黒髪やふんわりした雰囲気、まぶしい笑顔、そして街中で派手に転ぶようなそそっかしさは似ている、と言えるかもしれない。たぶん年齢も同じぐらいだろう。
 
けれど、それだけじゃなく――この少女には自分を引き付ける何かがあった。
それが何かはわからなかったけれど、今のシヌにはこの少女の存在が捨ててはおけないような気がしている。
 
「私のことですか?特に面白くもなんともないですよ?」
 
それでもいいか、と上目づかいで確認を取るようにシヌを一瞥してから言葉を続ける。
 
「ええと…イ・ユファ、18歳。あ、韓国では19歳っていうんですよね。父は韓国人、母は日本人で日本生まれの日本育ち。高校の三年間はアメリカで暮らしてました。父の転勤で、先日初めて韓国に来て、4月からソウルで大学生です」
「へぇ…学部は何なの?」
「医学部です」
「うわ、じゃあ頭いいんだ?」
 
からかうように言って顔を覗き込む。
 
「…からかってますか?」
 
と唇を尖らせて怒る様子がなかなか愛らしくて、シヌは笑みを深めた。
 
「いや、だって…医学部って難しいだろ?それに、日本とアメリカでそだったなら、日本語も英語もペラペラなんじゃない?」
「まぁ日常会話に差し支えないレベルには」
「…ほらやっぱり。それってすごいことだよ」
「………。」
「ん、どうした?」
「その…ずっと海外で育ったから…韓国語がうまく使えなくて…一応父が韓国人ですからしゃべれない事はないんですけど、日本語や英語に比べたらまだまだ…」
 
だんだんしりすぼみになっていく。
本当に恥ずかしいのか先ほどより一回り小さくなったように見えるのは気のせいか?
 
「…くっ。ぷぷっ」
「あー笑った!笑いましたね!」
 
コンプレックスなのに…と悔しそうに唇を尖らすユファを見てひとしきり笑った後、目じりを拭いながらシヌはおかしそうに言った。
 
「じゃあ俺が教えてあげようか?韓国語」
「え、いいんですか!?」
 
ガバッと身を起こし、シヌを見る。その瞳は嬉しそうにキラキラ輝いていた。
一瞬にして表情が変わったユファを見ながら口の端をきゅっとあげる。
口を開くと思わず本音がこぼれ出た。
 
「…君ってホントに……面白い子だ」
 
初対面の女の子に向かって面白いとは何ですか、失礼です、と声を荒げるユファを前に、さっき引っ込めたはずのの笑いが再び爆発した。
 
 
 
 

first contact 2

「いたたたた…」
 
むくり、と起き上ったその塊の傍らにしゃがみ込み声をかける。
 
「大丈夫ですか?」
 
いきなり話しかけられたことに驚いたのか女性はぴくっと身を震わせ、シヌを見つめた。
正面から見るとまだ幼さが残る顔で、女性というよりは少女と言った方がいいかもしれないとシヌは思う。
少女は赤面してしばらく口をパクパクさせたのち、
 
「だいじょうぶ、です・・・」
 
と消え入るように呟いてうつむいた。
奇跡的にけがはしていないようだけど、このまま道に放り出していくのもどうかと思うし、かといって長いすればファンに見つかるとも限らない。
どうしたものか・・・と少女に視線を落とす。
 
「あ、ヒール」
「え?」
 
シヌの声に反応して少女は自らの足を見る。
 
「あぁっヒールが・・・」
 
ヒールが明らかに不自然にぶら下がっているパンプスを手に涙目になっている少女を見て、
 
(事故多発地帯…)
 
少し前にどこかで聞いたような単語が頭をよぎるシヌだった。
 
 
30分後、とある喫茶店にて。
 
「ほんとに、すみませんでした…」
 
カフェオレのカップを両手で抱え、少女は向かいに座るシヌにぺこり、と頭を下げる。
少し背の高いテーブルの下で揺れる脚の先はあの後シヌに見つくろってもらった真新しいダークグリーンのパンプスに包まれている。
 
「もういいって。というかそれ、もう何回目?」
「…へ?」
「すみません、ってあやまるの」
「あ、えっと…8回目、かな?」
 
冗談で聞いてみたのに、存外に早い答えが返ってきて驚く。
 
「数えてたの?」
「いえ、数えてたわけじゃないですけど…まぁなんとなく。たぶんあってます」
 
どうだ、といわんばかりに胸をそらす少女を見て、思わず頬を緩める。
なんか…誰かさんに少し似ている気もする。
 
「…そういえば、名前聞いてなかったね?」
 
あわてて近くの店に駆け込んで靴を探したため、名乗ることさえ忘れていたのだった。
 
「あっそうでした!私は…イ・ユファといいます。あなたは?」
「俺は…カン・シヌ」
 
名前を言うのを一瞬ためらう。
もしここで自分の正体がばれたら?と思うとなかなか名乗ることはできない。
けれど。そんな心配は全く無用で。
 
「カン・シヌさん…よろしくお願いします!」
 
優花(ユファ)というその名の通りの花のような微笑をうかべて、目の前の少女は右手を差し出す。
その様子はアイドルに対するもののようには見えなくて、内心ほっとしながらシヌはその手を取った。
 

first contact 1

「もう春になるのか…」
 
ぽつり、と呟くとカン・シヌは帽子をかぶりなおして歩き始めた。明洞の街は相変わらず賑やかで、シヌは喧騒に飲み込まれるようにして歩く。
 
「最後に明洞に来たのは、あの子を追いかけてきたときだったな」
 
自嘲気味に微笑むと、目的地が定まったのか、進行方向を変えて歩き出す。
カルグクスの店…アイスクリーム店…そして男性ファッションブランドの店。それぞれを懐かしそうに眼を細めて眺めながら歩く。
しばらくしてシヌはふと立ち止まった。視線の先には黒いスプリングコートの女性が一人。肩に大きな紙袋を提げている。
 
「ここで『少し引き返してごらん』って言ったんだ」
 
目の前の光景があの時のミニョと重なる。
あと一歩――あと一歩のところで、ミニョはテギョンに連れ去られてしまった。
 
あと一歩でよかったのに…
 
どうしても埋まらなかった最後の一歩に思いをはせて、シヌは目を閉じる。
 
テギョンがミニョを捕まえたあのライブの後、シヌたちは2人を祝福した。
すれ違い続けた2人がやっと幸せになれると思うと嬉しかったし、やるだけやってだめだったから、ミニョを手放すことができた。
これからもそばでミニョの――テギョンとの幸せを見守る『馬鹿な男』に徹する覚悟を決めたはずだった。
それなのに。
 
彼女のことを考えると胸が痛む。
あれからすぐミニョはアフリカに発ったし、A.N.JELLの仕事も増える一方だったから、ミニョを思い出すこともほとんどなかった。
けれどこんな風に――ふとしたことから封印していた想いが解けてしまうと、やっぱり胸がちりちりと痛むのはどうしようもない事実で。
 
どうして俺はこんなにも不器用で、こんなにもあきらめが悪いんだ――
 
「きゃぁぁぁああああっ!」
 
どすっ。
 
甲高い悲鳴と何やら不穏な音で、シヌのもやもやした思考は破られた。
目を開け前を見ると、先ほどの女性はもういない。
 
「…ん?」
 
否。いないと思ったのは思い違いで、数メートル先の地面には黒い塊――もとい、女性がうずくまっていた。
 
もしかして…転んだ?
 
噴きだしそうになるのを必死でこらえて、どうやら盛大に転んだらしい女性を助け起こすべく踏み出した。
 
 

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