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■第6史:暗黒の黙示録【4】■
その後、先ほどの戦いで心身共に疲れきったシオンは、
ベッドの上から窓辺の奥に広がりゆく雄大なゼラの大自然を、
身を乗り上げながら、何気ない視線で静かに眺めていた。
その視線の先には、数多に渡る原生雨林が一面に広がっており、
更に遠く【奥】を見渡せば、はるか古よりこの世界に存在しては滅び去ったと言われている、
幻の古代文明-キルクコルク-の遺跡郡が点々と小さく群がっている景色が見て取れた。
「さて、そろそろ本題に入る前に先ず約束通り、
君にこの能力のことを話さなければならない時が来たようだ・・」
ラシードはそう言うと、彼の胸ポケットからもう一つのクロニクル・ボールを取り出した。
漆黒に渦巻くそのボールの中身は、恐怖と絶望を彷彿させるかのような邪気【オーラ】を放っていた。
そして、白髪の少年は再び手を前に翳すと、少々の握力を加えながらボールを割った。
“パァーン!!”
ガラスの砕ける音は、いつもと違って、高ぶる感情の如く、
激しく衝動的【律動的】に崩壊するかのようにして辺りへと散っていった。
瞬間、闇に覆われた空気は、しだいに辺りの空間【場面】を取り巻いてゆき、
部屋の中は忽ちの内にして、原始宇宙とでも言わんばかりようなの景色に染め上げられていった。
「す、すっげぇ・・・」
少年シオンは、この時初めて宇宙というものの神秘性をその目で垣間見た。
その人工景色【仮想空間】は現在で言えば、プラネタリウムに近い機能に似ているといったところだ。
二人の少年は、漆黒に渦巻く、混沌の闇の中央に空中浮遊するかのようにして立ちすくんでいた。
そして、ラシードは再び手を大きく翳すと
「すべてのオークの創生者よ、この地に新たなる希望と、
新たなる災いを齎したまえ・・」
とメガロス語で何やら、謎の呪文のような言葉を唱え始めた。
すると、それに呼応するかのように、混沌とした虚無の空間の中から、
ビー玉ほどの明かりが照り出し、暫くもしない内に、
何かしらのエネルギーの寄せ集めにより、一冊の古びた魔導書のようなものがその中から現れた。
かなり古びた本のようではあるが、読めないまでには至っておらず、
虫食いの跡が多少目立っているのが、少々気になる所だ。
光り輝く黄金の書物は、どこか異質な雰囲気【オーラ】を帯びていた。
「な、なんなんだ?その薄汚ねぇ本は・・?」
古代書から放たれる不思議な光に顔面を照らされながらも、
シオンが寂しそうな声で呟くようにしてラシードに問いかけた。
「・・古代聖書-クロニカルデ-。
僕の家・・オルトロス一家に代々から伝わるとされる、幻の古代文献の一つだ。
う、薄汚くて悪かったな・・。
シオン、心して聞いてほしい。今から語る史話は、紛れもない真実【史実】。
俄かには信じ難い話かもしれないが、
この本には有史以前・・及びそれ以降の歴史が記載されている。
そう、この世界の成立における記憶【歴史】・・メガロスとゼラの分裂に至る秘話がね」
ラシードのその言葉を前に、シオンは驚きの意を隠せず
「なんだって?!この世界の歴史だと?!
そ、そんなもん、存在していたとでも言うのかよ・・!」
と深手を負いながらも、彼の話題に深く関心を寄せ始めた。
「ああ・・但し、君達が教えられてきたような、表の史話とは違って、
これは、とある少数民族によって今世代にまで語り継がれてきた、暗黒の黙示録。
その存在はおろか、細やかな詳細すら知らされていない、極秘中の極秘情報。
まぁ、強いて言うならば、メガロスとゼラの分裂史を物語った、闇の史記とでも言っておこうか・・」
ラシードは本を片手にしたまま、何やら真剣な面持ちで語り始めた。
「ラッシー・・おめぇ、一体何者なんだ?それに、メガロスとゼラの分裂史話だって??
あの幻の古代大陸メガロスなら、今から十年前に皇帝エレクターの指導の下、
ローレスの前身である、グルタニカの軍勢によって滅ぼされたって、爺ちゃんから聞いたぜ」
それに対し、驚きの眼差しを浮かべながらシオンが言った。
ローレスの前身であるグルタニカと天空都市との間に起きた戦争、
通称『十年戦争』と呼ばれたこの戦【紛争】は数多くの死者を出しておきながらも、
その勃発に至った経緯、及び戦線状況はゼラの歴史ではかなり捏造されている。
そのため、多くの下級階層の貧民達は支配階級の人間にうまく踊らされ、
情報操作されているということに気づいていない場合が多い。
「フン・・それが、帝国が公【人民】に公表した、表側の史話か。
まぁ、このような特別な情報は一部の知識人達が秘蔵【独占】してきた為、
まだ真実を公に明かしてはいないが・・しょせんは、
人民を意のままにコントロールするための、イデオロギーにすぎないということを忘れるな・・」
ラシードは投げつけられた言葉のキャッチボールを、
軽く返すかのような口調で静かに呟いた。すると、シオンがその横で
「い、いデおーろギ??な、何だそりゃ?!うめぇ、モンスターか何かか?」
と食いかかるようにして、意味不明な質問を彼に浴びせかけた。
(こ、こいつの頭の中、どうなっているのか、一度でいいからカチ割ってみたいな・・)
シオンの天然な性分に心底あきれかえったラシードは、
冷や汗をかきながらも、心の中で彼の頭の構造に疑問の念を抱いた。
ユーモアのセンスはなかれど、心の何処かで彼の天然なところ【素質】は気に入っていたようだ。
「フン・・まぁ、いい。では、僕がこのゼラの歴史・・
血塗られた大陸における真実を今から解き明かしてやろう。
これは千年に渡って、決して公に語られることのなかった幻の秘話。心して聞くがいい・・」
少年ラシードは、古びた魔導書を一ページめくると、
冷静沈着な口調で静かに切り出しはじめた。
原文ではメガロス語であったが、ラシードはそれをゼラ語へと翻訳しながら
シオンに読み聞かせていくという形で対話が行われた。
章の1:始まりの歴史
我らの世界は、かつて六の大陸国家によって支配されていた。
科学「技術」が精神「心」を上回る時、神罰が下されるのは自然の理である。
世に言う、幻の六大陸は、一夜の神罰によって海底奥深くへと沈められた。
しかし、下された神罰によって、かろうじて二つの大陸が生き残り、
人々は新たな文明国家を再び、其処へ築き上げていった。
かつて、バラバラに引き裂かれた六つの大陸は、
再び二つに引き裂かれていったのだ。
そう、我らの歴史は何度も同じ過ち「分裂」を繰り返し続けてきたのである。
後に生き残った二つの大陸は、月日が経つにつれ、
独自の文化を築き上げていき、再び文明の頂点「繁栄期」にまで登りつめた。
地底に建立されし要塞都市、天空に君臨する古の古城。
二つの勢力は、石に秘めたる魔力を悪用した挙句、
分裂した二つの国家は、再び対立の道を歩み始めた。
氷晶231年、強大化してゆくメガポリアの侵攻は、日に日に激しさを増してゆき、
ルシアンの民は終に苦渋の選択を強いられざるを得なくなっていた。
敵側の勢力は、空中兵車ギナを含め、機械兵数百余万。
それに対する、我が地底大陸の軍事力は、
貧民(ザッグ)を合わせて、数千余人。
戦況は歴然の差である。
そのため、我々は再び、神の力にすがらざるを得なくなっていた。
かつて、数万年前、かの六大陸を一夜の内にして滅ぼしたと言われる、神々の遺産。
はるか太古の大昔より、我々人類が自らを滅ぼし、
幾度も自らを破滅「自滅」へと追いやった古の古代兵器。
彼が再び解き放たれし時、新たなる時代が終わりを告げる。
そして、時代の終わりは、はるか悠久の太古より、
幾度も繰り返されてきた。
その時、天は崩壊し、地は瞬時にして死の炎に包まれた。
それは、正に悪魔の名に相応しいほどの破壊力であった。
彼が大地に解き放たれし時、数多なる命「オーク」は灼熱の炎に包まれ、
一瞬の内にして、無へと還らされた。
悪魔の名は・・アイドロン。
光る闇にして、終焉の使者。
破壊の神であり、破滅の悪魔である。
「神?悪魔?アイドロン・・??いったい、何のことだ?!
そんな記録、今までに一度も聞いたことがねぇッぞ!」
仰天したシオンは思わず、素っ頓狂な声で叫んだ。
「・・戦争だよ」
ラシードの口から返ってきたのその一言は、ざわめく辺りの空気を一瞬にして黙らせた。
それに続き、沈黙する空気の中で、白髪の少年は再び静かに切り出し始めた。
「あえて言うならば、核戦争だ。僕達人類は、何度も核戦争【同じ失敗の繰り返し】で滅びたんだよ。
今からおよそ一千年前・・この大陸・・いや、全世界を舞台に大規模な核戦争があった。
そして・・この戦争によって、一つの時代が・・僕達の歴史【記録】から姿を消していった。
否、かき消されたと言っても過言ではない。
キルクコルク。ゼラ大陸に住む人間であれば、一度はこの名称を聞いたことがあるだろう。
今から約一千年前、この世界に存在したと言われる、幻の古代文明。
かつて高度なテクノロジーを誇っていた文明大国がなぜ、一夜の内にして滅び去ったのか・・。
謎の真相は、全て古代文献にありのままの形で記されていたよ・・」
「そ、それじゃあ・・まさか!!」
以外な結末を前に、シオンは言葉を詰まらせた。
つづく
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