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長期治療を支えるきめ細やかな薬物療法が最大のポイント
東京女子医科大学附属 脳神経センター所長 岩田誠 先生 東京女子医科大学病院 薬剤部副部長 武立啓子 先生 パーキンソン病の四大徴候岩田 パーキンソン病に特徴的な症状として、何もしていないときに手足がふるえる「静止時振戦」、全身の筋肉が硬くなり姿勢が前かがみになったりする「筋強剛」、無駄な動きも必要な動きも小さくなってしまう「無動」、さらに転びやすくなったり、すぐには止まれなくなる「姿勢保持障害」を加えた四大徴候が知られています。さらに自律神経系でも同じような変性が生じてくると考えられ、さまざまな自律神経症状が起こってきます。ほぼ100%の患者さんでみられる便秘のほかに、起立性低血圧、汗をかきにくくなり皮脂の分泌が強くなるために起こる顔のてかりなどがよく知られています。最近では、夜間の頻尿もパーキンソン病の症状の一つと考えられるようになりました。
武立 精神症状が現れることもありますね。
岩田 ええ。なかでもうつ状態が前面に出てくるケースは少なくありません。発病から長期間経過した症例で知的能力の低下が認められることもありますが、これはパーキンソン病そのものが原因なのか、あるいは高齢の患者さんでほかの疾患が加わってきているのか、まだ結論は出ていません。
薬物療法のスタートは機能障害が現れてから武立 治療薬といいますと、欠乏したドパミンを補充するために、その前駆物質のレボドパ製剤がこれまで繁用されてきましたし、抗コリン薬なども使われていますが、近年、ドパミンアゴニストの処方が増加していますね。
岩田 線条体はドパミンと、それに拮抗するアセチルコリンの作用を受けています。この二つの神経系のバランスがとれていれば随意運動はうまくいくのですが、ドパミンが減少するパーキンソン病患者さんでは相対的にアセチルコリンの作用が強くなり、それがさまざまな症状、とくに運動症状に関係していると考えられています。したがって治療の主目的は、そのバランスをよくすることになります。かつてはアセチルコリン系の働きを抑制する抗コリン薬しか治療手段がありませんでしたが、30年ほど前からレボドパ製剤によりドパミンを補う治療が行われるようになり、治療成績は向上しました。ところがレボドパ製剤を長期間投与することで、症状の日内変動など、いろいろな不都合が生じてくることから、併用療法などの必要性、さらには有用性が明らかにされてきたわけです。・・・米国ではすでに、エビデンスに基づくガイドラインが示されています。ところが、米国では日本で認可されていない薬剤や、保険適応が認められていない使用方法などが採用されているため、そのままわが国の医療現場に応用することはできません。そこで、日本の患者さん向けのガイドライン作成に向けて、2002年春に日本神経学会で試案が作成されました。専門医らの意見を集約した後、2002年秋以降に正式に発表される予定です。
このガイドラインの最大の特徴は、パーキンソン病と診断されてもすぐに治療する必要はないと明確に示しているところです。疾患そのものに対する原因治療はなく、あくまでも対症治療が行われている現状においては、機能障害が現れ、日常生活に支障をきたすようになってからはじめて薬物療法の対象と考えるべきだということです。
レボドパ製剤かドパミンアゴニストか岩田 薬物療法のスタート時の選択としては、レボドパ製剤あるいはその他の薬剤に大別されますが、日本神経学会のガイドラインでは、最初にドパミンアゴニストを使用することを推奨しています。ただし、高齢で痴呆のある人の場合には、ドパミンアゴニストでは副作用などの理由でコントロールしにくいので、最初からレボドパ製剤を用います。単剤で十分な効果が得られない場合には、両者の併用を行います(図1、2)。
武立 レボドパ無効例のなかには、ドパミン受容体の感受性が低下している例もあると聞いております。今後はドパミンアゴニストを主治療薬とするのが標準的な治療法となりますね。
岩田 ドパミンアゴニストからスタートして至適投与量まで増やし、レボドパを追加することで、レボドパに起因する副作用を抑制することも期待できます。
武立 ところで、レボドパ長期服用に伴うwearing-off 現象などの症状の日内変動は、血中濃度の急激な変動が原因といえますか。
岩田 血中濃度の維持は非常に大切ですが、それだけが原因ではなく、ドパミン受容体の感受性の変化なども関連してきます。たとえば、on-off 現象などは血中濃度が十分保たれていても起こってきますし、薬の効き初めと効き終わりのころに突然不随意運動が起こってくるケースもあります。いずれにしても、レボドパ製剤の長期服用例では血中濃度が不安定になって日内変動が大きくなるので、投与量の増減だけでなく、服用回数を増加するなどの工夫により、レボドパの血中濃度を調節します。それでも、服用する時間帯や日によって、血中濃度の上がり方が微妙に異なるなど、なかなか対応の難しいケースが多いのもパーキンソン病の特徴です。
武立 確かに毎日同じように服薬されていても、日によって症状が大きく変わる患者さんもいらっしゃいますね。ちなみに、血中濃度を変動させる要因としては、どのようなものが大きいとお考えになりますか。
岩田 一番影響が大きいのは食事だとされています。とりわけ蛋白質の多い食事の後には、消化されたアミノ酸と競合するため、脳内に移行するレボドパの量が少なくなるのです。そもそもレボドパは、血中のドパ脱炭酸酵素によって脳に到達する前にドパミンに代謝されてしまうものが少なくありません。そこで、現在使用されているレボドパ製剤のほとんどは、ドパ脱炭酸酵素阻害剤との合剤として、ある程度の血中濃度を維持できるように工夫されています。
ところが、代謝が抑えられたレボドパは、もう一つの代謝経路であるCOMT(catechol-O-methyltransferase)によってどんどんドパミンではない物質に変化してしまうという具合に、ドパミンの代謝経路は非常に複雑で、それが薬物療法の難しさにつながっているといえます。
武立 米国では、そのCOMTの阻害薬が市販され、ガイドラインにも盛り込まれていますね。
岩田 レボドパ製剤の場合は、服用のタイミングがわずかにずれただけでも効き目が異なってくるので、患者さんにとってはそれが精神的なストレスとなり、余計に効き目が低下するといったことも起こってくるのです。そういう意味でも、作用時間が長く、食事の影響を受けることもないドパミンアゴニストからスタートするのは、非常に理にかなっていると思います。
レボドパ製剤とH2ブロッカーの併用には要注意武立 薬物療法中に、相互作用も含めて何かお気づきの点はありますか。
岩田 メトクロプラミドなどのドパミンアンタゴニストとの併用禁忌はよく知られていますが、レボドパ製剤は酸性下でなければ溶けないことから、H2ブロッカーとの併用にも注意が必要です。パーキンソン病患者には胃潰瘍が有意に多いとのデータもあります。
武立 それは添付文書にも記載されていない相互作用です。高齢の患者さんでは低酸状態になりやすいことから、塩基性のレボドパの吸収が悪いという可能性もありますね。
岩田 そのとおりです。また同じ理由で、胃切除患者さんでも十分な効果が得られませんので、レモン果汁など酸と一緒に服用したり、粉末化して服用するなどの工夫が必要になります。
武立 私たち薬剤師が服薬指導を行う際にも、その点には今後留意する必要があると思います。先ほど、メトクロプラミドなどのドパミンアンタゴニストが禁忌というお話がでましたが、外来で薬剤性パーキンソニズムの患者さんに遭遇されることは、多いのでしょうか。
岩田 パーキンソン病ではないかと外来を訪ねてこられる患者さんの10〜20%といったところです。20年ほど前に比べると、その数は減ってきています。
武立 原因薬のうちシサプリドやフルナリジンなどの薬剤が一部製造中止となったことや、薬剤性パーキンソニズムが注目されるようになったことも、減少した要因かもしれませんね。
岩田 そうですね。ただし、薬剤性パーキンソニズムの患者さんのなかには原因薬を中止しても症状が完全に改善されず、パーキンソン病を発症してしまう方がみられます。このようなケースは、潜在的にパーキンソン病の素因をもっている患者さんの発症を薬剤が促した結果と考えられます。ですから原因薬を中止して症状が軽減したらよしとするのではなく、経過を観察していくことが大切です。
武立 それは大変興味深いお話です。私たちも併用薬のチェックには十分注意していきたいと思います。
薬の中断を一番恐れるべし武立 治療が長期にわたり、また合併症の頻度も高いことから、患者さんやその家族の方へのさまざまな指導がきわめて大切になると思います。とくにどのような点に注意すべきでしょうか。
岩田 薬の中断は命にかかわるということを徹底して指導することが何よりも大切です。 たとえば高齢の患者さんで、痴呆症状などのために家族が薬の管理をしているような場合には、とくに注意が必要です。家族が急に病気になったり、事故に遭ったりすることで、薬が中断されてしまう情況が起こりうるからです。日常的に薬を管理している人に万が一のことがあった場合の対応まで、事前に考えておく必要があります。
患者さん自身が消化管の手術を受けて、その後薬を服用できなくなるケースも危険です。事前に打ち合わせができる場合はまだいいのですが、緊急に手術せざるを得ないときには、非常に困ります。
武立 お薬をきちんと服用できる環境を、家族をはじめ周りの人の協力で整えておかなければならないということですね。」
To be continued...
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