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しばらく無言で睨みあったが、朗らかな表情でむこうから切り出してきた。
「ははは。そんな警戒しないでくださいよ。隣国同士仲良くしましょう。」
そういって差し出された右手。
私は笑顔のまま左手を差し出し、握手を交わす。
「これはこれは、失礼しましたわ。リュッチュス閣下・・・。」
触れた彼の右手は驚くほど冷たかった。
手を離してごく自然にまた微笑む。
「・・・私は衣装を着替えなきゃなりませぬ。失礼いたしますわ。」
そういって彼に背を向ける。
こんな下衆野郎といるなんて吐き気すらしてくる。
足早に去ろうとしたとき、彼の笑い声が聞こえてくる。
それが癪で振り返ると、気に食わないほどの笑顔で笑っている。
「・・・何か可笑しいところでもございましたの?」
「はっはっは。いや、違うんだよ。あまりにも女王陛下の頭が良いから思わず圧倒されてしまったのさ。」
「お褒めの言葉と解釈してよろしいのかしら?」
「そうだねぇ。君のその眼は確からしい。・・・怖いなぁ。君がこの大帝国の頂点に立つなんて。世界を揺るがしてしまうかもしれないよ。・・・・・アリンディ様のときと全く同じだ。」
その時、彼の左手にあったグラスが床に落ちた。
グラスは割れ、赤ワインは飛び散りカーペットに染み込む。
まるで血のように。
すぐさま使用人が駆けつけ片付けに入る。
そんな使用人には目もくれず彼はじっと私を見る。
顔は穏やかに笑っているのに、目は殺気を放っている。
その目で私は悟る。
きっとこの男は全て知っている。
私の考えていることも、私の感情も、全部知って先を見通している。
「・・・貴方、今その足で立っている地がどこかお分かりですこと?」
「あはは、怖いですなぁ。」
「ここを大帝国ヴィステーガと知ってでおいでなら、あまり挑発はされないほうがよろしくてよ。」
「そのようですなぁ。失礼しました、女王陛下。」
「・・・では、失礼いたしますわ。」
再び背を向けて歩き出す。
パーティ会場を出ると衣装やメイクの準備を済ませた使用人が待っていた。
私は大人しく着替えをする。
「お嬢様、シャルルッテお嬢様。」
準備が整い、控え室で待っているとデュパッチが入ってきた。
「・・・何かしら。」
「ルピックス様とウォンダお嬢様が来ております。」
「・・通して。」
デュパッチの後ろからひょっこり現れたのはウォンダ姉様とルピックス様だった。
ルピックス様は以前会った時より少し髪が伸びた気がする。
「シャルルッテ女王陛下。お綺麗ですよ。」
「ありがとうございます。しかし、そのようなお言葉はウォンダ姉様に言って差し上げてくださいまし。」
笑顔でそういうとウォンダ姉様が照れたように顔を赤く染めた。
「シャル!私をからかってないかしら!」
「いいえ。からかってなどいませんわ。」
「妹君に当たるのはよしたまえ、ウォンス。」
「ルピックス!」
二人はふざけながらも笑いあっている。
本当に仲の良い婚約者だ。
そんな二人を見ていると、なんだか心が和らいでいく気がした。
「・・・お嬢様、どうかなさいましたか?」
デュパッチはすぐに私の異変に気付く。
長年一緒に過ごしたのは伊達じゃないらしい。
「・・なんでもありませんわ。」
そういう私を心配そうに見るデュパッチ。
あなたがそんな顔をすることはないのに。
「・・・そうですわね、一つ質問しようかしら。」
「なんでしょう?」
「戦に必要なものって、何かしら?」
「戦・・?・・・・・・剣でしょうか。」
「・・・・・そうね、剣がないと相手を殺すことはできないわね。でも、剣があっても殺せないことだってあるのよ。」
「・・・・・お嬢様?」
「・・・戦に必要なのは、殺す覚悟よ。」
どんな弱い人間でも、殺す覚悟さえあればいつだって誰だって殺せる。
殺す覚悟があれば、それさえあれば。
考えるだけで冷や汗が止まらない私は、まだ覚悟が足りないのだろう。
*
全然進みません。
なんででしょう(知らん
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