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行政責任;行政は何のためにあるのか
福岡地裁小倉支部は国の責任を認めなかった。しかし、カネミ油症事件全 国統一民事訴訟第一陣控訴審判決(昭和59年3月16日)、全国統一民事訴訟第 三陣一審判決(昭和60年2月13日)で国の責任を認めた。水俣病裁判のよう な公害裁判において争われるのは民事訴訟であるが、通常の民事訴訟と異 なって、このような裁判の場合、原告(被害者)と被告(加害者)とは同等 ではない。原告は加害企業、行政が多く、彼らは常に経済力も権力も持ち、 専門家を動員することも、有利な証拠を手に入れることも可能である。それ に比べて被害者は金も権限も協力する専門家さえ居ないことが多い。加害者
は交替することが出来るが、被害者は一生変れない。そして、この場合、被 害者が加害者になることは絶対にない。このような不公平の中で地裁と高裁 と2回も行政責任が認められたわけであるから、それで決定的であろう。こ のような場合、加害者に控訴権があることが不公平に見える。法律上は別に しても、行政には少なくとも道義上、行政上の責任はあると考えるのが常識 的である。 1−4)で述べたようにこの事件の背景には便利さを追求するあまり、安 全性の確認なしに大量生産、大量消費を進めてきた政策にあった。カネミ倉 庫は増産のために脱臭工程の無理な設計変更を繰り返し、何度も事故を起こ していたという。これは、ことが食品に関することだけに行政の監督責任は 大きいと言わねばならない。 訴訟では、大量生産・使用に対する規制、食用油製造への営業許可の権限、 ダーク油事件に際しての食品衛生法上の権限などが争点となった。 ダーク油事件で油症は予見できた。また、「食品の安全性を疑うような事実を探知した場合は、所管の厚生省に通報する義務を負う」と判決で指摘されたことから農林省の現地検査所、本庁の怠慢が指摘された。また、さまざまな経過から遅くとも3月中頃にはカネミ製のダーク油と原因はほぼ見当がついていたのである。 しかし、福岡肥飼料検査所の矢幅雄二課長は「ダーク油
の製造工程中にはなんら心配がない」と報告している。国立予防衛生研究所 の保野主任研究員はダーク油事件から人体被害を想定して、8月19日に農林 省流通飼料課の鈴木技官にダーク油を分析すべく一部分けて欲しいと依頼し たが「事件は解決した。廃棄処分にした」と言って分けてもらえなかった。 すなわち、何回かダーク油とカネミ油とを関係つける機会がありながら縦割 り行政のために連携できずに被害を拡大した。しかも、食品衛生法の経験の ない皮膚科の医師を中心に任せたことに問題があった。 津田は「全国の食中毒事件に関する報告書をまとめた食中毒統計では、大 まかに原因を三つに分けて集計している。“原因施設”、“原因食品”、“病因物 質”の三つである。」「食中毒事件は医薬品および医薬部外品を除くすべての
飲食物を対象としている食品衛生法(二条)によって迅速に処理されねばな らなかった。保健所が通常の食中毒事件として同法第二七条に基づいた調査・ 報告を行っていれば、被害は最小限に抑えられたと考えられる」、「水俣病と カネミ油症事件のこの二つの大食中毒事件は、食品衛生法に基づいた届出と 処理を怠った学者と行政が、大事件に育て上げたものであると断言できる」 といっている。「食品衛生法を適用する際に、病因物質の判明は必要条件では ない。原因食品と原因施設が明らかであればよい」のである。 食品衛生法第四条第二項「有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しく は付着し、またこの疑いがあるものを販売し(不特定又は多数の者に授与す る販売以外の場合も含む)又は販売の用に供するために、採取し、製造し、 輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない」 とある。また、「食中毒事件においては“認定申請”などはいらない。申請な どしていなくとも原因食品をたべた可能性があれば、自宅にいても保健所の 職員が調査にきてくれる」のである。極言すれば食品衛生法からは認定審査 会も認定基準、制度そのものが不要ということになる。カネミ油を食べ、何 か健康障害があれば油症として登録(認定)されるべきであった。 8月中旬から九大皮膚科の五島應安医師はカネミ油が原因であることを 知っていたが届けていない。食品衛生法では届け出ない場合は罰せられるの である。長崎では玉之浦診療所の医師が福江保健所に届け出たのに所長は記 者会見で「誤診である」と発表した。これもまた、個人の責任というより保 健所が行政機関(県)である以上県としての責任も問われる。さらに、津 田は「カネミ油症事件では、事件当初から患者も医師もライスオイルが原因 食品であると認識できていた。しかし、九州大学医学部の医師たちは、事件 による被害が拡大しているにもかかわらず、また、病因物質までもが明らか になっているにもかかわらず、食品衛生法に基づく届出を怠り、1968年10月 に朝日新聞がスクープするまで対応しなかった。」、「通常の食中毒事件であれ ば患者たちが当然受けられるべき補償の権利を、認定制度を運用することに より奪われている」と述べている。
その他、記録、油の販売経路や摂食者の検証、患者や家族の追跡調査、採 集したサンプルの一部や収集した資料の保存など将来に活かすべき行為をも 怠っている。 以上見てきたごとく行政責任の一つである拡大責任、救済責任の放棄は実 は食品衛生法違反から来る部分が大きい。 しかし、これに対して行政は裁判で激しく反論してきた。要するに農水 省は食品衛生行政や保健行政を所管していないと言い。厚生省は行政上可能 な限りの最大限の救済措置をとってきているから責任はないと言うもので あった。 立入り調査をした担当官の職務はダーク油の調査であって米ぬか油の調 査は職務外である。人体被害が発生しているという情報もなかった。カネミ 倉庫がPCB を使用していることもしらなかった」。 矢崎課長(福岡肥飼料検査所)は職務外の食品の安全性について法的な通 知義務を負っていない」、「疑わしいだけでは厚生省は米ぬか油を回収するこ とは出来ない。食品衛生法は食品の安全性を確保するため、必要最小限の取 締りをしている」。 福岡肥飼料検査所の鑑定依頼は原因物質の究明ではなく、再現試験であ る。PCB の使用を知らず、設備もなかった当時の状況では誤った判断は止む を得なかった」。 これらの国の反論を聞くと厚生省や農水省は何のためにあるのだろうかと 言う疑問が生じる。まさに、縦割り行政の欠陥を自らばく露しているような ものであった。 全国統一民事訴訟第一陣控訴審、第三陣一審では国の責任を認めた。担当 官はダーク油の汚染を知っていたのに、同じ脱臭工程で生産される米ぬか油 の汚染を調べず、疑いもせず、厚生省に通知もせず、汚染ダーク油の分析も しなかったことは職務放棄に近いものであった。しかし、第二陣控訴審では 国の責任を否定した。しかも、鐘化の責任も否定した。当時としては、行政
の積極的な関与の結果の失敗に責任がとわれたが、最近(2004年10月15日) では、水俣病関西訴訟最高裁判決が示したように、打つべき手をうたなかっ た、何もしなかったことに行政責任が問われるようになった。和解せずにあ くまで国の責任を追及すべきであったかもしれない。
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正江が、家族とカネミライスオイルを食べてから8年がたった1976年、検診を渋っていた漁師の夫を何とか説得。翌年、夫は正江と共に油症認定された。
夫は高血圧症を患い、薬を手放せなくなっていたが、弱音をはかない性格。頭痛や下痢でつらくても、生活のため漁に出ていた。夫の背中は、大きい吹き出物が無数にあり、肌着は膿でいつも黄色く汚れていた。
次男は、症状が重かった。小学生のころは朝布団から起き上がれないほど。体を抱えてトイレに連れて行くと、血の混じった尿が出た。入退院を繰り返し、学校も休みがちで、ふさぎ込んだ。体調は季節や天候に左右され、梅雨や秋口に悪化した。
正江自身も当初から吹き出物と血尿、年齢を重ねると自律神経の乱れから目まいや吐き気、食欲不振など多様な症状に襲われた。
特に悲しかったのは、30代で計7回も経験した流産。生理不順かと思っていると、突然出血。驚いて受診すると流産だと告げられた。出血があると入院し処置を受け、自宅に帰る。この繰り返しだった。
7回目の流産の後、医師が言った。「このまま流産を繰り返すと、貧血で体が危ない」。
2018/6/24(日) 午後 2:08 [ 健康環境安全のために法律を学ぶ ]
正江が、家族とカネミライスオイルを食べてから8年がたった1976年、検診を渋っていた漁師の夫を何とか説得。翌年、夫は正江と共に油症認定された。
夫は高血圧症を患い、薬を手放せなくなっていたが、弱音をはかない性格。頭痛や下痢でつらくても、生活のため漁に出ていた。夫の背中は、大きい吹き出物が無数にあり、肌着は膿でいつも黄色く汚れていた。
次男は、症状が重かった。小学生のころは朝布団から起き上がれないほど。体を抱えてトイレに連れて行くと、血の混じった尿が出た。入退院を繰り返し、学校も休みがちで、ふさぎ込んだ。体調は季節や天候に左右され、梅雨や秋口に悪化した。
正江自身も当初から吹き出物と血尿、年齢を重ねると自律神経の乱れから目まいや吐き気、食欲不振など多様な症状に襲われた。
特に悲しかったのは、30代で計7回も経験した流産。生理不順かと思っていると、突然出血。驚いて受診すると流産だと告げられた。出血があると入院し処置を受け、自宅に帰る。この繰り返しだった。
7回目の流産の後、医師が言った。「このまま流産を繰り返すと、貧血で体が危ない」。
2018/6/24(日) 午後 2:12 [ やむなく刑事告訴 ]