全体表示

[ リスト ]

イメージ 1
「ロックを生んだアメリカ南部」では現在私たちが聞いているR&B、ロック、ジャズなどの黒人音楽の源流を「ルーツミュージック」と呼び、次のように分類しています。
 
①綿花農園で搾取に耐え働いた黒人の唄ブルース(ミシシッピデルタ地帯、アラバマ州など)
 
②人種差別と闘った有色クレオールや黒人が生んだジャズ(ルイジアナ州ニューオリンズ)
 
③アパラチアの貧困な山人が歌ったバラッド(イギリス諸島からの移民)
 
④苦しい日々を慰め、生きる源泉となった宗教音楽ゴスペル(南部全域)
 
①〜③はそれぞれの地域性を持ち、互いに影響を与えながら発展していきます。
④は黒人の間でキリスト教が普及するにつれて、全域で発達しました。特に文字が読めない黒人奴隷は賛美歌を歌うことでキリスト教の教義を学び、歌うことで喜びを分かち合いました。また、自由を求めて逃亡を図る奴隷にとっては逃亡の方法を伝達する暗号のような役目も果たしたのです。その中でも「川」という言葉は大きな意味を持っていました。
 
Hold me
Like the River Jordan
And I will say to thee
You are my friend
 
Carry me
Like you are my brother
Love me like a mother
Will you be there
 
「Will you be there?」の冒頭部分です。曲全体に神々しい雰囲気を漂わせているゴズペルバラードですが、初めて聞いたときから、「ヨルダン川」、「私を運んでください」という言葉に引っかかるものがありました。「ヨルダン川」は新約聖書でキリストが洗礼者ヨハネから洗礼を受けた場所と記されています。「洗礼」以上になにか意味があっただろうか?と疑問に思っていたのです。
 
答えは黒人霊歌の中にあるのではないでしょうか。
日本でフォークソングのようにも歌われる黒人霊歌があります。この中にも「ヨルダン川」が出てきます。
 
「こげよマイケル」
Michael , row the boat ashore, Halleluja
Michael, row the boat ashore, Halleluja
 
Sister help to trim the sail, Halleluja
Sister help to trim the sail, Halleluja
 
Jordan's river is deep and wide,Halleluja
Meet my mother on the other side, Halleluja
 
「深い河」
Deep river , my home is over Jordan
Deep river, Lord
I want cross over into campground
 
Oh don't you want to go to that gospel feast,
That promis'd land where all is peace?
Oh deep river, Lord
I want to cross over into campground
 
この歌をどう読み解くか、参考になることが書かれています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ロックを生んだアメリカ南部p181
黒人奴隷は聖書の物語や牧師の説教を聞いてひそかに別の教えを見出してゆくことになった。それは隷従からの開放の教えである。彼らは旧約聖書、新約聖書の中から自分たちの運命に重なるような物語や教えを拾い出して自由への道を切り開いていこうとした。奴隷が好んで語ったものにライオンの巣窟に放り込まれたダニエルが神を護った旧約聖書の挿話がある。旧約聖書で神の命を受けたモーセは、奴隷になっているヘブライ人を解放するためにエジプトのファラオのもとへ赴く。奴隷達はこの話と新約聖書に出てくる、抑圧された人々を救済するために地上に現れたイエスの物語を重ね合わせた。
 
奴隷は単に罪から自由になることを求めて祈ったのではない。奴隷状態から自由になりたいと祈ったのである
。主はエジプトからヘブライ人を解放したように、奴隷であるわれわれを解放してくれるであろう、と彼らは祈った。黒人奴隷にとって聖書の中で意味があるのはこうした箇所だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
黒人奴隷達にキリスト教を布教したのは、白人が奴隷を支配しやすくするためというのが本来の目的でした。しかし黒人達は教義を学ぶうちに矛盾に気付き、開放を求める精神のよりどころとしたのです。しかしそれを悟られると弾圧を受けるので、「暗号」として自分たちの自由への思いを込められる賛美歌を選び歌いました。
 
エジプトで捕囚されたヘブライ(ユダヤ)人⇒  奴隷として囚われた黒人
約束の地カナン(イスラエル) ⇒  奴隷制の無いアメリカ北部
ヨルダン川             ⇒  奴隷州と自由州を隔てるミシシッピ川
イエスの元へ           ⇒  逃亡を企てる秘密の集会をすること
モーセ               ⇒  アブラハムと言い替えて「リンカーン」
ファラオ              ⇒  南部連合国大統領 ジェファソン・デイヴィス
などが暗号として歌に読み込まれているのです。
 
川を渡ることで奴隷達は追っ手から逃れ、自由を得ることができました。川を渡れば約束の地カナーンへ到達することができました。カナーンは黒人奴隷にとって自由の与えられる北部を意味していましたが、より深く考えると天国も意味していたのです。
 
ヨルダン川は洗礼を受けることで生まれ変わるという希望と、隷属から逃がれて得られる自由、この地上に縛り付けられて苦しんでいる魂の開放を与える二重、三重の意味を持ちうるのでしょう。
 
南北戦争時代以前にこのような形で歌われた黒人霊歌はほとんど姿を消しています。それは逃亡の計画や自由への思いを奴隷主達に悟られないように命がけで歌われていて、決して記録に残されなかったからです。
時代を経て黒人の間でも謎になっていた黒人霊歌の歌詞の意味が、最近になってわずかに残された霊歌が研究されさまざまなことがわかってきました。公民権運動時代は黒人指導者のキング牧師やマルコムXなどでも
黒人霊歌の意味を解釈するのが困難だったとか。ダブルミーニングに秘められた歴史の重さを感じます。
 
マイケルが「Will You Be There?」に込めた思いはもちろん曲想、歌詞全体から読み取るべきでしょう。
しかしこの第一、第二バースだけでもいろいろと考えるられることは多いのです。
 
My brotherのように私を運び、a mother のように愛してほしいとあります。黒人の人たちはよく他人でもBrother,
Sisterと呼び合いますが、これは奴隷時代に家族が引き裂かれ、ばらばらにされると血のつながらない他人同士でも家族として助け合ったことの名残です。奴隷が結束して主人に反乱を起こすことを恐れ、家族でアメリカに連れて来られた場合はばらばらに引き裂かれ、売られていった奴隷達。この悲しい歴史をこの言葉にも見ることができます。奴隷が逃亡する一番の理由は離れ離れになった家族に会うことが一番の理由でした。「マイケル船をこげ」はそういった状況を歌っているのでしょうか。
 
マイケル・ジャクソンの歌にはダブル・ミーニングがたくみに使われていると感じられることが多いと思います。
霊歌、ゴスペルの作り方の伝統が生かされているのかもしれません。
 
(参考文献:ウェルズ恵子「黒人霊歌は生きている」岩波書店, negrosprituals.com)
 

閉じる コメント(2)

顔アイコン

こんにちは。黒人音楽の本に基づいた考察記事、素晴らしいです! 大好きな『Will You Be There』のつくりにもすごく深い仕掛けがあるのですね。
私がよく行くコーヒーショップで、常連のお客さんに『Will You Be There』を聴かせたところ「黒人霊歌の雰囲気がする」と見抜いておられた方がいました。その方は何かの演奏会で「Amazing Grace」を練習中で、譜面と楽器を持って来ておられたので、すぐ分かったようです。
私なんか「川」と第4連で日本人向きに説明するけど、ちょっと変ですね…。

あと、緑の背景色の第1連で say to “thee” e が1つ抜けてます。(古風な単語の選択から、神様への祈りを想起させる冒頭部のところ)

2010/3/23(火) 午後 4:48 [ SC ]

顔アイコン

coraさんコメントありがとうございました。
つづりも直しました〜。

coraさんもこの曲お好きなんですね。嬉しいです。私も好きなんですよ。でも聞けば聞くほど深いですよね。第九をイントロに使っているしもっともっと研究の余地ありますね。

「KEEP THE FAITH」がゴズペルなら、こちらは黒人霊歌的だという気がします。theeは「神」を指すなら、「神」を友と呼ぶのかとかいろいろ気になることがありますね。たくさん黒人霊歌の歌詞を見ていきたいです。

「Bless You For Being An Angel」を下敷きにしていると言うことはこの歌の意味も包括していると考えてもいいですよね。

またいろいろ考えていきましょう〜。

2010/3/23(火) 午後 6:24 [ ちぃちゃんママ ]


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事