労働相談・労働組合日記

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技術取得・研修費25万円。当面支払い猶予。継続勤務1年で支払い免除


大学を卒業しても4割が就職できない異常な時代です。就職ができた場合でも、余りにも過酷な労働条件が待っています。そういう時代ですから手に職をつけたいと考える若者も多くなる事情は理解できます。カリスマ美容師とかスタイリストとか専門誌がもてはやすこともあって、せっかく就職した正社員の仕事をなげうって美容業界に足を踏み入れる若者もいます。

しかし、この業界も競争が激しく、予想外に過酷な労働条件が待っていることに変わりはありません。この業界で働く労働者からの相談のウエイトは多いと言うのが印象です。

未払い残業や長時間労働、パワーハラスメントといった相談の他に特徴的なことがあります。かなり多くの企業で「技術習得費」とか「技術研修費」とか「技術取得費」など名称はさまざまですが、本来会社が負担すべき研修費を労働者に負担させていることです。そのことが悲劇を生み出しています。

研修は原則として労働時間です

事業主の立場に立つと新米に技術を教え、少し使えるかなと思った途端に辞められたのではたまらないということは良く分かります。しかし、法律に違反してまで取り立てるのが如何なものでしょうか。研修は原則として労働時間です。企業によっては、新入社員を数ヶ月間研修所に入れて教育をします。その間、賃金は当然支払われます。一旦、現場に配属されても、新商品の販売にあわせて研修所に入り、教育がされます。その時も、研修は労働時間として扱われます。

「労働法コンメンタール」(編者:厚生労働省労働基準局)によると研修を労働時間と見るか否かについて次のように説明しています。
労働者が使用者の実施する教育・研修に参加する時間を労働時間とみるべきか否かについては、就業規則上の制裁等の不利益取り扱いの有無や教育・研修の内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより本人の業務に具体的に支障が生じるか否か等の観点から実質的にみて、出席の強制があるか否かにより判断すべきである。

換言すれば、参加しないことに対して就業規則上で罰則などを設けているのであれば当然に労働時間です。また、仮に「私は時間外に行われる研修に自分の意思で参加します。」とか「この研修参加が自由意志であり、会社からの業務命令ではないことに同意します。」などの念書や承諾書を記載していやとしても、業務との関連性がつよく参加しなければ仕事にならないなど本人の業務に具体的に支障が生じるのであれば、出席の強制があると見做されることになります。

個人的な見解になりますが、美容業界に足を踏み入れたばかりの新人が教育を受けずに仕事ができるわけがありません。教育を受けなければ当然に業務に支障がでるはずです。従って、外形上如何に取り繕うと、新人に対して実施される美容業界での技術指導などの研修は、労働時間と断定できます。

どうしたら合法的な教育ができるか

研修費の問題で辞める労働者との間でトラブルとなった事業主から相談があったことがあります。事業主は顧問弁護士のアドバイスで当該労働者から「入社に当たっての承諾書」なる書面をとっていました。

それには、「私は、技術指導・研修費として○○万円支払うことに同意する」「私は時間外に行われる研修に自主的に参加する」「私は、この研修参加が会社からの業務命令でないことを確認する」「私は研修費の納入が入社後1年間は猶予され1年間の継続勤務で免除される制度の利用を希望します」「私は入社後1年以内に退職をした場合には、直ちに研修費用の清算を行います」「私は研修期間(2ヶ月間)の中途で退職する場合には、研修1日当たり○万円の支払いに同意します」と書かれています。

この事業主は、入社後、3ケ月で退職する労働者との間でトラブルとなり、顧問の弁護士と相談したけれど「研修費は請求しない方が良いだろう」と言われ、この承諾書は何だったのかとの思いからの相談でした。

当然、私も弁護士先生と同じように請求はできないだけでなく賃金の不払いにあたると考えます。「これは労働時間ですから研修費は会社の負担であるだけでなく残業代も払わなければなりません」と答えました。事業主は「業界では結構一般的にやっていることです。クレームした退職者だけが得をするのには納得ができないし、研修費を取らなければ事業としてやってゆけません。」と語調強く主張されました。

私は「採用する際の賃金を試用期間中少なくして募集したら如何でしょうか」「募集要項に『他の企業では研修費の負担がありますが、我社の場合には研修費は会社負担です。』と書いたら良いじゃないですか」「それの方が、安心できる会社だと思われ、良い人材が集められませんか」と答えました。

労基法16条違反の可能性も

労働基準法の16条には「賠償予定の禁止」が定められています。条文は以下のとおりです。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
この法律違反は6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金です。残業しても残業代を払わないとする労働契約を締結しても罪にはならず、実際に残業代を不払いにして罪になるのに比べ本状の場合には違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしただけで罪に問われるという厳しい法律です。(労働基準監督署の行政指導で正されますので、実際に罪に問われることは無いとは思います。)

この条文の趣旨について、先にあげた「労働法コンメンタール」では次のように説明しています。
【労基法16条の趣旨】
労働契約の期間の途中において労働者が転職したり、帰郷する等労働契約の不履行の場合に、一定額の違約金を定めたり、又は労働契約の不履行や労働者の不法行為に対して一定額の損害賠償を支払うことを労働者本人又はその身元保証人と約束する慣行が従来我が国にみられたが、こうした制度は、ともすると労働の強制にわたり、あるいは労働者の自由意志を不当に拘束し、労働者を使用者に隷属せしめることとなるので、本条は、こうした違約金制度や損害賠償額予定の制度を禁止し、労働者が違約金又は賠償予定額を支払わされることをおそれて心ならずも労働関係の継続を強いられること等を防止しようとするものである。

研修費の請求をされるので辞めるに辞められない

カリスマ美容師やスタイリストを夢見て就職しても過酷な労働環境や上司のパワハラによって精神疾患に罹患し辞めたいと申し出ると、何十万円もの研修費の支払いを求められ、病気にもかかわらず休養もできないまま働き続け病状を悪化させる事例が後を絶ちません。

これは上の「労基法16条の趣旨」にあるように「労働者の自由意志を不当に拘束」「使用者に隷属せしめて」いる意味で16条違反の可能性が高いものと思います。

約束した期間継続勤務できない場合に猶予されていた技術取得料や研修費の支払いを求められたとき、その金額が16条にいう「労働契約不履行の違約金」や「損害賠償額の予定」に当たるか否かという問題があります。

研修費用に関して労基法16条違反かどうか争われた裁判例が幾つかあります。美容業界での技術指導の講習手数料についての判例が先の「労働法コンメンタール」に掲載されていますので参考のために引用します。
美容見習につき、勝手に退職した場合には技術指導の講習手数料として入社時にさかのぼり1ケ月につき4万円(月利3%)を支払う旨の契約について、従業員に対する指導の実態は一般の新入社員教育とさして違いはなく、しかもこの契約により労働者の自由意志を拘束して退職の自由を奪う性格を有することは明らかであるので本条に違反する。(浦和地裁判決 昭和60年(ワ)第502号サロン・ド・リリー事件 昭和61年5月30日)

実際には難しい紛争の解決

こう書いてくると、このような違法な研修費は一掃されそうな気もします。しかし、就職する際に弱い立場である労働者は、言われるままに念書にサインをしてしまいます。そして、辞めたくても1年間は我慢して働いているのではないのでしょうか。

気の毒な事例は、パワハラなどでうつ病などの精神疾患に罹患し、病状を悪化させる人たちの多いことです。また、出社ができずに辞めた労働者の最終賃金から研修費が勝手に差し引かれたり、研修費の方が賃金より多い場合には不足分の請求がきたりします。

相談があれば、研修費は払う必要はありませんと説明します。賃金から勝手に研修費用を差し引くことは許されていないことを説明します。しかし、そういう契約をしたから仕方が無いと親兄弟に借金して払ってしまうことが多いようです。

入社12ヶ月目に休日買物に行く際乗った自転車が転倒し腕を骨折し辞めた労働者に会社の顧問弁護士から内容証明で研修費の請求書が送られてきた事例もありました。内容証明には12ヶ月勤務で免除するところ11ヶ月で退職となったので請求するが、あと僅かで1年継続勤務となる特別な事情を考慮し請求金額を特別に半額にするとなっていました。会社からは最終の給料を手渡しで支払うので受け取りに来るように、その際、研修費を清算したい、清算の応じなければ法的手段をとる旨書かれていました。

私は、「賃金は受け取りに行きなさい」とアドバイスし、その時、研修費の清算を求められたら、研修した日と時間の明細を郵送するよう要求し、「それがあれば支払いを検討します。」と要求してみたら如何でしょうかと言いました。こういう場合の対応はケースバイケース、臨機応変です。これといって決まったパターンはありません。とにかく未払いの賃金を支払わせ、研修費はなんのかんのといって、その場での清算を拒否することです。

それでも賃金の支払に応じなければ「労基署に申告する」とプレッシャーをかけるのも一つの方法です。研修日と研修時間が証明できる状態であれば、研修は労働時間だから残業代の不払いだとして正面からぶつかるのも一つの方法ですが、ここまでエスカレートするのは最後の手段と私は思います。

相手の法的手段が心配ですが、美容業界の研修日については先に挙げた判例もあり、また、逆に研修は残業代の不払いとして訴えられるリスクがあります。従って、法的手段を講じる可能性は少ないのではないでしょうか。沢山の事例に接していますが、脅しに過ぎないことが殆どです。

しかし、法的手段を封じることはできません。無謀に法的手段に訴える場合があるかも知れません。相手は念書みたいなものを持っていますので支払督促や60万円以内であれば小額訴訟が考えられます。その時はどうどうと対応するしかありません。

このケースの場合、労働者はキチッと交渉し、最終給与を受け取り自主解決しています。残業代の要求まではしませんでした。

転載元転載元: 労働相談奮闘記

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