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なぜ「高齢者」ほどがんになりやすいのか

6/13() 9:16配信 プレジデントオンライン

 

日本では2人に1人ががんにかかる。だが、その病態には謎が多い。なぜがんはできるのか、なぜ高齢者ほど発症しやすいのか。京都新聞の広瀬一隆記者が、京都大学医学研究科の小川誠司教授に聞いた――。

 

 ※本稿は、広瀬一隆『京都大とノーベル賞 本庶佑と伝説の研究室』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

 

■「がんとは何か」に答えられるか

 

 現代日本では、2人に1人ががんにかかるといわれる。がんで亡くなった友達や親族のいる人も多いことだろう。悪性新生物、悪性腫瘍……がんにはいろいろな別名がある。

 

 「悪性」という言葉からは、命にかかわる病気であるという印象は伝わってくるが、がんとはなにか、とあらためて問われると答えに詰まる人は多いのではないだろうか。

 

 自分のことを思い返しても、医学部の3年生だったころに授業で「悪性腫瘍」という言葉を聞いて、それががんと同じ意味なのかわからなかった記憶がある。これは勉強をさぼってばかりいた私だけにしかあてはまらない経験かもしれないが……。

 

 ともかく、がんという病気が理解しづらいのは確かだ。脳や皮膚、消化管に骨と、体中のあらゆるところにできる。原因も感染症から食習慣、喫煙とさまざまある。全体像をつかむためにはどうすればいいのだろうか。

 

■異常に増殖してできた細胞の塊が「腫瘍」

 

 まずは「悪性腫瘍」という言葉を手がかりに考えていきたい。そもそも「腫瘍」とはなんだろう? 

 

 私たちの細胞は増殖する機能をもっている。たとえば、なんらかの原因できた傷口は、周辺の細胞が増殖することによってふさがれる。正常な場合は、増殖因子の作用を受けたときにだけ増殖するため、元通りになったらそれ以上は増えない。

 

 しかし増殖因子の作用を受けなくても、異常に増殖する場合がある。こうしてできる細胞の塊が腫瘍だ。

 

 腫瘍ができたとしても、すべてががんというわけではない。腫瘍のなかには「良性」と「悪性」がある。「良性」の場合は、こぶのような形状をつくっても特定の場所にとどまっていてほかの組織に広がっていくことはない。たとえば大腸には良性のポリープがよくできる。良性腫瘍はがんではない(ただ、悪性化することもあるので注意は必要だ)

 

 一方の悪性の腫瘍は周囲の組織に染みこむように増殖していく上、血管やリンパ管を通ってほかの臓器に転移する。がんはからだのあちらこちらで増殖して、臓器に障害を引き起こし、さらには悪液質と呼ばれる症状をもたらす。悪液質のメカニズムはまだはっきりしていないが、栄養不良となって体重減少などが起こる。

 

 悪性腫瘍というがん組織によってからだの健康な組織が侵されることで、場合によっては死に至るのだ。

 

■これまでにみつかった人類最古のがんは「骨にできるがん」

 

 がんの診断にはさまざまな道筋があり得るが、おおまかにいえば、医師の問診や健康診断でがんが疑われると、詳細な血液検査や画像検査へと進み、腫瘍に特徴的な物質が血中で増えていないか、あるいは、体内に腫瘍ができないかを調べる。そして最終的には、腫瘍の組織をとってきて、顕微鏡で病理医がチェックして判定する。

 

 病院にはさまざまな病気の患者が訪れるが、いまやがん患者への対応が大きな柱となっている。がんは、2017年の日本における死因の3割を占めてトップなのだ。部位別では、男性は1位が肺、2位は胃、3位は大腸、女性は1位が大腸、2位に肺、3位が膵臓である。

 

 国立がん研究センター研究所編の『「がん」はなぜできるのか』(講談社)によると、これまでにみつかっている人類最古のがんは、160万〜180万年前の人類の化石で確認された「骨肉腫」だという。

 

 骨肉腫は、骨にできるがんである。南アフリカの洞窟で発掘された化石をCT撮影したところ骨肉腫に特徴的な病変があったのだ。私たちの属するホモ・サピエンスとは異なる種の人類ではあるが、太古の昔から人類ががんとともに歩んできたことを示唆している発見である。

 

■がんが日本人の死因1位になったのは1981年から

 

 しかし、がんが主要な死因となるのは、20世紀も後半になってからだ。

 

 人類にとって最大の脅威は、長い間、感染症だった。ペストやチフス、天然痘など、歴史に名を刻んでいる感染症はあまたある。たとえば戦後間もないころでは、多くの人は結核で亡くなっている。

 

 がんが日本人の死因第1位となったのは1981年からで、それ以降はずっと1位を保っている。背景には、日本の高齢化があるとみられる。がんは高齢者がかかりやすい病気だからだ。

 

 なぜ、がんは高齢者に多いのだろうか。高齢者は病気が多くて当たり前、という風にすませてもいいのだが、ちょっと掘り下げてみたい。

 

 私が取材をしている京都大には、がんを専門とする科学者が何人もいて、世界の最先端に触れることができる。記者としてそんな環境をつかわない手はない。

 

 最前線で研究している一人である医学研究科教授の小川誠司に、がんができるメカニズムの最新の知見を解説してもらった。

 

■がんの原因は「遺伝子の変異」

 

 「がんの原因は遺伝子の変異です。しかし遺伝子に変異があれば必ずがんになるわけではありません。健康な人の体内でも、遺伝子変異はつねに起こっています」

 

 人間の細胞は約30兆個あるといわれる。それぞれの細胞が分裂するときには、わずかな確率ながら、遺伝子の複製にエラーが起こって元とはごく一部だけ異なる遺伝子をもった細胞ができることがある。

 

 多くの場合、そうしたエラーは生きていく上ではなんの影響もない。しかし数十年という単位で年齢を重ねていくと、いずれかのタイミングで、がんの原因となる遺伝子に変異が起こる。それもひとつのがん遺伝子の変異だけではがんにはならない。いくつもの遺伝子に変異が蓄積されることでがんになると考えられている。「多段階発がん」といわれるストーリーである。

 

 では具体的に、私たちのからだのなかにある細胞は、いつ遺伝子変異を起こして、それがどう蓄積していき、どのタイミングでがんになるのか。残念ながらそれはまだ、謎に包まれているのが現状なのだ。

 

■年齢とともに「がんの原因となる遺伝子の変異」をため込む

 

 小川たちは20191月、イギリスの科学誌『ネイチャー』に新しいがん像を示す研究成果を発表している。彼らの論文を参照しながら、がん研究の最前線をのぞいてみたい。

 

 まず、小川たちのグループがおこなった研究の概略をたどろう。

 

 グループが対象にしたのは、食道の組織である。全身の組織をつかって調べるのには膨大な時間がかかってしまう。そのため、口から機器を入れて組織を取ってきやすいこともあって食道を選んだという。

 

 若い世代から高齢者までのがんになっていない部位を調べて、どのように変異が生じているのかを確かめた。この場合のポイントは、あくまでも「正常な」細胞をターゲットにしたというところだ。がんになっていない組織で、年齢によって遺伝子変異にどのような差が生じているのかを調べたのだ。

 

 グループは2385歳の男女約130人から食道の正常な組織を取ってきて、遺伝子の変異を調べた。すると、世代によって大きく遺伝子変異のパターンに差が出た。

 

 まず若い世代では、がんの原因となる遺伝子を含めてさまざまな遺伝子変異が起こっていた。しかしがんの原因となる遺伝子だけが特別に多いわけではなかった。一方の高齢者では、がんの原因となる遺伝子変異が圧倒的に多かった。食道の4080%の粘膜を、がん遺伝子に変異が生じた細胞がおおっていたのだ。

 

 つまり私たちは、年齢とともに、がんの原因となる遺伝子の変異をため込んでいることが裏付けられたのである。

 

■喫煙や飲酒習慣のある人は「がん遺伝子の変異の数」が多い

 

 なぜ、年齢とともにがん遺伝子の変異が蓄積するのだろうか。

 

 「人間の体内をひとつの自然環境だと考えてみればわかりやすいかもしれません」。小川が解説する。

 

 私たちのからだにある細胞が、常に遺伝子変異を起こしていることは先に述べた。小川は細胞がさまざまな遺伝子変異を起こすなかで、がんにかかわる遺伝子に変化が生じた細胞は、生き残っていきやすいと考えている。

 

 がんにかかわる遺伝子変異が起きた細胞は、それだけ体内のさまざまなストレスをくぐり抜けやすくなって、生き残っていく。これが、高齢者になるほど、がんの原因となる遺伝子変異のある細胞が多くなる理由だという。

 

 さらに、喫煙や飲酒の習慣をもっている人たちは、そうでない人たちにくらべて、がん遺伝子の変異の数が多かった。これは、喫煙や飲酒という細胞を傷つける機能をもった物質に頻繁にさらされていると、より一層、がん遺伝子に変異のある細胞が生き残りやすいということを表している。

 

 研究ではもうひとつ、興味深い知見が得られている。

 

■「最後の一押し」は今後の研究課題

 

 今まで述べた研究成果は、正常な組織にかんするものだ。しかしグループは、さらに食道がんの組織の遺伝子変異と比較した。すると高齢者の正常組織の遺伝子変異とは、また大きな違いがあった。

 

 高齢者で喫煙・飲酒の習慣があるとたくさんのがんの原因となる遺伝子変異が生じるが、それだけでは、がんにならず、さらに別の要因が加わって、がんになる――。そんなストーリーが示唆されたのである。

 

 では、がん化の鍵となる最後の一押しはなんなのだろうか。小川は、今後の研究課題だとしながらも「遺伝子が多く集まってできている染色体の変化がさらに必要なのかもしれない」と推測する。

 

 これが、小川たちが『ネイチャー』に発表した論文の概要である。

 

 もちろん、がんにはわからないことがまだ山積している。しかし少しずつ、その秘密が解き明かされつつある。

 

■「本庶先生は、本質を見抜く力がすばらしい」

 

 ちなみに小川は、東京大医学部の出身で、京都大には2013年に赴任した。ときに研究室に寝泊まりするほどのハードワーカーで、オプジーボの効果がある患者を見分ける方法にかんする研究もある。

 

 京都大生え抜きではない小川だが、本庶については「ものすごく刺激を受ける」と強調していた。「本庶先生にはビジョンがあって、本質を見抜く力がすばらしい」。「本質を見抜く力」については、本庶を知る研究者が口をそろえて評する言葉だ。

 

 科学者同士でしかわからない凄みなのかもしれない。(敬称略)

 
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広瀬一隆(ひろせ・かずたか)

京都新聞 記者

1982年、大阪生まれ。滋賀医科大学を卒業し、医師免許取得。2009年に京都新聞社へ入社。在学中に7カ月半アジアを放浪した経験が、ジャーナリストを目指すきっかけになった。警察や司法を担当した後、現在は科学や医療、京都や滋賀にある大学の動きを取材している。iPS細胞をテーマにした連載も執筆した。人文学に強い関心をもち、哲学や生命倫理にかんする記事も多く書いている。

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京都新聞 記者 広瀬 一隆 写真=iStock.com

転載元転載元: kat*r*giki*iem*nnのブログ

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2019/6/16(日) 午後 6:37 きりん 返信する

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