【前編のあらすじ】
中東で生活する誰もが直面するアジア人蔑視。
アジアカップ観戦後、僕は遂に我慢の限界に達してしまう。
「てめー、何考えてんだコラ!」
そう怒鳴り散らした瞬間、
僕の腕をギュッと掴んで止めてくれた奴がいた。
彼の名はムサンナ。
協力隊の友人から日本語を習ってる大学生だ。23歳で、僕と同い年。
仕事関係で接点があって、半年くらい前から仲良くなった。
ムサンナは僕の腕を強く握り締め、
シリア人の群集から僕を必死に引き離してくれた。
「ダイチごめんね。シリア人が本当にごめん。許して。」
本当に悲しそうな顔で、彼は何度も何度もこの言葉を繰り返した。
この時の彼の痛々しい表情は、僕の脳裏にハッキリと焼きついている。
ムサンナは日本に留学したこともあり、日本に対して特別な思い入れがある青年だ。
それだけに、シリア人たちの行動を心から恥ずかしく思っているんだろう。
しかも今回は、それが自分の友人を傷つけてしまっていたわけで…
彼は本当に悔しかったんじゃないかと思う。
そんなムサンナを見て、僕のクダらない怒りはどこかへ吹っ飛んでいた。
むしろ、「これだからシリア人は最低だ!」なんて思っていた自分が、猛烈に恥ずかしかった。
最高に素敵なシリア人が、ここにはいるじゃないか。
こんな友人を持てた自分は、なんて幸せ者なんだろう。
その日の夜、改めて彼から電話がかかってきた。
「今日のこと、あれがシリア人の全てじゃないからね。それだけは分かって。」
ムサンナが僕にどうしても伝えたかったメッセージは、こんなことだった。
一つの嫌な面を見て、全てが嫌になってしまうことってすごく多い。
でも、こうして、一つの素晴らしい出来事が他の全てを払拭することだってある。
一人の人間の誠意とか友情ってのは、奇跡を起こすこともできるんだ。
いつか日本でアラブの人が嫌な想いをしているのを見かけたら、
それを真っ先に助けに行けるような人間に、僕はなりたい。
ムサンナ、本当にありがとう。
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