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※十三・栄町商店街入り口のアーチ
キャバレー“サンローラン”、
私の30番テーブルに、おねえちゃんを含めて、
ホステスが3人座っていた。
どこかのテーブルからフルーツの盛り合わせがまわってきた。
フォークが5本付いていた。
G子が、
「大先生、だいぶ頭が薄くなってきているよ」
「ほっといてくれ。オレはこれで気に入ってるんや!」
「あっ、ちょうどいいものがあった。大先生、これで頭をつついたら刺激されて毛が生えてくるよ。絶対」
そう言って、フォークを1本くれた。
「これでつついたら、絶対、毛が生えてくるんやな」
「生えてくる」
「絶対やな!」
本当かもと思って、
しばらくフォークで自分の頭をつついていた。
最近、頭の天辺あたりが急激に薄くなってきた。
それを何とか、横の毛で隠そうとしているけれど、
もう限界になってきている。
H子が、
「大先生、みんなでジャンケンしよう。負けたらビールをイッキ飲みするねん」
「よっしゃ、やろか」
10回ジャンケンをして、私が負けたのは1回だけだった。
グラスに1杯ビールを飲むくらいのこと、どおってことはない。
もっと負けたかったくらいだった。
しばらくして、
おねえちゃんが言った。
「みんな、50番テーブルを見て」
見たら、ハゲのオッサンがホステス2人に挟まれて座っていた。
おねえちゃんが続けた。
「誰か、あのお客さんのテーブルへこのフォークを持って行って、これで頭をつついたら毛が生えてくるって、教えてあげたらいいのに」
そしたらG子が、
「よっしゃ、やろやろ! ジャンケンで負けた人が、あのお客さんの頭をフォークでつつきに行くの、やろう」
みんなで4人もいる。
私が負ける可能性はないと思った。
それに、きょうはジャンケン、すごく調子がいい。
私もG子の提案に賛成した。
G子が、
「そしたら行くよ〜。最初はグー、ジャンケンポン。あいこでショイ。あいこでショイ。あいこでショイ。ワァ〜〜〜〜〜〜〜」
「ア〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
負けた。
パーを出したら、あいつら全員チョキを出した。
「ワァ〜大先生、早くフォークを持って行って」
「あんまり強くつついたら、血が出るからチカラを加減しないとダメよ」
「いっしょにフルーツも持って行ってあげたらいい」
「ちょっと待ってくれや。そんなことできるわけないやろう」
「アカン。これはルールや!」
「ビール3杯イッキ飲みするから、堪忍してくれよ」
「アカン!」
「そしたら4杯飲むから」
「アカン! はじめからの約束だったでしょ」
「そしたら5杯」
「行かないのだったら、このフルーツ代100倍にして払え!」
「これは、人助けよ」
「大先生、それでも男?」
「よ〜し、分かった。行ったらええねんやろ、行ったら」
「そうや、そうや」
「そうや、そうや」
「そうや、そうや」
「よ〜し、行ったる。オレ、行ってくる」
そのとき、責任者の部長が私たちのテーブルの横を通った。
「部長!」
「はい、なんでしょうか?」
「50番テーブルを見てみ。ハゲのオッサンが座ってるやろ」
「はい、髪の少し薄いお客様が座っておられますね」
「少しと違う。あれは相当や。それでオレ、今からあの50番テーブルへ人助けに行って来る」
「人助けですか?」
「今、こいつらに教えてもろた。このフォークで頭をつついたら毛が生えてくるて」
「はあ」
「それで、あのオッサンのハゲ頭をこのフォークでつついて毛を生やしたろうと思ってる」
「はあ」
「これも人助けや」
「はあ」
「オレ、今からあのオッサンのハゲ頭をつつきに行ってくる」
と言って立ち上がった。
「え〜〜〜っ! ちょ、ちょっとお待ちください、大先生」
「なに?」
「それは、ちょっと困るのですが」
「何でや? こいつらも、行ったら絶対に喜ばれるて言うてる」
「しかし」
私は、もう通路に出ていた。
「何でやねん。オレは、これであのハゲ頭をつつきに行く」
「それだけは、どうか」
「人助けや」
「それは分かりますが、そこを曲げて、どうかお席にお戻りください」
「分からんことを言うなぁ、部長は。けど、部長がそこまで言うんやったら仕方がない。行くのヤメたる」
「申し訳ございません。申し訳ございません」
「行ったらあのオッサン、喜ぶと思うけれどなぁ」
「申し訳ございません。申し訳ございません」
部長が持ち場へ戻って行った。
「みんな見てたやろ。オレは行こうとしたけれど、店に止められた」
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