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【FRBウオッチ】「解雇統計」が描く米景気後退の深淵−消費に異変
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003001&sid=atfKhnWzH7oI&refer=jp_commentary
2月4日(ブルームバーグ):1月の雇用統計は米経済がリセッション(景気後退)への崖っぷちから片足を滑らせた瞬間を捉えた。最も注目される非農業部門の雇用者数は季節調整済みで1万7000人減少。2003年9月に始まった今回の雇用拡大局面で初のマイナスを記録した。このマイナスが継続し、さらに落ち込みが深まればリセッションに陥る。
今回発表された雇用統計は年間改定が加えられ、昨年12月の非農業部門雇用者数が速報の1万8000人増から8万2000人増へと上方修正された。一方、 11月は前回発表の11万5000人増から6万人増に下方修正され、昨年1年間では従来発表に比べ17万2000人の下方修正になった。昨年の雇用市場は想定以上に減速していたことになる。
非農業部門の雇用者数は前年同月比で見ると景気循環の波動をより正確に捉えることができる。今年1月は07年1月に比べ99万人の増加となり、今回の雇用拡大局面でピークを付けた2006年3月の284万人増に比べ、年間増加幅は3分の1に縮小してきた。
ディフュ-ジョン指数も危険地帯に
前回のリセッションの起点になる2001年3月の非農業部門雇用者数は前年同月比で113万人の増加だった。このときはピークを付けていた2000 年3月の同338万人増から増加幅がやはり3分の1に縮小していた。
ワコビア銀行のエコノミスト、マーク・ビットナー氏は「実に多くの業種にわたり雇用が落ち込み、経済的な危機を示す赤い旗があちこちに立てられている。リセッションのリスクは目に見えて高まってきた」と話す。
業種ごとの雇用の増減を調査したディフュージョン指数は1月に46.2と、拡大と縮小の分岐点である50を一気に3.8ポイントも下回った。同指数は50 を下回ると雇用を縮小した業種が拡大した業種を上回ったことを意味する。
同指数は前回のリセッションのときは2001年3月に48.9と、分岐点から片足を踏み外し、翌4月には一気に33.6へと落下した。今回も危険地帯に入った兆候が増え、既に警戒線を越えただけに、ここから一気に落下する恐れがある。
危機一髪で落下を回避できるかどうかは、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が実行した1週間で1.25ポイントも引き下げた金融緩和策が即効性を発揮できるかどうかにかかっている。
賃金は14カ月前にピーク経過
バーナンキ議長の金融緩和策が効果的かどうかは個人消費の反応次第だ。その見通しは暗い。既に雇用の伸びは失速。さらに、賃金の伸びも2006年12月に前年同月比4.3%でピークを付けたあと、下降曲線を描いている。今年1月は同3.7%増に鈍化してきた。政府・議会が合意した所得税還付も最短でも5月まで実施されない。しかも、家計のバランスシートは痛んでおり、一時金程度で回復すると考えるのは楽観的過ぎるだろう。
雇用の削減に加えて労働時間も短縮。1月の民間労働総投入量指数(2002 年=100)は107.5と前月比0.3%低下した。同指数は昨年12月の107.8で今回の景気拡大局面でピークを付けた可能性がある。前回の景気拡大局面では2000年 10月の103.9がピークとなり、その5カ月後の2001年3月に景気後退期に入っている。
1月は「解雇統計」
1月の雇用統計の特徴は年間で最も解雇者が出る月に当たり、季節調整が難しい。今年1月の季節調整前の非農業部門雇用者数はネットで前月比304万人も減少している。この原数を季節調整により修正した「1万7000人減」がいわゆるヘッドラインとして公表される。マイナス幅は302万人以上も圧縮されており、ここに季節調整によるマジックが働いている可能性は否定できない。
そして今回は、小幅マイナスになったものの、なお上方にバイアスがかかっていることが考えられる。1月に解雇者が急増するのはクリスマス商戦にかけて臨時雇用されていた労働者が年明けと伴に一斉に解雇されることが最大の要因だ。また、寒冷気候で建設労働者は就業が困難になり失業する。
今回は景気の冷え込みから、12月にかけてクリスマス商戦での臨時雇用が少なく、その分同要因に基づく1月の解雇者は少なかった可能性が高い。「雇用が少なければ解雇も少ない」“Fewer hires are fewer fires”(バンク・オブ・アメリカのシニアエコノミスト、ピーター・クレッツマー氏)というわけだ。また、今年1月の雇用統計調査週は12日までの1週間だったが、この週は暖冬に恵まれ、天候要因による建設労働者の解雇は例年より少なかった。
米労働省によると、1月の雇用統計調査週における天候要因による解雇者数は29万6000人にとどまっていた。同失業者数の過去平均値は42万5000人。今年の天候が平年並みだったと仮定すると同要因に基づく失業者はさらに12万9000人増えていた計算になる。つまり、非農業部門雇用者の1万7000人減は実力以上の数値で、実際にはもっと悪化している恐れがある。
カギ握る個人消費
2001年当時は情報技術(IT)バブルの破裂で、製造業が一気に崖を転がり落ちたが、今回は個人消費がカギを握りそうだ。今回の景気悪化は住宅と金融の複合バブルの破裂が原因になっており、まず住宅建設投資が激減。さらに金融収縮が進む過程で企業が雇用を絞り始め、その影響は米経済の70%以上を担う個人消費に波及し始めてきた。
昨年第4四半期の国内総生産(GDP)統計によると、実質個人消費支出は前期比年率で2.0%増(前期2.8%増)に減速。月間ベースでは12月に前月比横ばいに急減速した。今期の起点は低くなってきた。
ICSCとUBS調査による週間小売売上高指数は1月26日までの週に前年同週比1.3%上昇にとどまった。伸び率はFOMCが政策金利を1%まで引き下げた2003年6月以来の最低。同調査によると、消費者は生活必需品以外の品目を買い控えており、極めて低調な展開になっている。
個人消費失速か
サービスを除く全小売り売り上げの約2割を占める自動車販売は、消費者の購買力減退を反映して1月に季節調整済み年率で6.3%減の1524万台に落ち込んだ。バンク・オブ・アメリカのクレッツマー氏は今年第1四半期の個人消費は実質ベースでゼロ成長にとどまる可能性があると見ている。個人消費が横ばいにとどまれば、91年の景気後退以降で最悪となる。
製造業は好調な輸出を背景に健闘しているが、米経済に占める比率は相対的に低く、建設・金融に続いて、個人消費が失速すれば、単独では米経済を支え切れなくなる。2001年の前回景気後退期には相対的に比重の小さい製造業の悪化を最大項目の個人消費、さらに住宅が支え、比較的浅い傷で乗り越えることができた。
金融バブル破裂の災禍
しかし、今回は住宅と金融の複合バブル破裂に伴い住宅建設から金融部門そして最大項目の個人消費が打撃を受けており、より深刻な事態が予想される。米国の景気循環を判定する全米経済研究所(NBER)所長を務めるフェルドシュタイン・ハーバード大学教授は、「リセッションに陥った場合、非常に厳しく、従来よりもはるかに痛みの激しいものとなる恐れがある」と話す。これは金融バブルの破裂で同分野が脆弱(ぜいじゃく)化していることが背景にある。
同教授によれば、住宅・金融バブルの破裂に伴い、米経済はこれまでの景気後退に比べ、相当厳しい状況に置かれている。こうした悪環境下で雇用が危機ラインを突破した現状は、景気後退入りのリスクもこれまでになく高まっているはずだ。そして、景気後退に入った場合、その深さはサブプライム問題が原因になっているだけに、誰も見通せない怖さがある。
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