|
北の荒れる海を前に
男は三夜立ち尽くした
足元で揺れる小舟で
この激しい流れに
漕ぎ出す好機を待っていた
月の明るい夜を避けた
重い雪雲が流れてくるのを
ただ待っていた
そして三日目の夜
寒波とともに、それが来た
男の目には何も見えない
ただ、禍々しいばかりの
気配というよりは、もっと直接的な
腐臭だ、腐った肉体の放つ
しかし、凍る大気は
臭いなど孕まない
やはりそれは気配なのだ
しかし、男には臭いとして伝わる
それは、崩れかけた船だった
その影を確かめた男は
小さな舟を漕ぎ出した
それと入れ替わるように
腐臭を放つ船は
岩だらけの浜に乗り上げて
傾き、震えて、崩れた
船からこぼれ出た無数の暗い影は
凍る原野に散っていった
男は、小舟に乗った男は
船底に身を横たえて
雪に埋もれながら
雲間に月の姿が現れるのを
じっと待っている
舟はゆっくりと
西に向かっている
|
全体表示





