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この小説は「父親殺し」を題材としていますが、推理小説ではなく思想小説です。
したがって、犯人が誰かを語ってしまうことはそれほど問題ではないと考え、今後、
このブログでバラしてしまいますので、それを知りたくない人はこの先を読まないで下さい。
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ドーミトリイ(長男)が父親を殺す動機は2つありました。
1つは、女性問題(グルーシェニアをめぐる嫉妬)、
もう1つは、お金が欲しかった(グルーシェニカと駆け落ちする資金)です。
性格も直情型でしたし、実際に父親をぶん殴ったことがあるし、あちこちの酒場で
「オヤジをぶっ殺してやる」とふれ回っていました。
そして、父親が殺害される直前は文無しだったはずが、急にお金持ちになってしまったし、
父親が殺害された夜に血だらけの彼を目撃した人もたくさんいます。
しかし、実際、彼は父親を殺害していません。
彼は「自分は殺していないから無実だ」と信じていましたが、その無実を証明するものはなにもなく、
逆に犯人はドーミトリイだと人々に確信させるような状況証拠はたくさんありました。
以前からドーミトリイは父親を殺すかもしれない、というのは誰の目から見ても明らかだったのです。
モスクワから帰ってきたイワン(二男)にアリョーシャ(三男)は言います。
「お父さんを殺したのは、あなたじゃありません」(中略)
イワンは「何を言っているんだ、あたりまえだろう」と怒ります。
「兄さん、あなたは何度も自分自身に、犯人は俺だと言ったはずです」(中略)
「この恐ろしい二ヶ月の間(殺人事件が起きてからの期間)、一人きりになると、
お兄さんは何度も自分自身にそう言ってたはずです」(中略)
「兄さんは自分を責めて、犯人は自分以外のだれでもないと心の中で認めてきたんです。
でも、殺したのは兄さんじゃない。兄さんは思い違いをしています。犯人はあなたじゃない、
いいですね、あなたじゃありません!僕は兄さんにこのことを言うために、神さまから遣わさ
れてきたんです」
イワンはこの二ヶ月間の間に譫妄症(せんもうしょう:幻覚などが見えてくる精神病)にかかって、
見るからに精神錯乱したような風貌に変わってきていたのです。今度の事件に対して彼自身
罪の意識を強く感じているのです。
イワンはスメルジャコフが怪しいと睨んで、何度も彼のもとを訪ねます。癲癇で入院していた
スメルジャコフは3度目イワンが訪問したときには退院していました。
このとき、イワンの厳しい追及に対して、とうとうスメルジャコフは自分がフョードル殺しの
「実行犯」であることを白状し、その完全犯罪について詳細を語ります。
しかし、スメルジャコフは言います;
「本当の犯人はあなた(イワン)だ!自分は唆されただけである」
「あなた(イワン)は、この殺人事件が起こることを予測もしていたし、望んでもいた」
事実、イワンは愚かな兄のドーミトリィも、醜悪な父ヒョードルも憎んでいました。こういうこと
も起こりうることだと予測もしていました。その上でモスクワに去ったのです。
精神疲労の度合いを深めてイワンが自宅に帰ると、そこには、変な居候がまたいたのです。
それはイワンの分身でした。イワンが自分自身の中で嫌いな点ばかりを結集したような悪魔でした。
当然知性レベルはイワンと同じで、イワンの考え方も心もすべてお見通しです。
悪魔が言います。
「実在しないから神は信じないんだろう?じゃ、どうして、こうやって実在している悪魔のこと
は信じないんだ?」
悪魔は延々としゃべり続けます。幻覚ですから、耳をふさいでも聞こえます。
「良心!良心とは何だい?そんなものは自分で作り出しているのさ。じゃ、なぜ苦しむのか?
習慣さ。世界中の七千年来の習慣でだよ。だから神なんて否定して、習慣を忘れて、我々が神に
なろうじゃないか」
(私が勝手に一部表現を変えています)
深夜、悪魔の幻影に苦しんでいるイワンのもとへアリョーシャが訪問します。悪魔は姿を消します。
「スメルジャコフが首吊り自殺をした」という知らせでした。
こうして真犯人は完全犯罪を終え、イワンを苦しめ、最後の証拠である自分自身を葬ってしまった
のです。彼は、自分の呪われた運命、そして、カラマゾフ家に、命を賭けて復讐したのです。
これが裁判の前日でした。
様々な人がドーミトリイを助けようとします。昔の彼女(カーチャ)は、有名な医者を呼んで、
なんとか彼が「心神喪失」であったと証言させようとしています。また、ロシアの高名な弁護士
も呼びました。
イワン(二男)は、スメルジャコフを詰問する一方で看守などを買収して脱走させる計画を立て
ていました。しかし、イワンはいまや発狂寸前の状態でした。
当時広がった新聞によって、「父親殺し」の事件は全ロシア中で話題となり、裁判にはロシア中
の人々、有名人も貴婦人たちも集まり傍聴券はあっというまに全部なくなってしまいました。
ある人はドーミトリイを「父親殺しのろくでなしの息子」として、
貴婦人たちは「愛する女性のために父親までも殺した男」として、
ある人たちは、有名な弁護士がどんな弁護をするか、
ある人たちは「高級淫売」なグルーシャニカがどんな供述をするか、
ある人たちは「高慢な」もと恋人カーチャがどんな証言をするか、
並々ならぬ好奇心で集まった人たちがほとんどでした。
いよいよ裁判が始まります。数々の証人による発言、農民を含む陪審員たち、
検事、弁護士、本人の弁明、さて裁判、判決の行方はどうなるのでしょうか。
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内緒さん、こんばんは。幸い息子の熱は平熱に戻りました。とたんに「ステーキ食べたい」というのですから、もう大丈夫です。さて、フォードルの殺人ですが、はっきり言って、殺されてもしかたのない人だったのです。たまたまドーミトリイが最も殺しそうな立場でしたが、スメルジャコフがそうなるように状況を操作したこともあるし、イワンは、それに気がついていたのに、そういうことが起こってもしょうがない、と思っていたのです。現代の日本でも親殺し、子殺しの事件がたくさんありますが、背景は複雑です。「神」の問題と同じく、永遠の問題かもしれません。
2009/10/17(土) 午後 9:39 [ dareyanen22 ]