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谷崎潤一郎(1886-1965年)の『痴人の愛』(1925年)を読んだ。非常に面白かった。
谷崎潤一郎と言えば、究極のマゾヒスト、淫靡な世界、文章はやや難解、というイメージだったが
この本の文章は極めて平易で読みやすかった。
 
「私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、
できるだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。」
という文章で始まる。
 
何度も映画化もされた有名な作品ですが、簡単にご紹介すると、
生真面目なサラリーマンの河合譲治(28歳)は、カフェで見初めた美少女ナオミ(数えで15歳)を
自分の好みの女性に育て上げ妻にする。
(この辺の感覚は、少し「マイフェアレディ」にも近いか)
 
譲治は技術者で、一般の人と比べて何倍も多い月収があった。一方で、譲治の身長は五尺二寸
(157.6cm)と低く、色黒で、歯並びが悪くて、自分のルックスにコンプレックスがあった。
ちなみに谷崎潤一郎の身長も五尺二寸だった。大正末期の日本人男性の平均身長は160cmだった。
 
 
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成熟するにつれ妖艶さを増すナオミの回りには、いつしか男友達が群がり、やがて譲治も
魅惑的なナオミの肉体に翻弄され、身を滅ぼしていく。
 
「ナオミちゃん、お前の顔はメリー・ピクフォードに似ているね」
と譲治が言う。メリー・ピクフォードはサイレント・ムービー時代の「アメリカの恋人」と
呼ばれた女優。
 
 
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ナオミは、少しハーフっぽい顔をしていたらしい。そして、その体はどんどん成熟していく。
譲治は、ナオミが14歳のときから、彼女を風呂に入れて、全身を洗ってあげていた。
どんどん我儘になり、贅沢になり、言うことをきかなくなっていくナオミだったが、その美しさ
に譲治はとことん惚れ込んでしまう。
しかし、ナオミが複数の男性と浮気をしていることがわかり、本当に今度の今度こそ、
許せない、と譲治は怒り、ナオミを追い出してしまう。
 
しかし、結局は、ナオミのセクシーで計算しつくされた企みの前に、譲治は完敗する。
 
「ナオミ!ナオミ!もうからかうのは好い加減にしてくれ!よ!
何でもお前の云うことは聴く!」
 
譲治が馬になって、ナオミがその背中にまたがってされた会話は以下の通り;
 
**引用**
 
「これからは何でも云うことを聴くか」
「うん、聴く」
「あたしが要るだけ、いくらでもお金をだすか」
「出す」
「あたしに好きなことをさせるか。一々干渉なんかしないか」
「しない」
「あたしのことを『ナオミ』なんて呼びつけにしないで、『ナオミさん』と呼ぶか」
「呼ぶ」
「きっとか」
「きっと」
「よし、じゃあ馬でなく、人間扱いにして上げる、可哀そうだから。・・・・」
そして私とナオミとは、シャボンだらけになりました。・・・・・・・・・
 
**引用終わり***
 
そして、この小説は、以下の文章で終わります。
 
「これを読んで、馬鹿馬鹿しいと思う人は笑って下さい。教訓になると思う人は、
いい見せしめにして下さい。私自身はナオミに惚れているのですから、
どう思われても仕方がありません。ナオミは今年二十三で私は三十六になります」
 
強烈な内容の小説ですが、さすがにまだ大正末期ですので、エッチな表現というのは
具体的にはほとんどありません。ただ、婉曲的に仄めかされるので、かえってエッチかも
しれません。
 
この小説を読んで、読者はどう思うか?
「痴人」こと河合譲治のことを「馬鹿」と呼ぶのか。
お金も仕事も故郷の資産も売却して、母親にも嘘をつき、惚れた美しい女のためならば
なんでも好きなものを買ってあげ、食べさせてあげ、リッパな家をあてがい、仮に
彼女が浮気をしようと何をしようと絶対に文句を言わない。
 
馬鹿みたいだ、と大方の人は思うだろう。
でも、結婚している人が、若い愛人に翻弄されるのは、結構聴く話だけど、最初から
奥さんにこういう風に翻弄されてしまうのも珍しい。
 
そういえば、イタリアのもと首相ベルルスコーニが若い女性にニコニコしながら言っていた。
「なんでも君の好きなものを買ってあげよう!」と。
(こんなセリフ、言えるものならば言ってみたい)
 
谷崎潤一郎自身の女性遍歴は;
21歳:住み込み先の小間使福子との恋愛が当主に発覚、そこをでる。
29歳:石川千代子と結婚。
44歳:千代子と離婚。千代子を佐藤春夫に譲る。
45歳:古川丁未子(とみこ)と結婚。
48歳:丁未子と離婚。
49歳:根津松子と結婚。
 
詳細はここでは略しますが、恋と文学に生きたように思えます。
『細雪』は、根津家の姉妹の物語ですね。
 
「谷崎には思想がない」とも言われるらしい。しかし、谷崎が描いたのは時代や国境を
超えたものである。思想などというものは、時代や場所が変われば、ある日、誰かの
ハンマーの一撃によって、粉々に崩れ去ってしまうものだ。
くだらない思想などを排除したこの作品は、永遠に残ると私は思う。
 
「男はバカね」と女は言うかもしれないけど、女だって、惚れた男のためならば
すべてをなげうって尽くす人だっているはずだ。
 
そして、そういう相手との出会いがあって、実際にそうなることは、傍から見たら「馬鹿」で
あっても、実は、人の人生としては一番幸せなのかもしれない。
 
 
 
 

おかげさまで

こういうことは、あまり気にしないで行こうと思っていたのだけど、
この9月でこのブログもとうとう5周年を迎えた。
大阪で単身赴任しているときに始めた。
一人暮らしというのも、それなりに楽しもうと思えば楽しめるもので
仕事以外の時間は、好きな音楽をガンガン鳴らしながらアパートで料理を作ったり、
映画を見たり、ブログを書いたり、とエンジョイできた。
 
私の投稿回数もとうとう西暦に追いつき、これで2026回目だ。
よくもまあ、こんなに続くと思うけど、ただの日記だったら続かなかった
と思う。
 
訪問者もおかげさまでのべ10万人を超えた。
お気に入りに登録してくれている人も63人いる。
ときどきコメントを下さる人もいる。
ありがたいこっちゃ。
 
日々、ここに書き込むことで心と頭の整理ができているような
気がします。最近、忘れっぽくなってきたので、自分の備忘録としても
役立っています。
 
まだまだ続けるつもりですが、お気軽にご訪問ください。
 
今日は週末の金曜日だったので、仕事でつかれていましたが
9時過ぎから新宿のジャズバーで飲んできました。
 
来週、再来週は、非常に忙しくなってきますが、
寸暇を見つけて書こうと思っています。
 
では、皆様、ごきげんよう。
 
 
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