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いろいろあるけど、めげずにコツコツと

ドストエフスキー

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『白痴』(2)

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『白痴』を読み終わりました。

天才について凡人が語ることは愚かかもしれない。所詮、凡人に天才のことは理解できない。
ある文学者は
「ドストエフスキーの本を読んで、理解し、語り尽くすには少なくとも10年はかかる」
といったようなことを書いていました。それだけドストエフスキーが描いた世界は広く深い。

それでも、私は語ろうと思う。
以前も書きましたが、ドストエフスキーの文学は、文学的なポリフォニーとでもいうように、
数々の登場人物がそれぞれの考えや信念を語る。主役でない人にもかかわらず、たとえば
60ページくらい語る。それを読むと「なるほど」などと思う。しかし、また、別の登場人物が
またまた80ページくらい延々と語る。それはそれで、またわかる。作者のドストエフスキーは、
ずっと後ろに隠れていて、登場人物に自由に語らせていく。

もし、あなたが自分の物語を書いたとしたらどうなりますか?
もちろん、主役はあなただ。登場人物の数はどのくらいだろう?
あなたが愛した異性がいる。それも一人ではないはずだ。しかし、その異性を愛している他の人もいる。あなたを愛した人もたくさんいるはずだ。あなたが嫌いな人もいる。あなたを嫌いな人もいる。そこには素直な愛の喜びだけでなく、嫉妬もあるし奪い合いもある。憎しみだって生まれる。
あなたには母がいて、父がいて、それぞれの個性を持っている。血がつながっていてもあなたとは違う。兄弟姉妹がいる。友人や仕事の同僚もいる。
あなたを利用している人もいる、あなたが利用している人もいる。
お金持ちも貧乏人もいる。ノイローゼの人もいるし、病気の人もいる。秀才もいれば、愚鈍な人もいる。お金や権力に媚びる人もいれば、高潔な人もいる。死んでいく人もいれば、新たに誕生してくる人もいる。子供がいて、老人がいて、ずるい人も、誠実な人もいる。殺す人、殺される人、裁く人、裁かれる人、自殺する人、発狂する人。神を信じる人もいれば、神様なんて全く信じない人もいる。

ドストエフスキーの小説には世界のすべてがある、と言われています。だから、正直言って、
読むのはしんどい。数多くの人がチャレンジしては、途中で嫌になってしまう。でも、せめて
150ページくらい頑張って読み進むことができれば、やがてあなたはドストエフスキー・ワールド
にはまって行くでしょう。

『白痴は』は、一種の恋愛小説でもあります。主役のムイシュキン公爵が愛した二人の女性、
ナスターシャとアグラーヤ。そして、その二人の女性も彼を愛した。しかし、ムイシュキン公爵は
「恋」というものがどういうものかも知らなかった。そして、ナスターシャを愛するロゴージンの
複雑な心境とアグラーヤを愛するガーニャの苦悩。

スイスの精神療養所を出たムイシュキン公爵が11月の終わり、ペテルブルグへ向かう汽車の中で、
ロゴージンに出会うところから物語りは始まります。

ロゴージンは(以下引用)
「あまり背の高くない、二十七歳ばかりの青年であり、髪はほとんど真っ黒といっていいほどの縮れ毛で、灰色の瞳は小さかったが、火のように燃えていた。鼻は低くて、平べったく、顔は頬骨がとびだしており、薄い唇はたえずなんとなく不遜な、人をばかにしたような、いや、毒を含んでいるとさえ思われるような薄笑いを浮かべていた。しかし、その額は秀でて美しく整い、下品に発達した顔の下半分を補っていた。この顔のなかで特に目だっているのは、その死人のように蒼ざめた肌の色で、それはこの青年のかなりがっちりした体格に似合わぬ憔悴しきった感じを体つき全体に与えていた。が、それと同時に、その人を食ったような、厚かましい薄笑い、いや、みずから悦に入っているような鋭い眼差しとはまるでそぐわない、悩ましいまでに情熱的なものをも感じさせていた。」

ロゴージンは品のない商人で、がさつで粗暴、しかし、お金を持っていました。
ロゴージンは、絶世の美女ナスターシャをぞっこん惚れこんで、なんとか、お金の力で彼女を
自分のものにしようとしていました。

一方、ムイシュキン公爵は、ほとんど無一文で、白痴同然に世間知らずで、でも、誠実で素朴で
紳士的な美しい青年でした。まさに二人は対極をなしていたのです。

ムイシュキン公爵の家系は絶えてしまっていて、遠縁の人がある将軍夫人であると知って、
訪ねていきます。最初は胡散臭い青年と思った将軍家ですが、彼の誠実さに打たれて、
温かく迎えられます。この将軍家の三人姉妹の末っ子が美人のアグラーヤ。
アグラーヤはムイシュキン公爵を白痴扱いしながらも、「これだけ高潔で誠実な人はいない」
と恋します。
将軍家の秘書をしているガーニャという知的な青年はアグラーヤとナスターシャのどちらかを
自分のものにしたいと考えていました。

アグラーヤは将軍家の令嬢。
ナスターシャは、お金持ちに囲われていた過去をもつ女性。

ムイシュキン公爵がガーニャの家を訪問しているときにナスターシャが突然やってきて、
初めて二人は出会います。初めは高圧的だったナスターシャは、ムイシュキン公爵のあまりに
無防備で誠実で無欲な人柄に惹かれ、恋します。

さあ、この5人の恋の行方は?
読んでいて、ムイシュキン公爵の行動を「おまえはバカか!」と思うことがありますが、
この本のタイトルを考えれば無理もないことです。

「なんだただの恋愛小説?」って言われそうですが、もちろん、そんな単純な小説では
ないです。説明が難しい。

<<次回に続きます>>

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新潮文庫から出ている『白痴』(木村宏訳)を読んでいます。私にとっては今年はドストエフスキー
の年になりそうです。『罪と罰』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』と読んできましたが、先日、
ドイツ出張前に図書館から『白痴』を借りてきました。
上下巻あわせて1400ページくらいあります。なかなかタフです。

1868年の作品ですから、ちょうど日本では明治維新です。
主人公のムイシュキン公爵は、皆から白痴(バカ)呼ばわりされます。このバカというのは、
頭が足りないバカと世間知らずのバカの両方の意味です。しかし、この皆からバカといわれる
ムイシュキン公爵は、出会ったすべての人たちから愛されます。

ドストエフスキーは、この小説で、「無条件に美しい人」を書きたかったそうです。
彼によると無条件に美しい人といえばイエス・キリストくらいしかいないが、それを
現代に出現させたかったそうです。

上巻の帯には、こう紹介されています;
「スイスの精神療養所で成人したムイシュキン公爵は、ロシアの現実についで何の知識も持たずに故郷に帰ってくる。純真で無垢な心を持った公爵は、すべての人から愛され、彼らの魂をゆさぶるが、ロシア的因習のなかにある人々は、そのためにかえって混乱し騒動の渦をまき起す。この騒動は、汚辱のなかにあっても誇りを失わない美貌の女性ナスターシャをめぐってさらに深まっていく。」

今は下巻に入ったところですが、果たして、この本をどう紹介したらいいのか、
悩んでいるところです。とてもドラマチックなところもあるし、冗漫なところもある。

黒澤明もこの作品に感動し、これを原作にして、映画「白痴」を作っています。

主役はバカ呼ばわりされるムイシュキン公爵と、美貌の女性ナスターシャです。
ナスターシャは、子供のときに貧乏な家で火事となり孤児となったのですが、好色な領主が彼女の
美しさに目をつけて森の中で家と召使を与え育てます。領主はここを別荘として、年に2−3ヶ月
滞在して彼女が小さいときから性的ないたずらなどをたくさんします。一方で、たくさんの
書物を与え勉強もさせます。
そして、彼女が成人近くなったある日、領主が彼女に会ってみると、今まで従順で可愛かった
だけの彼女が豹変していることに気が付いたのです。彼女はますます美しくなっただけでは
なく、非常に多くの知識を持ち、知恵と知性を持ち、気も強くなり、弁も立ち、すっかり領主の
手におえる存在ではなくなります。それどころか、彼女の口から領主がしてきた辱めを世に暴露
しそうな気配もあり、領主は非常におびえます。
あまりに美しい彼女にはいろいろな人が求愛してきますが、彼女は自分の生い立ちから
来る心の傷ゆえに素直には応じません。そんな彼女がムイシュキン公爵に恋をします。

面白そうでしょう。

<<続く>>

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これまでアリョーシャと少年たちとのエピソードについて、全く触れませんでしたが、
最後に、ここで簡単にご紹介します。

**
長老が危篤の頃(フョードルが殺害されるずっと前のこと)ですが、ある日、アリョーシャは
子供たちが喧嘩している場面に出くわします。川を挟んで、1人相手に6人の10−12歳くらい
の子供たちがかなり本気で石の投げ合いをしていたのです。アリョーシャは6人側の岸にいました。
先方の投げた石がアリョーシャの近くにいた少年に当たります。
その少年が言います。
「これはあなたを狙って投げた石だよ。だってカラマーゾフだろ、あんた」と。
「複数で1人の子どもをいじめて恥ずかしくないのか」とアリョーシャは叱りますが、
少年たちいわく、
「先に仕掛けてきたのはあいつだ。友人があいつにナイフで刺されたんだ。あいつはとても
卑怯なやつなんだ」と。

アリョーシャは、喧嘩の原因は何か、また、どうして自分が狙われなければいけないのか
わからず、それを直接聞きに対岸の少年のもとへ行きます。少年は憎悪しきった顔で睨んで
います。まだ9歳くらいの身なりの貧しい少年です。少年はアリョーシャの質問には一切答えず、
アリョーシャに石をぶつけたりして怒らせて、殴ってきたら仕返ししようと試みますが、
アリョーシャが最後まで怒らず
「よく恥ずかしくないね!僕が君に何をしたって言うんだい!」と言って立ち去ろうとしたら、
飛び掛ってアリョーシャの指をちぎれるくらい噛みました。血が流れ出しました。

「さ、これでいい」とアリョーシャは言って、
「見てごらん、こんなに酷く噛んでさ。これで気が済んだかい、え?それじゃ今度は、
僕が何をしたのか、言ってごらん」
少年はびっくりして見つめていました。
「僕は君を全然知らないし、はじめて会ったんだけど」
相変わらず静かにアリョーシャは続けました。
「でも、僕が何もしていないはずはないよね。君だって理由もなしに僕にこんな酷いこと
をするはずはないもの。だったら、僕が何をしたの、君にどんな悪いことをしたのか、
教えてくれないか?」
少年は返事の代わりに突然泣き出して、走って行ってしまいました。

* *
カーチャ(長男ドーミトリイの彼女)の家で、アリョーシャは、1週間ほど前のある事件の話
を聞きます。傍若無人なドーミトリイが安酒場で酔って何が燗に触ったのか、ある二等大尉の
髭をつかんでお店の外へ引き吊りだし、皆が見ている前でそのまま道を引き吊りまわしたのです。
この二等大尉の息子が泣きながらドーミトリイに「パパを許してやって!」と頼みますが、
ドーミトリイは許しませんでした。この少年こそがアリョーシャを狙って石を投げた子供でした。
その光景を少年の学校の友達も見ていていたのです。

アリョーシャはカーチャにお見舞金を渡され、その家に持っていくように頼まれます。
こういう仕事にアリョーシャ以上に相応しい人はいないだろう、と彼女は読んだのです。

* *
アリョーシャはこの少年の家をすぐに訪ねます。
古い平民の家で、小さな汚い中庭には牝牛が一頭だけ立っていて、土間から入ると家主の老婆
とその娘の老人が二人がいて、耳が遠く、中庭の奥に、掘っ立て小屋があって、そこが二等大尉
と少年の住まいでした。それなりに広いとはいえ、一部屋しかないその小屋の中には、
もと二等大尉(45,6歳の小柄で痩せこけた髭の人、失業中)、
その妻(頭がおかしい)、
長女(憎悪むき出しの顔をしている)、
二女(善良そうな目をしているがせむしで歩けない)、
そして、例の少年は胸を患い、熱を出してベットに寝ていた。
もと二頭大尉は卑屈な慇懃な口調で、何の用事で来たのか尋ねました。
少年はさっき噛み付いたのをアリョーシャが父親に言いつけにきたのかと思いましたが、
もちろん、そうではなくて、アリョーシャは兄のことを心からお詫びに来たのだし、そして、
家の外に父親と一緒に話をするために出ました。

カーチャの見舞金は、この家族からすれば、子供を病院に連れて行くこともできるし、
こんな小屋から引越しできるくらいの金額でした。父親(もと二等大尉)にしてみたら
喉から手が出るほど欲しいものでした。父親はアリョーシャに息子との話をします。
息子が「パパ、あいつはパパに恥をかかせたね」
「パパ、あんなやつ、絶対許せないよね!僕が絶対に仕返ししてやるから!」
「パパ、きっとここから引っ越して皆で違うところに住もうよ」などとお父さんに言った話などを。
そして、このお父さんは、アリョーシャが頭を下げて渡そうとした見舞金をくしゃくしゃにして、
地面に叩きつけて、家に戻ってしまいました。
「この金を受けとったら、息子のプライドはどうなるのですか!?」と。

* *
しかし、アリョーシャの根気のある、そして誠実な折衝は続き、後日、この父親は見舞金を
受け取ってくれます。

* *
石を投げていた6人の少年たち側には、非常に頭がいい、勇敢なガキ大将がいました。
このガキ大将がこの少年をあるときからかばっていたので、クラスの皆は少年をいじめること
をしませんでした。しかし、この少年が、あのろくでもないスメルジャコフに
「パンに針を含ませて犬に食わせると、犬はもがき苦しみながら血を吐いて死ぬから面白い」
ということを教わり、ガキ大将の可愛がっていた犬に食わせてしまうのです。
ガキ大将はこのことに非常に腹を立て、クラスの皆が少年の敵に回ります。
少年は自分がしたことを悔いて悩んでいるのですが、後の祭りです。

このガキ大将がアリョーシャを実は非常に尊敬していて、やがて二人は仲良くなります。

そして、いつの日か、この二等大尉の家族、アリョーシャ、少年たちは心を許しあうようになります。
これはアリョーシャの存在があってこそできたことです。しかし、少年は病で死ぬ間際だったのです。

『カラマーゾフの兄弟』の最後の場面は、少年が肺病で死んで、その埋葬のシーンで終わります。
少年は死ぬ前に父親に、
「埋めたらお墓の土の上にパンの耳のくずを撒いてね。だって、そうすれば鳥たちが集まってきて、
僕、さびしくないもん」と。

少年たちを前にアリョーシャがお話をします。聞き手に回ることが多いアリョーシャにしては
かなり長い話です。「抜粋」というのは実は危険な行為なのですが、一部だけ抜粋します:

「(前略)いいですか、これからの人生にとって、何かすばらしい思い出、それも特に子供のころ、
親の家にいるころに作られたすばらしい思い出以上に、尊く、力強く、健康で、ためになるものは
何一つないのです。君たちは教育に関していろいろと話してもらうでしょうが、少年時代から大切に
保たれた、何かそういう美しい神聖な思い出こそ、おそらく、最良の教育にほかならないのです。
そういう思い出をたくさん集めて人生を作り上げるなら、その人はその後一生、救われるでしょう。
そして、たった一つしかないすばらしい想い出が心に残らなかったとしても、それがいつの日か
僕たちの救いに役立ちえるのです。(中略)
決して彼を忘れないようにしましょう、今から永久に僕らの心に、あの子のすばらしい永遠の
思い出が生き続けるのです!」

* *
『カラマーゾフの兄弟』は、この埋葬シーンで終わります。しかし、これらは、すべて「前半」
だったようです。ドストエフスキーは、この13年後の「後半」こそがこの小説の中心であり、
前半はそれほど重要ではないのだけど、後半を理解するためには前半が必要だから、ということで
書いたようです。しかし、残念ながら、ドストエフスキーは後半を書くことなく病死します。
一説によると、ふるさとを離れたアリョーシャは、やがて皇帝暗殺を試み、逮捕され、処刑される、
という話になるはずだったそうです。

本屋に行けば腐るほど、たくさん本が並んでいますが、そのほとんどは読むに値しない、
時間の無駄になるような本です。買って後悔する、一度読んだら十分、という本が多いです。
でも、『カラマーゾフの兄弟』は違いました。

ブログでかなり細かく書いてしまいましたが、実際の本は、私の文章ではとても表現できぬ、
素晴らしいものです。買って読んで損は絶対しません。
長きにわたって最後まで読んでくださった方々に感謝します。

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『カラマーゾフの兄弟』のブック・レビューなんて、書こうと思ったのが
そもそもの間違いだったかもしれない。段々、疲れてきた。
ドストエフスキー最後の作品なので、彼はこの小説の中で何もかも書こうとした
んですね。だから、いくら書いてもきりがない。もちろん、あらすじだけ書くことは
できますが。

この小説を読みながら私が思い出したのは、学生時代にお世話になった『試験に出る英単語』
という受験勉強用の本です。ロングセラーだと思いますが、この英単語勉強本のユニーク
な点は、「重要と思われる単語順」に書かれている、ということです。
普通ならば「頻度順」なんですけどね。著者の森先生いわく、「この単語の意味がわからなければ
その文章全体の意味は絶対にわからないだろう」と思われる重要な単語順なのです。

もう30年以上前に使った本ですので、順番は正確には覚えてしませんが、確か上位には
こんな単語がありました;

intellect 知性
conscience 良心
tradition 伝統
agriculture 農業
religion 宗教
literature 文学
hatred 憎悪
patriotism 愛国心
vanity 虚栄心
emotion 情緒、感情
psychology 心理(学)
instinct 本能
enthusiasm 情熱
などなど。

もちろん、『カラマーゾフ』はロシア語で書かれたのもですが、西欧文化というものを、
もしくは現代の文化というものを理解するには、不可欠な単語です。
もしくは「人間」というものを理解するのに必要な単語かもしれません。

長男ド−ミトリイはemotionとenthusiasmの人
二男イワンはintellectの人
三男アリョーシャはconscienceの人
父親フョードルは、greed(貪欲)の人
スメルジャコフはhatredの人

さて、ドーミトリイは父親殺しの容疑者として裁判となります。数々の証人が証言します。
ほとんどの人の証言はドーミトリイに不利な証言でした。ある老人だけは、昔、ドーミトリイ
が子供だった時のことを思い出し、「とてもいい子だった」と証言したのは印象的でした。
もと恋人のカーチェは、最初は弁護する証言でしたが、後でグルーシェニカに対する嫉妬心
から前言を取り消して、急に不利な証言に変わりました。
有能な弁護士は、これら証言者たちの証言自体がいかに信頼性に乏しいもので、何の証拠
にもならないことを指摘します。

アリョーシャの証言は、
「私は兄の無罪を信じます。なぜならば、兄は正直な人間だからです。
兄はこれまで一度も私に嘘をついたことはありません。その兄がしていない、と
言っているのですから、殺害していないはずです」と。
イワンの証言は「スメルジャコフこそが真犯人だ」と言うのですが、本人は精神病
にかかっており、途中で支離滅裂になってしまい、証言台から引き下ろされてしまいます。

検事の論告がまた長い!60ページくらいあるのでは。彼はpatriotismの人で、
「この事件が問題なのではなく、このような事件にもあまり驚かなくなった我々
の社会が問題である」といったことから始めて、延々とカラマーゾフ家について、
そして、ドーミトリイの心理を推測した論告となります。

弁護士は、この検事の論告には非常に冷ややかに、「あまりに心理的な推測が過ぎる」
として、そのような推測ならば、いくらでもできるし、全く違う推測だって可能だ、
と真っ向から反論します。そして、興味深いのは、
「子供を産んだから母親である。男親だから父親であるわけですが、果たしてその
義務も全うしなかったような人間が母親、もしくは父親と呼べるのでしょうか!?
子供にとって、本当の母、父というのは、愛のある母であり、尊敬する父ではない
でしょうか」といった内容の発言でした。

多くの傍聴人がいて、陪審員がいて(陪審員の多くは農民)、もちろん、裁判官がいて、
休憩時間を挟んで、いよいよ判決がでました。

「有罪!」

ドーミトリイはシベリアへ流刑となります。冤罪ですね。
この判決については、私見ですが、陪審員の農民たちが、ドーミトリイを許さなかった
結果ではないか、と思っています。貧しい農民たちから見れば、ドーミトリイなど、
全く同情する余地もなかったのではないか、と思います。

この小説は、この裁判をもって終わるわけではなりません。

最後にアリョーシャとある少年の話で終わります。このエピソードについては、
これまで一度も触れなかったので、次回触れたいと思います。
作者が愛したアリョーシャこそが、この小説の主人公です。

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この小説は「父親殺し」を題材としていますが、推理小説ではなく思想小説です。
したがって、犯人が誰かを語ってしまうことはそれほど問題ではないと考え、今後、
このブログでバラしてしまいますので、それを知りたくない人はこの先を読まないで下さい。

***

ドーミトリイ(長男)が父親を殺す動機は2つありました。
1つは、女性問題(グルーシェニアをめぐる嫉妬)、
もう1つは、お金が欲しかった(グルーシェニカと駆け落ちする資金)です。
性格も直情型でしたし、実際に父親をぶん殴ったことがあるし、あちこちの酒場で
「オヤジをぶっ殺してやる」とふれ回っていました。
そして、父親が殺害される直前は文無しだったはずが、急にお金持ちになってしまったし、
父親が殺害された夜に血だらけの彼を目撃した人もたくさんいます。
しかし、実際、彼は父親を殺害していません。

彼は「自分は殺していないから無実だ」と信じていましたが、その無実を証明するものはなにもなく、
逆に犯人はドーミトリイだと人々に確信させるような状況証拠はたくさんありました。
以前からドーミトリイは父親を殺すかもしれない、というのは誰の目から見ても明らかだったのです。

モスクワから帰ってきたイワン(二男)にアリョーシャ(三男)は言います。
「お父さんを殺したのは、あなたじゃありません」(中略)
イワンは「何を言っているんだ、あたりまえだろう」と怒ります。
「兄さん、あなたは何度も自分自身に、犯人は俺だと言ったはずです」(中略)
「この恐ろしい二ヶ月の間(殺人事件が起きてからの期間)、一人きりになると、
お兄さんは何度も自分自身にそう言ってたはずです」(中略)
「兄さんは自分を責めて、犯人は自分以外のだれでもないと心の中で認めてきたんです。
でも、殺したのは兄さんじゃない。兄さんは思い違いをしています。犯人はあなたじゃない、
いいですね、あなたじゃありません!僕は兄さんにこのことを言うために、神さまから遣わさ
れてきたんです」

イワンはこの二ヶ月間の間に譫妄症(せんもうしょう:幻覚などが見えてくる精神病)にかかって、
見るからに精神錯乱したような風貌に変わってきていたのです。今度の事件に対して彼自身
罪の意識を強く感じているのです。

イワンはスメルジャコフが怪しいと睨んで、何度も彼のもとを訪ねます。癲癇で入院していた
スメルジャコフは3度目イワンが訪問したときには退院していました。
このとき、イワンの厳しい追及に対して、とうとうスメルジャコフは自分がフョードル殺しの
「実行犯」であることを白状し、その完全犯罪について詳細を語ります。

しかし、スメルジャコフは言います;
「本当の犯人はあなた(イワン)だ!自分は唆されただけである」
「あなた(イワン)は、この殺人事件が起こることを予測もしていたし、望んでもいた」
事実、イワンは愚かな兄のドーミトリィも、醜悪な父ヒョードルも憎んでいました。こういうこと
も起こりうることだと予測もしていました。その上でモスクワに去ったのです。

精神疲労の度合いを深めてイワンが自宅に帰ると、そこには、変な居候がまたいたのです。
それはイワンの分身でした。イワンが自分自身の中で嫌いな点ばかりを結集したような悪魔でした。
当然知性レベルはイワンと同じで、イワンの考え方も心もすべてお見通しです。
悪魔が言います。
「実在しないから神は信じないんだろう?じゃ、どうして、こうやって実在している悪魔のこと
は信じないんだ?」
悪魔は延々としゃべり続けます。幻覚ですから、耳をふさいでも聞こえます。
「良心!良心とは何だい?そんなものは自分で作り出しているのさ。じゃ、なぜ苦しむのか?
習慣さ。世界中の七千年来の習慣でだよ。だから神なんて否定して、習慣を忘れて、我々が神に
なろうじゃないか」
(私が勝手に一部表現を変えています)

深夜、悪魔の幻影に苦しんでいるイワンのもとへアリョーシャが訪問します。悪魔は姿を消します。
「スメルジャコフが首吊り自殺をした」という知らせでした。
こうして真犯人は完全犯罪を終え、イワンを苦しめ、最後の証拠である自分自身を葬ってしまった
のです。彼は、自分の呪われた運命、そして、カラマゾフ家に、命を賭けて復讐したのです。

これが裁判の前日でした。

様々な人がドーミトリイを助けようとします。昔の彼女(カーチャ)は、有名な医者を呼んで、
なんとか彼が「心神喪失」であったと証言させようとしています。また、ロシアの高名な弁護士
も呼びました。
イワン(二男)は、スメルジャコフを詰問する一方で看守などを買収して脱走させる計画を立て
ていました。しかし、イワンはいまや発狂寸前の状態でした。

当時広がった新聞によって、「父親殺し」の事件は全ロシア中で話題となり、裁判にはロシア中
の人々、有名人も貴婦人たちも集まり傍聴券はあっというまに全部なくなってしまいました。
ある人はドーミトリイを「父親殺しのろくでなしの息子」として、
貴婦人たちは「愛する女性のために父親までも殺した男」として、
ある人たちは、有名な弁護士がどんな弁護をするか、
ある人たちは「高級淫売」なグルーシャニカがどんな供述をするか、
ある人たちは「高慢な」もと恋人カーチャがどんな証言をするか、
並々ならぬ好奇心で集まった人たちがほとんどでした。

いよいよ裁判が始まります。数々の証人による発言、農民を含む陪審員たち、
検事、弁護士、本人の弁明、さて裁判、判決の行方はどうなるのでしょうか。

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