オリジナル短編小説箱in群馬

入魂創作のオリジナル短編小説を、ぜひ読んでください。小説メインです。全部、1話読み切りですので、お気軽にどうぞ。

全体表示

[ リスト ]

マーメイドに恋した男

イメージ 1

ザザーーン、ザザーン。

人気の無くなった海は、
相変わらず寄せては返す波の音を響かせていた。


僕は一人、波打ち際の“いつもの場所”に立っていた。
時計の針は深夜1時を回っている。

誰かが見たら、自殺者と勘違いされそうな、
寂しい浜辺の夜。
でも、ここに立つ僕の心は、
お花畑に立っているかのように穏やかで、
そして、子供のように高揚しているのだ。

それもそのはずだ。
ここは、2人の秘密の場所。

「そろそろ、来る頃だ。」


僕は、はやる心を抑えきれず、
そわそわしている。

もう一度、周りを見回して、辺りに誰も居ないことを確かめる。


「今日も、大丈夫だ。」

再び、海のほうへ視線を向けると、
彼女は、もうすぐそばまで来ていた。


「こんばんわ。
 今日も来てくれたのね。ありがとう。」

「・・・」


僕が返事をするまもなく、
僕の唇は、彼女の唇でふさがれてしまった。

彼女の腕は、僕の首にからみつき、
僕の腕は、彼女の腰を支えた。


「会いたかった。
 僕は、いつも君のことを愛してるよ。」


そう言うと、彼女はとても嬉しそうに、
尾びれをばたつかせた。


尾びれ・・・。


普通の人には信じられないかも知れないが、
彼女は、人魚なのだ。



僕は、この浜辺で彼女と出会った。
2ヶ月前のことだ。

恋人に裏切られ、
仕事を辞め、
人生に疲れた僕は、なんとなく、この浜辺に来た。

そんなとき、
彼女と出会った。
僕は、最初目を疑ったが、
すぐに気にならなくなった。

人魚と知り合いになった、という、不思議さよりも、
彼女の美しさと、
溢れる優しさに惚れ込んでしまったのだ。


それ以来、ほとんど毎日ここへ通った。


2人はやがて恋に落ちた。

お互いに、いろいろな事を話した。

彼女は、この浜辺に泳ぎに来て、
気がついたら人魚になってしまっていたのだという。

原因は、わからない・・・。



僕は、彼女の肩をとり、
僕を見つめる彼女に言った。

「聞いてくれ。
 僕は決めたよ。
 君と結婚したい。」

「ありがとう。
 とっても嬉しいわ。
 でも・・・」


彼女の表情は、曇ってしまった。


「・・・でも、
 私は・・・」


人魚だから、という言葉を飲み込んだ。
現実は、2人を引き裂くかに思えた。


「いいじゃないか、そんなこと。
 僕は、それでも君のことを愛している。
 君に、もっとそばに居てほしいんだ。」


「ああ。あああ。
 私は、どうしたらいいの。
 人魚になったあの日から、
 私の日常は非日常になってしまった。
 でも、こんな日が来るなんて。」



彼女の目から、涙が流れ落ちた。

「いいんだよ。
 僕が望む事なんだから。
 僕の、お嫁さんになってくれないか。」


僕の目からも、一筋の涙が落ちる。

再び抱き合う二人の頬で、
お互いの涙が混ざり合っていく。


ふと、頭上に輝く満月が怪しい光を増したように見えた。


すると、奇跡というべきか、
二人の愛の力というべきか、
彼女の体が、光り輝いていく!


「ああ、体が、
 体が熱くなって・・・」

「どうした、大丈夫か?」

「体が・・・
 あああ・・・」



輝く満月の光と、彼女の放つ光が、
やがてひとつになり、
奇跡は・・・起きた。

なんと彼女は、元の姿に戻ったのだ!




あれから1年が経った。




僕は、買い物から帰ると、
すぐに居間へ向かった。


今日は、1年間一緒に過ごしてきた2人の、
初めての結婚記念日。



僕は、いそいそとドアを開けると、
買ってきたプレゼントを差し出した。


「ただいま。
 今日でちょうど1年だね。
 これ、喜んでくれるといいんだけど。」


ガサガサと包み紙を開ける。

中から、キラキラと綺麗な、
小さなお家と、水車が出てきた。



僕は、それを居間の大きな水槽に沈めると、
嬉しそうに泳ぎ回る彼女を見つめた。



そう、彼女はあの日、
元の姿に戻ったのだ。


元の、魚の姿に・・・。


「愛してるよ、いつまでも。」


彼女は、水槽から顔を出して、
僕の頬に優しくキスをしてくれた。




“マーメイドに恋した男” 完
作品番号:10

〜この記事の画像=フリー素材サイト「Atelier N」〜

閉じる コメント(4)

顔アイコン

こんにちは。改めて以前のお話を読み返していました。私の想像しない結末に驚くばかりです。と言いますか、私の想像力が乏しいだけなのかもしれませんが・・・(笑)最後まで結末がわからない、良い意味で期待を裏切ってくれる作品って本当に好きです。

2006/3/31(金) 午前 1:33 [ rin**_666 ]

顔アイコン

ありがとうございます。有名な「注文の多い料理店」を最高作品として、これを目標にがんばっています。まだまだ遠くおよびませんが。今後も結末重視で行きますので、また見に来てください!

2006/4/2(日) 午後 7:20 [ しげぞう ]

顔アイコン

なるほど、そうでしたか。一人で納得してしまいました。「注文の多い料理店」は私も大好きです。 宮沢賢治記念館にも行って来ましたよ。 面白かったです。光合成する人の話も好きですね。

2006/6/10(土) 午前 5:11 アンのつぶやき

顔アイコン

先日、面白かった映画の説明に、「注文の多い料理店みたいなオチなんだよ」と言われました。やはり宮沢賢治はすごい、と、再認識してしまいました。記念館、おもしろかったですか?

2006/11/2(木) 午前 1:38 [ しげぞう ]


.
しげぞう
しげぞう
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

Yahoo!からのお知らせ

検索 検索

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

話題の新商品が今だけもらえる!
ジュレームアミノ シュープリーム
プレゼントキャンペーン
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事