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「お願いです。
あのストーカーを消してください。」
レイチェルは、自室で必死にまじないをかけていた。
いや、正確には、黒魔術というものだ。
机の上には辞書のような手引書。
床には、白チョークで書かれた魔法陣。
ロウソクの灯りの中で、
おおよそ、そんな部屋には似つかわしくない、
美貌と金髪の女性、レイチェルは必死だった。
流れる汗。
ほとばしる緊張感。
ふっ、と、ロウソクに照らされたレイチェルの影がゆらめいた。
「終わったわ。
これで駄目なら・・・」
モデル事務所に所属し、
3年続けて仕事もやっと定期的に入り始めたレイチェルだったが、
数週間前から、あるストーカーに悩まされていた。
レイチェルは追いつめられていた。
夜通し鳴り響く電話の音。
出れば決まって同じ男の声。
時にはチャイムも鳴った。
ストーカーだ。
両親は早くに亡くなり、
兄弟もなかったため頼れる家族もなく、
かといって、信頼できる友人を巻き込みたくもなかった。
警察沙汰にして事を大きくすれば、
事務所に迷惑がかかってしまう。
せっかく入り始めた仕事を失いたくはない。
心配したマネージャーがくれた唯一の解決策は、
なんと、黒魔術の手引書だった。
レイチェルもさすがに最初はどうかと思ったが、
激しさを増すストーカーの行為に、
自室で手引書とにらめっこするうちに、
ついに、実行することにしたのだ。
「お願いです。
あのストーカーを消してください。」
3本のロウソクの火が、
風もない部屋の中で、
いっせいに消えた。
「・・・まさか!」
手引書によれば、
“願いが聞き入れられたとき、
ロウソクの火がいっせいに消える”
と書いてある。
「・・・ほんとうに、消してくれたのかしら。」
その夜、
電話もチャイムも、
まるで壊れたと思うくらい、1度もならなかった。
「すごい。すごいわ。
明日、マネージャーにお礼を言わなくちゃ。
・・・でも、マネージャーの子、
これ使ってるのかしら。
なんだか気味が悪いわ。
黒魔術、使ったことは秘密にしておこうかしら。
マネージャーは、怒らせないように、そうっとクビにしてもらわなくちゃ。
・・・」
そんなことを考えているうちに、
レイチェルは、久しぶりにぐっすりと眠っていった。
翌朝。
部屋から出てマンションの階段を降り、
歩道に出たところで、レイチェルは目を疑った。
マンションの反対側から、
包丁が道路を渡ってくるのだ。
「なに!?」
立ちすくむレイチェルの耳に、
聞き覚えのある男の声が響く。
「レイチェル!
ああ、レイチェル。
やっと僕の前に出てきてくれたんだね。」
「いやぁっ!」
それは、ストーカーの声だった!
人気の無い道路に、
聞きたくもないストーカーの声が響く。
「僕は驚いたよ。
ゆうべ、気がついたら、
僕の体が見えなくなったんだ。
最初は、僕目がおかしくなったんだと・・・
だが、じきにわかった。
他の誰からも、僕の姿が見えなくなったんだ!
どうだい?レイチェル。
君にも僕が見えないだろう?」
ストーカーは、
おそらく包丁を持っているのだ。
宙に浮いた包丁が、
ゆっくりと反対側から近づいてくる。
・・・ああ、なんてこと。
黒魔術、失敗だわ。
“ストーカーを消してください”・・・
“殺してください”と言っていれば・・・
あぁ・・・
「なんだか知らないが、
僕はこんな姿になっちまって、
もう半分この世にいないようなもんだ。
レイチェル。
一緒にあの世で暮らそう。
永遠に!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
ドスッ!!!!
マンションの前に鈍い音が響く。
レイチェルは意識が遠くなっていった・・・
数時間後、
レイチェルは病院のベッドにいた。
「気がついたかね?
レイチェルさん。
初めまして。
私は担当医のトーマスといいます。」
「・・・わたし・・・
わたし、生きてるの?」
「はい。
しかも、無傷でね。」
担当医のトーマスとやらは、
いやに神妙な顔つきだ。
「レイチェルさん。
あなたは、今、治療中です。
病室の外には警察官が待っていますが、
事情聴取は体力が回復してからにしてくださいと
言ってあります。」
トーマスは続ける。
「これは、私の興味から聞くので、
答えなくてもいいんですがね。
たぶん、この後、警察官達から同じ質問をされるでしょう。
医者としてひとつ、聞いてもいいですかね?」
「・・・はい?」
レイチェルは、よくわからなかった。
・・・傷は?ないの?
私、夢を見ていたのかしら?
確かにストーカーの包丁が・・・
「レイチェルさん。
あなたは交通事故に遭ったということで、
救急車で運ばれてきた。
だが、骨折はおろか、かすり傷ひとつない。
私も違う患者かと思いましたよ、最初はね。
しかし、いくら救急隊員に確認しても、
現場には、明らかに人間に当たった跡がある乗用車があって、
倒れていたのはあなただけだと言うんですよ。
あなた、どんなふうに車にひかれたら、
無傷でいられるんですか?」
同じ頃、
レイチェルのマンションの前で、
いや、マンションの前から30m離れたところで、
1本の包丁が見つかった。
その横で横たわる、
車にひかれて絶命寸前の透明なストーカーの男は、
誰にも発見されることはなかったのだが。
“消えたストーカー” 完
作品番号:15
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なるほど。消してくださいか・・・これって笑える。願う時には正確にしないといけないんだ。でも死ぬ時に消えているなんてかわいそうかも。
2006/7/23(日) 午前 3:35
ドキドキしちゃいましたよ(^^)
2006/7/23(日) 午後 5:20
こんにちゎ!!すごぃですね!!ぁたしも小説書いてるんですょ!!でも、最近調子わるくて・・・。恋愛モノしヵ書けませんが、みにきてくださあぃね!
2006/7/23(日) 午後 11:49
2重のオチには参りました。ファン登録させていただきます。
2006/7/27(木) 午前 2:59 [ mai*su*in*mi ]
透明人間って、昔から矛盾を感じていて、これをなんとか面白い話に見せるのがなかなか思いつかなくて、やっとこ思いついた、という感じです。いいコメントをたくさんいただいて、とっても嬉しいです!
2006/7/30(日) 午後 10:18 [ しげぞう ]
恐いですねぇ。黒魔術っていう本、どこかで売っているような感じがいたします(汗 マネージャーさんはどこで手に入れたのでしょうか(^^;)
2006/8/28(月) 午前 9:44 [ - ]
黒魔術から入ったのも凄かったですね!発想豊かでウラヤマシィです。
2006/9/25(月) 午後 4:09 [ mog*p*n ]
ご感想ありがとうございます。黒魔術について、1回だけ何かの本で真面目に紹介されているのを見かけたことがあって、今回の作品に黒魔術というものを登場させてみました。やり方は全くわかりませんし、信じてもいませんが(汗)。
2006/11/2(木) 午前 1:32 [ しげぞう ]