オリジナル短編小説箱in群馬

入魂創作のオリジナル短編小説を、ぜひ読んでください。小説メインです。全部、1話読み切りですので、お気軽にどうぞ。

オリジナル短編小説

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オイラ「しげぞう」が作るオリジナルの短編小説たち。意外な結末が待っている!?
素人なので、何かの記憶が残ってたりして、どこかで聞いた話だったりしたらゴメンナサイね。
もし面白かったらコメントください。つまんなかったら・・・そうっとしておいてあげてくださいw
なお、ここに作成する作品は、すべてフィクションであり、実在する人物・団体とは一切関係ありませんので、念のため。
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究極のゴミそうじ

「まだ、あれ、買えますか?」


今日も、家電製品店の前には、
開店前から長蛇の列が並んでいた。

話題の新製品「オートクリーナー」は空前の大ヒットとなっていた。



オートクリーナー。



それは家電業界に彗星のごとく現れた画期的新商品だ。


その驚くべき新機能は、付いて名のごとく、
“全自動掃除機”だ。


最新のロボット工学と、高度な物質認識機能を搭載したオートクリーナーは、
指定された情報に基づき、ゴミであるかどうかを識別し、
2本のアームで回収、指定したリサイクル場へと搬送してくれる。

購入者は、処分したいゴミの形状や、リサイクル場さえ指定すれば、
ゴミの収集、搬送という一連の“掃除”という作業から解放される。




「あら、おたく、まだ掃除なんて自分でなさってるの?」

そんな言葉が街角で行き交うようになり、
オートクリーナーの入荷時には、家電製品店に長蛇の列が恒例となった。




やがて、オートクリーナーは、家庭だけでなく、
街角清掃や、企業の産業廃棄物処理にも利用されるようになり、
より大型で、パワーのあるオートクリーナーも発売されるようになった。





しかし、掃除から解放されればされるほど、
オートクリーナーがうまく識別しないために残ってしまう「残ゴミ」を、
手作業により掃除しなければならない「残ゴミ清掃」が苦痛になっていった。



人間は、貪欲である。



製造元企業は、この貪欲に目をつけた。

「“残ゴミ”が残らない、完璧なオートクリーナーはできないか。」



これを合言葉に、開発に打ち込んだ。





やがて、「ニュー・オートクリーナー」が登場する。


最新の人工知能を搭載し、ゴミを、自らの判断でゴミであると認識する、
まさに夢の全自動掃除機が完成したのだ!





「ニュー・オートクリーナー」は、前作を超える爆発的なヒット商品となった。





街からどんどんゴミが消えていった。





部屋のゴミが、なくなった。





街角にポイ捨てされたゴミが、なくなった。





産業廃棄物が、なくなった。





川底や浜辺からゴミが、なくなった。





人々から、「ゴミはゴミ箱に捨てる」という観念が、なくなった。





そして、世界から人々が、なくなった。





必要以上の便利は、人間からモラルを奪い、
モラルを失った人間は、「ゴミ」と判断され、地球から掃除されたのだった。






“究極のゴミそうじ” 完
作品番号:29

マジック 対 超能力

「あなたが選んだカードは・・・・・
 ハートの6ですね!」


「すごい!
 また当ててしまいましたーっ!
 マジックジャックさん、見事なマジックです!」



まばゆいスポットライトの中央で、
彼は、次々に奇跡を起こしていた。

司会者の進行も、次第に熱を帯びていく。


「さぁ、次はいったいどんな奇跡を見せてくれるのでしょうか。
 刮目せよ!次のマジックは、こちらだっ!」


「おぉぉぉぉ。」



観客が思わずあげる驚きの声の中、
彼、マジックジャックは、次々と奇跡を起こして見せた。


千円札が鳥になり、コインがスイカを突き抜け、
絵に描いた卵がヒヨコになった。




「カットォ!」


プロデューサーの大きな声がスタジオ内に響く。
番組収録終了の合図だ。


そう、ここはテレビ局のスタジオ内。
今日は、史上最高のマジシャンと評されている、
人気絶頂の彼、マジックジャックの、マジック番組の収録だったのだ。



「どもぉ、おつかれさまでしたぁ。」

早速、ディレクターが本日の主役に駆け寄る。

「いやぁ、今日も凄かったですねぇ。
 私も思わず見入っちゃいましたよぉ。」



「ありがとうございます。」


彼は、少し疲れた様子で、
軽く微笑みながら、愛想を返した。



「また来月、特番ありますんで、
 できれば、そのぉ・・・新しいネタ、お願いしますよ。」


ディレクターの腰が最も低くなる瞬間だ。



「ご期待に沿えるよう、努力してみます。
 また、その時はよろしくお願いします。」


彼は落ち着いてそう答えると、スタジオを後にした。





彼が家に帰ると、彼の妻と、中学生になる息子が出迎えてくれた。

「おかえりなさい、あなた。」

「あぁ、ただいま。」



玄関を上がり、彼が居間を通り過ぎようとすると、
居間から、息子が呼び止めた。


「父さん!
 また、こんなのやってるよ。」



息子がテレビを指さしている。


“・・・マジック対超能力。
 超能力はこの世に存在するのか?
 それとも、超能力はマジックだったのか?
 世紀の対決、そして超能力の真実!
 今夜、全てをお見せします・・・”


「・・・あぁ、またか。
 マジックが、勝つに決まってるよ。
 超能力なんて、誰も信じちゃいないんだから。」


彼は、居間に入り、
息子の頭を軽く撫でつけながら言った。



「そうだね!
 きっと、父さんの言うとおりになるね。」


「あぁ、マジックが1番さ。」



そんな会話の後、
2人は番組に見入っていった。




番組は、彼の言ったとおりの展開になった。


超能力者だという出演者の起こす現象は、
次々とマジシャンに同じ現象を再現され、 

会場は“超能力者が超能力者である証拠はない”という結論に達し、
やがて、超能力者だという出演者が、まるで嘘を言っているかのような、
そんな雰囲気に包まれていった。




彼は、得意げに息子に言った。


「ほら、言ったとおりだろう。」


「すごいや、父さんの言うとおりだ。
 やっぱり、マジックが1番だね。」


「そうだろう?

 超能力だ、なんて言ったって、
 誰も信じちゃくれないんだ。
 あげくの果てには、詐欺師扱いだ。

 “これはマジックですよ”って嘘ついてりゃぁ、
 この人気。

 まったく、マジックが1番だよ。
 お前も学校で、“超能力だ”なんて、言うんじゃないぞ。」



「うん、わかってるよ、父さん。」


「さて、来月の特番は、
 観客のバッグでも浮かばせてみようか。」


彼、マジックジャックは、
息子のコーヒーカップを超能力で宙に浮かべながら、
そう言った。





“マジック 対 超能力” 完
作品番号:28

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華麗なる開発者

「で、出来ました。
 これなら絶対に“どんな追っ手をもぶっちぎり、
 国外へ亡命できる”でしょう。」


油のにおいが立ちこめるガレージの中、
その車は完成した。

通常の乗用車よりはるかに大型で、
明らかに違うことは、
ジェットエンジンが積んであることだ。


「よし。早速実験だ!
 何かあったら、わかってるだろうな。」


開発者の背中には、銃口が突きつけられていた。


依頼主は、これから銀行を襲おうと計画している強盗3人組で、

“どんな追っ手をもぶっちぎり、
 国外へ亡命できる車”


を、開発者を脅迫して開発させていたのだ!



実験では、残りの強盗2人が乗り込み、時速は400キロを超え、
バリケードも厚い装甲で簡単にぶち抜いた。

3人組は「見事だ」と言い、
走り去っていった。

開発者の死体を残して。




・・・数日後。

オフィス街に溢れたサラリーマン達がオフィスに戻って、
すっかり静けさを取り戻していた昼下がりの街角、
ある銀行のカウンターは、大声で怒鳴り散らす覆面男が占拠していた。


「さっさと出せ!
 言っておくが、無駄な抵抗は寿命を縮めるだけだからな。」


「は、はい、今すぐに・・・。」



全員が両手を上げて起立し、異様な雰囲気に包まれた銀行内で、
数人の女性行員達が、金庫から現金を運び出し、
それらを手早く袋に詰めていく。

その表情は、一様におびえきっている。

他に、誰も動く者はいない。

もはや、男性行員の中にも、
覆面の強盗団に立ち向かう勇気ある者は誰一人居なかった。


無理もない。
彼女達の横と、彼らの横には、
今にも発砲しようと銃口を向けた覆面男がそれぞれ立っていて、
さらに部屋の中央には、勇気ある男性行員達の死体が転がっているからだ。


「おい、そろそろ時間だ!ずらかるぞ!」


カウンターを占拠したリーダー格と思われる男がそう叫ぶと、
覆面男3人は、現金が詰められた袋をかついで一斉に銀行を出て行った。




ブロロロロォーーー!!!


例の車が、猛スピードで逃走する。

「おい、やったな!」

助手席で覆面を脱いだヒゲの巨漢が、嬉々として言う。

もう一人、貧相な顔つきのスキンヘッドは、
後部座席で現金袋を愛おしそうに撫でている。


が、運転席の男は、まだ覆面をしたままだ。

「まだだ!喜ぶのは国外へ出てからだ!
 ・・・来るぞ、しっかりつかまってろ!」


ハンドルを握り直し、そう叫ぶと、
アクセルをいっそう強く踏み直した。


と、同時に、後方からサイレン音が近づいてくる。



「来たぁ!来たぞ!」

スキンヘッドが、後部座席から身を乗り出す。

と、即座に運転席の覆面が怒鳴る。

「いいからつかまれ!」



パーポー、パーポー・・・

10台、いや20台はあるか、
最新鋭のパトカーが、これまた凄いスピードで奴らを追う。



高速カーチェイスは30分ほど続き、
強盗一味とパトカーの一団は、いよいよ国境へとさしかかる。

しかし、そこには、さらに数十台のパトカーと、
大きなバリケードが準備されていた。



「ふん、予想どおりってやつだな。
 だが、こいつぁ、奴らも予想外だろうぜ。」


運転席の覆面男がそう言いながら何やらスイッチを操作すると、
例の車は、巨大な排気口から炎を吹き上げた!

ジェットエンジンの点火だ。

実験どおり、速度計の針はぐんぐん上がっていき、
圧倒的な加速が、車内3人と現金袋をシートの背もたれに釘付けにする。


「へっへっへ、どうだ、ポリ公め!
 行くぞぉ、このままバリケードをぶち抜けば!」

「国外に出ちまえば、こっちのもんだ!」

「ひゃっほぅ!行けぇぇ!」



車内の3人が盛り上がり、
バリケードに突進する車。



「・・・まずいな、破られるか。」



パトカーの中で警官がつぶやいた。



その時!



速度計の針が400kmを超えたところで、
速度計が赤く点滅し、ボンネットが火を噴いた。



「馬鹿な!
 実験は問題なかった・・・」




覆面男が言い終わることなく、
車はバリケード手前で轟音とともに大爆発を起こした。





・・・天国では、この大爆発を見ている2人が居た。



開発者がつぶやく。

「車内重量が300kgを超えたまま高速走行すると、
 爆発するように設定したんです。
 実験では現金は積まないですからね。」



天使が聞く。

「あなたは彼らをうまく騙したのですね。」



開発者は答えた。

「いいえ、私が頼まれたのは、
 “国外へ亡命できる車”ですから。

 文字どおり“亡命”ですよ。

 しかも、地獄という国外へ、ですがね。」





“華麗なる開発者” 完
作品番号:27

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真夜中の遊園地

カチャ カチャ カチャ。

静まりかえった夜のオフィスに、
パソコンのキーボードの音だけが響く。


部屋の中で唯一灯りのついたデスクで、彼は黙々と事務を執っていた。

やがて、ふぅっ、と、小さなため息をつき、

「さぁ、今日ももうひとがんばり。」

そう言うと、再びパソコンに向かった。



ここは、閉園が決まった、とある地方の遊園地のオフィス。


高度成長期のまっただ中、昭和30年代半ばに開園したこの遊園地は、
開園42年目を迎えていた。

開園当時は多くの家族連れでにぎわい、
その後も、地方には珍しい宙返りジェットコースターや、
流れるプールに波の出るプールなど、次々と新しいアトラクションを導入し、
入場者数は右肩上がりに伸びていった。

しかし、バブル経済が崩壊した頃から入場者数は減っていき、
やがて、週末の子供達の歓声が、閑古鳥の鳴き声に変わってしまった頃には、
遊園地としての存続は不可能な状態になっていた。



彼は、この遊園地の園長である。

大半の職員は、既に閉園をすませたこの遊園地を去り、
一部の職員とともに、最後の事務処理を執る日々を送っていたが、
もう残業手当も出せないので、必要な残業は、園長である彼が一手に引き受けていた。



そんなある日のこと。

いつものように独り残業をしていると、時計が夜の9時を知らせる鐘を鳴らした。

「もうこんな時間か。」

と、時計に目を向けると、オフィスの暗闇の中に光る制御板の赤ランプが見えた。

「おかしいな。」

彼は、懐中電灯を手に取ると、急いでオフィスを出た。


この制御板は、園内のアトラクションの作動状況を管理するためのもので、
既に閉園しているこの園内で、動作中の赤ランプがつくはずはないのだ。
まして、自分以外に職員も居ないこの状況で、
アトラクションが突然作動するはずもない。

が、制御板の赤ランプは、
「ゴーカート」が作動中であることを知らせていた。

「いよいよ制御板も壊れたかな。」

そう言いながら、ゴーカートに向かうと、
やはりゴーカートは静まりかえっていた。
人の気配も無い。

ひととおりの確認をしてオフィスに戻ると、
制御板の赤ランプは、彼の目の前で、すぅっと消えた。

「故障かな。
 ・・・もう直す必要も無くなってしまったが。」


そんな独り言を言うと、彼はまた、残業を続けた。


・・・しかし、それは次の日も起きた。
   そのまた次の日も、さらにその次の日も。

不思議なのは、決まって9時に起きることと、
毎日違ったアトラクションのランプがつくことだった。


彼は、毎日現場を確認したが、その都度、それは無駄足に終わった。




やがて、閉園の事務処理も明日が最終日、という日を迎えたが、
その現象はあいかわらず毎日続いていた。

今日は、さすがに残業の必要もなく、
明日の最終日を迎えるのみ、となっていたが、
係員として入園した頃から親しんできた赤ランプがつくのを、
なんとなく最後まで見たくて、
暗いオフィスで懐中電灯を握りしめ、9時になるのを待っていた。

「そろそろだな。
 今日は、どれがつくかなぁ。
 最後はやっぱり宙返りコースター、かな。」


などと思いながら制御板を見つめていると、
なんと、今日は、全てのアトラクションに作動中の赤ランプがついた。

「な、なんだこれは!?」

最後の最後という今日、いつもと違う状況に、
あわててオフィスを飛び出すと、今日は、いつもと様子が違っていた。


声が、声が聞こえてくるのだ。


それは、子供達の遊び、騒ぐ声だった。

「誰だ、誰かいるのか!?」

と、普通なら叫ぶところだが、叫ぶまでも無かった。

見渡す限り人影の見えないこの遊園地で、
聞こえてきたのは、明らかにおかしいと思えるほどの大歓声だったからだ。


「おかぁさーん、次、あれ乗ろうよー。」

「待ってー、お兄ちゃーん。」

「すごーい!また新しいのが入ってるよー!」

「早く早くー。」




ワーーーーッ、という大歓声に、
しばらく呆然と突っ立っていた彼は、
やがてゆっくりと目を閉じた。

「あぁ、そうだ、この声だ。
 この声が聞きたくて、今までずっと頑張ってきたんだ。

 ・・・いやぁ、懐かしいなぁ。」


彼の脳裏に、賑わっていた遊園地の風景が、
聞こえてくる大歓声と共に鮮やかに蘇る。

宙返りコースターの大行列、お化け屋敷から聞こえる叫び声、
ミニ機関車の汽笛、次々に発車していくゴーカートのエンジン音・・・。

「あぁ、ここで遊んでくれた何万、何百万という子供達の想いが、
 私に今、こうしてまた会いに来てくれた・・・」



彼の目から、大粒の涙が頬をつたっては落ちた。


ふと、ズボンの裾を引っ張られたような気がして、目を開けると、
そこには、大勢の子供達が遊ぶ光景が広がっていた。

満員のミニ機関車が汽笛をあげる。
回転ブランコが子供達と共に元気よく回っている。

「おじさん、早く、あれ動かしてよ!」

「ねぇ、早く!」


子供達にズボンの裾を引っ張られ、あわてて子供達が指さす方向を見ると、
宙返りコースターだけが動いていない。

「・・・あ? あぁ、はいはい、今すぐにね。
 今すぐ、乗れるよ。

 さぁ、行こう!」


彼は、我を忘れてコースターに走っていくと、
係員だった、楽しかったあの頃を思いだし、
まだまだ慣れた手つきで機械を動かすと、
行列した子供達を次々に乗せてやった。

もう、夢だろうと何だろうと、そんなことはどうでもよかった。

夢ならいっそ、このままでいい・・・。


「どうだい、楽しかったかい?」

「うん!また乗せてよ!」

「そうかぁ、じゃぁ、また列に並んでおくれ。」





トントン。



と、今度は、背後から肩をたかかれた。


何だろう?と思って振り向くと、
そこにいたのは、彼を起こそうと肩を叩いている職員だった。

・・・あれ?

彼はオフィスの椅子で、懐中電灯を握ったまま眠っていたのだった。


外はもう、すっかり朝になっていた。



彼は、赤ランプのことや、ゆうべ見た夢のことを職員達に話し、
赤ランプが全てついたのが現実だったか、夢だったかわからないので、
一応念のためアトラクションの見回りをしてくる、と言い、園内に出た。



いたずらや漏電などが無いか、アトラクションを順番に確認して、
最後に宙返りコースターに向かうと、
そこには、明らかに子供が書いたような大きな字で、
まだ真新しい落書きがしてあった。



落書きは、こう書いてあった。




「楽しかったよ、おじさん、ありがとう」




“真夜中の遊園地” 完
作品番号:26

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P.S.

この話を2003年11月に惜しまれながら閉園した
ある遊園地に捧げます。

思い出の忘れ物

「バックオーライ、オーライ、
 もうちょい右!」


ヘルメットに作業着、
大勢の作業員達が、洋風のホテルの庭に、
銅像やらモニュメントやらを手際よく並べていく。

「君、どうだい、作業の進み具合は。」

「そっち、もっと後ろだ!
 あ、会長、おかげさまで大変順調ですよ。」


およそ作業現場に似つかわしくない、
黒スーツの老年男性の登場に、
現場作業員達は少し手を止める。


黒スーツの男性、
彼はこのホテルのオーナーだ。

「この新しい庭園は私の夢だったんだよ。
 この様子だと、いよいよ完成も近いようだね。」


そう言いながら、ゆっくりとタバコに火をつける。

「ええ、会長。
 きっとお客さんも喜ぶ立派な庭園になりますよ。」




市街地を少しはずれた小高い丘の上、
別荘地の真ん中に建つ小さなこのホテルは、
オーナーである会長が30代の時に脱サラして建てたものだった。

小さいながらも、真面目な経営と努力で、
今年、オープン30周年を迎える。

これを記念して、
駐車場だったスペースを全面改修して、
会長の長年の夢だった庭園型のアートギャラリーを造成しているのだ。



「では、引き続きお願いしますよ、皆さん。」

タバコを1本吸い終えると、
会長は、満足そうにホテルへ帰ろうと歩き出した。



ふと、背後から声がかかる。

「会長!ちょっとすみません、あの・・・。」

「ん?何かね。」


声をかけたのは施工の現場監督だ。
見ると、手に何か板のような物を抱えている。


「今朝、こんなものが現場に置いてありまして・・・。」

抱えていた板のような物は、
1枚の絵だった。

「“会長様へ”と書いてある紙と、この絵が、
 今朝、そこに置いてあったんです。
 ですが、予定の美術品リストには、絵はありませんで、
 会長直々のご依頼品だったでしょうか。」


そう言いながら、
現場監督はその絵を差し出した。

「いや、絵を頼んだ覚えは無いな。
 何しろ屋外だから絵はどうしても無理でね。
 “会長様へ”か・・・。
 他には、何か無いのかね?」


会長は絵を受け取りながら、
絵が置いてあったという場所を見た。

「ええ、これ以外には何も・・・。」

「そうか。
 誰かが、これを飾ってくれ、ということだろうかね。
 まぁ、これは私が預かっておこう。」




会長は、その絵を抱えて、
再びホテルへ帰っていった。





ホテル2階の会長室に戻り、
会長はさっき渡された絵を改めて眺めている。

「さて、どうしたものかな。
 捨てる、というのも、な。
 しばらくここに飾っておくかな。」



・・・・・。


最初はそんなふうに、
絵の処分方法を考えていたのだが、
絵を見ているうちに、
だんだんと、なんだか違う考えが割り込んできた。


「誰の絵だか知らないが、
 何か、何だろう、この景色・・・。」



よく見ると、なんだか心が揺すられるような、
不思議な感覚に襲われる。


・・・・・。


「・・・!
 ひょっとして・・・。」



会長は、何か思いついたように、
書棚を探し始める。


「確か、この辺に・・・。
 ・・・、あった、これだ。」



会長が書棚から取り出したのは、
1冊の古いアルバムだった。


「これだ、この景色だ!
 この絵は確かに、この景色だ。
 ・・・いやぁ、懐かしいなぁ。」




開いたアルバムには白黒の、
絵には鮮やかなピンク色の、
それぞれ全く同じと言っていいような、
同じ花畑が映っていた。



「そうだ、この景色は・・・」


その景色は、その花畑は、
まだ会長が子供の頃にこの辺りで見た、
大きなコスモス畑だった。


当時住んでいた家から、わりと近かったこの丘の上、
子供だった会長が自分で見つけた秘密の場所。

学校で嫌なことがあると、
必ずこのコスモス畑へ来た。

コスモスの花が咲いているときも、
咲いていないときも。

お気に入りの、自分だけの大切な場所。

そんな場所だった。


やがて東京の学校へ進学し、
東京の会社へ就職。
地元の土地を買って、ホテル経営を始めて、
その頃から、そんな場所のことはすっかり忘れてしまっていた。



「ああ、絵であっても、実に懐かしい感じだ。
 ・・・そうだ、この花畑はまだあるかな。」



いてもたってもいられず、
会長は絵を抱えてホテルを出た。


「あそこの角をあっちへ行って、
 ここをこっち・・・。」



記憶をたよりに近所を歩いていく。


「確か、この辺り・・・」


すっかり子供に戻った気分で、
夢中で歩いていた会長だったが、
ついに足を止めて景色を見渡すと、
確かに覚えのあるところにたどり着いた。





しかし、そこにはもう、あのコスモス畑は無かった。


大きな重機が唸りをあげ、
何やら美術品が次々と運び込まれている。
隣にはホテルのような建物が建ち・・・



「・・・なんと!!
 ここが、あの場所だったのか!!」



そこは、自分のホテルの敷地であり、
まさに今、庭園型アートギャラリーを造成中の、
その場所そのものだった。


「・・・。

 ・・・そうか。

 この絵は、そういう事だったのか。


 誰か、このコスモス畑が好きだった人が、

 私の他にも居たのかもしれないな。



 ・・・私は、

 私は、何か大きな忘れ物をしてしまっていたようだ。」





翌日、庭園型アートギャラリーの現場には、
会長から施工変更の指示が伝えられていた。

庭園の真ん中に、
1枚のコスモス畑の絵が入ったショーケースが、
新たに追加されたのだ。


そして、題名は、こう付けられていた。



“思い出の忘れ物”



動くはずのない絵の中のコスモスが、
さわやかな秋の風に、ふと、なびいたような気がした。



“思い出の忘れ物” 完
作品番号:25

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