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僕は今やっかいなトラブルを抱えていて、面倒な状況に置かれている。
そしてそんな風に弱気になった時、決まって思い出すのが中央アジアでのある出来事だ。
シルクロードで栄えた古い町で、僕は数日間 現地でガイドを雇っていた。
ある時ガイドは自分の友達を紹介するから一緒に家を訪ねないかと僕を誘った。
特に断る理由も無かったので、早速その夜二人で訪問することになった。
友人宅は街のはずれにあるらしく、僕は彼の後について黙々と歩き続けた。
もうその頃には夜も遅くなっていて人影はどこにも見当たらない。
土塀の続く迷路のような道を進めば進むほどに、闇の濃度はまた一段と増していくようだった。
そして空を見上げると恐ろしくなるほどの数の星が広がっている。
(一瞬すべてが曖昧になって、ここがどこで自分が誰なのかが分からなくなるような気がした)
そうしてようやく訪問先にたどり着いた時、1時間以上はかかったと思っていた道のりが、
腕時計を確かめると 実際には30分ほどの距離だった。
50代くらいだろうか?彼は小さく古びた家に一人で暮らしていた。
僕らは着くなり歓迎されて何種類かの果物を振る舞われ、写真撮影にも心良く応じてくれた。
だけどそれだけでは終らなかった。
彼はどこか不思議な目をしていた。
瞳の色は薄いブルーで、奇妙に平板で焦点がどこにも定まっていないように見える。
まるでここではないどこかを見ているみたいだ。(あるいはただの眼の病なのかもしれない)
言葉では なかなかうまく表現できないけれど、とにかくそれは何か神秘的ですらあったと言っていい。
そしてその目で僕に向かって懸命に何かを伝えようとしていた。
人差し指で自分のこめかみを指差し現地語でまくしたてながら、プロブレム、プロブレムと連呼する。
それから die! die! die! と何度も繰り返した。
宿への帰り道、ガイドに一体あの時 彼はなんと言っていたんだと問いただした。
でもただ申し訳なさそうに sorry sorry と謝るばかりで結局最後まで何も教えてはくれなかった。
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足跡から来ました。文章上手いですね。一気に読みました。
衝撃の結末でした。
傑作
2008/11/30(日) 午前 1:45
tarismanさんコメントどうもありがとうございました。
あの時の出来事は今も僕の心のどこかに引っかかっている様です。
2008/11/30(日) 午後 2:55 [ DAZAISUTO ]