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癒し系音楽の代名詞のようになっている、かの有名なるヴィヴァルディの『四季』という曲、実はかなり苦手です。いや、端的にいってしまうと、嫌いです。物心がつく前から、カセットテープをカーラジオにつけてご満悦だったオヤジのクルマに乗ると必ずかかっていたし、自宅に帰ってきてもかなりの確率でかかっているし、さらに、だいたいどこへいってもBGMで耳にすることが多く、物心がついた頃には一生分聴いたような気になっていました。
何の運命のいたずらか、ヴィヴァルディの『四季』が自分のなかで不思議とクラシックの代名詞にならなかったおかげで、クラシック嫌いにならないで済んだのは不幸中の幸いといってもいいとつくづく思っています。
とはいえ、ヴィヴァルディの『四季』の演奏のすべてが聴けないわけではなく、たとえばカラヤンが手兵ベルリン・フィルのコンサートマスターをソリストとして演奏したものはそれなりに好きだったりしていいます(もちろん頻繁には聴こうとは思いませんが)。しかし指揮が同じカラヤンでオーケストラが同じベルリン・フィルでも、ヴァイオリンのソロにアンネ・ゾフィー=ムターという美女としても名高いヴァイオリニストがソリストで、カラヤン御自らがチェンバロを弾いている演奏は、ムターが好きじゃないということも手伝って聴きたくない『四季』の演奏になっています。
さらにいうと、『四季』といえばイ・ムジチ合奏団というくらい有名なイ・ムジチ合奏団の演奏は、立派な演奏だな、とは思えるものの、やはり退屈でうんざりさせるので出来るだけ聴きたくないのです。
ちなみにここまで『四季』が苦手という風に刷り込んでくれた演奏は誰の演奏かと思って、少しクラシックの演奏家の名前を判別するようになってから自宅のレコードを調べてみたところ、レナード・バーンスタインとニューヨーク・フィルというカラヤンに負けないほどの超一流(スター?)による演奏でした。ありがとよ、バーンスタインというわけです。
そんな(大)嫌いなヴィヴァルディの『四季』なのですが、もうかれこれ10年以上も前に出会った演奏のおかげで少し克服したのです。その演奏は、小生の思っているクラシックの演奏のよしあしの基準からはかなり外れます。
一音一音丁寧に(別にゆっくり演奏すればいいというわけではありません)音をつむぎだし、無駄にあおるようなことはせず、テクニックをひけらかすようなことはしない、そんな演奏がクラシックを聴くときにはいい演奏だと思っています(その理由に関しては、気が向いたら書くとしますが、今回は割愛させていただきます)。
ところが、『四季』嫌いを(やや)克服させてくれた演奏というのは、そういう面をすべて吹き飛ばすような、かなり「雑」なもので、音が暴力的に襲いかかるようでもあり、弱音よりも強音に主眼が置かれ、さらには徹底的にテクニックをひけらかすような演奏で、聴衆をあおるのが目的のような演奏でした。
イタリアの古楽演奏家(古楽=作曲家の時代に合わせた楽器を使い、奏法も当時の奏法に合わせた演奏)のファビオ・ビオンディという人による演奏です。慣れ親しんだテンポよりも大幅に速いテンポで、やたらとリズムというよりももはやビートを強調し、音が細かく連なる部分では技巧でこれでもかというくらい速く弾く、そんな演奏なのです。
you tubeでコンサートの映像を見つけたのでよかったらご覧下さい。
Europa Galante - Fabio Biondi - Le Quattro Stagioni
なかなかでたらめな演奏でしょ? 癒し系音楽など誰がいった? というくらいぶっ飛んでる演奏だと思いません?
そして、この人の演奏をCDで聴いたときに、うっかり「いいじゃん。かっこいいじゃん!」と思ってしまったのです。
ところで、この演奏の感じって現代のとある種類の音楽に似てると思いませんか?
ハードロック・ヘビーメタルといわれる分野の音楽とそっくりだと思いません?
小生、かなりHR・HM大好きなので、完全に頭がそっちモードにぶっ飛んでいってしまったのです。ヴァイオリンはストラトに見えてくるし、チェンバロはハモンドにも見えてきちゃったのです。そして気がついたら、「かっこいいじゃん!」と引きずり込まれてしまいました。
しかし、考えてみればHRやHMはかなりバロック音楽に近い構成をしているし、たとえば小生の好きな、ギターの速弾きで有名な「わがまま」イングヴェイ・マルムスティーンはヴィヴァルディ、バッハの信者みたいな人間です。彼は、エレキギターのための協奏曲を作っていますが、その曲もバロックっぽいのです。
そうやって聴いてみれば、なんてことはない、嫌いなはずのヴィヴァルディの『四季』ですら聴けてしまえたのです。
しかしまあ、クラシック音楽に分類されているはずの曲で、ああいう演奏をいいと思ってしまったなんか、ちょっと不覚ではありました。
もしも音楽に限らず、映画でも、小説でもこれどうしても苦手というものがあったら、自分がもっとも許せなさそうな方法で、焼き直したようなものを探してみれば案外嫌いなものを少しだけ克服できるようになるかもしれませんよ?
たとえば某渡辺淳一あたりの小説を萌え系のアニメにしちゃうとか、どっちの村上某でもいいですが「サザエさん」タッチにしちゃうとか、ね♪ ちょっと克服出来そうな感じしません?
ファビオ・ビオンディ 指揮とヴァイオリン
エウローパ・ガランテ 管弦楽
余談。
これよりも有名で、一時期センセーショナルに迎えられたイギリスのナイジェル・ケネディのヴィヴァルディの演奏もかなり「キテル」演奏なのですが、こちらのほうの演奏のほうが過激だと思います。わけのわからない爽快感というか疾走感に関してはこの演奏が随一だと思われます。
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