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今国会では、前半には4月1日の消費税率引き上げ、後半には集団的自衛権行使解禁のための憲法解釈変更の閣議決定がそれぞれ大きなテーマになったと言えるでしょう。 それらについて、消費税率引き上げに伴う景気への影響は最小限に抑えられたと言え、また集団的自衛権のための閣議決定は自公両党の与党協議が難航しているため会期中には見送られたものの、もうまもなく実現されるものとされ、安倍さんの政権運営はなお順調であると言うべきでしょう。 消費増税とは、財政再建によって日本財政の対外的信認を維持することにほかなりませんが、アベノミクスにおいて金融緩和と財政出動というデフレ対策=景気刺激策には、それらにより財政規律が乱されれば財政への信認が損なわれてそれらを継続できなくなるという自家中毒の副作用があり、また第3の矢の成長戦略で重視される海外の対日投資にもやはり財政の信認が必要です。 安倍さんが消費増税決断時に「経済成長と財政再建を同時に達成するほかに道はない」と述べた所以はまさにそこにあるのであり、従ってアベノミクスにおいて財政再建は本質的にビルトインされていた第4の矢もしくは「見えざる矢」なのであろう、とは昨年12月18日の記事で指摘したことですが、それは、安倍さんがそもそも財政規律への意識や財源への責任、国債に関して国際感覚を持ち合わせて無軌道な「国債神話」とは一線を画していることから必然的だったと言ってよいでしょう。 安倍さんによる消費増税は経済成長戦略と密接に結び付いていますが、そのことは、消費増税の一方での法人減税という一見相反する政策が矛盾しないことを説明しています。 なんとなれば安倍さんの持論である法人減税もまた、甘利経済再生担当相が「目的は「海外から投資を呼び込み、国内投資も活性化させること」と指摘」(『産経新聞』14.6.3-11:06)する通り成長戦略に直結するからですが、それについてはむしろ、安倍さんが党内の慎重論を制して主導権を示したという、政局的な意味合いにも着眼したいと思います。 党内ではともに旧大蔵省出身の野田元自治相や宮澤参院政審会長代理、それに集団的自衛権の問題では安倍さんを支えて議論の中心になっている高村副総裁も含めた税調が税収減を嫌って慎重論を唱えていましたが、それでも3日には「引き下げを容認」(時事通信社、同日13:40)する内容の提言を安倍さんに提出。 そこでは、それによる税収減への備えとして外形標準課税の対象拡大などが代替の恒久財源に位置づけられていますが、それは麻生副総理兼財務相の主張でもあったことが知られます。 5月30日10:35の『産経新聞』は麻生さんが「恒久的な財源確保が必要との認識を改めて強調」し「具体的には…外形標準課税の強化など」を挙げたことを伝えますが、同記事によれば甘利さんは法人減税の一方で外形標準課税を強化して「全体として(企業の税負担が)変わらないということになる」のに疑問を呈しています。 甘利さんは代替財源にアベノミクスによる税収の上振れ分を想定し、14日1:42(2:00更新)の『日経新聞』によれば安倍さんもまた「最近は税収が増えてきているらしいね」と「周辺に…漏らして」それを「減税の財源にできないか…実は考えていた」とされますが、それは上出3日の党税調の提言の中では「厳に慎むべきだ」とされて外形標準課税の拡大などが代替財源とされ、党税調や財務省はそれを条件に法人減税を容認しているのであり、最終的にそういった慎重派への配慮がなされることはあり得るでしょう。 しかし代替財源の確保という「財政への配慮」について、安倍さんの政治においては財政規律が少なからず意識されていることを踏まえれば、税収の上振れ分ではなく外形標準課税の強化などがより確実な代替財源として決着したとしても、怪しむに足りません。 月内に取りまとめられる「骨太の方針」に盛り込む法人減税とくに代替財源の表現について麻生さんと甘利さんが13日に文言調整で折衝し、「それぞれの…考え方の溝は完全に埋まっていない」とされますが、しかしここでより重要なのは、麻生さんが「最終的に首相の決断を仰ぎたい」と述べている(『産経新聞』同日11:48)ように、安倍さんの主導権を尊重しようという哲学が徹底されているということでこそあると言うべきでしょうか。 12年総裁選でいち早く安倍さん支持を打ち出した両者の間にはそういう哲学や信頼関係が共有されているのでしょう。 また、麻生さんがそういう哲学を奉じていることは、法人減税の問題で麻生さんと考え方を同じくする党税調や財務省を安倍さんが指揮下に置くことに直結しているのは言うまでもありません。 なお、上述のように旧大蔵省出身の野田さんや宮澤さんは財務省と近い主張をしていますが、同じ旧大蔵省出身の山本元経産副大臣や財務省出身の鈴木馨祐衆院議員の主張はあまり財務省的でないことには触れるべきでしょう。 すなわち山本さんはかつて復興増税に安倍さんと歩調を合わせて反対し、国債発行を唱えて「増税によらない復興財源を求める会」の幹事長として理論的中心になり、鈴木さんは法人減税を巡り菅官房長官と連携して中堅・若手からなる「次世代の税制を考える会」の幹事世話人となって長老が主導的な党税調へのプレッシャーとなったのであり、いずれも安倍さんと近い立場であると言えます。 そのように、政策の方向性の異なる議員グループや派閥の中にシンパを形成するのは、都度指摘しているように安倍さんの政治手法の特徴の一つに挙げられるでしょう。 それは以下述べる集団的自衛権に関する与党協議において、公明党に対しても図られました。 ■憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使解禁については当初党内外に慎重論が起きたものの、3月末に高村さんが「限定容認論」を打ち出してまず党内がほぼ鎮静し、焦点は自公両党の与党協議に移りました。 協議は難航しましたが、13日には高村さんがいわゆる「新3要件」を提示すると、公明党もその「受け入れに向けた調整に入っ」(『産経新聞』同日21:53)て、安倍さんは集団的自衛権の問題でも政権内の慎重論を抑え得たことになります。 安倍さんは閣僚の太田国交相のほか当選同期の富田幹事長代理や赤羽経産副大臣と会食を通じて意思疎通に努めましたが、それは公明党内でも慎重姿勢の強かった山口代表へのプレッシャーとなったことでしょう。 与党協議のスタートした5月20日の前日19日には、外国資本による水源地買収の防止などにも関わる水循環基本法に基づいて新設された水循環政策担当相を太田さんに兼務させる方針が固められていますが、これには公明党に政権との結び付きを強めさせる狙いや効果があったかもしれません。 今月2日には伊佐衆院議員が「集団的自衛権の行使について「認めてもいいのではないか」」(『朝日新聞』14.6.3朝刊)と発言、後に釈明はしたものの、その段階で容認ムードは公明党内に浸透していたとも言えるでしょうか。 さて、「新3要件」の提示された13日には山口さんも「慎重姿勢を転換し」(同上)ていますが、12日4:02の『産経新聞』は11日には「公明党に軟化の兆しがみえて」いたことを指摘しています。 すなわち与党協議の公明党側メンバーである上田政調会長代理が11日にラジオ番組で「憲法解釈が変わることはある」「どう限定するかまで議論が詰まらないと、その後の法整備の話に行かない」などと述べたのがそれです。 同記事はまた上田さんが「行使容認に理解を示していることで知られ」るとしていますが、当ブログでも安倍さんの12年4月14日のメルマガに拠って再三紹介しているように上田さんは安倍さんから「保守派」「彼の様な人物に公明党の議論を良い方向に導いて欲しい」との高い評価があったのであり、自公合意の伏線は与党協議発足の段階で既にあったと言えるかもしれません。 同上『産経新聞』によれば公明党の北側副代表が「表」の与党協議の一方で漆原国対委員長や自民党の大島前副総裁とも相次いで会談したとされますが、両者は国対を通じた強い信頼関係にあるのであり、安倍さんが自公連立の枠組みで憲法解釈変更の閣議決定に到達するべく、「裏」では両党間のあらゆるルートが機能したことは想像に難くありません。 日米安保条約は第5条で集団的自衛権に触れていますが、それは日本の憲法解釈のゆえにアメリカに片務的になっているのであり、それを一部補完すべく設けられたのが、アメリカが在日基地をその世界戦略に利用できるとした第6条いわゆる極東条項です。 今回の解釈変更により第5条はより双務的になりますが、しかし第6条はアメリカが中国を念頭に「太平洋国家」を自任し「リバランス政策」をとって極東に積極的に関与しようとする現状に全く適うのであり、それは今や日本の外交戦略に合致して、5条と切り離してそれ自体で自存的な意義があるだろう、とは再三指摘しているとおりです。 それについて、通常国会では民主党の江崎参院議員が9日の参院決算委でまさにその5条と6条の「連動」という観点から質問しました。 すなわち翌10日の『朝日新聞』朝刊によれば江崎氏は集団的自衛権行使を「容認すれば、日米安保条約の基本が変更される」と質問。 それは6条が5条を完全に補完して条約は既に十分双務的であるとの立場をとった上で、憲法解釈を変更すればむしろ日本に片務的になるため6条は不要であるとの趣旨だったことが知られますが、それに対し安倍さんは「私は日米安保条約を変える考え方は毛頭ない」と答弁。 それは憲法解釈の変更による5条の実態の変化に6条を「連動」させないとの主張だったと言えますが、その理由は、第6条が極東の現状に適っていて、今や自存的なその意義を評価しているからかもしれません。 今の日米安保条約は安倍さんの祖父の岸元首相が54年前に成立させたものですが、その中でも特に6条は「古くて新しい治績」だと言えるでしょう。 そしてそれを尊重する安倍さんの答弁に賛成したいと思います。 ■最後に野党再編についてはどうでしょうか。 分党する維新で責任野党となる石原系は12日に新党の代表に平沼国会議員団代表、幹事長に山田筆頭副幹事長を暫定的に充てることを決めていますが、それぞれがかつて率いた旧たちあがれ日本と旧日本創新党は、10年6月に安倍さんの創生「日本」と「日本を救うネットワーク」(救国ネット)を結成しています。 「新党結成まで他党との折衝窓口になる」(『産経新聞』14.6.12-13:53)という暫定役員にその両者が立ったことで、新党は責任野党としての性質や安倍政権との距離が近い印象をいっそう強くすると言えるでしょう。 石原共同代表は4日に新党のスローガンとして「自立」「新保守」とともに「次世代」を掲げましたが、その「次世代」とは山田さんや中田国対委員長代理という旧創新党出身の中堅世代を指していたのでしょうか。 あるいは、当初「第3の新党」結成を模索していた山田さんや中田さんが石原系に参加した背景には、分党に伴う多数派工作の過程で石原さんからのポストに関する示唆があったのかもしれません。 旧たちあがれ日本と旧創新党は12年総選挙を前に大阪維新の会に吸収されましたが、今回の分党により、救国ネットが安倍さんの下に再現されることになります。 安倍さんが党外の保守勢力と連携した救国ネットには、党外の運動が党内にフィードバックされて安倍さんの再浮上に繋がることが期待されたものの、それは実際には両党を吸収した維新との関係で実現。 しかし維新が野党志向を強めたとき、その中で命脈を保っていた旧両党が分離し、むしろ党内から党外に波及した安倍さんの求心力に共鳴して責任野党として再び現れるのは、必然的な成り行きだったでしょう。 すなわち、旧両党が4年の時を経て窯変したのが新たな責任野党であると言えるでしょうか。 それは安倍さんがかつて取り組んだ救国ネット活動が徒花でなかったことを証明すると言えますが、安倍さんは「本物の政治家」として、税制でも安全保障でも、また野党再編に対しても、なお向かうところ敵無しであるということに違いありません。 (R) |

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支出の削減と課税の強化は必要ですが、どこから取るかが重要です。
それ次第で、結果は大きく異なります。
足元をすくわれないように、気を付けてください。
2014/6/21(土) 午前 10:48 [ 鬼丸 竜馬 ]
to.鬼丸 竜馬さん)
そうですね、課税の強化は財源という意味で重要ですね。
民主党政権では小沢マニフェストで消費増税は否定して財源は事業仕分けで捻出するという机上の空論の大衆迎合でしたが、事業仕分けはただの見せ物で終わり、結局消費増税に舵を切りましたし、その増税にしても、増税のための増税で、それによる財政の信認を成長戦略に活かそうという意識は希薄だったと思います。
支出の削減も、デフレ対策のための景気刺激が必要なくなったら今の財政出動を軟着陸させないとなりませんね。
財政出動も、オールド自民党の公共事業政策のようにそれ自体が目的になったバラマキは、今はもう成り立ちませんね。
コメントありがとうございます。
2014/6/23(月) 午後 5:52