|
晴れた日であれば、残照に光輝くいかにも夏山らしい黄昏時を迎える時間ですが、この日はすっぽりと雲に覆われてしまったために、一足早い宵闇が忍び寄って来ました。 山の宿の夕餉は下界よりも早く、夕方五時半を廻る頃には順番に配膳が始まります。 『吾妻屋旅館』での食事は、基本的に夕・朝食とも部屋食のみ。 食堂で大勢集まっての賑やかな食事風景もまた似合いそうな感じですが、一人旅には気楽な部屋食で助かりました。 昨晩は飲むことのできなかった好物の秘湯ビールをオーダーし、ささやかな宴の始まりです。 今回私が予約したプランは、山奥の秘湯宿ながらも米沢牛のステーキが味わえるという「米沢牛ステーキプラン」。 通常の宿泊プランに比べ、およそ二千円ほど料金アップとなりますが、これが果たして正解だったのかどうか、ようやく確かめられる時が訪れました。 ステーキ以外の料理はお膳に乗って一度に運ばれ、山の宿らしく山菜類や岩魚の塩焼きなど定番のメニュー達が並びます。 一つ一つの量はやや少なめとなっていますが、味の方は素直に美味しいと感じられる素朴で優しい味付け。はじめからご飯もお櫃に入って用意されているので、遠慮無しにバクバクと食べ進んでしまいました。 そして食べ始めてしばらくたった頃、ジュージューと食欲をそそる音を立てながら、待望の米沢牛ステーキが満を持して登場します。 米沢牛といっても等級があるし、正直云って秘湯の宿のステーキがどれほど美味しいのかという半信半疑な思いを抱きつつオーダーしたこちらの米沢牛。 ナイフを入れ、フォークを口に運んだ瞬間、そんな疑念があっさりと吹き飛ぶような至福の味わいが口の中一杯に広がりました。 「美味いっ、美味すぎるっ!。」 温泉以外何も無い山の中でいただくという非日常的な要素もスパイスに加わっているせいか、この時口にしたステーキは、本音ベースであの米沢牛料理宿の最高峰、『時の宿すみれ』でいただいたステーキの味を完全に上回るような幸福と満足感を私に与えてくれたのは間違いありません。 逆にこのステーキが無ければ、全体的にそれほど印象に残るような食事内容ではなかったため、やはりステーキ付プランにしておいて大正解だったという感じです。 また、米沢牛に用いるにはちょっと邪道かなと思える添えられたバターも、付け合わせのジャガイモやニンジンとよく絡んで、全てがプラスの方向に作用しているかのような、不思議な魅力と美味しさに満ちあふれた一皿でした。 こちらのステーキプランは120gと180gから選ぶことができるので、山奥で米沢牛を味わうという贅沢をとことん体感してみたい方は、思い切って180gを選んでみると、より強い満足感が得られるかも知れません。 ちなみに今回私は様子見の120gでしたが、もしもう一度食べる機会があれば是非180gにチャレンジしてみたいものです。 さて、テンションの上がる思いでお膳に乗った料理、米沢牛のステーキ、そしてお櫃に入ったご飯を余すところ無く平らげ、しばらくぼんやりとお茶などをすすっていましたが、胃が落ち着いてくるのと共に、何故か自分の中でモヤモヤとした思いがわき上がってくるのを感じていました。 「このモヤモヤ感の正体は一体!?」 しばらく自分のいただいた夕食の内容を考えているうち、ふと思い出したことがあったのです。 果たしてそれは・・・。 何と、楽しみにしていたハズの一つ、米沢牛のたたきが出てこなかったことに気づいてしまったのでした。 実は今回のステーキプラン、ステーキは当然として、刺身の代わりに米沢牛のたたきがついてくるハズだったのです。 よほどのことが無い限り、川魚の刺身をそれほど美味しいと感じることの少ない私なので、当然ながら代わりに米沢牛のたたきがいただけるとあれば、迷わずそちらをセレクトするというもの。 すぐさま宿のスタッフに問い合わせてみたところ、帰って来たのが「あぁ、今日はお肉屋さんがお休みなんですよ。だからたたきはありませんでした、すみません。」という至極あっさりとした返答。 「あぁ、そうですか。分かりました・・・。」と私。 実際食べ終わってしまってから気づいたので、今更どうしようもないし、特に強いクレームを挙げようというワケでもないのですが、もし私が川魚を食べられない人間だったらかなりの不満が残ったハズなので、できればこちらから問い合わせする前に事前に説明が欲しかったというのが正直な気持ちです。 ステーキの美味しさに思わず忘れそうになってしまった事象ですが、やはり「食べ物の恨みは恐ろしい」ということで、この点だけが唯一不満として残った点でした。 夕食後、いつの間にか眠り込んでしまったようで、ふと目を覚ますと既に午前2時近くになっていました。 5時間近く熟睡してしまったこともあり、どうやらすぐには眠れそうには無かったので、取りあえず深夜の湯浴みへと繰り出してみました。 静まりかえった丑三つ時の館内を忍び足で内湯大浴場へと向かい、一人贅沢な貸切時間を堪能しようとの目論見。 思った通り、こんな夜中に湯浴みを楽しんでいる人は他には誰も居なさそうでした。 1泊2日程度の温泉旅行では、睡眠時間をある程度確保しないと週明けの仕事に差し障るのであまり夜中の入浴はしない私ですが、一人旅かつ夏休みまっただ中ということで、不規則な行動もお構いなしです。 オレンジ色の灯りがともされた浴室内は、昼間とはひと味違った趣が漂います。 そして意外なことに、どうやら隣の女湯の方にも一人静かな湯浴みを堪能しておられる方がいらっしゃったご様子で、同じように贅沢な時間と空間を独り占めしている同志のような思いがよぎりました。 そして再び、湯上がり後の程良い疲れに誘われてウトウトと微睡んだ後、窓の外を見やると既に蒼き黎明の空が広がっていました。 しばらく眺めていると、やがて時間の経過と共に雲が下へ下へと下りていき、いつの間にか感動的な雲海の姿が・・・。 青空をバックにとまではいきませんでしたが、雲上の宿を名乗るのには実にふさわしい夜明けの風景でした。 何だか時間さえあればお湯に浸かってばかりいるような気もしますが、ちょうど朝食前の時間帯に通常女性専用となっている露天風呂、通称「大岩たぬき風呂」が男性も利用可能になるとのことだったので、早速様子を見に足を運んでみることに。 階段を下りていった先には、他と同様に簡素な脱衣所と小じんまりとした岩風呂が待ち構えています。 数年前までタヌキの巣があったというこちらの露天風呂、洞窟風呂風の趣もなきにしもあらずといった様相ですが、個人的には根っこ風呂同様に圧迫感があって何となく落ち着かない感じでした。 但し他の露天風呂が基本的に全て混浴なので、視線の気にならない女性専用の露天風呂を一箇所でも設けておくことは非常に意義があることだと思います。 また、かつては根っこ風呂に使われていたのであろう木の湯船が、まるで棺のオブジェのような姿で残されていました。 湯量が豊富なので、できればこちらの方にも根っこ風呂があると女性の満足度がより一層高まるのではないでしょうか。 大岩たぬき風呂を軽くたしなんだ後は、その足でいよいよ残すところあと一つとなった最後の露天風呂である「滝見露天風呂」へと向かいました。 車も走れる舗装路をどん詰まりまで上って行くと、最上川源流の一つとされる「白金の滝」の麓に豪快かつ極めて開放的な露天風呂の姿が目に飛び込んで来ます。 実は昨日の日中にもトライしようと試みたのですが、ちょうど叔母様方がグループで御入浴中だった様子で、さすがにその輪の中に飛び込んでいく勇気も無かったため、人気の少ない早朝時間を狙ってのアタックと相成りました。 こちらの露天は2007年にできたばかりのようで、脱衣所なども他の露天風呂に比べると新しい感じがしました 脱衣所を出て滝方向に視界をやると、かなりワイルドでダイナミックな景観が広がります。 早朝ということでアブの襲撃を受ける心配もなく、マイナスイオンたっぷりの爽快な湯浴みを心いくまで満喫することができました。 よく見ると滝は二段となっていて、身を包むひんやりとした空気が実に湯浴みには最適なのでありました。 最後に参考として反対側の眺めをご覧に入れます。 見てお分かりの通り、湯船のすぐ先から道路が延びているといった感じで、まるで道の真ん中に湯船があるかのような、かなり際どい位置に設けられている露天風呂でした。 道路に人がいる時に立ち上がると、お互い気まずい雰囲気になると予想されるので(特に異性)、せめて脱衣所を湯船の手前に持ってくるなどすれば、もう少し安心して入っていられるような気もするのですが・・・。 とは言え、こちらの滝見露天は4箇所の露天風呂の中では個人的には最もお気に入りとなりました。 そして朝風呂から戻ってしばらくしてから、朝食の時間です。 朝食はご覧の通り、山奥の秘湯の宿らしく極めてシンプルな内容で美味しくいただきました。 特に不満などはありませんが、この朝食であれば、噂の米沢牛ステーキを朝食に出してもらうという裏技もある意味アリなのかも知れません。 朝食後は素早く着替えを済ませ、まるでハイカーのような早立ちで宿を後にしました。 夕食の際に若干不満な点もありましたが、充実の湯巡りと清潔な施設、そして抜群のロケーションをとことん満喫し、また一つ楽しい思い出を心に刻むことができました。 いつの間にか青空も顔を覗かせ、東北屈指の山岳ドライブルートである西吾妻スカイバレーを軽快にひた走りつつ、いよいよ旅のラストスパートをかける私でした。 新高湯温泉 吾妻屋旅館 http://www11.plala.or.jp/shintakayu/ 次はいよいよ我がふるさと関東のお宿へ凱旋。
旅のラストを飾る宿は、下野の薬湯、板室温泉『大黒屋』にて極上の現代湯治を楽しみます。 |
新高湯温泉 吾妻屋旅館
-
詳細
全1ページ
[1]
コメント(12)
|
いよいよこれから宿での湯巡り開始です。 思えばこの日は『湯元不忘閣』の朝風呂から始まり、途中白布温泉での2箇所の立ち寄り入浴を挟んでいるという状況で、夏場ということもあって正直かなり湯疲れ気味の体でした。 とは云っても、そこに温泉がある限り万難を排してでも挑んでいく様に意味もなく憧れている私は、配置図をしかと頭にたたき込みながら、計画的かつ戦略的な行動でお風呂と対峙していくことに。 『吾妻屋旅館』のお風呂は、さすが秘湯を守る宿だけあってかなり充実した陣容です。 今回お目当ての男女別内湯を筆頭に、屋外にはそれぞれ趣向をこらした露天風呂が4箇所あり、頑張って全てのお風呂を巡ると、宿泊客は計5箇所もの湯巡りが楽しめます。 その名も「凱泉門」なる入口をくぐり、先ずは宿の名物露天風呂へと繰り出すことにしました。 階段を下りていくと、手前に「根っこ風呂」というお風呂(混浴)が待ち構えています。 名前を聞いただけで容易に想像つきそうなお風呂ですが、ズバリ、樹齢250年の栗の木の根っこをくり抜いて湯船にしたという、極めて野趣溢れるお風呂が2つ設けられていました。 これまで何度も写真で目にして来たこちらの根っこ風呂、正直いって大柄の私の体格ではあまりリラックスできなさそうなサイズです。 浸かった印象を確かめるため頑張ってこちらの大きな湯船の方に入ってみましたが、予想通り何となくそわそわして落ち着かない感じがしました。 それでも湯華舞う新鮮な湯を独り占めできるという湯浴みはなかなか贅沢で、混雑する前を狙ってなるべく早い時間帯に入っておくのがオススメといった印象でした。 まるで木の臼のような形をした小さい方の湯船。 こちらの方は、私のような男性だと窮屈感が否めないと思いますが、眺めの方はすこぶる開放的なので、カップルや夫婦で会話を交わしながら貸切状態で楽しむのに向いているのではないでしょうか。 さて、わずか5分ほどでサクッと根っこ風呂から上がり、続いてその下に位置する「眺望露天風呂」へと向かいます。 こちらの方も当然混浴で、脱衣所も男女兼用となっているため日中の女性の利用はかなりハードルが高いと言えそうです。 但し、夕食後に女性専用時間が設けられているので、人目を気にせず湯浴みを楽しみたい女性はその時間帯を利用するのがベターだと思います。 壁には「裸族行為禁止」の貼り紙が。 こちらのお宿、良い意味でも悪い意味でも館内至るところで貼り紙の多さが非常に目につきます。 雰囲気ダウンは避けられないものの、傍若無人な利用客が決して少なくない中、マナー喚起を促す意味でも個人的にはこういった表示も賛成です。 但し、一番下にある「リメンバー・ザ・江頭2:50」など全くもって意味不明な記述には笑えました。 幸運にも、根っこ風呂同様にこちらの眺望露天もまた貸切状態。 湯船のほぼ中央部に大岩を配し、豪快な岩風呂を形成していました。 ちなみに外側から眺めると、ご覧のようにお風呂のすぐ脇には道路が敷かれているので、できれば車の往来のない時間帯に楽しみたいところです。 そして、こちらがこのお風呂を紹介する時によく目にするダイナミックな景観です。 いかにも世の露天風呂愛好家達に絶大な支持を受けそうな印象の露天風呂ですが、『吾妻屋旅館』の標高は何と1,126m(イイフロ)、奇しくも私のお気に入り宿である『栗駒山荘』の絶景露天風呂と同じ高さに位置しているということです。 湯船に浸かりながら「このまま雲を伝って行けば、栗駒山荘につながっているんだなぁ〜」などと思い浮かべながら、一人しみじみと感慨にふけっていたのでした。 脱衣所を出ると即湯船といった作りなので、しっかりとかけ湯ができない点がやや難点といった感じがしました。 湯口から注がれる、混じり気無しの新高湯温泉源泉。 実はこちらのお宿、HPを見るとDHDSシステム「ダイレクト・ホース・ダウン・システム」という、かなり最先端な給湯システムを取り入れているとのことです。 ・・・というのは少し大げさで、要は自噴した源泉をそのままホースに通して直接湯船に注いでいるという方式をユーモアのある名称で表現しているというワケですが、このシンプルかつ分かりやすい湯使いこそが、実は一番の贅沢であり、貴重な温泉を目一杯堪能できる肝であるということをしっかりと理解して湯浴みを楽しみたいものです。 さて、二箇所の露天風呂でじっくりと汗を流した後は、ペットボトルに汲んできた冷水をあおりながら、少しお洒落なウッドテラスにて夕涼み。 お好きな人は、恐らく湯上がり後のビールがこの上なく美味しく感じるであろう癒しの空間です。 こういったスペースがあると、まるで山小屋にいるかのようなちょっとした山岳リゾート気分に浸れるのでかなりの好印象でした。 また、豊富な湯量を物語るかのように、ご覧のような足湯なども設けられています。 パラソルの下に入って、行く夏を惜しむ瞬間。 残りの行程もわずかとなって来た今回の一人旅を、一分一秒でも長く堪能していたいと心から思いました。 しばし休憩を挟んだ後は館内へと戻り、夕食前のラストスパートをかけるべく、いよいよお目当ての内湯大浴場へと足を運ぶことにしました。 この宿の中では、唯一しっかりと男女別の浴室が備わった内湯となっています。 シンプルな脱衣場に入ると、嬉しいことに3箇所目のこちらもまた貸切状態の模様。 お風呂が分散しているせいか、全く混み合うことがなくて大変助かります。 扉に手をかけて目に飛び込んで来たのがこちらの光景。 「なるほど、なるほど!」。 何がなるほどなのかはよく分かりませんが、さすがTさんオススメの内湯というだけあって、第一印象はすこぶる良好といった感じがしました。 床も壁も湯船も全て木でできているという極上の檜風呂。 完成してまだわずか5年ほどであるというのに、既に風格と鄙び感が非常に際だった正に至高の浴室の姿を呈していました。 隅に置かれた源泉枡からは、うっすらと硫黄のかほりを含んだ極上湯がほとばしるように注ぎ込まれています。 泉質は硫黄分を含んだ石膏泉(含硫黄-カルシウム-硫酸塩泉)で、ピリッと熱めの湯温ながらもPh7.0という中性のためか、刺激が少なくなかなかの名湯といった印象でした。 洗い場には、鄙びた浴室に相性抜群のケロリン桶が並び、シャワーの無いカランだけの湯治場風情もしっくりとなじんでお似合いの雰囲気。 そんな一見不便そうに思われる洗い場の一角には、ご覧のように実に素晴らしい設備が設けられています。 その正体はこちらの源泉シャワー。 この宿で唯一備わるシャワーですが、何と蛇口をひねると源泉がそのまま浴びられるという感動的な湯使いとなっており、上がり湯として利用すれば新鮮なお湯の効能を余すところ無く皮膚に吸収できるという優れものとなっていました。 但し湯温がかなり高めなので、利用する際はやや注意が必要です。 評判に違わぬ素晴らしい内湯をとことん満喫した後は、ロビーに腰掛けて一休み。 インスタント珈琲などの備えもあり、宿泊客は自由にいただけるようになっていました。 ただ、インスタントというのはあまりにもチープな印象だったので、できればブルックスなどで良いからドリップパックを用意してもらえると、より一層満足度が高まるのではないでしょうか。 更に漫画や雑誌、新聞の類なども用意されているので、ちょっとした暇つぶしには最適です。 スポーツ紙の紙面には、この夏の騒動を象徴するかの記事が踊ってしました。 一息ついた後は、客室へと戻ります。 客室を出てから2時間近く経過していたので、かなり長い時間を館内の湯巡りに費やした格好です。 湯巡りの際も大活躍だった宿の美味しいお水。 さすが山奥だけあって、館内の水はキーンと冷えた西吾妻天然水を引いているとのことでした。 客室に戻ってしばしまったりしていると、いつの間にか宿はすっぽりと雲の中へ覆われていました。 いよいよこれからお楽しみの夕食が始まります。 この続きはまた次回に。
果たして評判の米沢牛ステーキのお味はこれいかに!? |
|
みちのく一人旅もいよいよ終盤戦。 4日目の宿泊先として選んだ宿は、雲上の秘湯として温泉ファンのみならず、広くハイカー達にも人気の高い山奥の一軒宿、新高湯温泉『吾妻屋旅館』です。 新高湯温泉『吾妻屋旅館』といえば、東北屈指の秘湯群として名を馳せる通称「米沢八湯」の一つに数えられ、開放的な絶景露天風呂を有する宿として評判が高く、以前から「機会があれば是非一度立ち寄り入浴でも!」という風にマークをしていた宿でした。 そんな『吾妻屋旅館』に宿泊の目を向けたきっかけは、ネットの温友でもあるTさんの影響から。 実はこの宿に関する予備知識として、正直有名な露天風呂の存在くらいしか認識していなかった私ですが、どうやらTさんの話によると、宿泊者だけが入ることの許される素晴らしい内湯があるというのです。 なるほど、宿のHPを改めて確認してみると、内湯好きの私に対して実に魅惑的な表情で手招きをしているかのような、大変素晴らしい浴室の姿が映し出されていました。 「これはやはり立ち寄りなどではなく、宿泊してきっちりとその存在を見届けねばなるまい!」 そう確信した私は、ちょうどみちのく一人旅に出向くという機会が訪れたこともあり、これをチャンスとばかりに予約を入れたという次第です。 更に!、実はこの宿でもう一つ私のハートを大きく揺り動かしたのが、米沢牛ステーキを味わうというグルメプランの存在。 何も山奥の秘湯に足を運んでまで米沢牛をいただく必要などないとも考えたのですが、やはり知ってしまったからには「こちらの方もしっかりと見届けねばなるまい!」という強い使命感にもかられ、しっかりと米沢牛ステーキプランをセレクトしてしまいました。 舞台を宮城から山形へと移し、秘湯とグルメを味わうさすらいの一人旅の模様、それではどうぞご覧ください。 今回の旅のプランで計画していたのが、秋田駒に続く蔵王でのトレッキング。 残念ながら、アブに刺された足の裏がだいぶ悪化してきたことで長時間歩くのは無理だと判断し、「ならばせめてお釜の姿を一目だけでも!」という思いを胸に、蔵王エコーラインをひた走りました。 出発時点では雲に覆われて周囲が全く見えないような状態でしたが、上へ上へと駆け上がって行くうちに一気に雲を突き抜けて眩い青空の姿が。 まるで悩み多き人生にもつながるかのような、爽快感たっぷりのドライブでした。 天候の変化が多く、蔵王のお釜を望める確率はいつも行ってみなければ分からないという、正にその日の運次第。 どうやら今回は今まで一番美しいお釜が望めそうな条件で、片足を引きずりつつもはやる気持ちでお釜へと近づいて行きました。 そして私を待っていたのが、こちらの雄大な景観。 もう一つの雄である草津白根山のミルキーブルーな火口湖に対し、今回のお釜は見事なまでにエメラルドグリーンに輝いていて、正に神秘の湖といった感じがしました。 たおやかな蔵王の稜線上を見やると、ちらほらとハイカーの姿が目に入ります。 その楽しそうな姿を見るにつけ、いつか自分もゆっくりと蔵王トレッキングのリベンジを果たしたいと心から思いました。 素晴らしい絶景をしっかり目に焼き付けた後は、車を一気に走らせて立ち寄り入浴を楽しむべく白布温泉へと向かいました。 米沢八湯の一つであり、奥州三高湯にも数えられる白布温泉。 そんな名湯の誉れ高い白布温泉の中でも、風情に関してはこの宿の右に出る者は無いと思われる『西屋』に入ってみることに。 湯滝の宿と称されるこちらの『西屋』、風情ある外観やお風呂の魅力もさることながら、館内も実に格好いい作りとなっていて、思わず目を奪われてしまいます。 立ち寄り入浴客は、一旦外に出て中庭を挟んだ向かいにある湯小屋へと向かいます。 こちらがその湯小屋の外観。 格子戸が印象的なオリジナリティのある風貌でした。 浴室内に入ると、注がれるお湯の音が豪快に響き渡り、一種独特の雰囲気を醸し出していました。 湯船は数百年の時を経た真っ黒な御影石造り、写真でその良さを伝えるのは非常に難しい感じですが、とにかくいぶし銀の如く渋さ溢れるお風呂の姿です。 衝立の奥には、この宿の名物となっている3本の湯滝が。 打たせ湯兼湯口というこちらの湯滝、湯量が多い上に湯船もさほど大きくないため、溢れ出るお湯の量も半端では無いという、非常に贅沢な湯浴みが楽しめます。 泉質は石膏分を含んだ硫黄泉で、ほのかな硫黄臭と共に多量の湯華が舞い、思っていた以上に入り応えのあるお湯といった印象でした。 溢れ出たお湯はそのまま格子戸の外へと流れて行きます。 湯量からするともう少し広い浴室であっても良い感じがしましたが、あえて湯船を大きくしすぎずに新鮮なお湯をとことん味わえる環境を維持してきたというこの宿の英断に、思わず拍手を送りたいような気がしました。 さて、『西屋』での湯浴みにすっかり気をよくした私は、その勢いで今度は『中屋別館不動閣』の立ち寄り入浴にも繰り出してみました。 外観の方は、先ほどの『西屋』にも負けず劣らずの風情が感じられます。 それに対して、館内は趣というよりもむしろかなりのB級旅館路線。 こういった雰囲気、私は決して嫌いではありません。 この宿もまた、温泉ファンにとってはかなり有名な名物風呂、その名も「オリンピック風呂」を有しています。 名前を聞いただけでは全くもって意味不明な浴室ですが、初代の浴室が東京オリンピックが開催された昭和39年に作られたことから名付けられたとのことでした。 もちろん、ただ名称が変わっているだけではなく、浴室の方もかなり個性的な作りとなっています。 館内には、他にも聖火リレーの際に使用された地元の聖火台などが展示されており、この辺りがB級旅館っぷりをますます助長している感じがして楽しかったですね。 平日かつチェックイン時間前ということもあり、ひっそりと静まりかえった浴室の扉に手をかけます。 期待一杯の「オリンピック風呂」、果たして一体どのような姿をしているのでしょうか。 広い窓ガラスに覆われた浴室内は、明るく開放的な雰囲気。 なるほど、オリンピック風呂を名乗るのに恥じないような湯船が横たわっていました。 その様子がハッキリ分かるのがこちらの写真、どうですかこの見事なまでに長い湯船の姿! まるで競泳でもできそうなくらいロングサイズの湯船を前に、思わず呆然と立ち尽くしてしまった私でした。 一瞬、端から端まで泳いでみようかとも思いましたが、残念ながら湯温がかなり激熱で、お湯に浸かったらじっと我慢していることしかできないような、かなりパンチの効いた正にオリンピック級のお風呂でした。 「オリンピック風呂」から一旦あがり、失った体力の回復を図るため休憩スペースにて一休み。 そしてしばし時間をおいた後、再び湯巡りへと突入します。 もう一箇所ある浴室は露天風呂となっており、先ほどの「オリンピック風呂」よりは湯温もやや温めで入りやすい感じでした。 ・・・が、気分良く浸かっていたのもつかの間、露天風呂ということで例によって天敵のアブが襲って来たためにすぐさま退散し、そのまま逃げるようにして白布温泉を後にしました。 白布温泉から新高湯温泉へはごくわずかな距離。 『吾妻屋旅館』へと続く急勾配な一本道を、大きくエンジン音を鳴らしながら上り詰めて行きます。 宿のすぐ手前のヘアピンカーブを曲がると、ようやく目指すべき『吾妻屋旅館』に到着しました。 夏場ということで2WDの私の車でも問題なく走りきることができましたが、冬場の雪道では恐らく4WD車以外は走行不可能ではないでしょうか。 秘湯の宿ながらも、山岳ロッジ風な瀟洒な雰囲気を感じさせる外観。 平日ということであわよくば貸切状態を期待していましたが、写真を撮っているうちに次々と宿泊客達が到着して来たので、この宿の人気ぶりを伺い知ることができました。 前夜宿泊した『湯元不忘閣』とはまたひと味違った、秘湯を守る会の会員宿です。 館内に入ると、外観のイメージそのままにシンプルなロッジ風の作り。(但し、やたらと目に付く貼り紙類の多さが気になりましたが・・・) こちらでチェックインの手続きを済まし、2Fの客室へと案内されます。 この宿の客室にはトイレ・洗面所の備えはありませんが、運良くすぐ近くの客室を用意してもらったので全く不便な感じはありませんでした。 客室内は余分な物を省いた極めて簡素な作りとなっており、掃除もしっかり行き届いていて実に快適です。 山小屋に一人で泊まり歩いていた若かりし頃などを思い出したりしながら、楽しい一時を過ごしました。 客室の隅にはたたまれた布団が置かれていて、いつでも好きな時に横になることが可能となっています。 カバー類も至って清潔で好印象。 私はもっぱらこちらの布団をソファー代わりにして、滞在中ゆったりとくつろがせてもらいました。 窓の外には、刻々と変化する空と山の表情を楽しむことができます。 できれば美しい夕焼け空を拝みたいと期待していたのですが、生憎夕方が近づくにつれてどんどん雲が広がっていくという寂しい結果に。 それでも、翌朝目にした雲海の広がる光景はなかなか見応えのある眺望で、山好きの私の心の琴線を見事に揺さぶってくれたのでした。 今回のところはここまで。
次回はいよいよ充実の湯巡り開始です。 |
全1ページ
[1]


