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ずいぶんと長期に渡って連載してきた夏休みみちのく一人旅温泉レポートも、今回の記事を持ってようやくゴールへとたどり着きました。 それでは早速、最終回となる板室温泉『大黒家』の夕餉の模様からスタートしたいと思います。 『大黒屋』での食事は、一人旅でも気兼ねなく味わえる部屋食スタイルで、チェックイン時から用意されていたお品書きに沿って夕食開始となります。 このクラスの旅館では珍しく、ほぼ一気出しでいただく形になりますが、「胡・豆・昆(ごずこん=ごま・まめ・こんぶ)」という体に良い食材を取り入れて提供される料理は正に滋味溢れるメニューとなっており、これまで自分の中で抱いていた「旅館料理の一気出し=イマイチ」というイメージを完全に払拭するような、実に満足度の高い内容でした。 使っている食材のこだわりを伝えるためか、お品書きの裏面には以下のように記載されています。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「米」栃木県さくら市・上河内のコシヒカリ 「塩」熊本県・天草の古代塩 「醤油」海の精の生搾り醤油 「鰹節」鹿児島県枕崎産 「昆布」北海道利尻産 「オリーブ油」イタリア・トスカーナ産のエクストラヴァージンオイル 野菜は地物産を主に使用しております。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ これを見ただけでは食材の善し悪し全て分かるというわけではありませんが、「しっかりと良い食材を使っているのだ!」という宿の心意気的なものが感じられるので、料理をいただく側としてはこのような標記はやはり嬉しいものです。 さて、時間になると客室内のダイニングテーブルに料理が運ばれます。 座敷に座っていただくよりも、客室内に椅子・テーブル席があると、気軽にかつ楽な姿勢で食事をすることができるので助かりました。 飲み物については、オススメの地酒などもお品書きに記載されていて注文することもできますが、自販機で購入したものをご自由に飲んでくれて構わないという案内を受けていたので、それにならってお決まりのビールではなく缶酎ハイを空けてみました。 こちらがお膳に載って提供されたこの日の料理です。 内容をお品書き通りに紹介しますと、 小鉢〜スモークサーモンみぞれ和え イクラ にしん昆布巻き 打ち絹さや 中鉢〜才巻海老と枝豆の東寺和え 文銭蛸と海月の土佐酢掛け 蛇腹胡瓜 若布 刺身〜めじ鮪 その他 妻物一式 焼物〜那珂川産天然鮎塩焼 はじかみ 舞茸南蛮 こんにゃく有馬煮 強肴〜和牛肉味噌漬焼 椀物〜玉子豆腐 白魚 貝割菜 香の物〜ぬか漬 その他盛り合わせ ごはん〜栃木のこしひかり 水菓子〜ココナッツプリン というラインナップでした。 嬉しかったのは鮎の塩焼きが養殖ではなく、しっかりと天然物を使ってくれていること。 こちらは初めから並ぶのではなく、少したってから熱々の焼きたてを運んでくれます。 身はやや小ぶりになってしまうものの、私にとっての川魚のイチバンは岩魚でも山女でもなく、やはり何と云っても鮎なので、ワタの苦みと共にじっくりと天然物の味を楽しませてもらいました。 ご飯もしっかりと木のお櫃に入れられ、また面白いことに、お吸い物が冷めないようにとポットに入れて運んでくれるので、自分の飲みたいタイミングでお椀に注いでいただけるようになっていました。 最初運ばれて来た際、品数がやや少ないかなとも思いましたが、お櫃に入った美味しいご飯をお代わりすると、量的にもすっかり満腹状態に。 食事の量やペースもつかみ易く、一気出しであっても冷え切っていてとても食べられないような寂しい料理が並ぶこともないので、こういった夕食も決して悪くないと考えをあらためました。 また、もっと食べたいという食欲旺盛な人は、他にもいろいろと追加メニューが用意されているのでそちらをオーダーするのも良いかと思います。 最後はセルフで珈琲を入れ、美味しいデザートをいただきながら夕食を食べ終えました。 ちなみに食後はお膳を廊下に出しておくか、フロントに連絡を入れると空いた食器を下げてもらえるようになっています。 一夜明けて、板室の空に気持ちの良い青空が広がりました。 前夜早めに寝付いてしまったせいで目覚めも早く、せっかくなので朝風呂の前にぶらりと宿周辺の散歩を楽しんでみることにしました。 たまたま早起きした時くらいしかできそうもありませんが、上高地での宿泊で早朝散歩の清々しさを知ってしまったこともあり、自然豊かな場所に足を運んだ際などは朝の散歩を楽しむ心の余裕を常に持ち合わせていたいものです。 先ずは昨日雨で歩けなかった裏庭へ。 裏とはいっても、十分に手入れが行き届いていて「さすが大黒屋の裏庭!」といった印象です。 そして押しつぶしたウニのようなアートを何気に見やると、プレートに「人間国宝 勝城蒼鳳」の記載が・・・。 さりげなく価値ある物がディスプレイされているので目が離せません。 こちらの庭園は、雑誌などで何度も目にしてきた一際目立つポップな現代アート彫刻が並ぶスペース。 およそ温泉旅館とは思えない、正に現代アート美術館さながらの写真映えする庭園でした。 裏庭をそのまま奥へと歩いていくと、別館のある温泉街の方へと路が続いています。 夏らしく早朝から蝉時雨が降り注ぎ、残りわずかとなった行く夏の旅時間をかみ締めました。 裏庭をぶらりと歩いてみた後は、今度は表側の散策へ。 宿泊した時期は8月でしたが、9月には庭園の改装を予定しているという話を聞いていたので、今頃はまたこの時とは異なる表情を見せてくれているのかも知れません。 更に庭園のすぐ先にある河原にも下りてみました。 宿のすぐ目の前には清流・那珂川が流れ、まるでプライベートビーチならぬプライベートリバーのように川遊びを楽しむことができます。 親の実家が栃木だったこともあり、私にとっての那珂川は子どもの頃から釣りや泳ぎに慣れ親しだ、大自然の友達のような特別な感情を抱かせる存在です。 現代アートはもちろんですが、この自然豊かなロケーションもまた、宿の魅力を引き立てている大きな魅力の一つであると思います。 人で賑わう観光スポットでもなく、かといって延々と林道を分け入った山奥過ぎるような場所でもなく、程良い感じの自然に包まれている板室温泉のような場所こそ、私のような都会人を癒してくれるのにはピッタリといった感じでしょうか。 散歩から帰った後は、朝食前の朝風呂を楽しみます。 昨日入ることの無かった、もう一箇所の檜の浴室へと足を運びました。 脱衣場などは湯治場の名残を感じさせるような、どちらかといえば地味目の作り。 洗い場も個室風に区切られた1箇所のみの備えとなっています。 そして浴室の奥へと進むと、 待っていたのは、ご覧のように木の香溢れる風情満点の檜風呂でした。 太陽風呂の方は石の浴室、こちらの檜風呂は木の浴室と、趣の違う2箇所の浴室が楽しめるというワケですが、個人的には檜風呂の方が断然好みです。 但しこちらの浴室には露天風呂の備えはありません。 湯口から注がれた湯がダイレクトに入る手前の小さな浴槽が温めの適温、大きな浴槽の方が極温湯となっていて、いずれにしても夏場にはありがたい温湯でさっぱりとした湯浴みを楽しむことができます。 何度入っても板室の湯はやわらかくて優しい肌触り、まるで京美人のようにはんなりとした魅力が漂う女性的な湯であるような感じがしました。 ガラス窓の向こうに広がる庭園と竹林も、実に風雅な趣に溢れていました。 また、こちらの檜風呂には露天が無い代わりに「アタラクシア」という宿の名物でもある岩盤浴or低温サウナのような設備が設けられています。 今回私は利用しませんでしたが、「アタラクシア=心の平穏」という意味であるらしく、40℃程度という比較的低めの温度設定となっていて、黄土で作られたほの暗い室内の中で瞑想気分にひたりながら温浴を楽しめるという趣向です。 ご覧のような表示を見ても分かるように、アートな面だけではなく、本物の温泉を存分に味わえる宿であるからこそ、今のような人気旅館へと成長したのでしょう。 朝風呂の後はお腹をぺこぺこに空かしてお楽しみの朝食です。 日が沈んだ後の夕食はあまり景色を楽しめませんでしたが、清々しい朝の景色を眺めながらの食事は実によいものでした。 朝食もいかにも体に良さそうなシンプルなメニューでしたが、どれも皆美味しくいただき、朝からご飯がすすみました。 そして再び食後の珈琲をセルフにて。 残り少なくなった滞在時間の中で、しっかりと旅の余韻を楽しむ貴重なひとときでした。 最後は売店などを覗きつつ、 宿のスタッフとの会話などを楽しみながら『大黒屋』を後にしました。 優雅な気分でチェックアウトを済ませながら、充実の滞在に幕を下ろした瞬間です。 宿を出発した後は〆の温泉を楽しもうとの思いで、あんな温泉や、 こんな温泉などを巡りながら、 一路東京へと車を走らせました。 一人での温泉旅行としてはこれまでで最も長い旅路であった今回の旅、途中ハプニングや寂しさを感じる時間もありましたが、何の制約もない自由気ままな一人旅の楽しさを心の底から満喫することができました。 連れのいる旅行ももちろん大好きですが、今年の夏も再びこのような旅で出たいと密かに思っています。 〜Fin〜
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板室温泉 大黒屋
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板室温泉『大黒家』のコンセプトは保養とアート。 ゆったりと温泉に浸かって美味しい食事をいただくことで心身を解放し、先鋭的なアートの数々に触れることによって、弛緩した感性に刺激を与えるといったところでしょうか。 午後の早い時間からチェックインが可能ということもあってか、宿の敷地内には実にゆっくりとした時間が流れ、どちらかといえば若い人よりもR30以上の大人をターゲットとしている向きが感じられます。(実際にもの静かな熟年層のゲストが多かった。) 本来であれば、こういった宿には連泊をして滞在するのが望ましいような気がしますが、何せこちらは東北から関東まで縦断して来た忙しい旅人、限りある時間の中で目一杯宿のエッセンスを吸収したいと躍起です。 宿に着く前にどんなに立ち寄り湯を楽しんで来たとしても、やはり温泉宿に来た以上、真っ先にそのお風呂の様子を確かめたいという性分である私は、直ぐさま着替えを済ませて湯浴みに繰り出すことにしました。 『大黒屋』のお風呂は男女別に2箇所ずつあり、それぞれ趣が異なる浴室なので目先を変えて楽しむことができます。 先ずは内湯と露天風呂を有する「太陽風呂」へ足を運びました。 廊下の途中には、ご覧の様にアートが掲げられたギャラリーコーナーが。 普段はそれほど美術館などに足を運ぶ機会のない私ですが、このように宿のウリとして展示されていると思わず真剣に見入ってしまいます。 更に玄関脇に位置する落ち着いた雰囲気のロビー(サロン)についても、正に宿を象徴するかのようなアーティスティックな空間そのもの。 勇んでお風呂へと向かったわけですが、その魅惑的な雰囲気を無視して素通りできるハズもなく、吸い寄せられるように自然とそちらの方へ方向転換してしまいまいました。 こちらの宿では、作家による定期的な展示会が行われているようです。 今回はイタリア・ミラノ在住の廣瀬智央というアーティストによる、豆をテーマにした現代アートの数々が展示されていました。 凡庸な私は、当然ながら作品の深いテーマを理解するまでには至りませんが、知ったような顔をして眺めていたら、かの有名な『大黒屋』のご主人が近寄って来ていろいろと解説をしてくれました。 そしてそれをさぞ分かったような顔つきで「うん、うん」と喜んで聞いていたわけですが、なるほど、一つ一つの作品がどういったものかという解説を聞くと、やはり眺めている方も少しは高尚な気分にひたれるというものです。 私のように芸術家の意図するアートの深い意味までは理解できずとも、きれい・美しい・面白いといった表面上の良さを感じるだけでも、十分にアートな気分を楽しめると思います。 その他、世界の空をとらえた写真アートなども実に鮮やかな作品で、ロビー(サロン)内に一際彩りと華やぎを与えていました。 別棟に専用のギャラリー等も設けられていますが、ロビー(サロン)や廊下、庭先に至るまで、さりげなくそしてごく自然にアートが散りばめられているという宿のスタイルは、見ていてなかなか楽しいものです。 これが写実的な絵画や西洋の骨董などではなく、抽象的な現代アートに絞っているという点が、温泉旅館+アートという組み合わせを違和感なく見事に成立させているような印象を受けました。 さて、しばしロビー(サロン)で足を止める格好になりましたが、廊下の先にある「太陽風呂」に到着しました。 脱衣所などは至って簡素なつくり。 丸い饅頭の様な形をした椅子?が、妙に存在感を放っていました。 脱衣所の壁には、「うちの宿はこういった人達をターゲットにしているんだよ、それを分かって来てね!」といった、まるで宿からのメッセージとも取れるような明確なコンセプトが掲げられていました。 泊まる側も、こういった宿の指向をしっかり明示してくれると宿選びもしやすいですし、必然的に満足度も高まるような感じがします。 もちろん、そうした宿のコンセプトを抜きにして泊まったとしても、イチ温泉旅館としての実力はピカイチであると思うので、対象外の方であっても十分楽しめるのではないでしょうか。 中に入ると、南向きの明るいガラス張りの浴室がお目見えし、晴れた日であれば正に「太陽風呂」のネーミングが実感できるような空間となっています。 湯船の縁からは、板室温泉特有の柔らかいヌル湯がしずしずと溢れ出し、窓の向こうに広がる木々の緑を愛でながら、まるで真綿でくるまれたような実に優しげな湯浴みを楽しむことができました。 前回板室温泉に訪問して以来、その泉質がすっかり気に入ってしまった私は、人が居ないのをいいことにここぞとばかり湯口付近に陣取り、下野の薬湯を思う存分堪能させてもらいました。 夏はやっぱりヌル湯が一番! 立ち寄り湯を楽しんだ甲子温泉もそうですが、こういった比較的温めの湯の気持ちよさを一度覚えてしまうと、思わずクセになってしまいそうな感じがします。 こちらは洗い場ですが、壁が板張りのせいかなかなか風情を感じる作りとなっています。 備え付けのシャンプー類は、環境に配慮した製品が置かれていました。 続いて露天風呂の方にも足を運んでみます。 露天風呂はごく小ぶりですが、東屋風の屋根がかかって雨天時でも楽しめるようになっていました。 壁を隔てて隣は女湯の露天風呂となっているようで、親子連れとおぼしき入浴客が「本当に気持ちいい、本当に気持ちいい」と、悦に入って心底湯浴みを楽しんでいる会話が聞こえて来たので、何だか自分まで幸せな気分をお裾分けしてもらったようで嬉しくなりました。 那珂川の瀬音を間近に感じながら、雨上がりの涼しい風を受けて入るヌル湯露天もまた格別の味わいです。 露天風呂から内湯の方を眺めるとご覧のような絵に。 大きく取られた窓が非常に開放的ですが、夏場などは全て開け放ってオープンエアーな半露天風呂のようにしてみても楽しいかも知れません。 ゆっくりと湯浴みを楽しんだ後は、夕食までの時間をしばし無目的に館内をうろうろと歩いてみました。 月見台の様なベランダが設けられている梅の館の客室。 こちらの客室に泊まれば、日中は緑、夜は星空や月夜を眺めながらの至福のビールタイムを満喫できそうです。 今度は表に出て、ロビー(サロン)の外に広がる庭園を眺めてみました。 庭園の一角には「水琴亭」なる茶屋も設けられており、 お茶や軽食、甘味などを楽しむことができます。 こちらは「投吟亭」なる俳句処。 現代アートだけでなく、風流な和のテイストも随所に感じることができました。 更に少し足を伸ばして温泉街にも出向いてみます。 川沿いに立ち並ぶ湯宿やお店はどれもみな観光色には乏しく、一昔前の昭和の匂いが漂っているかのようでした。 どの温泉地に足を運んでも、ノスタルジックな木造の宿というものは何とも絵になる光景であり、眺めているだけでも心を和ませてくれる存在です。 こちらは「温泉付プライベートルーム」と銘打った『大黒家』の別館。 本館よりも湯治色が強く、1日単位の宿泊はもちろん、1週間、1ヶ月、1年間に渡る長期の予約も受け付けているという滞在型の宿泊施設になっています。 さすがに1年とはいいませんが、設備の整った快適な客室で自炊をしながら1週間くらい本格的に湯治を楽しんでみたいものですね。 のんびりと散策を終えて宿へと戻ると、 夕暮れの空にうっすらと日が差して来ました。 秘湯とはまた違った、静かな山間の温泉地で過ごす贅沢な大人の休日−。 目に触れるもの、耳にするもの、感じるもの全てが優しく、ゆるやかな空気に包まれているかのようです。 到着した頃は、とにかく滞在中余すことなく宿を満喫!といったようなせわしない思いがあったものの、いつしかそんな心も消え、心底自分がリラックスしていく感覚が実感できました。 この後はお楽しみの夕食の時間を迎えます。
次回へと続く。 |
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長いようであっという間だったみちのく一人旅も、いよいよラストステージを迎えることになりました。 実は旅のラストを飾る宿を決めるにあたっては、自分の中で甲乙付けがたい二つの宿が候補地として存在していたために、一体どちらを選んだら良いのか最後まで相当頭を悩ませまるという結果になりました。 その頭を悩ませた二つの宿とは、一つが元湯甲子温泉『旅館大黒屋』、もう一つが板室温泉『大黒屋』という、二つの『大黒屋』の存在です。 甲子温泉『大黒屋』は、温泉ファンには有名な足下湧出の極上温湯である大岩風呂を擁し、昨年6月にリニューアルを果たしたばかりの注目の秘湯宿、一方板室温泉の『大黒屋』は、「保養とアートの宿」と銘打ち、現代人のための新しい湯治宿の姿を創り上げて来たという、正にパイオニア的存在の有名宿。 3軒連続して秘湯の宿でどっぷりと温泉を味わい尽くすか、それとも以前からずっと足を運んでみたかったアーティスティックな宿で長旅の疲れをゆったりと癒すか・・・。 悩んだ末に最終的に私が下した決断は、「え〜い、こうなったらどっちも行ってしまえ!」という実に分かりやすい安直な答えでした。 とは云っても一泊追加して両方の宿に泊まるというわけではなく、甲子温泉『大黒屋』の方は立ち寄り湯+ランチで、そして泊まりの方に板室温泉『大黒屋』を選ぶことによって、何とか自分の気持ちを納得させるに至った次第です。 それでは早速、残すところあと2日間となった旅の模様をご覧ください。 会津と白河とを結ぶ国道289号線が念願かなってようやく開通となったため、今回は会津西街道側から向かうアプローチをとりました。 甲子トンネルを抜けると元湯甲子温泉へはもうすぐです。 国道から分かれて宿へと続く細い道をしばらく下っていくと、やがて左手に瀟洒な山の宿の姿が見えて来ました。 深みのあるチョコレート色のシックな外観は、かつての秘湯の宿の佇まいから現代風のモダンな建物にすっかり生まれ変わった模様です。 周囲のロケーションとも程良くマッチしており、新生『大黒屋』はひと目見ただけでも泊まってみたいと思わせるような魅力溢れる宿の姿をしていました。 古民家風の梁と美しい木の床が印象的な館内。 完成したての華やかさをもって、一際輝いて見えます。 それでは早速お風呂をいただくことに。 先ずは館内に設けられた恵比寿の湯から入ってみました。 脱衣所はシンプルで清潔。 鄙びた雰囲気などは微塵も感じられません。 そして浴室に入ってみると、ある意味今の宿の雰囲気によく似合った湯船が待ち構えています。 正直、この新しいお風呂を目当てに足を運んだワケではないのでそれほど強い魅力は感じませんでしたが、しっかりと掛け流しの湯を楽しめるのは嬉しいところです。 窓の外に広がる景色は、深山幽谷の大自然というよりも緑豊かな庭園風な印象。 入浴客がいたので写真は撮れませんでしたが、内湯の外には露天風呂も設けられていました。 恵比寿の湯の泉質は、後ほど紹介する大岩風呂とは異なる無色透明さらりとした浴感の石膏泉で、45.8℃という加水・加温の必要ない絶妙な温度で湧き出ているそうです。 洗い場の整った恵比寿の湯で体を洗った後は、いよいよお目当ての大岩風呂へと足を運びました。 良い湯ほど谷底近くにあるという原則通り、煩悩を振り払いながら108段という長い階段をひたすら下って行きます。 階段を下りきると、清流にかかる橋の向こうに立派な湯小屋の姿が目に入って来ました。 こちらは、橋の上から眺める東北地方第2位の長さを誇るという大河・阿武隈川の清冽な流れ。 夏場ということもあり、渓間をかける爽やかな風の心地よさといったらありません。 奥にある「女湯」の暖簾がかかる浴室は櫻の湯という名称で、男性は泊まり以外では利用することはできません。 櫻の湯も素晴らしい檜風呂であるとの評判なので、いつか宿泊して楽しんでみたいものです。 そしてこちらが、湯小屋の中に鎮座する圧倒的な存在感を放つ大岩風呂の全容です。 150年という長い年輪を刻んだ極上の鄙び感、まるでプールを思わせるかのようなスケールの大きい湯船、扉を開けた瞬間に感じるその空気は正に感動ものでした。 法師や酸ヶ湯などと並び、正に文化遺産級の素晴らしい浴室を前に私は瞬間的に涙が出そうになりました。 いつまででも入っていられそうな程良い温湯感、そして深さ1.2mにもなる立ち湯の浮遊感に、思わず体が湯船にとろけてしまいそうな心地よい感覚を覚えます。 岩盤の隙間から湧き出る湯は、抜群の肌触りの単純温泉。 湯口から注がれる湯と混ざり合って、40℃あるかないかといった絶妙の湯温を作りだしています。 今回の温泉旅では、出会う風呂出会う風呂皆全てが横綱級の素晴らしさを持って私に対峙してくれたので、心の底から感動と畏敬の念をもってそのお湯達に接することができました。 さて、凡そ1時間ほどの極上湯浴みを満喫した後は、食事処でランチをいただくことにしました。 蕎麦か、ご飯か迷った末、清流豚丼をオーダー。 一番奥の席に座り、文化財にも指定されているという趣溢れる別館離れの姿を眺めながら、しばし出来上がりを待ちます。 こうしている間にも、じんわりと心地よい疲れが体を覆っていくのがよくわかりました。 こちらが清流豚丼の内容。 味もボリュームも十分満足できる一品で、いい湯に浸かって良心的な値段でランチをいただくことができ、日帰りでも十二分に満喫することができました。 次回はゆっくり泊まりでという思いを胸に、もう一つの『大黒屋』を目指して宿を後にしました。 元湯甲子温泉 旅館大黒屋 http://www.kashionsen.jp/ 夏の栃木路は雷雨の宝庫。 途中、激しいにわか雨に降られながらもようやく板室温泉へと到着しました。 右手に見えるのは前回宿泊した『ONSENRYOKAN山喜』、相変わらずスタイリッシュな建物は健在です。 鄙びた温泉街を抜けて、こちらの橋を渡った先が念願の初訪問となる『大黒屋』。 敷地の入口部分には、しっかりと「保養とアート」という看板が掲げられていました。 清流那珂川と那須の山々を借景にして、静かにそして鷹揚として佇む『大黒屋』の外観。 雨に煙るその姿もまた美しく感じました。 しばし敷地内を眺めた後、アーティスティックな雰囲気が漂う玄関をくぐりました。 フロントでチェックインを済ますと、手際よくリクエストしておいた2Fの客室へと案内されます。 さすが有名宿だけあって、スタッフもスマートかつ丁寧な対応で実に安心感のある接客ぶり。 それなりに年季の入った館内ですが、廊下や階段にもたくさんのアートが並んでいてセンスの良さが感じられました。 廊下の窓からちらりと目に入った中庭の風景からも、ポップな現代アートがさりげなく展示されている辺りに、思わず「さすが!」とひとりごちてしまいます。 3つある客室棟の中で今回私が宿泊したのは、最もリーズナブルなタイプである松の館。 シンプルなしつらえですが、一人旅には十分過ぎる内容でした。 客室内は、畳敷きの寝室と絨毯敷きのリビングスペースとに分かれる和洋室的な空間。 食事も朝夕ともこちらのテーブル席で気兼ねなくいただけるので、保養を目的とした一人旅にも最適です。 テーブルの上に、あらかじめ夕食のお品書きが置かれていたのが面白い感じがしました。 『大黒屋』は、食事の方も体に優しくしかも美味しいという評判だったので、夕食を前により一層期待が高まりました。 また、さすがアートな宿だけあって客室の鍵などもこだわりが感じられます。 デスクやクローゼットなども極めてシンプル。 金庫などはなく、デスクの引き出しに鍵をかけて金庫代わりとして利用します。 温泉道具も必要最小限といった内容で、できれば温泉籠くらいは用意してもらえると便利なのですが・・・。 湯治場として名を馳せる板室温泉らしく長期滞在客も多いとのことで、冷蔵庫などは旅館としてはかなり大きめのサイズが置かれていました。 またドリップ珈琲のパックも用意され、無くなったら追加してらえるということだったので、この辺は実に気が利いていて嬉しいサービスであると思いました。 こちらは寝室部分の様子。 あらかじめ布団が敷かれているのも、さすが保養を目的とした宿ならではといった感じでした。 こちらの宿は13時からチェックインが可能であるため(アウトは10時30分)、温泉に浸かってアートに親しみ、時々外に出て自然を愛で、そして疲れたら優雅に昼寝を楽しむなど、正に日常を離れてゆったりとした温泉ライフを楽しむにはもってこいといった印象です。 忙しい現代人にとっては、体のケアはもちろん、心の鋭気を養うことが最も重要な湯治目的の一つといえるのではないでしょうか。 洗面やトイレなどの水回りは機能重視。 ポットに水を入れるのに都合の良い口の高い蛇口や、引き戸かつ段差の無いトイレなど、高齢者やバリヤフリーにも十分配慮した設計となっている様子です。 最後に客室からの眺めです。 眼下には庭園を望み、緑溢れる山々の風景が心を穏やかに落ち着かせ、長旅の疲れをそっとクールダウンしてくれるかのような印象を持ちました。 客室棟によってそれぞれ異なる眺めが楽しめるそうなので、自分好みの眺めを選ぶ楽しさもあるような感じですね。 次回へと続く・・・。
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