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電気屋版「人間の絆」
新しく、イタリアの紀行を元に短編小説に挑戦中

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第447話 卒業式4

「あぁ、しんど!!」
 
総合体育館から同期の勢いに引きずられて、プールまで全力疾走してきたのは良いが、最近の運動不足もあり、スッカリ息が上がってしまった。
帽子を投げた後、何だってこんなに走らなくてはいけないのか!
そもそも、それが、伝統ではない。
卒業生達が「学生」という身分から、決別するための一つのアピールでも無い。
簡単な理由だ。

「時間が無いのだ!」

と、言うのもこれは、今や4大隊の学生の為だけに言える。
総合体育館から4大隊までの学生舎は遠い。
陸、海、空曹長の階級章と幹部候補生の徽章を付けた新しい制服に着替えて、また総合体育館傍のプールの傍まで・・・・
学生達のパレードで見送りを受けるために、トンボ帰りで、引き戻らねばならないのだ。
これで、お分かりだろう?
卒業生が走って会場を後にするのは、そもそも時間がないだけなのだ。
勿論、これが、事実だとしても、「納得いかない!」とおっしゃる方は、夫々の理由付けを付加されても一向に構わないと思うが・・・
 
話を戻す。
 
時間が無いのは、任官される同期の話。
では、任官しない者達はというと・・・・
これは、これで、一つのドラマがある。
任官しない我々は、図書館4階へと向かった。
これから、もう一つの裏の儀式が始まるのだ。
任官辞退する者、様々な理由があると思うが・・。我々の時には70名近くに及んだ。
そのため、会場はまだ、使用目的が定まっておらず、スペース的にも余裕があり、本館に近い図書館4Fが選択されたのであろう。
その、儀式の正式名は忘れたが、こんな名前では無かっただろうか?
「任官辞退承認式」
学校側が、正式に認めるという形ではあるが・・・
納税をしてきた国民を代弁して、学校側として、辞退を決意したもの達への最後の教訓を!
そして、これからの人生における大きな課題と宿題を課したもの、だと私は理解している。
 
我々は集合して、6列縦隊で待機していた。
窓の外では、何時しか、パレードの音が洩れ聞こえてきた。
吹奏楽部による演奏が始まったのだ。
国旗入場、観閲官入場、何度もパレードを繰り返してきた我々には、音だけで、今行われていることが容易に想像できる。
更に、暫くして「抜刀隊」が流れ始めたころ、学生課の課長(1等空佐)が4Fに入ってきた。
 
夏目学校長の名前が入った、「任官を辞退する事を認める」と書かれた、今度はかなり小ぶりの、第2段目の「卒業証書」を我々は受け取った。
今回は代表者1名による受領であった。(各人には後ほど中隊指導官から渡される事になっている。)
学生課課長は証書を渡した後、「一言、皆さんの卒業のはなむけに、お話したいと思う。」から始まる訓辞が行われた。
 
「諸君には、それぞれの訳があって、幹部自衛官を育成するこの、防衛大学校を卒業しながら、自らの意思でそれを辞退する。」
「任官する義務は無いし、各人これまで散々、議論し尽くしてきた話だと思うので、これ以上はトヤカク言うつもりは無い。」
「しかし、各人、ここで国民が君達に何を期待してきたのか?改めて胸に刻んでこの小原台を降りて、民間で頑張って欲しい。」
「我々、自衛官は任官するとき、勿論、君達も知っている事だと思うが、事に臨みては危険を顧みず、与えられた任務の遂行・・・云々という宣誓を行う。」
「これは、首相や議会にするものではない、主権者、日本国民に対して行うものだ。」
「君達は、個人の理由もあり、この国民との契約を遂行できなくなる。」
「しかし、広義で国家防衛を考えれば、我々制服組だけで出来るものでもない。」
「どうか、諸君!この小原台で学んだことを糧にして、民間に赴くとともに、小原台卒業生として国家防衛の為に何ができるか?」
「各人、自己を見つめ、模索していって欲しい。」
「残念だが、君達が進む道に私達が、アドバイスできるシロも少ないだろう。」
「繰り返しになるが・・・国民が君達に何を期待しているのか?絶えずそれを胸に刻みながら、研鑽して欲しい。」
「諸君の健闘を祈る。」
 
学生課課長は会場を後にした。
図書館4Fは異様に重苦しい雰囲気に包まれた。
私は何時しか、人生の中で最も重い課題を渡されたのだと・・・時が経つにつれ実感するようになった。
 
つづく

  • 顔アイコン

    #36回収要員です。

    四半世紀ほど遅くなりましたが、卒業おめでとうございます。




    実は私も帽子を投げなかった期のことを考えていました。

    答辞は鬼気迫るものでした。

    きっと立派な指揮官になると思います。

    あの日は来賓の辞も私達がいつであっても、どこにいても忘れてはいけない本領でした。

    時は流れても、負い目をしっかり負って

    ただめしを食わせてもらった恩は一生忘れず

    そろそろ役目を終えた同期の退官がちらほら出てきました

    我々は一生ですよね

    [ #36DOR ]

    2014/4/18(金) 午前 0:39

  • 顔アイコン

    #36回収要員(?)様
    そう、私達は一生です。
    まぁ、Life Workとして背負っていきましょう。
    年をとっても、ボケてる暇はござりませんなぁ(笑)

    [ 電気屋としき ]

    2014/4/18(金) 午前 10:08

  • 顔アイコン

    時間がなかったんですね!Σ( ̄□ ̄;)
    でも帽子を投げて走っていく姿はなにかをやり遂げて旅立つぞって感じがします
    じつはお急ぎだったとしてもまた感動しちゃうだろうな(^_^)
    任官しなかった方々にはもうひとつの卒業証書があったのですね
    みんないろんな事情で悩んで出した結果なのでしょうね
    防衛大学校を卒業するということはやっぱり普通とは違うずっと背負っていくものがあるんですね

    [ けいぴ ]

    2014/4/18(金) 午後 8:06

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