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イロイロ考えたのですが、「電気屋の駄作」のコーナーだけを取り出して、此方のブログをモットスッキリとさせようと決意いたしました。 もし、宜しければ、 http://blogs.yahoo.co.jp/taro_rhythm/ の方にも、いらっしゃって下さいませ。 記事移設に伴い、皆様から頂いたポチやコメントが反映されておりません。何卒、ご容赦賜りますようお願い申し上げます。 |
エピローグ
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「お待たせしました!」
「また、絵を描いてるんだね!」 鎌倉の待ち合わせの喫茶店に、私だけへの声が掛かった。 「うん、とっても藤が見事だ。」と私。 「なに、食べてるの?シナモンケーキ?美味しそうね!」 「私も何か注文してくる。」 そう言って”H”は注文カウンターへ向かって行った。 一旦離れていく背中を見つめながら呟いた。
「人生は長い、まして20年以上も離れ離れだった。今までのお互いの生活を尊重し新たな二人の展開に辿り着くまでには・・・ 少しづつ、少しづつ、竹を炙りながら曲げを加えていく・・・。 そんな手法を根気よく、続けていくことが・・・今は大切なのだ。」 「焦らないことだ・・・」 其の事は、私以上に”H”が実感していることだろう。 私はスケッチブックの絵を乾燥させるためにテーブルの奥に追いやり、その代わりにB5版のパソコンを開けて、電源を入れた。
白いノートパソコンが微かな唸りを上げ、息をつきながら黒いXPの画面からやっと立ち上がった。この草臥れた動きを見ていると・・・ マイクロソフトのご都合には付き合いきれん!今度はヤッパリ、リンゴ(APPLE)にしようかな?と思う。 ”H”はクロワッサンとブレンドコーヒーが入った白いマグカップを載せた茶色いトレーを私の隣に置いて座った。
そして一口、コーヒーを含むと、朝の格闘の話を始めた。 「あの子達ったら、起こしても起きなくて・・学校に時間ギリギリで飛び出して行った。それから洗濯カゴ3杯の洗濯をして、その間に”ポチ”の散歩でしょう。誰かは突然、横須賀カレーフェスティバルにかこつけて来るというし!同期に会えるの?」 私はニコニコしながら、「カレーフェスタは出汁だよ。そんな事より大切なことを完成させるために来たんじゃァないか。」と答える。 「ホラ、見て!」と云って昨夜、横浜の「Hotel New Grand」の403号室に閉じこもり書き下ろした原稿を立ち上げ、クルリと”H”の方向にパソコンを向けた。
”H”は読書家で活字が大好きな人である。 私の文章を真剣に読み始めた。 私はその横顔を見ていると、妙に緊張した。 小学校の時、先生の机の横に立たされ、提出した作文のチェックを受けている光景を不意に思い出したからだ。 「此処、おかしい!」 「これは、順番が逆!」 「え、何処?本当だ!書き直す!」 私がキーボードと格闘していると、”H”がポツリと囁いた。
「でも、皆さん、本当に色々な感想をもってお読み下さったのねぇ。」
「防衛大の親御さん、防衛大を目指す受験生、時には防衛大の学生、防衛大の彼氏がいた女性、防衛大の先輩、同期、後輩。防衛大学生の大ファン。」 「そうだなぁ、落ち零れのような僕の体験談なのにねぇ・・・」 「あら、落ち零れだから良いのよ!だれも優等生の話なんて聞きたくないわよ!」 「としきの2年生の時の落第寸前の話を知ったら、誰でも、何とかなるって自信湧くわよ!」 これ以上、事実を突かれたら堪ったものでは無い。
「はいはい、仰る通り。それにしても。読者の皆様には心から感謝しております。はい。」
「コメントを下さる方の様々な背景や経験を通して、教えて頂いたり、考えさせて頂いた事はとてつもない私の財産になったと思う。」 「始めた当初は、そうだね。正直言うと何処かで読む人もいなくなって・・・」 「いつの間にか書くのも止めて、自然消滅・・・・」 「でも、書き続けていたら、妙に落ち着いてきて、何だか、此れからやらなくちゃいけない事が判ってきたような気がする。」 「人生には二つの仕事がある。一つは普通の仕事。食べていく為に、嫌なことがあってもお金を稼ぐというもの。もう一つは社会への還元として身を挺する仕事。所謂”Life Work”」 「僕の場合”Life Work”は任官辞退した時にハッキリしていたんだ。このブログを書いたことで、やっと、自分しか出来そうになさそうな事を見つけれたような気がする。」 私の話を聞いていた”H”は尋ねた。
「ブログどうするの?もう止めちゃうの?」 「続編期待します!っていう声が沢山届いてますけど!」 私は答えた。
「僕たちのお話は、また何時の日か。にさせて頂いて・・・」 「ブログを書いて、コメントを頂いて居るうちに、何となく閃いたものがあるんだ。」 「貴女にしてもそうでしょう?横須賀や横浜、そしてこの鎌倉で・・・」 「あの防衛大学校の制服を、私が居ない間そして今、どんな気持ちで眺めていたのか?そして、眺めているのか?」 「いろんな人の視線で、あの制服を眺めて、どんな事に思いを馳せたりするのか?」 「そんな、短編はどうだろう?」 「防衛大の1年生の時だった。貴女と知り合う前。ある日曜日。多分6月ごろの梅雨の時分だと思うけど。雨の中、中央を濡れながら歩いていると、全く知らないオジサンが私の姿を見つけて強引に自宅に招き入れてコーヒーと美味しいケーキをご馳走になったんだ。」 「でも、オジサン、ニコニコしているだけでマトモに会話にならない。ウンとかハァとかいうだけで。きっと私では無く、あの制服に思い入れがあったんだと思う。」 「勿論、同期と話していても、あの制服は必ず話題に上る。」 「まだ計画、試行錯誤中だけど・・」 私は、もう一度パソコンの画面を覗き込み、再度、文章を確認して”H”に云った。
「最後のエピローグは一緒にボタンを押してアップロードしよう!あの日の長谷寺の事、覚えていますか?」 ”H”はシッカリと頷いた。 私達は手を重ねてマウスのボタンをクリックした。 「YOKOSUKA STORY」、最後の記事がアップされた。 読者の皆様、拙い私の作品をお読み頂き誠にありがとうございました。
最後に筆者から。一言だけ。
この作品を私が愛する子供たちに贈ろうと思う。 血は繋がっていないが、私を受け入れてくれる娘たちに。 血は繋がっているが、受け入れてくれるには、まだ至っていない、大切な一人息子に。 電気屋としき
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神戸市役所の裏手から深夜バスは出発する。
私は平家の都(神戸)から源氏の都(鎌倉)へ赴く。
卒業して、20年ぶりに、息子と訪れた母校のある横須賀。 そこで、意を決し投函した葉書。 実は葉書には住所や電話番号などは書いていなかったが・・・・ 悩むに悩んだ挙句、携帯用ではないメールアドレスを記載していた。 その理由は・・・・ もし、”H”から何らかの連絡があったならば、その対応には落ち着いて、じっくり時間が欲しいと思ったからだ。 さて、今までは、殆ど私側の視点で話を進めてきたが、このエピローグでは”H”の身に成り代わり纏め上げていきたいと思う。
「電気屋としき」が、母校の防衛大学校を訪れ、久里浜の郵便局にあるポストに投函した葉書。
その葉書は勤勉な日本のシステムのお陰で、翌日には”H”の実家に届けられた。 ”H”のご両親は既に、リタイアしており、殆どの時間を別の土地で過ごしている。 近くに住む”H”は、実家の管理を兼ね、週に2、3度、やっくる。 11月、秋のとある日。
汐入駅からの潮風がベースの匂いを巻き上げ、坂の上にまで届けてくれる。此処は横須賀。 ”H”はいつものように門の鍵を、旧式の、軸が細長い、まさしく鍵という名に相応しい真鍮でできた工芸品を鍵穴に差し込んだ。
油が切れかけているのか、最近、殊に回りが悪い。 潤滑油をそろそろ吹きかけないと・・・と思いながらカチリと開けた。 何時もの様に郵便受けを開け中身を取り出そうとしたが、うまくいかず、紙片の束が地面にドッチャリと落ち、バラバラに広がった。 慌ててかき集め、玄関扉に向かいながら、紙片たちの確認をはじめた。 自動車保険の更新の案内、健康保険の請求書、さいか屋からの催し物ダイレクトメールと続く。
そして、とある1枚の葉書の番が来た。
「何だか、読みにくい字・・・、でも何処かで見たような・・・、でもその字の中から、何か懐かしい、忘れかけていた何かが潜んでいるような????」 玄関の前に来ていたので、一旦、葉書から目を外し、違う鍵を取り出して楡の木のドアを開けた。 ドアを開けると、秋にしては暖かい日差しが玄関のタイルに差し込んだ。 閉めながら、先ほどの文章の続きに目を落とす。 「20年ぶりに母校にやってまいりました・・・・」当初は教師をしていた父親への手紙と思ったが・・・・
文章の最後に「小原台にて」と書いてある。 思わず、「ちょっと待って!」と小さく叫び、慌ててひっくり返し、表面の宛名と送り主の名前を見た。
自分宛に書かれた手紙だった。 「まさか!」 しかし、もう一度、名前を確認して、おもわずその場に立ち尽くした。 頭の中が回転木馬の中に押し込まれたように、グルグルと回りだした。 遠くで消防車のサイレンがケタタマシく響きわたっている。 脳裏には忘れようとしたが忘れられない学生時代。そっと胸の奥に仕舞い込んだ筈の熱い想いが蘇ってきた。 どれぐらいの時間が経ったのだろうか?
その手紙を両手で包み込むようにして、胸に当て、抱きしめている自分に気がついた。 そして、慌ててその手紙をエプロンのポケットに押し込んだ。 葉書にはメールアドレスが書いてあった。
返事を出すべきか、止めるべきか悩むに悩んだ。 そして、意を決し返事を出した。 20年の年月を超えて、お互いの近況を僅かだが知ることが出来た。 神戸の震災時、死亡欄に彼の名前が乗らないことを祈るような気持ちで、新しい命を抱きながら、毎日過ごした事を思い出した。 今回のことは、彼の確実なる生を確認できた瞬間でもあった。
それから、何度か、桜は、散っては、花を咲かせ、また散った。
いつしか”H”と彼は、シングルに戻っていた。 そして遂に、彼が深夜バスに乗ってやってくる。 季節は梅雨を迎えようとしていた。 待ち合わせに、折角なのでアジサイで有名な長谷寺を選んだ。 時間は、家の用事を済ませて出かけることを考え10時30分頃と。 JR横須賀駅から鎌倉まで行く。そして江ノ電に乗り換えて観光客で溢れる車両に乗り込んだ。
心臓がもう高く鳴っている。
長谷駅は長谷の観音様と鎌倉の大仏さんで、いつも観光客が溢れている。 江ノ電を降りて、海の匂いとは反対方向に向かって歩き出した。 ちょっと、自分の脚ではないフワフワとした感覚がある。 肉屋さんを過ぎて、観光客向けのお土産屋を過ぎ、カメラ屋の角を曲がった。 オルゴール堂、旅館対僊閣、を過ぎると立派な松と門が見えてくる。 近づくにつれて、ますます心臓がドキドキとしてくる。 遂に、長谷寺の入口に着いたが・・・・・彼の姿は見えない。 時計を見た。10時33分だった。
不安は無かった。学生時代、お互いを信用してマルッキリ違う日本丸の前で過ごした時間を思い出した。
ハンドバッグを開けて、財布を取り出し、そういえば、(先日、写経の時に頂いたのだが・・・)入場料割引券が何処かにあるはずだと探り始めた。 探す行為で、心の冷静さを保とうとしたのだ。 やっと、割引券を見つけ一安心したときだった。 正面から、ただならぬ、視線を感じて目を上げた。 10歩ほど前に、一人の男性がジッと自分を見つめて立ち尽くしている。
先程、大型観光バスが到着したばかりで、周りには多くの観光客がそこらじゅうを右往左往していた。 立ち尽くす男性が、一目で誰か、分かった。 小原台時代から比べれば、少しふっくらし、紅顔の青年とは程遠い白髪の増えた中年男性。 20年以上の時間の波に晒されてはいたが、間違いなく自分が愛し続けてきた男性だった。 やっと、現実の彼に向かい合った瞬間だった。
彼を認めた瞬間、周りにいる幾多の観光客の視線など、あっという間に霧散した。
二人だけの世界に嵌まり込んでいた。 「としき!」と小さく叫ぶと、彼の胸に向かって一目散に駆け出し、彼の前で一旦立ち止まると、両手を大きく広げて、抱きついた。
一瞬の出来事だった。 あの頃と同じ、懐かしい匂いがする彼の胸に顔を埋めた。
彼は始め、驚いたように両手を下ろしていたが、一呼吸置いてから背中に手を回してくれるのが分かった。 彼は小さく、しかしハッキリした声で叫んだ。 「会いたかった。」 二人は、驚く観光客をしりめに抱き合いながら何度も、「会いたかった。」をお互いに、そして交互に繰り返した。 「YOKOSUKA STORY」から、第2幕の開く音が、二人には、ハッキリと聞こえていた。
完
再び、防衛大学校逍遥歌 口上の筆頭部から
「古き名門に生まれし乙女に恋するを真実(まこと)の恋といい
巷(ちまた)の陋屋(ろうおく)に生まれし乙女に恋するを真実(まこと)の恋でないと誰が言えようか!」 「そうだ!!!!」
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