日本の再生と国際化を考える

英才教育、日本語の国際語化、数値の3桁読み、度量衡改革、漢字仕様電脳、やる事は多い。

小説「天網」‥中国の通訳腐敗

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    24小説 「天 網」

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初めての方は、 1「天網」‥‥中国の通訳の腐敗  から

URL: http://blogs.yahoo.co.jp/denoyukio/16936976.html

 一年四ヶ月経った。事件から二年が近づいてきた。何げなく、森下は、呉敏娜に電話してみた。男が出た。ひょっとしたら、ひょっとするぞ。この偶然は、大切にしなければならない。
 胡楊典に電話してもらうと、この男は呉敏娜の知合いのようだ。「呉敏娜は、今、会社だ」とか「これから、呉敏娜と連絡をとる」と言ったという。だが、不思議なのだ。この携帯電話は、呉敏娜が料金を払わなかったため、暫く不通になっていたのだ。その後、この男がこの番号を引継いだことになるが、そうすると、この電話は一旦電話局に戻され、赤の他人がこの電話番号を買った可能性が強い。そうすると、新たな所有者は、元の所持者に電話が掛かってくると、「その人は、元の所有者です」と言って切ることが多い。不思議なのは、この男は、そうしないのだ。胡が「呉敏娜は、‥‥」の話に、長々とお付き合いをしたのだ。次は、重慶(上海から二千キロ)から電話してもらった。やはり、似たような感じがあった。呉敏娜側は、やはり情報が欲しかったのだ。ただ、分からないのは、何故、呉敏娜が直接電話口に出ないのか。
 単なる第三者ではない。何かある。森下は、偽計を図ることにした。「周桂芳からの二年目の春節の連絡」ということにして、周桂芳の名前を使った。少し汚い手だが、この際、小悪は問題ではない。
 胡の女友達がその役を買ってくれた。呉敏娜は出なかったが、男は安心したのかべらべら喋った。「自分たちは、上海・南汇で生活している」「呉敏娜は、妊娠していてもうすぐ子供が産まれる」。言わなくてもいいのに、「呉敏娜の腹が大きいので、俺はセックスがし難い」と。
 そうすると、どうなるか。「南汇」という場所から、「呉敏娜は、繊維関係会社に勤めているらしい」「南汇区は、元南汇県という上海の田舎も田舎で、面積は広いが、その中で繊維会社がありそうなところといえば、二、三の鎮(日本の字に相当する行政区画)しかない。捜して探せないことはない」「男が、セックス云々と下品なこと言うからには、やくざ関係かも知れない」「自分の収入は少なくとも、呉敏娜が通訳として稼いでくれれば、それでいいと考えている」「余談だが、反対に、呉敏娜はブスだから、相手がやくざ家業から足を洗ってくれればいいと思っているに違いない」「繊維関係会社を前提とすると、将来、無錫に戻る予定だろう。あるいは、兄の会社の上海事務所を作る予定だ」「そして、肝心なこと。出産の予定から逆算して、呉敏娜がこの男と同棲を始めた、あるいは少なくとも子をつくろうと決意したのは、前年の春節に、公安が捜査打切を呉の家族に伝えた、ちょうどその時だ」「しかも、中国では、結婚前に子供をつくり、それを既成事実として結婚することが多い。特に農村では、二〇歳になると、そうして子供をつくらせる親が多い。とにかく、「つくれ」なのだ。呉敏娜は、もう二四歳。その可能性が強い。すべての事実が、合理的に説明できる」「だが、まだ結婚届はしていないだろう。これもまた中国では普通で、呉敏娜の場合は、「安全確認」が取れていないのだから、戸籍に「結婚」の文字を記載するのは危険が伴う」。森下は、どんどん連想の環を広げた。
 少し待とう。必ず呉敏娜の子供は無錫の親が預かることになる。その時、事を起こす好機が訪れる。周桂芳だって、子供がいるから李湘南と別れられないのだし、住所も「逃走中」だとはできないのだ。
 だが、この電話という糸も、その後切れた。たぶん、おかしいと思った呉敏娜が周桂芳に連絡をとったのだ。だが、喋ったという「事実」は消えないぞ。周桂芳だってそうだ。銀行印届出のとき不要な自分の印を捺したが、その時、新たな用紙で届出をすればいいのに、元の用紙に「×」印を付けただけで済ましたから、それが証拠となって、犯行が断定されたのだ。知覚に残った事実は、偶然で、しかも意外な場所に、運命的な何かの必然を生む。恋の赤い糸と同じだ。

 周桂芳に関して、やはり偶然が起きた。中国の湖南省は、日本の滋賀県と友好都市契約をしている。湖南省には中国一、二の洞庭湖があり、滋賀県には日本一の琵琶湖があるからだ。こういう関係から、滋賀県では、湖南省から多くの研修者や旅行者を受け入れている。さらに、多くの図書を寄贈している。「滋賀図書」といい、省都長沙市図書館内にある。反対に、湖南省もまた類似の事をしている。衡陽市は、湖南省のほぼ中心にあるが、行政の中心は北部の長沙市にあり、目立った存在ではない。とは言え、湖南省第二の都市。衡陽からも滋賀県に来る者がいくらかある。現に、森下が遭った周飛の、その姉の周秋は、研修員として滋賀県栗東の石田度量衡会社に来ているのだ。
 森下は、たまたま滋賀県職員で廃水処理技術者・村田明を知っている。ある時、村田のところに湖南省の技術者がやってきていた。森下が事件三年目の五月に帰省した時、偶然が起きる。「ええっ、何だって、名簿があるんだって」。調べると、衡陽の技術者三名の名前が載っていた。
 日本では、このようにして名前が分かっても、この者が周桂芳や周易明を知っている可能性はほとんどない。しかし、中国では違う。中秋の名月の晩餐会(交礼会)を見てみよ。あのような会合を通じて、権力指向予備軍がどんどん知合いの網を強めていく。この技術者が交礼会に参加する可能性は高いし、その時参加していなくても、将来参加する可能性は非常に高い。ついでに言うなら、周桂芳が交礼会に参加するのは当然として、通訳だから、日本からの技術者歓迎のために、前面に出てくる可能性だってある。とにかく、この名簿には、大きな期待がかかる。
 面白いことになったぞ。森田は、胡楊典から衡陽市役所に電話してもらった。名は黄婷、衡陽市衛生課長、年齢四〇歳、この人が華南大学卒業つまり周桂芳の夫の親の大学を卒業していた。何かに役立ちそうだ。赤い糸になれ。

  
  六

 森下は、上海の日本領事館に二年目の追求をしてもらったが、もう、中国公安からは返事も来なかった。「終わった」ものに返事を出せば、事を蒸し返す。
 だが、ちょっと待て。事件が終わったことにしたのは、本当に、中国公安か。違う。これは紛れもなく、主権侵害、人権侵害に対して、無能で無気力な日本政府にある。森下は、在上海日本領事館に対して電話と訪問で十回以上、日本政府に対しても二回はお願いしている。それを単に事務処理という形で扱い続け、実質放棄してきたのは、他ならぬ日本政府じゃないか。もし、日本政府が中国政府に対して、「お前、日本からの投資を誘っておいて、制度不備により、投資資金を泥棒させるなんて許さない」と騒げば、上海の公安局がいくら事件を闇に葬りたくても、北京中央政府が黙っておれる筈はない。いや、今からでも、周桂芳と呉敏娜の処罰を要求すると声を張り上げれば、犯罪の証拠だって、犯人の居所だって、何から何まではっきりしているこの事件では、事件解決まで一週間とはかからない筈だ。
 ここにその典型がある。国家機関は、証拠とやる気さえあれば、いつまでたってもやれる。ドイツ・ナチスの戦犯追求を見てみよ。戦犯は、名前を変え、整形手術を施して、国外へ逃亡した。これを追う政府は、怒りはもう収まったことにしようという「時効」の壁さえ、法律により廃棄し、五〇年たってからでも追求し続けたじゃないか。その結果、例えば、アイヒマンは南米で捕まえられた。やろうと思えば、そこまでできる。
 反対に、やらせる気がなければ、証拠がはっきりしていても、国家は、徹底的に抵抗する。同根の半面真理だ。北朝鮮秘密機関による拉致事件、「金正日は、被害者を釈放し犯人を処罰せよ」。日本は、折れに折れて被害者を返すだけでもいいと言うのに、「死んだ」だの「事件は終わった」だの、と世界に嘘をついて国家総力で抵抗する。
 中国側。銀行預金の窃盗が、何故そんなに頑張らなければならない事件なのか、分からない。解決すれば、日中双方に利益があるというのに。共産党幹部の犯罪を隠蔽することが、そんなに国際関係に優先するものか。いや、独裁者となった幹部集団の驕りだ。

 森下は、「丑の刻参り」をしている自分の夢を見た。丑の刻参りとは、小さな藁人形を、敵討ちしたい敵に見立てて作り、その人形に、丑の刻(午前二時)に、誰にも見られないようにして、「死ね、死ね」と心で叫びながら、五寸釘を打込む所行をいう。憎むべき相手が強すぎる時は、尋常な手段では太刀打ちできない。返り討ちにあうだけだ。森下が、衡陽にビラまきに行ったところ、目を殴られて、ひどい目にあったのはその典型だ。そういう時、少しいじけているが、万策尽きた被害者が、少しでも心を癒そうとするのが丑の刻参りだ。
 周桂芳は、事件から二年経過した二〇〇七年には三一歳、娘の桂英は九歳半になった。それから一〇年たてば、桂芳は四一歳、娘は一九歳になる。娘は、将来について何か考える。日本語を勉強したいというかも知れない。いや、偶然は、きっとそうさせるに違いない。その頃、親・桂芳が大泥棒だった事を知る。あれほど隠した夫・李湘南の阿片中毒もバレたし、自分の大金窃盗は、森下によって衡陽中の共産党組織に知れ渡っている。娘は、親を攻める。親は、日本人に謝りたいと言って狂乱する。だが、日本人・森下は、もう中国にはもちろん、日本で生きているかどうかも分からない。だが実際は、森下は、周桂芳と中国公安と日本政府に対し、丑の刻参りをしながら、しぶとく生き抜いている。
 森下は、若い時は「丑の刻参り」という言葉も知らなかったが、六〇歳を過ぎると、何事も、もう駄目だと思うと同時に、いや負けてたまるかという気持ちが交錯する。そういう時、よく丑の刻参りのような、いじけた夢を見るという。人は、偶然の織りなす奇跡の中で、それに逆らうことなく生きている。森下の怒りも、時の流れと共にいずれ収まる。
 だが、天網恢々疎にして漏らさず。すべての追っ手がなくなっても、子・周桂英の足掻きから飛出す情報だけは、それらの一つひとつが黒い糸の網を為し、いずれは、周桂芳に襲いかかる。「天網」、この二文字は、いつの時代でも、いつまで経っても、必ず生き続けるはずだ。 完

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中国社会の悪質な実態がよく分かりました。悪質と言っても、彼らにとってはこれが当たり前なんでしょうね。
主人公の森下もやはり脇が甘いと思います。森下の“怨念”みたいなものは感じられますが、未解決のままこれほど時間がかかると、結局うやむやのまま終わりそうですね。
中国に対して「日本人よ、もっと警戒せよ」という警世の小説との印象を受けました。

2009/5/22(金) 午後 5:00 [ yajimatakehiro2007 ]

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ありがとうございます。
電脳故障、これ以上かけません

2009/5/22(金) 午後 6:23 [ 出野行男 ]

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矢島さん、

そうです。中国も政府系のところは安心できますが、民間は、そのうち金をくれるだろうくらいに考えていると、絶対に無理でしょう。

被害を受けて、被害届をしても、聞いてくれるだけで、彼らの仕事は、上級機関に報告するのが仕事です。外国人用の特別窓口がありすが、事務員1人と主任一人、課員1人で、実質1人の課です。これでいったい何をしようというのですか。わざと課員を1人にして、捜査をさせないための組織にしているとしか思えません。

こういうところを考えると、財産管理は、十分な上にも十分にしなければなりません。女に預けるなんて、とんでもないことです。次の日にはいなくなるでしょう。私は、そういう話をいくつも聞きました。

2009/5/23(土) 午後 2:24 [ 出野行男 ]

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いやすばらしい小説ですね 森下という名前が知り合いの顔をイーメジ させてくれました 爆
とても すばらしい経験をお持ちなんですね
体験なくしてなかなか書けません。

2009/6/14(日) 午前 10:15 あさ

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天網恢恢そにしてもらさず・・
若いときにこのような知恵があれば・・と。
ふといろいろ思います。。

2009/6/14(日) 午前 10:17 あさ

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あさやま様

中国社会の恥部を描いてみました。

ここの事実は、ほぼ裏付けのある事実で書きました。とにかく恐ろしい事が起きています。
ご感想ありがとうござました。

2009/6/15(月) 午後 3:16 [ 出野行男 ]

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今日久しぶりにゆっくりです。。 とにかく日本は暑い、、 ニュースを見ました ウィグル族と漢人の争い
新彊ウィグル地区の騒乱。。 民族の争い。。 それにしても中国は 清朝以来と言えど ウィグル 内モンゴル チベット、、と他民族の支配・・と権利利益の独占と、、世界の三大学者が共産主義を否定しているという見解の本、、まさに現代の皇帝政治そのものですね・・
いま 毛沢東の長征という番組していますが、、 まさに国家神話の形成です はるか孔子以来の史記時代の人間哲学倫理は何処にいったのでしょうね。。

2009/7/15(水) 午後 0:01 あさ

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雄の雌獲得欲、人間で言えば、男の女獲得欲、これが生物の進化、人間文明の発展を促している。その意味で、中国は、裸の闘争をしています。その結果、中華帝国ができた。だが、残念、自然科学の発展につながっていない。2千年も停滞した。だが、最近の科学の発展、青少年の学力向上という点では、もう、日本は手も足もでない状況。

中華思想は、今でも活きている。私の知っている女、いい男を見るや、結婚の可能性は少ないのに、ひょっとしてと、自ら裸になり抱きついていった。もう、好機と見るや我慢できないらしい。内部にこの力があるから、何事にも真剣になる。

今次のウイグル事件、こんな血が流れていれば、その時、ウイグルの血は黒い血だと思えば、引き金を引くことくらいなんでもない。それにしても、1時間で、3000人近い死傷者。日本人にはついていけない。

2009/7/15(水) 午後 1:07 [ 出野行男 ]


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