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21世紀の銃剣突撃

 Fix Bayonet!

 グローリーやゲティスバーグといった映画の中ではこうした号令の下、兵士たちが銃に銃剣を着ける場面がある。あの時代は火力が増したとはいえ銃剣使用が珍しくなかった時代だから、その場面自体は別におかしくも何ともない。だが、もし現代に至ってなお銃剣を着けて突撃する場面があったとしたら?
 驚いたことに、21世紀になっても実際に銃剣突撃が行われているようだ。あるサイトを見ていると英国のArgyll and Sutherland Highlanders(Royal Regiment of Scotland第5大隊)がイラクで銃剣突撃を行ったという話があった。ほんまかいなと思ってwikipediaを調べると確かにこちら"http://en.wikipedia.org/wiki/Argyll_and_Sutherland_Highlanders"の1945-2006という欄に「2004年、ランドローバーに乗った28人のArgyll and Sutherland Highlandersが100人のイラク人暴徒に囲まれた。釘付けにされ圧倒されながらも彼らは暴徒の中へと銃剣突撃し、たった3人の損害(全て負傷)で35人を殺して彼らを退却させた」と書かれている。ご丁寧にもソースとなるリンク付きだ。
 実に興味深いのだが、ここは一応ソースを当たってみるべきだろう。と思って一つのソースをクリックするとつながるのがよりによってThe Sunのサイト。ううむ、名前で判断してはいけないと分かってはいるが、あのThe Sunですか。正直、信じていいのかどうかとても疑わしい。
 中身を読んでもそうした思いは募るばかり。「恐れを知らぬArgyll and Sutherland Highlandersは待ち伏せを受けて釘付けにされた後で反逆者の陣地を強襲した」という冒頭の文章から必要以上に話を煽っている印象が強いし、「戦闘が終わった時、街道一面に死体が横たわっていた――そしてさらに多くが近くの川に浮かんでいた」という表現もかなり大げさ。一方で突撃にいたる経緯の表現は極めて抽象的で、「無線で支援を求めた後、彼らは銃剣を着け、訓練で学んだ戦術を使って100人の反逆者に突撃した」としか書かれていない。具体的な経過を知りたいと思う人間にとっては実に役に立たない記事である。ついでに英軍の数も20人とwikipediaの28人より少ない。
 仕方ないのでもう一つのリンク先を見てみよう。こちらはTelegraph紙の記事のようだ。おそらくThe Sunよりは信頼できそうだし、具体的な記述も目立つ。それによると銃剣突撃を率いたのはクリス・ブルーム軍曹。2004年5月14日、イラク南部のアマラ周辺で起きた戦闘時のことである。そして、The Sunに書かれているのに比べるとかなり異なる話が載っている。
 まず武装した2台のランドローバーに乗ったArgyll and Sutherland Highlandersの9人の兵士が、アマラへの街道沿いで1ダースの武装集団に待ち伏せを受けたところから戦闘が始まった。武装集団は小火器と携行式ロケット弾(RPG)で車両を繰り返し攻撃。ランドローバーは速度を上げて待ち伏せを通り抜けたが、結局間に合わせで道端に爆弾を仕掛けた2ダースの武装集団と遭遇する羽目に陥った。
 この爆弾兵を追討するべく近くのコンドー基地から送り出されたのが、Princess of Wales's Royal Regimentの2個小隊、計40人の兵士だった。彼らは4台のウォリアー装甲車に分乗して移動。「道端のタコツボ陣地で待ち伏せしている反乱者を見た時、ウォリアーに乗った兵のうち4個歩兵分隊28人が下車し、側面機動を実行し反乱者たちに銃剣突撃を行った」。以上がTelegraph紙による突撃の経緯である。
 ポーツマス出身のマーク・バイルス伍長(34)は「ヤツらは完璧に泡を食っていた。オレたちが溝に伏せて遠くから撃ってくるからそれから逃げ出せると思い込んでいやがったんだろう。オレはヤツらに切りつけ、銃床でぶっ叩いた。殴って蹴った。やるかやられるかだ。本当のこととは思えなかった。誰でも遠くから引き金を引くことはできただろうが、俺たちはヤツらに接近したんだ」と話している。

 The SunとTelegraphの違いはいくつもある。以下にリストアップしてみよう。

1)銃剣突撃を行った兵士の数はThe Sunの20人に対しTelegraphは28人。
2)突撃を行った兵士が乗っていたのはThe Sunがランドローバー、Telegraphは装甲車。
3)突撃を行ったのはThe Sunによると待ち伏せを受けた兵士たちだが、Telegraphによれば待ち伏せされた兵の応援に近くの基地から繰り出された兵。
4)突撃した兵士の所属部隊が異なる。The SunによればArgyll and Sutherland Highlanders、TelegraphによればPrincess of Wales's Royal Regiment。
5)The Sunは突撃前に無線で支援を求めたとあるが、Telegraphは突撃前に側面機動を実行したとある。
6)武装集団の数がThe Sunの100人に対してTelegraphは2ダース。
7)敵の損害はThe Sunが35人としているのに対しTelegraphは数を示していない。

 一致しているのは銃剣突撃が行われたことくらいで、あとは互いに矛盾しまくっている。たった二つの報道記事がここまで違うというのも、ある意味凄い。メディアリテラシーが必要だと叫ばれるのもむべなるかな。
 The Sunの報道は2004年5月17日、戦闘の3日後だ。軍の広報担当者のコメントが載っているところを見るに、現地イラクで取材したのではなく英国内で軍広報から聞いた話をそのまま記事にしたのだろう。だとすれば、当事者から話を聞いていない点で信頼性に欠ける。中身が具体性に乏しいというのも上に指摘した通りだ。
 Telegraphの記事は2005年3月18日。事件の発生から時間が経過しているのは信頼性を損なう要因となるが、一方で戦闘参加者に話を聞いていることなどを含めThe Sunより詳細に取材している様子が窺える。おそらく、軍が予め勲章を与えるためにきちんと事実関係を調べており、その調査結果を踏まえたうえでさらにTelegraphが当事者にも取材したのだろう。あくまで私の推測だが、Telegraphに描かれた話の方がより事実に近いと思われる。
 そうだとしたら、この「21世紀の銃剣突撃」は見た目ほど無謀な戦術ではなさそうだ。まず英軍は突撃前に「側面機動」を行い、できるだけ効果的に敵に接近しようとしている。また突撃した兵士以外に12人の兵がウォリアー装甲車と伴に残っており、彼らからの牽制や援護が期待できた。そして突撃に参加した兵力は英軍28人に対し武装集団2ダースと、数的優位も一応確保している。
 何よりこの銃剣突撃が心理的奇襲になっていたことが大きい。バイルス伍長が言っているように敵は突撃を受けて"utter shock"の状態にあった。グロスマンが指摘しているように銃剣の役割は相手に精神的なショックを与えて戦列を乱すことにある。指揮官がそうした効果まで視野に入れて銃剣突撃を行ったとしたら、この戦術は短時間で戦闘にケリをつけることを狙った優れた手法とも考えられるのだ。
 また、バイルス伍長が相手を「切りつけ(slashed)銃床で叩いた(rifle-butted)」と話しているのも興味深い。銃剣で突き刺し(stab, thrust)てはいないのである。やはりグロスマンによると、人間は他の人間に対して致命傷になりやすい「突き刺し」をすることを本能的に忌避し、至近距離で戦う場合は殴ったり切りつけたりする心理的傾向があるそうだ。

 それにしてもこの銃剣突撃が英軍にとってはフォークランド以来というのも驚きだ。要するに20世紀後半にもやっぱり銃剣突撃は行われていたのである。いずれも極めて珍しいケースとはいえ、銃剣突撃の有効性が完全に失われたわけでもないことを示している。
 なお、ナポレオン戦争時代の英軍は射撃戦が得意でそれに頼っていたとの見方が多いが、そうではなく銃剣突撃を効果的に使っていたと主張する向きもある。例えば英国の砲兵士官ダインリーは「フランス兵が英軍の銃剣に向かって前進する際には、恐れおののいてはいなかったものの、他の敵に向かう時よりも躊躇いがちだった。英兵は喜び勇んで銃剣を使った」(Brent Nosworthy "With Musket, Cannon and Sword" p235)と記している。イラクでの英兵による銃剣突撃は、長い歴史の最新ページに当たる。

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こんぴゅーたーが紹介してくれました。ベトナム戦争ですが米軍がM16で北ベトナム正規軍に銃剣突撃!
びっくらこきました。

2007/11/19(月) 午前 8:56 [ ロボット二等兵(rb) ]

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最近見かけた話によると、アフガニスタンでは騎兵突撃もあったとか。ソースは確認していませんが、21世紀になっても昔ながらの戦争のやり方は完全に廃れてはいないようです。

2007/11/19(月) 午後 11:31 [ desaixjp ]


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