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 中西準子氏の「雑感」"http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/index.html"でDDTとマラリアの話が載っていた。紹介されているのはWHO南東アジア地区のサイトに掲載されているマラリアの話"http://www.searo.who.int/en/Section10/Section21.htm"。中西氏はこれを基にしたグラフを掲載しており、それを見ると減少傾向にあったマラリア患者が1960年代後半から増加に転じている。
 中西氏によると、DDTに耐性を持つ媒介昆虫の問題が解決した60年代の中頃になってDDTの使用禁止が言われるようになり、これと符合するかのようにマラリア感染者数が再び増え始めたという。そしてDDT憎しのあまりに対抗リスク(マラリア)が見えなくなることへの懸念を指摘している。

 中西氏の指摘はその通りなのだが、私が気になるのは「使用禁止が言われる」ことと実際に使用禁止になることとの間に天と地ほどの差がある点だ。確かに60年代に出版された「沈黙の春」以降、DDTの使用禁止を求める声が大きくなってきたことは事実だろう。だが、中西氏が言うように実際に使用全面禁止に踏み切ったのは先進国である日本が71年、米国73年、欧州83年と、途上国でマラリア患者が再度増えてきた時期より後だ。75年にWHOとUNEPが殺虫剤に代わる方法を求めると宣言したことや、世界銀行や各種国際機関が代替殺虫剤入り蚊帳の配布にしか資金援助をしない方針を採った点が途上国のマラリア患者に影響を与えた可能性はあるものの、それにしてもやはり患者再増加を説明する理由としては時期がずれていると思う。
 もっと具体的にWHO南東アジア地区のサイトを調べてみよう。構成国(なぜか北朝鮮が入っていたりする)ごとのマラリアに関する状況を説明したページ"http://www.searo.who.int/en/Section10/Section21/Section1370.htm"もあるのだが、それを個別にチェックするとさらに変な話が見つかる。
 まずスリランカ。WHOによればスリランカでDDTに代わる殺虫剤散布を始めたのは驚いたことに75年。しかもその理由は「DDTに対する耐性を持つ媒介昆虫が増えた」ことにあるのだ。WHOのサイトには、一部で言われている64年にDDTの使用をやめたという話"http://www.jcpa.or.jp/qa/detail/03_09.htm"がどこにも載っていない。DDTが完全に使われなくなったのは76年なのだそうだ。
 他の国々も似たようなもの。バングラデシュについては「93年以降、DDTを使った室内残留性噴霧は行っていない」、ブータンは「DDTが効かないことが分かった段階で、94年以降段階的に使われなくなった」、インドネシアでは「ジャワとバリで90年から、外側の島々(outer islands)で92年から使用禁止となった」。いずれも使用禁止に至ったのはスリランカよりさらに後である。そしてDDTの使用禁止を機に患者が急増したという話もない。インドやモルジブに至っては今も一部でDDTを使っている。
 WHO南東アジア地区の歴史に関するページ"http://www.searo.who.int/EN/Section898/Section1444.htm"では、マラリア患者が再度増えた理由について(1)運営上、管理上及び財政上の問題(2)人口の大きな部分で見られた移動と国境を越えた移住(3)DDTに対する蚊の耐性という技術的問題(4)蚊の行動変化(5)マラリア原虫の薬品に対する耐性の向上――をあげている。DDTについては耐性は問題にしているものの、その使用禁止を問題視してはいないのだ。
 もちろん、WHOはDDTを使った媒介昆虫駆除の効果を否定しているわけではない。こちらの論文"http://www.searo.who.int/LinkFiles/Malaria_vbc_case_study.pdf"の76ページでも、こちらのハンドブック"http://www.searo.who.int/LinkFiles/Malaria_MalariaERBM2004.pdf"の29ページでもDDT使用を認めている。DDTがマラリアの抑制に一定の効果があるとしている訳であり、この指摘が正しいとすれば先進国の住人がDDTと聞くだけでヒステリックにその使用に反対するのはおかしい。あのグラフが「悲しい」グラフであることは間違いないし、それを何とかできるのであればDDTを注意深く使うことを躊躇う理由はない。
 だが、一時は大幅に減少したマラリア患者が再度増加した理由が、DDTのリスクを見誤ったことにあると断言するのはまずいような気がする。少なくとも南東アジア地区におけるマラリア患者の再増加が、DDTの使用禁止をきっかけにしたものでないことは(WHOのサイトを信用するなら)明らかだ。マラリア撲滅失敗には、それ以外にも色々な理由が絡んでいる。

 ちなみに私は別にレイチェル・カーソンを擁護するつもりは全くない。食品安全情報blogで紹介されていた「カーソンの遺産のジャンクサイエンス」"http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070531#p8"でなされている指摘については全くその通りだと思うし、DDTについても「鳥の卵の殻より人命の方がよほど大事」だと考えている。しかし、だからと言ってカーソンがマラリア患者増加の原因だと非難する行為が正しい訳ではない。はっきりした論拠のないまま非難を浴びせるのは、DDTを発がん物質扱いしたカーソン自身と同じ行動をしていることになる。マラリア患者の増加にDDTの使用禁止がどれだけ影響したのか、もっと色々な資料に当たって調べる必要があるのではなかろうか。個人的にはそこまでやる意思も余裕もないけれど。

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