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 これがシンクロニシティかっ! (んな訳ない)

 食品安全情報blogにDDTとマラリアに関する記事"http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070607#p5"が載っていた。中西準子氏の雑感に続いて、である。もちろんシンクロニシティなどではなく、レイチェル・カーソンの生誕100年を機に議論が蒸し返されているだけだろう。
 同blogで紹介していた記事は元はAmerican Council on Science and Healthのサイトに載っていたものだ。カーソンがありもしない発ガン性や存在が疑わしい鳥類への悪影響などを理由にDDTを非難し、それをきっかけにやがてDDTの使用が禁止されるようになったこと。国際機関もDDT規制を支持し、結果として途上国にも影響が及んだこと。そして、途上国の数百万人がマラリアで死んだこと。南アフリカでの事例を紹介しながらそう指摘している。
 そう、紹介されているのは南アフリカの事例なのだ。日本では今でもよく見かけるスリランカの例("http://ja.wikipedia.org/wiki/DDT"など)は避け、1990年代に南アフリカで起きた事象をDDT禁止が及ぼした悪影響の例としている。なぜか。前にも指摘した通り、スリランカの事例はカーソンを批判するうえでは不適切だからだろう。
 スリランカでDDT使用を止め、減少していたマラリア患者が急増に転じたのは1960年代半ば。しかし、これは環境保護運動の盛り上がりによってDDT使用が禁止されたために起きた事象ではないのだ。こちらのblog"http://timlambert.org/2005/02/malaria/"にそのあたりの事情を説明した文章が紹介されている。
 スリランカ政府がDDT散布をやめたのは、実はマラリア患者が減ったからだった。患者数が二桁まで減った段階になれば、後はDDT散布をせずとも抗マラリア薬を使ってこれを絶滅させることが可能だと判断したという。DDT散布にかかる金がもったいなくなった面もあるだろう。だが、実際にはマラリアは絶滅してはいなかった。DDT散布を止めた後で患者数は再び急増。スリランカ政府は対処の必要に迫られ、1968年にDDT散布を再開している。しかし、今回の散布は前ほどの成果を上げなかった。というのも、公衆衛生用のDDT散布を中止していた間も、農薬としてのDDT使用は続いており、結果としてDDT耐性を持つ蚊が増えていたためだ。
 WHOのサイトには75年になってスリランカがDDTから別の殺虫剤への切り替えを始めたと書かれていたが、実はそれ以前に以上のようなことがあったのである。何のことはない、スリランカでは60年代にDDTの使用規制など全く行われていなかったのだ。公衆衛生向けの使用が止まったのは政府が金をケチったからであり、その間も農薬としての使用はずっと続いていた。60年代に起きたマラリア患者の再増加の原因が、カーソンに影響された環境保護者によるDDT規制に由来するということはあり得ない。

 とはいえ、上のblogはスリランカの件以外については疑問が多すぎるのも確か。何より「カーソンによって農薬としてのDDT過剰使用が止まり、DDT耐性を持つ蚊が増えなかったのだから、アフリカの子供はカーソンに感謝すべきだ」という議論は、はっきり言って暴論。「間違えて自分の荷物を持っていった人間を追って電車を降りたら、その電車が脱線事故を起こした。だから荷物を持っていったヤツに感謝すべきだ」と言われて納得する人間がいるだろうか? カーソンは別にDDT耐性を持つ蚊を増やさないことを主目的としてあの本を書いた訳ではない。存在しない発ガン性などをでっち上げ、先進国の人間を脅してDDTを規制させただけである。
 カーソンが本を出した60年代にはほとんど影響を持たなかった環境保護論者も、南アフリカがDDTの使用禁止に踏み切った90年代には明らかに国際的な影響力を行使できるようになっていた。こちらの記事"http://www.cato.org/pubs/pas/pa513.pdf"を書いているのは、カーソン支持者に言わせれば「反環境保護論者」になるのだが、南アフリカでDDT使用禁止が(他の要因もあって)マラリア患者の急増につながった実例を紹介している。DDTがマラリア抑制に一定の効果を持つことは、この実例を見る限り否定できない。
 そして、環境保護論者の影響でDDTが途上国でも「実質的な使用規制」を受けていた可能性も十分ある。たとえば国際的な開発支援を行っている米国の組織USAIDのサイトを見ると、過去にDDT使用に対して賛成、反対の態度は取ったことがないと言いつつ、アフリカの室内残留性噴霧向けに使った資金を2005年度の100万ドルから07年度には2000万ドルに膨らませたと説明している"http://www.usaid.gov/our_work/global_health/id/malaria/news/afrmal_ddt.html"。USAIDのDDTなどを使った室内残留性噴霧に対する態度が、ほんの2年前まで今より圧倒的に消極的だったのは明らかだ。

 スリランカの事例を論拠に環境保護論者を叩くのは、適切なやり方とは言えない。マラリアによる死者を全て彼らの責任に帰するのも乱暴な話である。一方でカーソンと彼女の追随者たちの姿勢が科学的とは言えないこともまた確かだ。彼らはDDTのマラリア抑制に持つ効果を極力小さく評価しようとしているが、DDTの室内残留性噴霧が媒介昆虫の制御に対して多くの場合効果的かつ安価なのはWHOの評価などを見ても間違いないだろう。何より、砒素などとは異なりDDTで死んだ人間の実例を、私は聞いたことがない。あるかないか分からない人命への影響と、マラリアに対する実効性を考えれば、DDTに対してどのような態度を取るべきかはおのずと見えてくるのではなかろうか。

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