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 ワーテルローへの道は1回休み。

 パスラッシュとカバレッジ問題はこれまでも何度か書いてきた("https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56940574.html"など)が、さらに新しい情報が出てきた。ただし厳密に言うなら出てきた話題はパスラッシュとパスブロックの対比。オフシーズンでリーグに動きがあまりなく、一方で過去のデータを整理し解釈する時間はあるタイミングだからこそ、こうした話が注目を集める面もあるだろう。

 その話とはこちら"https://www.espn.com/nfl/story/_/id/26888038/"。冒頭にもある通り、結論は「パスブロックはパスラッシュよりより重要である」だ。その論拠として使われたのはPBWRことpass block win rateと、PRWR即ちpass rush win rate"https://www.espn.com/nfl/story/_/id/24892208/"である。以前にも紹介したがこれらの指標はNext Gen Stats"https://nextgenstats.nfl.com/"を使用しており、PFFのデータよりも客観性は高い。
 データ算出に際してこの数値をまとめたESPNのチームは「2.5秒」を基準にしたそうだ。リーグ全体でパスを投げるまでの時間は平均して2.5秒と言われている。その間、パスラッシュを食い止められればOLによるパスブロックの勝利、それ以前にブロックを破ればディフェンスによるパスラッシュの勝利という基準で、各個人単位"https://www.espn.com/nfl/story/_/id/25074144/"のみならずチーム単位でも成績をまとめたという。
 2016-18シーズンにおいてシーズンPBWRの高いチームが勝った確率は60%だったのに対し、PRWRの高いチームが勝てたのは52%にとどまった。特に2018シーズンはこの傾向がはっきり出たそうで、PBWR上位12チームのうち8チームはプレイオフにたどり着き、逆に下位12チームは1つたりともプレイオフには出られなかった。トップ4のうち3チーム、Rams、Chiefs、PatriotsはConference Championshipに出場している。
 だがPRWRの高いチームを見ても、トップ5チームはPanthers、Rams、Dolphins、Eagles、Billsであり、過半数がプレイオフにすらたどり着けなかった。逆にリングを取ったPatriotsはPRWRだと下位5つに顔を出している状態。PBWRと勝率との相関係数が0.37に対し、PRWRと勝率だと0.12になる。パスブロックは弱い相関を持っているが、パスラッシュはほぼ無相関なのだ。
 勝率だけでなくExpected Points Added per Playを見てもPBWRとの相関0.40に対し、PRWRとの相関は0.15にとどまる。特に2018シーズンだけに限ればPBWRとの相関がEPA/Pで0.53、勝率で0.59に達するのに対し、PRWRはそれぞれ0.11、0.23となっている。こうしたデータは「カバレッジがパスラッシュより重要だというPro Football Focusの理論"https://www.profootballfocus.com/news/pro-pff-data-study-coverage-vs-pass-rush"とも異なるものではない」そうだ。
 ではPBWRとPRWRの安定性には違いはあるのか。カバレッジとパスラッシュではシーズンをまたいだ安定性で後者の方が勝るという結果が出たが、パスブロックとパスラッシュの間では大きな差はないそうだ。2018シーズンだけなら前半と後半の相関係数がどちらも0.69になったし、2016-17シーズンもPBWRが0.55、PRWRが0.59と大きな違いはない。
 比較対象を「シーズン前半のPBWR/PRWR」と「シーズン後半のEPA/P」にすると、しかし話は変わってくる。2016-17シーズンの場合、PBWRが0.28、PRWRが0.16となってやはりパスブロックの方がチームの実力との相関が高いし、18シーズンだけならPBWRが0.62、PRWRが0.17ともっと大きな差が出る。ちなみに2018シーズンのみ別項で取り上げているのは、Next Gen Statsを計測している企業が計測方法を変えたためだそうだ。記事中では18シーズンの方がよりデータが正確になったのか、それとも1年だけのランダムな変化なのかはまだ分からないという考えのようだ。
 以上、パスブロックの方が重要だというのが事実だとして、ではGMはどうすべきなのか。スターOLに今よりも多くの資金を投入すべきか、という議論に対してESPNの記事は必ずしも同意してはいない。以前からBurkeが主張していた"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56673160.html"通り、OLはいわば鎖であり、その一部だけを強化しても他に弱いところがあれば効果は薄れる。「私がGMならグループとしてのOLに多く投資するが、その投資は多くのプレイヤーにばら撒く」そうだ。個々の選手ではなくグループとして考えるなら、よりよいOLを持つほうがよりよいDLを持つよりも勝利に近づくという。
 この調査に対する疑問があるとしたら、PBWRの計算がプレイアクションやスクリーンパスといった特殊なパスの比率による大きな影響を受けている可能性だ。このうち後者については著者がツイッター上で「スクリーンパスはPBWRの計算から除いている」"https://twitter.com/SethWalder/status/1137029702638546944"と言及している。一方、前者についてはこちらの計算"https://twitter.com/benbbaldwin/status/1137054390978850819"を見る限り記事の結論を変えるほどのインパクトはないという。
 プレイコールによる影響が限定的なのであれば、パスブロックとパスラッシュを担当するプレイヤーたちのどちらに力を入れるべきかがはっきりする。間違いなくOLの方だ。ただし特定のスター(例えばLTなど)に大量のサラリーを注ぎ込み、残りを安い選手で埋め合わせるのでは意味がない。デプスも含めてOLのトータルとしての力をできるだけ高めることが重要になる。逆にそちらをないがしろにしたままパスラッシュを強化しても、チームの勝利にはつながりにくい。
 昨シーズンの成績でいえば、こちらのグラフ"https://twitter.com/benbbaldwin/status/1137059877912752128"で右下にいるところはチーム作りの方向性を間違えていると言われても仕方ない。目指すのは上の方であり、特に効率を重視するなら左上に行くほどサラリー的に効率のいいチーム作りを進めている可能性が増す。上の方に並んでいるチームのうちまさに左上にいるのがPatriots。限られたリソースを配分できない分野があるのなら、勝敗との相関が低いパスラッシュを選ぶようにしてきたのが彼らだ。

 この問題について別の角度で紹介しているのがこちら"https://ftw.usatoday.com/2019/06/lsu-creeper-simulated-pressure-dave-aranda-nflpass-rush-coverage"。PFFの記事やESPNチームの発見を紹介する一方で、Joe Bannerによる反論も載せているのだが、「Bannerがそうではないという結論を出した方法について明かすことを拒んでいる」点を指摘し、パスラッシュの方が重要だという説の論拠が明白でないことをあぶり出している。
 だが興味深いのはむしろ議論の解説よりもその後に出てくる最近流行の「creeper」ディフェンスの紹介の部分だろう。原稿ではゾーンブリッツから始まる過去のディフェンスの流れを一通り述べた後で、カレッジで進んでいるディフェンスの変化を紹介している。2018シーズン、LSUはディフェンススナップの50%でこのcreeperという手法を使い、全米4位のパスディフェンスを達成したという。
 creeperの特徴はいかにもブリッツをかけるふりをしながら、最終的には4人しかラッシュしないところにある。残る7人がゾーンに下がり、レシーバー陣をカバーする一方、ラッシュをかける4人はできるだけオフェンスのブロッカーを混乱させ、少ない人数で最大限のプレッシャーをかけるよう試みる。フロントの4-2に加えてNickelbackまでブリッツをかけるように見せながら最終的にはDL3人とMLBの計4人しかラッシュしないとか、3-3からDEが1人下がり、代わりにLB2人がラッシュに参加するなど、できるだけ相手が想定しないようなパスラッシュを行なうことが重要だ。
 もちろんプロでもこのプレイは以前から使われていた。早くも2010シーズンにはRex RyanのJetsがそうしたプレイを取り入れていたし、他にも多くのチームが取り組んでいる。このプレイを実行するには、DLやLB、SafetyやNickelbackといった面々にできるだけversatileな選手を揃えている方がやりやすい。通常はLBとしてアンダーニースを守るが、一方でパスラッシュも上手いというタイプのLBがいれば、オフェンスのブロッカーをさらに混乱させられるだろうからだ。Collinsを再雇用したPatriotsなどは、パスラッシュの上手いLBを手に入れたためcreeperがやりやすくなるのではと記事中では指摘されている。
 そして、こうした手法の利用が増えた場合、果たしてパスラッシュとカバレッジの勝利への貢献度はどう変わるのかという問題もある。そう、ここまでのパスラッシュとカバレッジの関係はいつでもどこでもフットボールのゲームに共通して存在する傾向なのか、それとも足元のNFLで特徴的に生じている傾向にすぎないのか、実はまだ明確ではないのだ。こうしたことが分かるまでには時間がかかるだろう。

ホモ・エコノミクス

 またワーテルローはお休みしてNFLの話を。

 こちらのエントリー"https://desaixjp.blog.fc2.com/blog-entry-2543.html"のコメント欄できんのじさんと議論をした際に、Gronkowskiのサラリーについて、2018シーズン前に解雇すると巨額のデッドマネーが発生し、それは契約を継続するよりも高くつくという話を紹介した。ソースとなったデータはSpotracのもの"https://www.spotrac.com/nfl/new-england-patriots/cap/2018/"だ。
 ただし注意しなければならないのは、サラリーキャップに関連するデータは全て外部の人間による推測でしかない点であろう。内部から出てくる資料としてはNFLPAが出してくるPublic Salary Cap Report"https://www.nflpa.com/public-salary-cap-report"くらいのもので、これはチーム単位のデータでしかなく、個々の選手の数値についてはよく分からない。
 Spotrac以外で有名なのはOver The Capだが、Gronkのページ"https://overthecap.com/player/rob-gronkowski/1239/"を見ても2018シーズン以前にカットされた場合のデッドマネーは分からないし、Patriotsのページ"https://overthecap.com/salary-cap/new-england-patriots/"にはもはや2018シーズンのタブがない。2018シーズンのTEのページ"https://overthecap.com/position/tight-end/2018/"を見るとGronkが最高額TEであったことは分かるが、そもそも額がSpotracと違っており、どちらを信じていいのかが分からなくなる。
 そんな中で見つけたのがこちら"http://patscap.com/gronkowski.html"。おそらくPatriotsのサラリーについて詳細に分析しているこの人物"https://twitter.com/patscap"が2016年にまとめたものだ。データとして古いという問題があるが、少なくともこのデータを見ると2018シーズン時点では解雇によって発生するデッドマネーは4ミリオンにとどまることになっている。Spotracの額と比べると随分少ない。
 もちろん、その後で契約更改によってデッドマネーが増える可能性は残っている。よく見られるのはBase SalaryをSigning Bonusに変えるというやり方で、例えばPatriotsではGilmoreとの契約"https://overthecap.com/player/stephon-gilmore/255/"で毎年のようにそれを行なっている。この方法を取ると当該年に一気にキャップ計上はずだった金額を、契約の残り期間に均等配分できるようになるため、足元のキャップが減るという効果が期待できる(ただし翌年以降のキャップ負担は増える)。おかげでGilmoreを今年解雇するとキャップヒットはむしろ増える計算になってしまっている。
 だがGronkの契約リストラに関する過去の記事を見ると、こうした方法を取っているという記述は見当たらない。例えば2017シーズン前の5月に報じられた契約見直しの内容"https://www.espn.com/nfl/story/_/id/19446620/"は、単にインセンティブを乗せてそれらを達成すればGronkのサラリーが増えるという内容にすぎない。2018シーズン直前の8月に報じられた新しい見直し"https://www.thesportster.com/news/rob-gronkowski-contract-restructured/"も、基本的にはインセンティブの上乗せだ。
 Signing Bonusを増やす方法を取っていないとしても、他に何らかの形で保証額を増やしていて、それが結果としてデッドマネーの増加につながっていた可能性はある。だがそうではなく、単にSpotracのデータが間違っている可能性もある。2018シーズン時点でGronkを解雇していた場合のデッドマネーは、少なくて4ミリオンから多くてSpotracの言う12ミリオン強まで、様々なケースが考えられると見た方がいいだろう。だとすれば、最少額で済む場合について考察してみるのは悪くない。

 もしデッドマネーが4ミリオンで済むのだとしたら、Belichickはトレードに失敗した時点でなぜさっさとGronkを解雇しなかったのか。
 順を追って考えよう。まずBelichickが2017シーズン終了後にGronkの成績が落ち始める深刻な可能性を感じとったのは間違いあるまい。それがなければさすがのBelichickでもGronkをトレード対象には考えないだろう。実際にPatsはドラフト前後にLionsとトレードでほぼ合意していたという"https://www.espn.com/nfl/story/_/id/24768502/"。
 この場合、トレードしてもPatsに4ミリオンのデッドマネーが発生するのは絶対に避けられない(既に支払ったSigning Bonusをキャップに均等配分しているだけなので)。ただしトレードを行えば対価としてドラフト権が手に入り、トレード相手は4ミリオンを割り引いた金額でGronkを使える。言うなればPatsは4ミリオンでドラフト権を買うことになるわけで、例えばLionsから2018シーズンの1巡を手に入れるのであれば、全体20位を4ミリオンで買うつもりだったと解釈できる。
 しかしこのトレードはGronkの抵抗に遭って失敗に終わった。それによって4ミリオンを何らかの形で取り返すことは不可能になったと考えていいだろう。要するにこの4ミリオンはsunk costと化したわけだ。経済学的に言えばsunk costにこだわってさらなる投資を続けるのは無駄である。経済学部出身のBelichickも当然そう考えるだろう。4ミリオンの損失はもはや決まったものだとして、では次にどんな選択を取るべきだろうか。
 まず確定した4ミリオンの損失とともにGronkから去る方法がある。つまり解雇だ。逆にGronkを手元にとどめる方法もある。この場合のキャップヒットは11ミリオンになるが、4ミリオン分は損失として確定しているので、実質的にGronkにかかるコストは7ミリオンと割り切って判断することになる。
 2018シーズンのTEのキャップヒットを見ると、ちょうど9番目のBrateが7ミリオンだ。BelichickとしてはGronkの成績が落ちるとしてもBrate並みの順位までしか下がらないなら、引き続きGronkを雇い続ける意味はある。逆に彼の成績がもっと大幅に落ちるのであれば、Gronkに7ミリオン分の価値はないことになり、彼を解雇するのが正しい選択となる。Belichickは後者を選んだ。つまり彼はGronkに、まだリーグ9位のTE並みかそれ以上の力は残っていると判断したことになる。
 結果はどうだったか。単純にヤードで見ればGronkはリーグで6番目の成績を残した。20回以上ターゲットになったTEの中で、Y/Tgtでは8位になっている。Approximate Valueなら6位タイだ。最も厳しいPFFの評価"https://www.profootballfocus.com/nfl/players/rob-gronkowski/5567"だと10位になる。全体としてみれば、Belichickが行ったであろう計算に見合う程度には仕事をしたと考えられる。
 もちろんこの結果はたまたまにすぎない可能性がある。Belichickの見積もりが間違っていればGronkの成績はもっと大きく下がっていただろうし、その場合は「やはり解雇しておけばよかった」という結論になる。怪我の可能性は当然考慮に入れていただろうが、実際に出場した13試合よりも少ない試合しか出られない状態になっていれば、やはりコスト高だったという話になる。
 個人的にはBelichickも迷ったのではないかと思う。根拠は2017シーズンの契約見直しが5月には終わっていたのに対し、2018シーズンは開幕直前の8月まで時間がかかった点にある。解雇するつもりの選手にインセンティブを乗せるような契約見直しはしないだろう。まず解雇するかとどめるかを判断し、後者に決まったならそれからインセンティブの話をする。おそらくそういう順番で判断をしていったからこそ、契約見直しが8月までずれ込んだのだと思う。
 なおインセンティブが全て発動していればGronkの契約はさらに膨らんだことになるが、インセンティブを満たすだけの活躍をしてくれれば決して割高ではないという判断だろう。Pats側がつけた条件を見ると、First Team All-Proに選ばれた2017シーズンの実績を超えることを求めている。リーグトップのサラリーにふさわしいプレイをすることが条件なわけであり、実際にそれだけの活躍をしたのならチームは喜んで金を支払っただろう。

 以上は基本的にGronkのデッドマネーが4ミリオンであればという前提に基づく私の想像でしかない。Belichickが本当は何を考えてあのような行動を取ったのかは不明。ただ、前年にAll-Proに選ばれたTEをトレードに出そうとしたあたり、彼が冷徹な判断をする人物であることは間違いないし、であれば彼の判断がそれなりに合理的な手順を踏んで行われたと考えるのはおかしくないと思う。
 彼はまずGronkの衰えを察知し、その度合いがどの程度かも推測した。そしてまず、Gronkに対して支払い済みの4ミリオンを少しでも取り返すべくトレードを画策。しかしそれが失敗するや否や、4ミリオンについてはsunk costであるとあっさり割り切り、それを除いて残る選択肢の中から最も利得が多そうな道を探した。そして最後に、Gronkが衰えるという自分の判断が間違っている可能性を潰すために、インセンティブを上乗せする契約見直しを行った。トレードのせいで不満を抱いていたGronkをなだめ、シーズンに集中さえるために行なった面もあるだろう。
 GMとしてのBelichickの仕事は、限られたサラリーの枠を最大限に活用してチーム力を高めることにある。Gronkに関する彼の判断もそうした方針に合わせたものだろうが、その際に経済学が想定するようなhomo economicus"https://en.wikipedia.org/wiki/Homo_economicus"的発想で行動するところが彼の特徴なのだと思う。

イマジン

 NFLで色々と動きがあったので、ワーテルローへの道は一回お休み。

 想像してごらん、認知バイアスも変な商習慣もないNFLを。選手のサラリーがチーム成績や他の選手の契約に左右されることなく、フィールド上で彼が果たした役割のみに基づいて決められる世界を。その場合、Wentzの新契約はどうなっていただろうか。
 彼がEaglesと結んだ延長契約"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001033006/article/"は4年128ミリオンで、保証額は107.9ミリオンに達するという。総額ではWilsonが結んだ年平均35ミリオンには及ばないが、保証額は彼を越えることになる。サラリーキャップに対する比率で見れば、歴代でも13位に相当する金額だ"https://overthecap.com/contract-history/quarterback/"。
 ファンの評価は高い"https://www.bleedinggreennation.com/2019/6/7/18656071/"を通り越し、バーゲンセールだという声まで出ている"https://www.bleedinggreennation.com/2019/6/7/18656509/"。アナリティクス系の人々からも彼はこの契約に「値する」"https://twitter.com/SharpFootball/status/1136808039816859648"という声が出ているし、長い目で見てQBのコストをコントロールできる契約だとの見方もある"https://twitter.com/NFLDraftJoey/status/1136793445144547328"。契約を遅らせる方がむしろ高くつくとの指摘もある"https://twitter.com/JoeBanner13/status/1136799464482586630"。
 いずれも間違ってはいないのだが、そこには大きな前提が1つある。WentzがWilsonのように活躍するという前提だ。加えてこれ以上怪我をしない、という条件も事実上ついていると見ていいだろう"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001033036/article/"。問題は、この前提にどのくらいの説得力があるかだ。
 Eaglesが2017シーズンに優勝したことはWentzの評価に大きな後光効果"https://en.wikipedia.org/wiki/Halo_effect"をもたらしている。あのシーズンに11勝稼いだことは、彼の評価を大きく引き上げている。あのシーズンを除くと彼の成績は12勝15敗になってしまうし、また勝敗はQBだけで決まるものでもないのだが、現実世界ではSuper Bowlの輝きは他の問題点を見えなくしてしまうことがある。
 だからもっと理想的な世界、例えて言うならEliよりRiversが先にHOF候補として普通に名前が挙がる世界を考えてみよう。そこではQBの能力は勝率やリングではなくANY/Aのような数字で評価され、誰もがそれを当然だと思う。その世界でWentzの3年のキャリアを見るなら、彼は「リーグ平均並みQB」となってしまう。2016-18シーズン累計で規定試投数(672)に達した32人のQBのうち、WentzのANY/Aの成績は17位。ちょうど真ん中付近なのだ。
 過去の実績ではなく将来への期待で契約するのだから、ANY/Aではなく別の指標を見るべきだとの見解もあるだろう。その場合、適切なのは将来の成績との相関が高いパス成功率を見るのがいい。そしてWentzの3年間のパス成功率は16位。やっぱり真ん中程度の数字になり、やっぱり平均的QBという結論になる。
 サラリーキャップの増加に合わせて現在価値に直した年平均サラリーの高い順に現役QBたちを並べると16位のBradyは24.8ミリオン、17位のDaltonは22.6ミリオンとなる。Wentzのサラリーもこの前後が適当だろう。例えば23.7ミリオンだとすればそれを4倍した94.8ミリオンが適切な金額になる。ニューマネーだけでなく現時点で残った契約分(4年目と5年目オプションを合わせてキャップヒットが31.3ミリオン弱)も含めて計算するなら、ニューマネーは117.5ミリオンもらえることになる。どちらにせよ実際の金額よりは小さい。
 でもこの世界は桃源郷でもユートピアでもシャングリラでもザナドゥでもない。現実は理想より歪んでいる。原因は上に述べたような後光効果に加え、アンカリング"https://en.wikipedia.org/wiki/Anchoring"という認知バイアスも影響していると見ていいだろう。直前に結ばれたWilsonの契約額が一種の参照点となり、Wentzとの交渉もその数字に引きずられたというわけだ。そして同じことは、これから契約延長が議論されるGoffにも当てはまる、と代理人経験者は言っている"https://twitter.com/corryjoel/status/1136795582998036482"。
 理想郷におけるGoffやPrescottの契約延長額がどうなるか、Wentzと同じように考えてみよう。まずANY/AではGoffが32人中9位、Prescottが13位となる。現役QBたちとの並びで見るならGoffはCarrとほぼ同額の年28.2ミリオン、PrescottはFlaccoと同額の年26.8ミリオン前後が適当だと考えられる。一方、パス成功率で見るとPrescottは8位に上がり、Goffは24位に急落する。前者はGaroppoloと同じ年29.2ミリオン、後者はなんと今のWentzと同じ年8.1ミリオンが適当ということになってしまう。
 だが実際にはGoffはWentzより高い額に、Prescottは低い額になると予想されている"https://twitter.com/Jason_OTC/status/1136792864011087873"。結果、3人のQBは誰もが「イマジン」世界より割高な選手となってしまうが、特にGoffはリスクが高く、次にWentz、そして最もリスクが低いのがPrescottという並びになることが想定できる。
 もちろんそんなことはどのチームも想定済みだろう。元々彼らのチーム作りは安いルーキー契約QBにかなり依存していた。だが安いQBは永遠に安いわけではない(4年ごとに先発を代えない限り)。4年目が終わればコストが上がるのは覚悟のうえであり、チームはコストが上がっても採算がとれるだけのQBであるかどうかを3〜4年以内に判断すればいいだけである。でも現実にはQBの能力を見誤り、実力以上の額で長期契約を結ぶチームは多い。Tannehill、Bortles、Carrなどがその例だ。
 もっと長い期間、1970年の合併以降を対象にNFLでのプレイ1年目から3年目までのQBたちの成績を調べてみよう。Comp%+のトップ10を見ると5人はHOFerで、さらにBradyもそこに入っている。やはりパス成功率は将来予測には役に立つのだ。となるとこの数字が高い選手ほど高額契約を結ぶのが合理的ということになる。
 今年4年目のQBたちで一番この数字が高いのはもちろんPrescott(111)。過去にこの数値が109から113までの選手たちを見るとGriffinやBrian Griese、Brunellという平凡なQBたちもいたが、一方でKosar、Palmerなどそれなりの選手もおり、そしてBrady、Manning、Ken AndersonというHOF候補やそれに最も近いと言われる選手たちもいる。悪い面々ではない。
 Wentz(102)に近い101から103の選手たちになると、最もいいのはBreesくらいで、後は短期間のみ輝いたBert JonesやMark Rypienがいる一方、そもそも先発不合格なTim Couch、Trent Edwards、Ryan Tannehillなどがいる。Goff(95)に近い94から96の選手たちになると、CFLでキャリアを積んでいたMoonという例外を除けばCampbell、O'Donnell、Plummer、Steve Grogan、Neil Lomax、Joe Fergusonなど地味すぎる面々ばかりが並ぶ。果たして彼らに年30ミリオン超を払って大丈夫なのだろうか。
 NFLの各チームは、本当はFAよりも自家製選手にサラリーを払いすぎているのではないか、という問題は以前にも紹介した"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56912355.html"。今回のWentz契約はもとより、それに続くであろうGoffとPrescottの契約においても、同じ懸念が浮かび上がるのではなかろうか。もちろん彼らの中にはそのサラリーに見合うだけの成長を見せる選手も出てくるだろう。だが過去の実績を見る限り、そうでない選手になってしまう確率の方が高い。それでもギャンブルに出るチームが圧倒的に多いのが現実なのだが、個人的には別の道(4年ごとにQBを安いルーキーに入れ替えるなど)を探るチームがもっと増えてもいいと思う。

 それ以外のニュースとしてはJetsがEaglesフロントからGMを奪ったこと"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001033141/article/"、一方Texansではまだ1年ちょっとしかやっていないGMが首を切られたこと"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001033113/article/"が話題になっていた。誰がGM職を担うかというのは重要だが、それのみならず適切とは思えない時期にGMを解雇することがチームの機能不全を意味しているかどうかにも、注意をしておくべきだろう。
 NFLのチームの成功で最も重要なのはQBであり、以下HC、GM、そしてオーナーが続くという研究がある"https://hbr.org/2019/04/whos-the-most-important-member-of-an-nfl-franchise"。逆に言うならQB以外はフィールド外にいるメンツがチーム成績に大きな影響を及ぼしているともいえるわけだ。TexansにせよJetsにせよ、フィールド内の選手たちを支える体制をきちんと固めることが必要なのだろう。
 またサラリーがらみでは、Gurleyの現状を踏まえてRBへの高額投資はやはり失敗だったのではとの指摘も出ていた"https://ftw.usatoday.com/2019/06/nfl-rams-todd-gurley-contract-injury"。アナリティクス関連では昔から言われていたことで目新しさはないのだが、RBで最高額をもらっているGurleyもまた「交換可能な選手」でしかなかったとなれば、改めてその事実が確認されることになる。Gurleyに次ぐ高額RBを抱えているJets、Cardinalsあたりは、やはりチーム作りのあり方を心配した方がいいかもしれない。

Maccagnan解雇

 NFLで動きがあったのでワーテルローはいったん休み。
 ニュースのない時期にメディアを賑わせたのがJetsのGM解任"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001030877/article/"だった。大本営も大はしゃぎで、第一報い続いてさらにいくつもの記事("http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001030898/article/"や"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001030914/article/"や"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001030976/article/"など)を掲載して盛り上げていた。
 気持ちは分かる。ドラフトが終わり、その後に来るFA第2波の動きは小さく、一方シーズン開始はまだ遠いこのタイミングで飛び出したニュースは、そりゃ扱いが大きくなる。おまけに舞台となっているのが巨大マーケットに拠点を置くチームであり、そして中身は野次馬たちが大好きな「人事ネタ」「内紛ネタ」だ。今盛り上げずにいつ盛り上げる、というノリなんだろう。
 特に話題になっているのが解任のタイミングだ。こちら"https://www.theringer.com/nfl/2019/5/15/18627166/"にあるように今回の解任は「正しい動きだが時期を間違えている」というのが一般的評価だろう。この記事ではMaccagnanによるドラフトを象徴する事例として、AAFですら先発になれなかった"https://www.usatoday.com/story/sports/2019/02/23/2968889002/"Hackenbergを取り上げている。彼を2巡で指名するようなGMを、なぜこのタイミングまで残していたのか、というわけだ。
 実のところドラフト後になってGMが解任される事例は、極めて珍しいとは言えない"https://twitter.com/AlbertBreer/status/1128699698573922304"。ほんの2年前にはドラフト後でシーズン前というタイミングで解任されたGMが実に3人もいた。BillsのWhaley、ChiefsのDorsey、そしてPanthersのGettlemanだ"https://www.theringer.com/nfl/2019/5/15/18625119/"。
 だがこの3人と今回のMaccagnanを同列に並べるのは問題だろう。まずWhaleyは解任以前からレームダック状態で、FAやドラフトについての実権を奪われていた"https://twitter.com/ryanwdoyle/status/1128738699192225798"という。一方、Dorsey"https://www.sbnation.com/2017/6/26/15872952/"やGettleman"https://bleacherreport.com/articles/2722139"はMaccagnanと異なりGMとしてはいい実績を残していた人物で、その実績故にFAやドラフトを任されるのは当然と思われていた。
 つまり今回の人事の特徴は「成績的に見てダメなGM」が「ドラフトまで実権を握っていたのにその後に解任された」というところにある。ダメGMと分かっていながらもう一度チャンスを与えてみたのだが、こりゃダメだとHCから指摘されたため、結果が出るより前に首を切った。ダメGMと分かっていたのならもっと早くに解雇すればよかったのだし、それでももう一度チャンスを与えると決めたのなら結果が出るまで待つべきだったのに、どちらでもない中途半端な対応を取ったわけだ。
 実際、結果が分かるまで時間がかかるドラフトについてはともかく、FAについては既に払い過ぎという指摘は出ている。Football OutsidersのFAのコスト=ベネフィット分析"https://www.footballoutsiders.com/stat-analysis/2019/2019-free-agency-cost-benefit-analysis"を見ても、JetsはRB(Bell)とWR(Crowder)で最もコスト高な、Interior DL(Anderson)とLB(Mosley)で2番目にコスト高なFAを取っている。その他にEnunwaの契約延長にも資金を投入"https://twitter.com/Jason_OTC/status/1128705025486786561"しており、このオフにJetsが選手に支払った保証額はリーグでもトップ"https://twitter.com/spotrac/status/1128688115185586176"だ。
 中途半端にダメGMを引っ張り、大量のキャップを消費させ、その結果が出る前に解任する。傍から見ると意味不明な行動だが、Jetsファンにとってはそうでもないらしい。Football PerspectiveのChase StuartもJetsファンだが、彼によれば今回の動きを衝撃的と思うのは「Jetsをフォローしていない人間」"http://www.footballperspective.com/the-jets-fire-maccagnan-in-the-only-wrong-way-they-could/"だそうだ。少なくともGMとHCのどちらか一方を余分に引っ張り、結果としてGMとHCを交互に交代させるのはこのチームにとっては珍しくないという。
 同じくJetsファンであるOver The CapのJason Fitzgeraldは、Maccagnanがチーム作りの多くを終わらせてしまっているため、この段階で新しいGMが来てもろくなことができないと指摘している"https://twitter.com/Jason_OTC/status/1128794857575714816"。たとえこれからロースターをひっくり返そうとしても、市場に出回っている選手があまり残っていないため入れ替えは難しい。せいぜいLeeを6巡と交換する"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001031000/article/"程度の細かい修正くらいしかできないだろう。

 しかし今回の件でもっと面白いのは、GaseによるMaccagnan批判の論拠とされる「Bellの契約が高すぎる」という主張にStuartが噛みついた部分だろう"http://www.footballperspective.com/adam-gase-reportedly-thinks-the-jets-overpaid-for-leveon-bell/"。彼はリーグの各チームがRBに投じているキャップを調べ、QBへの投資額とを比較した。
 エントリー内の散布図にあるように、RBとQBへの投資は逆相関している。そしてQBへの投資額の方がRBに比べて随分と大きい。JetsはスターターのQBがルーキー契約中であり、かなり安く雇うことができているのだから、RBへの投資が大きいこと自体を非難するのはおかしい、というのが理屈だ。ではILBのMosleyに対する高額投資はどう評価するのだろうということも気になるが、少なくともRBへの投資についてはPatriotsも逆張り的にやっていることであるのは確かだ。
 だがそれよりも問題なのは、このエントリー内でStuartが触れている「Jetsはなお2019年に25ミリオン以上のサラリーキャップスペースを残している10チームのうちの1つであり、このスペースを使う手段はあまり多く残されていない」という部分。Bellに高額投資をしてもなおスペースが余っている状況で、Bellへの投資額が大きすぎるという批判は成り立つのか、という部分を問題視しているのだが、私はむしろ余ったキャップスペースの使いどころがなくなっている部分が問題だと思う。
 こちら"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56576357.html"でも指摘したが、チームの成績とキャップスペースの間にはそこそこのマイナスの相関がある。つまりスペースを余らせているチームはダメな成績を残す傾向が見られるのだ。特に現在の労使協定でスペースの繰り越しが認められるようになって以降、tanking中のチームが巨額のスペースを余らせる傾向が強まっているように思う。
 tanking中だからスペースを余らせて成績が悪化してもいいじゃないか、と考える人もいるだろう。その金を後からまとめて投入することで一気にチーム力を高めればいいと。だが本当にそんな理屈通りに進むのだろうか。今年のJetsは、コストが高すぎる選手に多額の投資をしていながら、なおかつスペースが余った状態が今も続いている。25ミリオン以上を余らせている10チームのうちの1つということは、つまりリーグで下から10位以内の成績になる可能性が高いチームの1つという意味だ。今年はDarnoldの周辺を強化すべき年なのに、どうしてそうなってしまっているのか。
 まずキャップスペースを広げ、勝負を賭ける時にそれを一気に投入するというのは、理屈としてはある。だが実際にやろうとした時に、周囲を見回しても投資先となる選手がいないという懸念があるのではないか。ほとんどのチームはエースをそもそもFA市場に送り出さない。FAになる前に契約延長する。ドラフトで手に入れる選手は強制的に安く契約させられているので、彼らのためにキャップを空けるメリットはない。結果、FA市場に出てくる「余りもの」に必要以上の高額を投資するチームが増える。
 でもそうやって手に入れた(サラリー面では)エリートや上位クラスの選手たちは、成績との相関が乏しいことも指摘済みだ。tankingを行い、スペースを確保したうえでそれを一気に投入するという戦略は、実際はむしろ勝利に逆行する取り組みのように思えてならない。
 キャップスペースを減らしても、それがかつてRaidersが陥っていたような単なる「キャップ地獄」になっているのでは意味がないのは確かだ。だがそれを嫌気するあまり必要以上にスペースを空けてしまっては、まさに羹に懲りて膾を吹く状態。そうやって空けた分を意味のある投資に回すには時間がかかるし、無理にでも一気に使おうとすればコスト高の選手を集めることにつながる。優勝に近づく道とは思えない。
 サラリーキャップのないスポーツなら、高額投資はそのまま成績に直結するだろう。だがキャップのあるリーグで求められるのは投資の総額ではなく効率だ。巨額のスペースを作って一気に投資することに注力するのは、キャップ導入以前の環境で通用したやり方を再現しようとするようなもので、今の環境に合った方法とは言いがたい。少なくともMaccagnanは、そのような「古い安直な方法」を使おうとした点で、批判に値する。

パスカバー重要論

 大本営に2020年の補償ドラフト権予想記事が載った"http://www.nfl.com/news/story/0ap3000001030378/article/"。ほんの数年前までサラリーキャップマニア以外は見向きもしなかった話がここまで大きくなるのだから、何とも感慨深いものがある。

 パスラッシュよりパスカバーの方が大切だという論調を最も強く主張しているPro Football Focusが、その論拠についてまとめた記事をアップしていた"https://www.profootballfocus.com/news/pro-pff-data-study-coverage-vs-pass-rush"。具体的にはexpected points added(EPA)を使っている。
 PFFのパスカバーグレード(チーム単位)とパスプレイで許したEPAとの相関はおよそ-0.69、R自乗だと0.48であり、それに対してパスラッシュとEPAとの相関はおよそ-0.23(R自乗は0.05)となる。EPAではなくプレイの成功度との相関を見るとパスカバーは-0.62、パスラッシュは-0.21となり、つまりPFFのグレードで見る限りパスカバーの方がパスラッシュよりディフェンスの状況を説明するのにより適していることになる。
 記事に採録されている散布図を見るとパスカバー、パスラッシュとも右肩下がりの傾向を示しているが、パスカバーの方がより散布範囲が狭く、確かに相関度の高さが見て取れる。一方、パスラッシュはかなり広範囲に散らばっており、パスラッシュの成功度がパスディフェンス全体の成功度とあまり相関していないことが分かる。
 さらに記事ではパスラッシュとパスカバーが翌シーズンのチームの成功をどの程度予測できるかについても分析している。n年のパスカバーとn+1年のEPAとの相関はおよそ-0.26(R自乗は0.07)であったのに対し、パスラッシュは「翌年に許したEPAとはおおむね相関していなかった」。
 ちなみにパスで許したEPA自体は年ごとにおよそ0.34(R自乗0.11)の相関が見られたという。それだけディフェンス成績は年ごとのブレが大きく、データ面で言えばノイズが大きいのが特徴だ。その中で比較的少ないシグナルを説明できるのがパスカバレッジであり、一方パスラッシュが翌年の成績をほとんど予測できないのは「ポケットが崩れていない時のパスはポケットがプレッシャーを受けている時のパスに比べはるかに安定している」"https://www.profootballfocus.com/news/pro-pff-forecast-the-stability-of-play-from-a-clean-pocket-by-nfl-qbs"というPFFの他の分析と辻褄が合うそうだ。
 ただしパスラッシュの方がパスカバーより安定して予想に使える分野がある。n年とn+1年のパスラッシュ同士、及びパスカバー同士を比較すると、パスラッシュの方が相関度が高いのだ。具体的にはパスラッシュが0.62(R自乗0.38)、パスカバーが0.34(R自乗0.12)。つまりEdgeの方が過去の成績から将来が予想しやすく、CBはより難しい。これは選手単位でもチーム単位でも同じだという。
 「来年のAaron DonaldはおそらくAaron Donaldであり続けるだろう。だがもしチームがディフェンスの強力なプレイによって多大な成功を収めようとするのであれば、彼らのチームに必要なのは来年のStephon Gilmoreである」というのがこの記事の指摘だ。PFFがデータを取るようになった2006シーズン以降、カバレッジで上位3分の1に入るがパスラッシュは下位3分の1にいるというチームの成績は、その逆のチームに比べて平均して1.5勝上回っている。
 しかし記事ではカバレッジがパスラッシュより重要という結論でいいと断言することには慎重。何よりもディフェンス成績はどのオフェンスを相手にするかによって大きく変わるものであり、さらにカバレッジはパスラッシュに比べて1つ1つのプレイ結果の差が大きく出やすい。だからカバレッジの重要性についてのスタンスは「RBは交換可能"https://www.profootballfocus.com/news/pro-are-nfl-running-backs-easily-replaceable-the-story-of-the-2018-nfl-season"という主張に比べれば弱い」という。
 あくまでこの記事の主張は「カバーできるプレイヤーなしに成功するディフェンスを作り上げるのは難しい」だ。パスラッシュは助けになるものの、オフェンスは容易にそれに対処できる(例:プレイオフのPatriots)。だが一方で、過去の成績からパスカバーの将来を予測するのが難しい点は、実際にDBに投資してもその効果が上がらないリスクを内包する。さらに、対戦相手のオフェンス次第で成績が大きく変わってしまうという問題も、ディフェンス選手への投資を難しくさせる。
 ではどうするか。記事ではまず両極端はやめておけと提案している。Edgeに全額投資するようなやり方(Chiefs)や、逆にDBに全てを投じてパスラッシュを無視するようなやり方はやめた方がいい。そのうえで活躍が予想しにくいDBについては、総体としていい選手を見つける機会を繰り返し求めることが必要だと提言している。具体的には2017シーズンのEaglesの取り組みが模範例で、1年前にRodney McLeodを手に入れたのに続き、この年のドラフトの2巡と3巡でCBを選び、さらにPatrick RobinsonとRonald Darbyと契約した。このデプスがものを言ってPFFのパスカバー評価は16シーズンの15位から3位に上がり、チームの優勝につながった。
 同じくパスカバーに投資しているPatriotsも、RevisやGilmoreといった大物FAの他にPatrick ChungやDuron Harmonといったデプスを満たす選手を上手く使ってパスカバーの水準維持を図っている。彼らのディフェンスは2.5秒未満時のプレッシャーについてはリーグ25位と低かった(Chiefsは4位)が、パスディフェンスのEPAトータルではPatriotsが5位だったのに対しChiefsは21位。この結果がプレイオフになって如実に表れた。
 記事において今年パスカバーを強化していると注目されているチームはBuccaneersだ。ドラフトの最初の4人はカバレッジ担当のディフェンスを指名しており、その全員が成功することはないにせよ、パスカバーのデプスを高めることに成功できる可能性は高まっている。NFC南地区の勢力図に変化が起きるかもしれないと見ているほど。どうやらDBの確保はドラフトと同じように「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」方式が最も合理的なようだ。

 ちなみにこの記事にはPFFがどのように選手のプレイを評価しているかについて簡単な説明が載っている。1つ1つのプレイについて選手は-2から2点の評価を0.5点単位で割り当てられ、合計した上で0-100点のスケールに合わせて調整されるという。パスラッシャーの場合はQBにプレッシャーを与えるかサックをする、QBがさっさと投げてプレッシャーを掛けられない場合でもブロッカーに打ち勝つといった点が評価対象になる。
 カバレッジについてはインターセプトやボールをたたき落とす、あるいはレシーバーのセパレーションを妨げることでオーバースローなどを強いればプラスの評価が、逆にボールが来ても来なくてもレシーバーのカバーに失敗すればマイナスの評価をつけられる。見ての通りどちらの評価も主観に基づくものであり、信頼度を気にする人が出てきそうな評価法ではある。だが全プレイを対象にすることでそうした主観の影響を減らすことは可能というのが、彼らのデータを擁護する場合の理屈だろう。他にいいデータが見当たらないこともあり、PFFの評価を使う人は多い。
 もっと客観的に評価しようという取り組みも出ている。ESPNがNext Gen Stats"https://blogs.yahoo.co.jp/desaixjp/56889544.html"を使って算出しているPBWR、PRWRといった指標がそれだ"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/24892208/"。このデータで見るとDonaldはサック数が20.5回とリーグで最も多いだけでなくパスラッシュで勝っている比率も46%と極めて高い"http://www.espn.com/nfl/story/_/id/25074144/"が、彼の次にラッシュの成功率が高い(40%)Robert Quinnのサック数は6.5回しかない。PFFの評価でもQuinnはEdgeの中で平均以上とそれほど高い評価ではなく、ESPNの指標よりもサック数と似通った評価だ。
 果たしてPFFの主観的なデータと、ESPNがNext Gen Statsを使って算出しているデータの、どちらがよりプレイヤーの質を正確に表しているのだろうか。このあたりはもっとデータがたまり、実際のゲームへの影響を客観的に調べられるようになったうえで判断するしかないと思う。とはいえ、かつてのようにオフェンスのスキルポジション以外をデータで見ることがほとんど不可能だった時に比べれば、実にいい時代になったのは確かだ。これからもデータギーク各位には競い合うように面白いデータを見つけ、調べ、紹介してもらいたい。

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