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DJカートン.mmix
…最近は他愛もない事ばっかり書いていますがお付き合い願います(笑)。

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電王戦FINAL(の前半戦)について個人的な感想を。

・第1局(▲斎藤慎太郎五段−△Apery)
戦形はノーマル四間飛車の対抗形。
…結果だけ見るなら斎藤五段の上手い指し回しで完勝、といった感じ。森下九段の言葉に
「COMが定跡を解明できるレベルにまで達したら人間は勝てない」
というのがあるが、Aperyが美濃囲いの△7二銀と締める手を省いて動いてきたのは「定跡以前の常識を理解していない」、なんて見方もできなくはない。もっとも定跡も常識も「その時点でのもの」なので将来的には美濃囲いの△7二銀を省いて攻めるのが新しい定跡・常識になる…可能性もあるがさすがにそれは考えにくい。
「2手1組の手は1手目を指した直後に気をつけろ」
という谷川九段の言葉がある(以前の順位戦解説会で森下九段が仰っていた)。例えば銀冠に組もうとすると△8三銀の瞬間(△7二金を締まる前)は玉の横がスカスカ&金が浮き駒なのでその瞬間をついた仕掛けが成立する事が多い。
美濃囲いも△8二玉と△7二銀はセットと言えるので、その形で攻められるのは非常にまずい。しかもAperyの場合その「危険な状態」を放置して自分から動いている将棋教室とかだったら間違いなく「ダメ出し」を食らう手順だと思う。あるいは先手が▲9八香と穴熊を目指したのを見て動いた、とも言えるが、一般的(?)にCOMは「居飛車穴熊を恐れない」、それどころか「COMに居飛車穴熊は通じない(姿焼きにされる)」とも言われているので、今回のAperyの指し手(構想)はいろいろな意味でチグハグだったと思う。

このように「まだCOMの序盤は完璧ではない」のだが、自分が第1局で注目したのは最終盤のAperyの「王手ラッシュ」。自分に勝ち目がないと読んだ時に出てくるCOM特有の現象(稀に人間でもこういう事をする人がいるが…)。詳しいことは「水平線現象」とかいう言葉で説明できるがここでは省く。
問題(?)の局面は下図。△8九銀の王手に▲7九玉と引いた局面。
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この銀打ち自体は取れば△6九飛の王手金取りで詰めろを消そうという(他の応手はどれも王手金取りがかかる)手なので意味はある。しかし▲7九玉と引いた局面で△7八銀成と捨てたところから「悪あがき」になる。△7八銀成▲同玉の局面はその4手前と盤面は同じだが持駒の銀を丸損している。以降も(結果として)無駄な王手を続け、その様は喩えるなら「魚が水から揚げられて地面(とかまな板の上)でビチビチ暴れている」ようである。
持駒が尽きていよいよ王手がなくなったところで△9四歩。しかし詰めろは消えておらず、▲8二金から詰みまで指して終局となった。

このような「王手ラッシュ」、COMの宿命のようだが、無くす事が不可能というわけではなく「美学プログラム(便宜上そう呼ぶ)」を組み込めば──「無様な王手ラッシュを続けた挙句詰みまで指す」という対局している人間が「鬱陶しい!」とイライラを募らせる事を──無くすことは可能である。例えば柿木将棋9(レベル7)は下図の局面──先手玉は必至、後手玉には詰みがない──で投了した。
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…何となく想像がつくと思われるが、この将棋は昨年末の「電王戦リベンジマッチ」の指し掛けの局面から先手をCOM(柿木将棋レベル7)」「後手を自分(DJカートン)」で指し継ぐ、という形で実験している。
…やはりあの局面は後手(森下九段)必勝だったようだ(笑)。
それはともかく、市販の将棋ソフトはプレイヤーが気持ちよく(スムーズに)楽しめる事が大事なのでこのような「美学プログラム」があるとないとでは市販ソフトとしての評価に大きく影響する(美学プログラムではないが、不便な要素が多すぎて叩かれたPonaXがいい例である)。もし柿木将棋9に美学プログラムがなかったら上図の局面から▲1四同飛△同玉▲1五歩△同玉…のような悪あがきを続けてここから更に50手くらいは指さされて(嫌な気持ちにさせられて)いただろう。
…昔の(ファミコン時代の)ソフトに美学プログラムはなかっただろう、って? 当時のソフトは美学を云々できるほどの棋力(読み)がなかったので仕方ない。
しかしCOMに純粋な(?)棋力のみを求めようとするとこの「美学プログラム」は読み(の速度や深さ)に影響する、早い話が「棋力の妨げ」(仮に棋力に影響しなくても「美学プログラムを組む労力が無駄」である)なので、COM同士で戦うコンピュータ将棋選手権や電王トーナメントに参加する──厳密に言うならそこで優勝を狙っている──将棋ソフトで「美学プログラム」を設けているソフトは稀有、というか皆無と言えよう。

そういった事情で現れた「悪あがき」、これをどう考えるかはやはり人それぞれだと思う。中には先崎九段のように「COMの悪あがきは見ていて楽しい」というドSな(?)人もいると思うが、個人的には公の場での対局である事、棋譜が残る事、プロ棋士が戦ってくれている事(への礼儀)、などを考えると
見ていて気持ちのいいものではない、早い話が「見苦しい」と思う。それこそ「プロ棋士と対局するソフトは美学プログラムを搭載していないといけない」とルールを設けたほうがいい、とさえ思う。もっとも今後そういう機会があるかわからない(何せ「電王戦FINAL」である)けど…
それにしてもCOMは「美学プログラム」が「棋力の妨げ」になる(かも知れない)が、人間は「悪あがき(※1)」が「棋力の妨げ」になるのだから面白い。

・第2局(▲Selene−△永瀬拓矢六段)
相掛かりのような角換わりのような序盤〜中盤。世間でよく言われる「COMは飛車先交換を重く見ない」という傾向はSeleneにも当てはまっているようである。下図は先手が▲3七桂と跳ねたところだが、この手ではノーリスクで▲2四歩と交換する事ができた
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「ノーリスク」というのはこの2手前に▲6七銀で6六の歩を守っていて駒損がない(▲2四歩△同歩▲同飛の局面での△3三角を消している)という意味。もっともその歩を取るために角を手放すかは微妙だが…
その更に数手前は6筋の歩を突いていない(飛車先交換を決行すると△3三角が飛車金両取りでゲームセット)のでその時点で2筋を△3三銀と受ける手を省く(省ける)のはわかる。しかし永瀬六段は上図でも(その後も)△3三銀は指していないその後Seleneは16手後に▲2四歩と飛車先交換をしたが、「他に有効な手がなくて仕方なくやった」ようにも見えるもし飛車先交換が有効だと思っていれば▲2九飛と引く前に▲2四歩と突き、△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛と手順に飛車を引くのが「手順」だと思う。もっとも最近は人間でも序盤(特に角を持ち合っている局面)での手損を悲観しない事が多いのでこれがいいとか悪いとか言う話でもないと思う。
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しかし何と言ってもこの将棋のハイライト(?)は終盤で永瀬六段の指した「角不成」及びそれで起きたSeleneのバグであろう。
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「練習将棋でたまたま(クリックミスで)不成を指した時にそうなる事を知った」「持ち時間を常に気にしていたこともあり、1分でも時間を使ってくれれば、という気持ちで指した」そうだが、「バグを承知の上で意図的にやった」事に対する一部の人間(ファンという言葉は使いにくい)の批判が「そこまでして勝ちたいか」などと言った永瀬六段の人間性に言及(?)するものが多い

…ハッキリ言ってお門違いだと思う。COMのバグというのは早い話「将棋のルールを理解していない」と同義であり、ルールを理解していない(角不成を王手と認識せず他の手を指した、そもそも飛・角・歩の不成を認識しないという)Seleneが責められても将棋のルールに則っている永瀬六段が責められる理由はないそんな事を言っていたら公式戦で「飛不成」を指した黒沢玲生四段はどーなのよ、という事になる(※2)。

「そこまでして勝ちたいか」… この手の発言の根底にあるのは将棋に、というより「勝負事全般」に対する認識の差(ハッキリ言うなら甘さ)だと思う。
例えば将棋(プロ棋士)の場合、アマチュアとの指導対局などだと「意図的に緩める」事もあるだろうが(※3)、基本的に奨励会に入った時(あるいは入る前)から「勝つことが全て」の世界で生きており、それこそ「勝つためだったら何でもやる(勿論ルールに則った範囲内で)」のが当たり前の世界である。森下九段が「三段時代に午前3時に起き頭から水をかぶって目を覚まして将棋の勉強をした」というエピソードなんかはそれを如実に表していると思う。

かつて自分と旧知のカメラマン(「旧知」という言葉を広義にかつ都合のいいように解釈するとそういう関係になる)が言っていた事がある。
「我々プロのカメラマンなら「写ルンです」のようなレンズ付きフィルム(俗に「使い捨てカメラ」と言われる商品の正式名称)でも雑誌の1面に載せられる写真は撮れるでは何故我々は1台数百万円するようなカメラを使うのか? それは『1%でも勝率を高めたいから』(説明の必要はないかも知れないがここで言う「勝率」は「雑誌に載せられる写真が撮れる確率」の事)

…つまり将棋でなくとも「プロ」の世界(各種プロスポーツなど)は「勝ってナンボ」「勝つ(勝率を高める)ためだったら何でもやる」のが「その世界の常識」であり、永瀬六段が指した「角不成」も「勝率を1%でも高める(COMに時間を使ってもらう)ための方法」として採用しただけだと思う。例えばこの「角不成」を人間相手にやっても一瞬「何?」と思わせることは可能でも思考回路をバグらせるなんて不可能それどころか「相手をなめた奴」と思われて(以前も書いたように)次回以降の対局で「敵を作る(自分の損になる)」可能性が高い(ので意図的な不成は指さない)。
もしかしたらこれまでの電王戦でのプロ棋士の勝率の低さ(FINAL第1局までで3勝8敗1分け、リベンジマッチは含まない)が危機感となってこういう手を指させた、という可能性もあるかも知れないが。

こんな事を書いている自分もプロ(勝負)の世界をどこまで理解できているか自信はないのであまり偉そうな事は言えないのだが、少なくとも一つの出来事を己の価値観・世界観のみで測って人間性が云々… などとしたり顔で論評する(決め付ける)のは「認識が甘い」、と断言するのは間違っていないと思う。
…もし自分が意図的な不成(極端なところだと▲7六歩△3四歩▲2二角不成)をされたら? とりあえずその将棋は極力何もなかったかのように終え、(24だったら)その人の過去の棋譜を調べて「意図的な不成」が多いようなら即座にブラックリスト認定(過去に2人ほど放り込んだ)。

・第3局(▲稲葉陽七段−△やねうら王)
戦形は今ではほとんど見かけない横歩取り△3三桂。プロで指されないのは「後手がつらい」のが主な理由だろうが、そういう戦法でも完璧に咎めるのはプロでも難しい事がわかる。

稲葉七段は対局後に「力負け」と仰っていたが、一体どこでおかしく(局面が悪く)なったのだろう。自分ごときの棋力ではとても断定できないが、おそらく47手目の▲2七歩が敗着ではなかろうか。
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この歩は数手前に▲2八歩と低く受けた歩を自ら銀にぶつけたもの。こういう相手の攻めを呼び込む手というのは自分の経験上では大抵の場合「勝てば勝着、負ければ敗着」になる。この対局も銀得でも飛車を成り込まれた先手が良いようには見えない。 …ではどうすれば? 自分にはわからない(苦笑)。もしかしたらこれより前に原因があるのかも知れないし(磯崎氏のブログにあるように)それ以降の手に問題があったのかも知れない。
その後も形勢は開く一方、最後は先手玉に必至がかかったところで稲葉七段が投了となったわけだが、携帯中継の解説にもあったが最終手△4六龍(4九から)の局面には先手玉に即詰みがあった自分には手順がわからなかったので柿木先生にお伺いを立てたら「詰みました」
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詰め手順は△3七銀▲2五玉△3五金▲同歩△2九龍▲2七歩△同龍▲3四玉△2五角▲4四玉△5五銀▲5四玉△4二桂▲5五玉△5四金▲5六玉△4六銀成▲同玉△4七角成まで(柿木先生の「御神託」をそのまま貼り付け)。…解説にあった△3七銀▲2五玉△3五金以下は実はそんなに難しくなかった(苦笑)。
COMは詰みのある局面では絶対に詰ましにくる、というのがある意味常識である。何故なら「それが一番合理的な勝ちだから」「長い詰みより短い必至」ということわざがあるが、これに一番当てはまらないのがCOMだと思う。
あまりに長い&複雑な詰め手順だと途中で読みを打ち切ってしまう(即詰み以外の手を指す)事もあるらしいが、今回に関してはそのどちらにも当てはまっていない。自分の低スペックPC(笑)でも28秒で詰ましたのでガレリア電王戦だったらもっと早く読めた…と思う。それなのにやねうら王は詰ます手順ではなく必至をかける手を指した。
何故か、という疑問が起きるが、これは開発者の磯崎氏のブログにある
「やねうら王はそういう手のほう(長い詰みより短い必至)を選ぶほうが多い
という説明で決着する。具体的には「切れ負け」を防ぐための方針(※4)だそうである(そこでは「敗着は▲2七歩ではないと思う」とも書いている。自分の棋力ではどうとも言えない)。
…そういうCOMがいてもいいかも知れない。

来週は詰将棋解答選手権(の運営手伝い)があるので、第4局と第5局(選手権と同日)の感想は早くてその翌週。


※1…逆転の可能性を信じての「粘っている」ではなく、それこそ相手のミスを期待するような「指しているだけ」の状態を指す。森下九段も「強くなりたければ両者の違いを解らないといけない」と言っている。

※2…週刊将棋4月1日号に載っていた。下図の(5五から)「△5九飛不成」で先手玉は即詰み。△5九飛成だと▲4九金と引かれ△3八歩が打ち歩詰めになってしまう(ので詰まない)。
不成なら▲4九金(引)には△3八歩▲4八玉△5七飛成まで、合駒を打つのも△3八歩以下手数は長いが詰む。
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※3…昨年受けた森下九段との指導対局も「ちょっとは緩めてもらった」ような気がするようなしないような…(笑)
「ちょっとは」と書いた(感じた)のは自分の隣の指導対局では「1手違いの局面での下手の詰まし損ない」をとがめて下手玉を詰ましていた(際限なく緩めてはくれない)ので。

※4…(COM同士で)対局する場所によってはノータイム指しでも「1手1秒」がカウントされてしまうので、あまりに長い詰め手順はその途中で切れてしまう可能性がある。
例えば33手詰めは自分の指し手は17手(なので最低17秒必要)だが、1手必至+5手詰めは自分の指し手は4手(必要な時間は4秒)で済む、という理屈らしい。

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