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第一章 始まり
「ふぃ〜、食った食った」
「くそっ……」
満足そうな亮介の横で、もう一度財布の中を見る。が、何回見てもそこに野口英世は戻ってこなかった。
「サンキューな、健一。いやぁ〜、俺はなんていい友達を持っているんだ!」
「無理やり奢らせたくせに、よく言うよ……」
「しかもよりによって一番高い大盛定食を選ぶか?普通?」
彼にわずかでも良心があるのなら、今ここで謝って欲しい。それだけでも幾分気分が良くなるものだ。
しかし、彼は予想通りの言葉を口にした。
「選ぶに決まってんだろ?そんな中途半端に遠慮したら、かえっておまえに失礼さ。」
悪意は決してないと思う。しかしながら、この態度が彼の周りに敵を作っているのである。
もう何かを言う気も失せて、力無く自分の教室へと戻る。
「はあ……。まあ、良いさ。ちゃんと返してくれよ?」
「あたりまえだろ? この借りは必ず返すさ。」
やがて3年7組の前につく。亮介の3年8組はここのクラスの隣だ。
「んじゃな、健一。また放課後に〜」
「あ、わりい。今日久々に部活見に行こうと思ってるんだ。」
「ふぅん、そっか。じゃあ終わるまで待っとくよ。」
予想に反する言葉が返ってきたので、健一は大いに驚いた。
「ま、待つって……。どういう風の吹き回しだ?大丈夫か?!どっか頭でも……」
「何でだよ?!俺だってたまには健一を待ってやろうとか思うよ。悪いか?」
その声は割と真剣だったのでこちらも普通に答えた。
「いや、疑って悪かった。有り難うな」
健一の言葉を聞いて亮介はにんまりと笑った。
「おう、気にすんなよ〜。 ……なんかそうしないといけない気がするから。」
亮介が最後に何かを付け加えた。が、声が小さくて健一には聞こえなかった。
「ん? なんか言ったか?」
「いいや、なんでもない。それじゃ、またな〜」
「はいよ」
再びひらひらと手を振りながら亮介は隣のクラスに入っていった。
残された健一もクラスに入る。
五時間目は残念ながら英語だった。再び眠気が襲ってくるものの、さすがに二時間連続で授業に集中しないわけにはいかない。そこまで成績に余裕があるわけでもないし。
そのときだった。
カタカタ、と音がした。続いてすぐに地響きのような音になっていく。
同時に健一の周りが揺れる。最初は僅かな揺れだったが、やがてだんだんと激しくなっていく。椅子に座るのも、やっとになってきた。
「じ、地震だ!皆……?」
無理矢理立ち上がって皆に叫ぶ。しかし健一が見たものはあまりに日常的な、ただの授業風景だった。居眠りしている奴さえいる。
「黒木、どうした? 地震なんて起きてない。寝ぼけているのか?」
先生が穏やかに言った。数人が笑った。
「ち、違いますっ、今だって……!」
再び視界が揺らぐ。右に体が引っ張られている気がした。
「おい、黒木、大丈夫か? 保健室にいってきたらどうだ?」
ああ、もう駄目だ……。
ばたん。
「おいっ、黒木?!」
先生が自分を呼ぶ声がだんだんと遠ざかっていく……。
俺、どうなったんだろう。
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