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「……何だあれ?」
「簡単に言えば、敵だねぇ〜」 全くの他人事のように亮介が言った。 それは一見大きい犬のようだったが、牙はまさしく野獣のそれだった。 体毛は殆ど無く、代わりに黒い靄のようなものが覆っていて、 爪も相当大きく、とがっている。剣道場の床が涎で汚れた。 「健一、来るぞ!」 いきなり亮介が叫び、握っていた木刀を健一に握らせた。 はっとする。相手は当然待ってくれない。恵子は守らないといけない。頼みの亮介も今は負傷してるし…… 結局俺は何もできないのか?今になって亮介の大きさを感じた。 もう怪物は駆け出し始めている。その動きがスローモーションになって、ぼんやりと頭を通過した。 「健一、危ない!!」 再びはっとする。いつの間にか怪物はもう目前まで迫っていた。 殆ど反射的に木刀を構えて、姿勢を守りの型に移した。 もう、慣れきった型の変化。メリハリをつけて攻守を変えるとうまく動きやすい。確か顧問が言ってたな。 怪物は前足の異常に発達した爪を振りかざした。 とっさに木刀で弾く。 「メシィ」 嫌な音が広がったが、幸い木刀にめり込んだだけで爪は止まった。 攻撃が失敗に終わったと見るや否や、すぐに怪物は体を翻し、再び牙をむいた。 どうなってんだよ?!どうなってんだ!! 頭の中で言葉が延々廻っていく。一度にいろんなことが起こりすぎて、もう何がなんだかわからない。 「うわあぁぁ……!!」 頭を抑えて無意味に叫んだ。そうしないと頭が変になりそうだった。 「なんなんだよ!? 一体!!」 もう一声叫ぼうと息を吸った。そしたら後ろで声が聞こえた。 いつも馬鹿なことを言ってるけど、困ったときは頼りになる声。 少しうんざりするけど、その声が無かったらさびしい声。 「健一、落ち着け!! 基本の型から踏み込んで打つんだ!」 顔を上げ正面を見る。同時に体を攻撃の型へ移す。 相手はこちらをうかがって姿勢を低くし、唸っている。 やってやろうじゃねえか。 健一の眼に、もう迷いは無かった。 踏み込んで一気に間合いを詰めた。 「やあっ!!」 一気に、垂直に木刀を振り下ろした。 がつっ。見事に木刀は怪物の頭へとあたった。 続いて横から小手の要領でなぎ払う。顧問に今の振りを見られたら、きっと怒られるだろうな。 がつん。今度は怪物もさすがに食らったらしく、吹っ飛んで壁にぶつかり、そのまま動かなくなった。 まだ構えたままの健一がつぶやいた。 「やった、……のか……?」 「すごい!健一君!」 恵子も喜んではしゃぐ。そのそばにはいやに冷静な顔の亮介がいた。 「ん? どうした、亮介。」 亮介は黙って先程倒れた怪物を指差した。 見ると、怪物は、正確に言うと怪物の周りの靄のようなものが、ふくらんでる気がした。 「お、おいおい何だよ、何なんだよ?!」 本能的に体を後ろへ引く。 「健一、多分大丈夫だ。」 落ち着いた声が後ろで響いた。 「え?」 もう一度怪物を見てみた。霧は膨らみ、やがて薄くなって、消えた。 霧が消えると同時に怪物の体も霧となって消えていく。 「どういうことだろう……。こいつら、実体が無いのか?」 健一が怪物のいた場所を木刀でつつきながら言った。 「さあ、解らない。でも、このままここにいちゃまずい気がするんだ。でもここにいなくちゃならない気もする。」 「どっちなんだよ?!」 あやふやな亮介の答えに、鋭く健一が突っ込んだ。 「だって、こいつの存在だって意味不明なんだぞ?!」 つついていた場所を木刀で指しながら続けた。 「それなのに学校の中まで誰もいないし!おまけにここにいないといけない気がする?!」 「……まーまー、熱くならない」 亮介が健一を静める。 「たしかにここは危険だ。でも外が安全だとは限らないだろ?」 「え……?」 亮介は剣道場の窓の外を睨みながら言った。 「……あの空。この学校の真上以外真っ暗だろ?きっと外も、いや外のほうが危ない。」 「何が起きてるかはわからないけど、とりあえず今俺たちは生きてる。あの犬みたいなやつがまた襲ってこないとも限らないし、とりあえずいまは体制を整えよう。」 亮介の冷静な言葉を聞いて、健一は渋々了承した。 「……確かに、そのとおりだ。すまん、亮介。」 「別にいいよ〜」 ころっと表情を変えて亮介が言った。 今まで黙っていた恵子が口を開いた。 「じゃあさ、屋上に行ってみない?あそこからだったら町の様子も見やすいと思うし。」 「そうだな。ここで準備してから屋上へ向かってみよう。」 言いながら健一は奥へ木刀を取りに行った。 剣道部では腕力を鍛えるために竹刀よりも重い木刀をトレーニング用に置いていた。それは顧問の趣味も入ってたが。 「はい。これは亮介の。こっちは一応恵子の。それと救急箱。」 それぞれに手渡した。 「懐かしいねぇ、この感触」 「亮介君って、剣道部だったの?」 疑問に思った恵子が問う。 亮介の代わりに健一が口を開いた。 「ああ。一週間な。」 「あれは剣道が俺と合わなかっただけだよ」 相変わらずの軽い口調で亮介が言った。 「まあ、とりあえず屋上をめざそ。」 「よし、いくか。」 木刀しか手元に無いのが心細いが、無いよりはましだ。 慎重にドアに手をかけた。 ゆっくりノブを回す。 「……あれ?」 びくともしない。鍵がかかってるというより、外側から押さえつけられてるようだ。 「……どうした、健一。」 「いや、ドアが……開かない。ちょっと亮介、手伝ってくれ」 「あ〜い」 心配そうに見守る恵子をよそに、間の抜けた声で亮介が返事をした。 二人でドアノブをつかむ。 「いくぞ、せーのっ!!」 二人が同時に力をかける。ドアノブはびくともしない。 「くそっ、どうなってんだ?」 武道場の出入り口はここしかない。窓にはすべて格子があり、出ることは出来ないだろう。 「……仕方ない、ドアの窓を割って出よう。」 健一がそう言うと、亮介もうなずいた。 「それしかないな。」 健一はドアから一歩引き、木刀を構える。 踏み込んでドアのガラスを一閃した。 しかし、割れない。どんなに強く打っても、傷ひとつ付かない。 「はぁ、はぁ……」 「ほんとにどうなってんだ!?」 「……これはマジでなんか起こってるな」 「もしかして……私達このまま……」 恵子が不安そうな声を出した。 |
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こんにちは! 先日はコメントありがとうございました、ピエール亀岡です。学園ファンタジーもの大好きなんです。3人は一体どうなってしまうのか気になりますね! 早く続きが読みたいです♪
2006/8/28(月) 午前 9:35 [ 怪盗ヒゲ紳士 ]
こんにちは! うちではまだ女の子が主人公のものは無いですけど、いずれ書いてみたいと思います! 楽しみにして頂いて有り難うございます(笑
2006/8/28(月) 午後 5:36