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「……予想通り……だな」
ポートヴィルヘルムの門をくぐった先は、予想通りの光景が広がっていた。
「……ひどいね」人一人いない。この地方特有の霧が、その不気味さを助長していた。 露天のタープの中にも、当然人はいなかった。山積にされた果物は爛熟を通り越して腐敗し始め、ハエがたかっていた。 道にはごみや板切れが散乱している。お世辞にも綺麗とはいえない。 大人たちは一体どこにいるのだろうか。姿が見えないことが逆に恐怖心を煽る。
鼻をつまみながらセフィが言った。確かにひどい。仮にこのまま世界が戻っても、彼らの被害は尋常じゃない。恐らくここも復興に長くかかるだろう。
「お、ヴェルデ、酒場があるぞ。……寄っていかんか?」警戒しながら道を進んでいく。どうやら商店街から飲食店街へ入ったようだ。
金剛が前にある建物を指差した。なみなみと注がれたジョッキの看板がかかっている。
「……それも良いかもしれないな。どの道夜まで待たないと首都には入れないだろうし。」確かに今は酔いにこの気持ちを流したい。そんな思いはあった。ちょうどまだ昼だ。夜を待たないと首都には近づけないだろうし、ここで時間をつぶすのも良いかもしれない。 「よっしゃ!」
ガッツポーズをとる金剛の横でエミリアが反論した。
「何を考えている? 今はそんなことをしている場合ではないだろう!」「まあまあ」
金剛がエミリアをなだめに入った。
「今この瞬間にも命を落とす人々がいるのだぞ!? それを私たちが無意味な時間を過ごしてどうする!?」「無意味、じゃ無いさ。」
ヴェルデが口を開いた。
「ここで体を休めておかないと、肝心なときに力が入らないかもしれない。それにここらへんで団結しなおさないとな」「それはそうだが……」
確かに、長旅に加えてビリュテクスとの戦闘、さらにここの荒廃ぶりを目の当たりにして、一番心身ともに疲弊していたのはほかならぬエミリアだった。
「……仕方あるまい。あくまで休憩だからな」
エミリアは諦めたようにそう言った。
「よし、決まりだな。」
4人は扉を開けてその中に入った。当然中には誰もいなかったが、中はあらされたりした様子も無く、いたって綺麗だった。
「お客様、ご注文は?」カウンターに金剛、エミリア、セフィが座り、ヴェルデがカウンターの向こうに立った。
ヴェルデが軽い調子で言った。思わずセフィが吹き出した。
「わしはビールで!」「じゃあ……あたしお任せで」
金剛とセフィが言った。エミリアは黙ったままだ。
「エミリアは?」
ヴェルデが尋ねると、エミリアは少し悩んだ後に注文を告げた。
「私は赤ワインを頼む」
金剛のを注ぎ終わったヴェルデは、赤ワインのビンを開けてグラスに注いだ。
「やっぱり酒はええのう!!」のどを鳴らして一気に飲む金剛の隣で、優雅にエミリアがワインを飲んだ。
がつん、とカウンターにジョッキを置いて、金剛が言った。顔が既に紅いのは気のせいだろうか。
「はい、どうぞ」ヴェルデは下の棚にあったカクテルの棚の、一番アルコールの低い白桃カクテルを注いでセフィに出した。 「ありがと」
セフィはそれを一口含んだ。
「何日ぶりの酒かのう…… かんどうじゃぁ」この世界では基本的に飲酒に関しての法は無い。子供でも割と普通にぶどう酒などを飲むし、ここグランディリオの人には二日酔いの概念も無いので、飲み水代わりに近い状態だった。 が、セフィは昔からあんまり飲めないみたいだった。ヴェルデは普通よりは強いほうなので勧めたりもしたが、すぐに酔ってしまうらしい。 そんな彼女をよそに、金剛は二杯目のジョッキをがつんと置いた。
そのまま泣き崩れる。かと思うとすぐに顔を上げて笑った。
「かっかっか! 今日は飲むぞー!」
セフィはグラスの半分くらいまで飲んでいたが、ゆらゆら頭が揺れていた。
「あたし、もう駄目かも……」
ふらふらと立ち上がって奥のテーブルのほうに座った。やっぱりまだ駄目なんだな。そう思いながらヴェルデもワインに口をつけた。ここの店主には悪いが、飲んだ分のお金を置いていくことにして、今日はここでゆっくり休もう。
「お、おいエミリア…… 飲みすぎじゃないか?」ふとエミリアのほうを見た。飲みはじめと変わらず優雅だが、ワインの空き瓶はもう3本目になろうとしている。 「いつものことだ」
心配していった言葉もさらりと流されて、ヴェルデは言葉を失ってしまった。代わりにグラスの中を飲み干し、次の一杯を注いだ。
「お、姫さん良いのみっぷりじゃのう! まあわしには負けるが」
にかにか笑いを浮かべて金剛が言った。エミリアは無言のままグラスを空にしてまた注ぐ。
二人の静かな戦いが始まった。 |
Breath Dragoon
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