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何か物音がする。まだ全然目が覚めていなかったが、頭の片隅にそんな言葉が浮かんだ。
ヴェルデはゆっくり目を開けてみる。酒の影響だろうか、まだ視界はぼやけている。
「……!!」だんだん目が慣れてきて、ヴェルデは目だけであたりを見回した。奥のテーブルのほうで、何かが動いている。 確認しようと体を起こそうとしたとき、ヴェルデは信じられないものを見た。
思わず体が固まる。
「……どういうつもりだ?」セフィが、キスしている。それも見知らぬ誰かと。その顔は暗くてよく見えなかったが。 よくわからない感情が湧きあがってきた。独占欲? 嫉妬? 結論が出る前に彼の体は動き出した。 グラディウスを抜いて、男に切りかかる。が、その男は腰のフルートを抜いてグラディウスを防いだ。
精一杯怒りを押さえて、ヴェルデはその男に尋ねた。勿論剣にこめる力は抜かない。
「いや、目覚めのキスをと……」男は顔を上げた。こちらと目が合った瞬間、何か驚いたような表情をした。
男は弱々しくこたえる。
「……何者だ?このあたりの人は全て魔法にかかっているはずだ」
ヴェルデが怒りを乗せて言葉を発した。
「まず、自分から名乗ってくださいよ」
まけじと男も言葉を返した。フルートとグラディウスが擦れ合い、火花が散った。
「もしかして、ブローニングさんっすか?」「!」
ヴェルデは驚き、剣にかける力が若干弱くなった。男はそれを見て一気に剣を弾き、一歩下がった。
「何故……俺の名を?」「父上より言付け賜ってきました」
男は軽く頭を下げ、フルートを収めながら言った。
「親父から!? 親父は3年前に死んだ」「やっぱり、そうでしたか……」
男はそのまま続けた。
「1年前に、彼から手紙がきました。それは3年前に書いたものかもしれないし、2年前かもしれない。そこはまた考えましょう」「んで、私はその手紙で、ディフィシオーネがこの国を支配しようとしていることを知り、あなたを探しつつ今まで城で情報を集めてたってわけっす」
ヴェルデがいぶかしげな顔をする。
「なら、親父は生きてるかもしれないってことか? 大体、お前は親父とどういう関係なんだ?」「ジェンダスさんが今生きてるかはわかりません。でも、彼は殺しても死なないタイプっすから。」 「あ、ジェンダスさんと俺の関係は、ただの同僚であり、友であっただけっすよ。」 「……」
ヴェルデは何も言わなかった。彼を信用していいものかを考えているようだった。
「……バルトロマイオスって、ご存知っすか?」「いや、知らない。」
その言葉を聞いて、男はさらに続けた。
「バルトロマイオスは、国王直属の特殊部隊っす。ちょうど王宮第一舞台と対になるかたちっすね。でも、バルトロマイオスの存在を知る者は少ない。ジェンダス・ブローニングさんは、そこの隊長だったんす。因みに俺は副隊長っす」「……で、何で俺に?」
ヴェルデも剣を収め、セフィのそばに座った。
「理由はひとつ。さっき話したとおり、言付けを守るため。そしてその言付けの内容は、あなた方がもう既に実行していることっす。」
セフィとヴェルデはよくわからないという顔をした。
「現国王である、ディフィシオーネを倒すこと。それがあなたに伝えることばっす。」「まあ、これを言わなかったとしてもあなたはそうしていたと思いますが……」
彼はセフィの飲み残したカクテルに口をつけながら言った。
「これは、恐らくあなたにしか出来ないことです。その理由も話せとかいてありました。」「理由?」 「ええ。先ほど話したとおり、俺もジェンダスさんもバルトロマイオスの一員でありました。」 「んで、本来人のもつ魔法属性って言うのは固有で、ひとつのみなんですが、たまに二つの属性を扱える人がいるんす。そういう人を集めたのが、バルトロマイオス。たとえば,王家の人間は炎と光を扱えますし、ジェンダスさんは光と風を扱えます。因みに俺も炎と光っす」 「まあ、大体は炎と光っすね。光と風はジェンダスさん以外いないでしょうし、光と水は聞いたこともないっす。ま、勿論これは宝石を使っての話ですが」 「こんなもんすかね。で、何で自分にしか出来ないか、わかりました?」 「…………」
なんとなくだが、ヴェルデにはわかった気がした。
「……今この世には、光と風を扱えるやつが俺しかいないからか?」「ビンゴ!」
彼は嬉しそうに指を鳴らした。カウンターで金剛のいびきが大きくなった。
「そのとおりっす。ディフィシオーネはその二つしか効かないみたいっす。」「まあ、光と水の複合も効くんですが。扱える人がいない上に、そもそも宝石であるアクエリアスすら扱いが難しいですから。」
あ、とセフィが声を漏らした。
「あたしの指輪……アクエリアスって名前だったよ?」
その言葉を聞いてヴァンプが目を見開いた。
「ま、まじっすか? ちょっと見せてください」
言われるままに、セフィはテーブルに左手を置いた。薬指にはめた指輪が淡い蒼に煌いている。
「これは……紛れもないアクエリアスっす……」
興奮した様子で、ヴァンプは指輪を眺め、それからセフィの顔を見た。
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Breath Dragoon
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